名倉とちょっとしたお話をしたが、取り敢えず細かい事は彼に任せてしまった方がいいだろう。
ということで水曜日の放課後、泉美はいつも通り生徒会室で作業をしていた。達也が論文コンペの警備関係で出ているので、残りの四人で事務作業だ。
「深雪先輩、部活連からの連絡が来ました。卒業資格の希望者は三十一人ですね」
「分かったわ。ほのかと水波ちゃんで整理してちょうだい。部活でも実績がある人とない人で分けて、実績がない人は成績のデータが必要だから」
「うん、了解」「分かりました」
この時期は生徒会も忙しい。もちろん論文コンペの準備もあるが、泉美が担当するのは移動の段取りと準備くらいで、ほのかと一緒に割と早い段階で終わっている。それ以上に進路関係での業務が増えるのだ。
この学校の教師たちは本当に魔法を教える以外の仕事をしないらしく、進路に悩む生徒の相談はクラス毎に割り振られたカウンセラーか、あるいは生徒会や風紀委員に寄せられる。
そう、何を血迷ったのか二年、一年で構成された生徒会にも進路の相談が来る。
最初はどうなっているんだと思ったが、相談して来る生徒をみていると理由が分かった。大半が二科生なのだ。
魔法科高校の制度として二科生は卒業までに自力で一定の成果を示す必要があり、それが出来なければ一般高校の卒業とみなされる。魔法科高校としての卒業資格は与えられず、魔法大学にも進学出来ない。
こう言われると酷い扱いに思えるし、実際差別の原因の一つにも数えられたのだが、実の所この"一定の成果"はそこまでハードルは高くなく、それなりの数の二科生が資格を手にしている。
というのも魔法科第一高校では年に百人、魔法大学もしくは魔法技能高等訓練機関に卒業生を送り込むのがノルマとされている。そして
そんな訳で卒業資格を望んでいる二科生は意外と多い。しかし二科生には教師がいないし、カウンセラーは生徒のメンタルケアが主な業務でこういう相談は専門ではない。必然頼るのは生徒会、あるいは部活連になる。
「泉美ちゃんは職員室に行って去年までの卒業生で申請通った人の記録を貰ってきてくれる?」
「分かりました」
結局のところ最終的に卒業資格を与えるのは学校なのでどれくらいの成果が必要なのかは過去例から判断するしかない。実技の成績や部活での対外的な実績が主で、たまに実家のアレソレもあるらしいが。
深雪の指示を受け、泉美は職員室に向かった。
「泉美」
「あ、司波先輩。吉田先輩も、お疲れ様です」
「うん、泉美もお疲れ」
職員室からの帰り、警備の演習から戻ってきた達也と幹比古と鉢合わせた。香澄は演習室でへばっているらしく、後で来るとの事。
「そういえば司波先輩、最近身の回りで変な事とかありましたか?」
「いや、特にはないが……何故そんな事を?」
「いえ、先輩方も週末に京都に行ったのでしょう?割と向こうの情勢が荒れてるようなので、一応
流石に伝統派も余裕がないらしく、泉美の周りで何か、という事はなかった。なので達也の方も同じだろうとは思っていたのだが、それでも敢えて話したのは幹比古に聴かせるためだ。
「えっ!?泉美、情勢って?」
案の定幹比古が食い付いてきた。やはり達也からは何も聞いていないらしい。
「少し事情がありまして、今伝統派と九島家が暗闘状態なんですよ。コンペには影響ないとは思いますが」
「そうなのかい?達也は知ってたの?」
「俺もこの間知った所だ。伝統派がある人物を匿っているのが原因らしいな」
達也のこの返答に泉美は目を瞬かせた。達也は知らなかった振りをするだろうと泉美は考えていた。
(四葉家との関係を隠しているのなら知っているのはおかしくなる筈なのですが……吉田先輩もその点を不思議がっていませんし……)
ひょっとしたら幹比古やほのかなど、近しい人間は四葉の事を知っているのかもしれない。そう考えるとやはりそこまで隠している訳ではないのだろう。だったら伝統派についても伝えておけという話なのだが。
「私も詳しくは知りませんが相当な大物らしいですね。とはいえ九島家も相当本気のようですから長くは続かないと思いますよ……多分」
「いや、本当に大丈夫なの?」
最後に付け加えたひと言に半眼になった幹比古だが、直ぐに真面目な顔になった。
「それなら僕の方でも警戒はしておくけど……伝統派かぁ……」
「幹比古は伝統派について詳しいのか?」
「古式の術者の中では相当な嫌われものだからね。"伝統派を粛清すべし"って声は昔から多いんだ。
自己完結して肩を落とす幹比古を他所に、達也は此方を探るような眼で見てくる。おそらく週末に光宣と会っているだろうから、そこで私の事を多少聞いた筈だ。
微妙な空気の中、生徒会室に戻ったところで一旦話は切り上げになった。
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日常を優先する呑気な若者もいれば、
「ハズレだ。次に行くよ」
「……大丈夫なの?文弥。全然休んでないじゃない」
「大丈夫。既にかなりの数を潰したから、伝統派の拠点もそう多くは残ってない筈だ。周公瑾が隠れていられるのももう長くない」
九島家からの情報もあり奈良の伝統派を潰して回った実行部隊は、今週からは京都の拠点を虱潰しにしている。今夜もまた一つ伝統派の拠点を襲撃したが結果はハズレ。周公瑾の居場所については何も知らなかった。
進展のない現状に苛立ちながらも動こうとする文弥だが、双子の姉は彼に続かなかった。
「文弥。今日の所はここまでにしましょう。今の貴方のコンディションで周公瑾と相対しても不覚を取るのがオチよ」
「……分かったよ」
亜夜子の諭すような口調に、文弥は渋々頷いた。魔法戦闘にあたって体調、精神状態は極めて重要な要素だ。ましてや周公瑾は彼らの父を殺した相手、万全の状態でないと返り討ちに遭うだけだと亜夜子は、そして文弥も理解していた。
部下に指示を出して今日は撤退、と行こうとした黒羽の部隊だが、彼らの夜はまだ終わっていなかった。
「若っ!!」
「──っ!?」
側近の警告がなければ危うかった。文弥が咄嗟に張った対物障壁は四方から彼らを狙った風の刃をギリギリで防ぎ切った。直ぐさま亜夜子を背に隠すように前に出つつ部下達に相手の位置を探らせる。
このタイミングでの敵襲。ここを拠点にしていた術者がまだ残っていたのかと追撃に備える文弥たちだが、意外にも攻撃は一度だけだった。
「若。敵が移動してます。逃げるつもりかと」
「──追うぞっ!!こいつらは周公瑾と繋がっている可能性が高い!!」
一撃離脱という戦法をとった以上、この敵はここの拠点とは別口の人間だ。自分たちを狙ったのは周公瑾の命令によるもの、と考えた文弥は、先程までの話も忘れて敵の追跡を始めた。
魔法科高校のノルマを決めたヤツを