4月9日、入学式の翌日、泉美は香澄と一緒にホームルームに向かう。昨日はホームルームにはいかずそのまま帰ったのでクラスメイトとは今日が初顔合わせだ。入試成績を元にしたクラス分けなのか、泉美と香澄は二人ともAクラスだった。その割に七宝家の長男は別のクラスのようで、恐らく学校が七草と七宝の関係を知っていて配慮したのだろう。
二人が教室に着くと、既に席は半分程埋まっていた。昨日会った水波もいる。
「桜井さん、おはよー。同じクラスなんだね」
「桜井さん、おはようございます。クラスメイトとして一年間宜しくお願いしますね」
「おはようございます香澄さん、泉美さん。こちらこそよろしくお願いします」
席に荷物を置いて、とりあえず近くにいた水波に声をかける。(席は五十音順らしく、
そのまま会話に混ざってきた他のクラスメイト(流石に新入生総代で十師族の直系、人気者だ)とも挨拶する。
次から次へと押し寄せるクラスメイトを香澄と一緒にさばきながら、泉美は意外感を覚えていた。
(思ったよりも魔法師としての心構えが出来ていないと言いますか……なんか子供っぽい方が多いですね)
昨日まで上級生とばかり話していたせいか、クラスメイトの幼稚な部分が目につくのだ。入学に浮かれているだけかもしれないが、今の世界情勢わかってるのかと言いたくなる。
特にひどい人間だと二科生を引き合いに出して可哀想だ、落ちこぼれだと言い、そして何故かそれを泉美にも同意してもらおうとしてくる。
泉美は新入生総代として答辞に、「新入生
ところで、二科生という言葉。魔法科第一高校では毎年200人の新入生を迎え入れるが、入試成績で上位100人を一科生、下位100人を二科生と分けられる。
そしてなんと二科生は魔法実技の授業で教員からの指導を受けられないのだ。設備は同じものを利用出来るし、実習の内容も同じだが、指導教員の不足からこのような体制をとることになった。
入学時点では一科生の下位と二科生の上位には大して差はないのだが、一年もすれば指導教員の差は明確に現れ、
そんなこともあって一科生は二科生のことを見下し、また二科生も諦めている節があったそうだが、今年からは少し事情が変わった。魔法工学科の誕生である。
これは二年への進級の際、一科二科問わず魔工師希望の生徒を集めて専門のクラスを作るというもの。副次効果として、一科生から魔法工学科に転属した人が出ると、空いた枠に二科生の成績上位者が入ることができる。努力次第で一科生に上がれる、という事実は、それまで諦めがちだった二科生のモチベーションにもなるだろう。
このように魔法科高校の体制も新しくなっているのだが、いかんせん生徒の認識は古いままらしい。「ブルーム」だの「ウィード」だの言って喜んでいる生徒がちらほら存在する。花が咲こうが草は草だろうに。
魔法科高校では、毎年一割程度の人間が退学している。一番多い理由は魔法実習中の事故等による魔法力の喪失だ。そしてそれは二科生に限った話ではない。指導教員がいる一科生でも、それなりの人間が毎年退学になっている(ちなみにこの時二科生が繰り上げで一科生になったりはしない。謎だ)。
彼らはそれを知っていて、こんなに能天気なのだろうか。
どうやら自分が思っていたよりも高校生というものは子供らしい。泉美は入学早々呆れていた。
☆★☆★☆★☆★
新入生は今日と明日の2日間は上級生の授業を見学する。一科生は教員の引率がついて、授業の内容を解説してくれるそうだ。わりと個人主義の泉美は内心、見学くらい好きにさせろと思っているが、周りは皆引率に付いていく雰囲気なのでそちらに合わせた。
(やはり引率は不要でしたね)
見学は正直退屈だった。魔法科高校の入試基準は実技に重きが置かれている。つまり理論の成績が悪くても一科生になった生徒もそれなりにいる訳で、先生の解説もそういう生徒に配慮した基礎的なものばかりだった。
