七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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今頃になって思い出したけど魔法科高校って土曜学校ありますね……まあサボったって事で。

あとやっぱり簡単にサブタイを付けます。見返す際に不便なので。
伝統派について説明したっけ?と確認しようとしたら何処見たらいいのか分からんかった……。


伝統派とローカルルール

☆★☆★☆★☆★

 

 

「……で、何処に行ってたの?」

 

 仏頂面の香澄が開口一番にそう聞いてくる。隣の光宣はそこまで露骨ではないが、視線から内心が伺える。

 

「歴史を感じることで頭の中をリフレッシュしていたのですよ。やはりこういうのは一人で過去に想いを馳せるものなのです」

 

「そんなロマンチストじゃないでしょ。過去は過去とか言ってたのはどこいったのさ」

 

 とりあえず適当に答えてみたらあっさり切って捨てられた。納得はしてそうにないが、取り合う気はないので露骨に話を変えることにする。

 

「それで、そろそろ二時ですがどうします?あと一箇所ぐらいなら回れますが、一応下見という名目なのでコンペの会場の近くに行くくらいはしますか?」

 

 泉美の言葉に、光宣が端末を確認して頷く。

 

「……そうですね。僕は五時には帰らないとですので、最後に会場の近くにカフェがあるので、そちらでお茶でもしませんか?」

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

「──やはり香澄にも少しは事情を話しましょうか」

 

 注文した飲み物──昼食とは打って変わって緑茶──が届くと、泉美はそう切り出した。

 

「事情って……九島家での事?」

 

 香澄が訝しげに問い返す。正直香澄は、泉美は話す気がないものと思っていた。

 

「少し違いますが、まあ九島家も関わっているのは間違いありません。私たちも襲われる可能性がありますからね。特に光宣君は」

 

「そうですね。一応家の護衛も付いてはいますが」

 

 必要なら泉美が話すだろうと思って黙っていたが、光宣もこれは同意見だった。九島と伝統派は元々敵対している上に、今回は周公瑾の件で此方から仕掛ける事になる。その九島家の人間が、十師族・七草家の人間を連れてうろついている。これを敵がどう判断するか想像するのは難しくない。

 

「もちろん七草の護衛も居はしますが、まあ念の為です。最低限は話しておきましよう」

 

 光宣はそう考えて今日も警戒していたが、泉美としては今日いきなり狙われる可能性は低いと思っていた。流石にそこまで短絡的でもあるまい。

 

 ならば何故話すのかというと香澄への誠意としてだ。

 

 元々京都に来ると決めたのは香澄で、目的は論文コンペでの警備のための下見。泉美はそれに付いてきたに過ぎない。

 

 なのにいきなり九島邸ではその家主を魔法で攻撃し(あれだけ香澄に魔法の使用に関して注意したのにだ)、行き先に二条城を追加し、しかもそこでは勝手に別行動をとったのだ。正直悪い事をしているという自覚はある。

 

 これでなんの説明もなしは不義理が過ぎる、という事で話せる事は話してしまう事にした。……話せない事の方が圧倒的に多いが、伝統派についてくらいは知らせてもいいだろう。

 

(伝統派とやらが関東にまで手を伸ばせるのかは分からないですが……最悪付き纏われる可能性もありますし)

 

「襲われるって……え、本当に去年みたいな事があるの?」

 

「いえ、他国がどうのという話ではありませんよ。国内の古流魔法師に"伝統派"という連中がいて、九島家はそれと険悪な関係という、まあそういう感じです」

 

「……伝統派って?聞いた事ないけど……」

 

 泉美も香澄も十師族の一員としてブランシュのような危険な組織については家の方から知らされているが、香澄は伝統派については知らない。十師族全体からすればその程度の組織、という事なのだろう。

 

「あ〜……話すと九島家の──第九研の成り立ちに遡るのですが……」

 

「──香澄さんは第九研のテーマをご存知ですか?」

 

 あまり他所の研究内容を話すのもアレだなと思っていると光宣が説明に加わってくれた。

 

「いや全く知らないけど」

 

「第九研究所のテーマは"古式魔法を元にした現代魔法の開発"です。当然ながらその性質上、古式魔法師の協力が必要でした」

 

 そのため第九研の設立時、政府は国内の古式魔法師に広く呼びかけ、多くの術者がこれに参加した──当然、報酬を前提として。

 

「それで、当時政府は報酬として金銭を提示していたんですけど、ここに勘違いがあったんですよ」

 

 政府は、そして第九研は最初から報酬は金銭のみ、というつもりだったし、他の報酬がある等という話は一度もしていない。

 

 一方、古式の術者の間では基本的に協力の対価は術法で払う、というのが暗黙の了解だった。故に彼らは今回の件も表面上は金銭を提示しているが、実際には此処で開発された新たな術が自分達のものになる、と思い込んでいた。

 

 しかし当然開発された『現代魔法』が協力者達に渡ることはなく、それを彼らは"騙された"と考えた。

 

「まあ要するに古式魔法師のローカルルールを政府が認知していなかったという話ですね。これに関しては仕方がない面もありますが」

 

 部族間での争いは大体こういう価値観やルールから起きる。同じ日本国民でも配慮を欠くと問題も起きるだろう。

 

 泉美がそう言うと光宣が意外そうな顔をした。九島家である彼は百パーセント向こうが悪いと思っているのだろう。泉美は肩を竦めた。

 

「光宣君、古式魔法師のローカルルールに配慮する必要などない、なんて言い出したら現代魔法師の慣習だって誰にも配慮して貰えなくなりますよ」

 

「いや、それはそうなのですが……」

 

 そもそも魔法師自体少数派なのだ。ちなみに現代魔法師の間では話し合いがこじれたら決闘で決める、みたいなトチ狂ったローカルルールがある。

 

 これは魔法師の世界では力が重要、という実情に基づいた価値観なのだが、そもそも日本法律では決闘は禁止されている。一般人からみれば犯罪でしかない行為を黙認して貰っている状態なのだ。それに比べれば古式の"暗黙の了解"はまだまともな方だろう。

 

 彼らに問題があったとすればローカルルールを政府という外の存在に求めた事だが、協力の内容が彼らの土俵である事を考えると「こっちのルールを守れ」という言い分も分からないでもない。

 

「そして生まれたのが"伝統派"。大層な名前ですが実態は怒り狂った一部の古式魔法師の寄せ集めですね。彼らは九島を中心とした旧第九研の人間を目の(かたき)にしています」

 

 泉美としては別に憤る事自体はおかしいとは思わない。ましてや伝統派の母体となった連中は元々後暗い仕事をしていた裏の人間らしい。表の世界のルール(法律)とは違い、裏の流儀では"不義理には死を"というのは珍しくもないのだ。

 

 ただその矛先が見当違いの場所に向いている。

 

「んー……でもさ、それなら政府を恨むんじゃないの?九の数字持ち(ナンバーズ)が騙した訳じゃないじゃん」

 

「そう、そこが伝統派が小物でしかない点なんですよね。政府に敵対する度胸はなかったんですよ。なのでちょっとだけ関係してる第九研に八つ当たりを始めたんです」

 

 国に対しては勝ち目がないからもうちょっと規模の小さい勢力を狙ったのだろう。所詮その程度の負け犬なのだ。

 

「それで恨まれている此方はいい迷惑ですけどね」

 

「ていうか九の家にも勝ててないんでしょ?意味ないじゃん」

 

 二人の辛辣な評価に苦笑する。まあ若いのだからこれくらい潔癖でもいいのかもしれない。

 

「まぁ一応時代背景として当時政府に歯向かう訳にはいかなかった、という面もあったのでしょうね。なにせ()()()()()()()()()()()()()

 