やはりこれなら個人で回る方がいいなと思ってテンションも低かった泉美だが、次は2ーAの実習、つまり深雪が魔法を使うところを観ることが出来るという事だ。
司波兄妹については様子見するとは決めたが、情報収集の機会を逃すつもりもない。それまでとは一転、泉美は気合をいれて実習室に向かった。
「凄いね泉美!!」
「そうですね。素晴らしい魔法力です」
初めて見る深雪の魔法力は、凄まじいの一言だった。干渉力、発動速度どちらも超一流といっていい。
(現代魔法の能力で七草家の魔法師を確実に上回っている。やはり四葉の可能性が一番高そうですね)
(しかし四葉だとするならこれは素性を隠す気はあまり無い?他に隠したいことがあって囮で目立っているという可能性もありますか)
そこまで考えてみたが、まあ囮だとしても泉美としては構わない。ここが囮なら本命は他の場所にあるはずだからだ。四葉が何を隠していても泉美や香澄に影響はあるまい。
深雪の圧倒的な魔法にクラスメイトが興奮するなか、泉美は方針はそのまま行くと結論付けた。
☆★☆★☆★☆★
放課後、泉美は早速先輩に混じって生徒会の業務にあたった。今の時代、魔法科高校に限らず高校の生徒会は学校の運営の大部分を任されるもので、重要な業務も任される。
軽い気持ちでしていい仕事ではないし、実はこういう事務仕事は初めてなのだ。泉美も指導役のほのかに仕事を教えてもらうのに集中した。
入学に関するものは泉美が入る前に終わっていたが(新入生に入学の準備や片付けはさせないのは通例だそうだ)、何でも直ぐに新入部員勧誘週間が始まるらしく、その準備や打ち合わせがあるらしい。
新入部員勧誘週間とは名前の通り各々の部活が新入生に自分達の活動をアピールし、勧誘する機会なのだが、魔法を扱う活動をしている部活は当然、アピールの際に魔法を使う必要がある訳だ。
魔法科高校では普段はCADは学校に預け、実習室や練習場でしか魔法は使用できないというのがルールだが、この期間は勧誘のためその制限が実質的に取り払われる。
そして第一高校の生徒だという自覚(笑)と誇り(笑)と責任(笑)を持つ当校の生徒達は、気に入らない事があると魔法をぶっぱなして解決しようとする(遺憾ながら我が姉もこの例に漏れない)。
なのでCADの所持の制限が無くなるその一週間、第一高校は揉め事で魔法が飛び交う危険地域になるらしい。
その為生徒会は部活連、風紀委員と連携して対策本部を設置し、見回りも協力するそうだ。
「……という訳で泉美は見回りではなく、生徒会室での仕事になるけど、そちらも凄く忙しくなるから頑張ろうね」
「はい、光井先輩」
ほのかから簡単な業務と勧誘期間の概要を教えてもらった所で今日の仕事はお仕舞い、香澄と合流することにする。先に帰っててもいいと言っておいたが、香澄はまだ校内に残っていた。
「風紀委員に?」
「うん。去年
なんと香澄が風紀委員にスカウトされたらしい。言葉の端々から達也への対抗心を感じる香澄からの報告を、泉美は意外感をもって聞いていた。
というのも、香澄は入学式の当日に魔法を使った問題を起こしている訳で、学校側がそれを知らない筈が無いからだ。
よくスカウトしたなと思うが、まあ十師族として魔法力は高い。教育すれば優秀な戦力になると思ったのだろう。
それより気掛かりなのは、香澄の達也への対抗心だ。
「香澄、昨日も言いましたが司波先輩にあまり失礼な真似をしないで下さいね。苦労するのは私なのですよ」
四葉家である可能性については言わず、常識として態度の改善を促しておく。突っ掛かっていって藪から蛇を出されても困るのだ。
「分かってるって。任せてよ」
自信ありげな香澄の返事に、しかし泉美は全く安心出来なかった。