「……?そうなのですか?」

 

 光宣が不思議そうな顔をした。そのあたりは知らないのだろう。

 

「現代魔法の黎明期には当然それなりの混乱があったということです。ま、今は関係ない話ですが」

 

 別に話してもいいのだが長くなるので話を区切る。今話す必要もないし。

 

「とにかくそういう経緯から伝統派は九の数字持ちに対して細々と嫌がらせをしたり、あと大陸の魔法師を受け入れたりもするそうですね」

 

「特に今は少し事情がありまして。一触即発なんですよ。今日僕と一緒にいた事で香澄さん達が狙われる可能性はゼロではない、ということです」

 

 泉美が現状に話を戻すと、申し訳なさそうに光宣が補足する。元々泉美としてはそれ込みでも無視するつもりだった。そもそも四葉と九島を敵に回している状態でそんな余裕が向こうにあるかは疑わしく、多少のちょっかいなら泉美は香澄に気付かれずに処理出来る。

 

 しかし少し事情が変わって、周公瑾に用が出来てしまった。となると最低でももう一度京都に来る必要がある。伝統派から本格的に敵と認識されるかもしれないし、その間に香澄が狙われる可能性も僅かながらある……いやないか。

 

「まあ九島家も馬鹿じゃありませんから、この状況もそんなに長くは続きませんよ。気にする程ではありません」

 

 最後に心にもない事を言って話を締める。長く続かない、の部分は本当だが。

 

「しかし詳しいですね、泉美さん。正直こういう話を外部の人とする事なんて殆どないので新鮮でした」

 

 話が一段落したとみた光宣が少し気安い雰囲気でそう言う。

 

「ここに来るにあたってそれなりに下調べはしましたからね。古式の術者に関するものはツテもありますし」

 

 実際には調べたのは七月の事で、理由は九島家の人間をぶち殺す時にスケープゴート(身代わり)として使えそうだったからだ。もちろんそんな余計な事は言わなかったが。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 そろそろ光宣が帰らなければならない時間になった。会計を済まして立ち上がる。

 

「それでは僕はこれで。今日は楽しかったです」

 

「うん。ボクらは明日の昼までこっちにいるけど、光宣は明日用事なんだよね?」

 

「はい。内容は話せないのですが……」

 

 申し訳なさそうに眉を下げる光宣に、慌てて香澄が手を振った。

 

「いやいや気にしないで。それじゃ次会うのは論文コンペになるのかな?」

 

「そうですね。……体調の心配が無くなるなら今からでも僕も参加出来るかな」

 

「?参加って……。え、発表側ってこと!?」

 

 香澄が仰天するのも無理はない。実際泉美も驚いている。いまから出場は時期的に無理があるのでは、と思ったが、光宣はなんでもないように、

 

「はい、前々から研究してるテーマがありまして。今から二高の発表に割り込むのは流石にあれですけど、一般参加枠にねじ込むくらいなら九島()の力でなんとかならないかな、と」

 

 十師族の権力を使う気満々だった。一般参加枠は本来事前の審査を通る必要があるが、時間がないのでそこを省くという事だろう。

 

「ふむ。それなら楽しみにさせて貰いましょうか。……あと修行については家を通して連絡を下さいね」

 

「はい。その時はよろしくお願いします。──っと、本当に時間が。それではまた」

 

「うん、またね」

 

「はい、また会いましょう」

 

 光宣を見送り、泉美たちもホテルに向かう。明日はどこを観光するか。

 

 




原作では論文コンペの当日に発表者が変更されていますが、ここでは「体調を崩しても当日は泉美が来てる」という事で今の段階から予定を立てれます。

 しかし論文コンペに選ばれて必死に準備していたにも関わらず、当日になって名家の一年に発表者を変更します、とか言われた元二高代表はどんな気持ちだったのか……。
これがまかり通るのが現代魔法師のローカルルール。実力と家柄があれば何をやっても許される。
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