七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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戦闘描写ホント難しい。直しても直しても違和感が……。


決裂と格の差

☆★☆★☆★☆★

 

 

(これは……困りましたね)

 

 泉美の目の前では文弥が殺気をむき出しに此方を睨んでいる。今にも飛び掛かってきそうな雰囲気だ。配下であろう男も何時でも襲いかかれるよう構えている。かなり面倒な状況になってしまった。

 

 黒羽を始めとした四葉の部隊は今日も動いているという情報は名倉から聞いていた。黒羽貢が殺された事を考えれば文弥や亜夜子がどういう感情で周公瑾を追っているのかも想像がついていた。

 

 周公瑾に──借体形成の術を観るのに意識を集中していたせいで、文弥の接近に気が付かなかったのは痛恨のミスだ。

 

 とはいえ何時までも黙っていても始まらない。負傷している名倉は矢面には立てそうにないので、仕方なく泉美が勇気を出して話しかける。

 

「あ〜二ヶ月ぶりですね、黒羽く──。」

 

「ここで何をしている!?」

 

 取り付く島もなかった。どうやらあまり精神的な余裕がないらしい。溜め息をついて素直に質問に答える。

 

「想像はついているでしょう?周公瑾とかいう賊の始末ですよ」

 

 泉美は素直に答えた。見て分かる事を隠しても仕方が無いし、何よりこの世には嘘を見抜く類の術者がいる。しかも四葉家は精神干渉系の魔法を得意としており、目の前の文弥も九校戦で実際に精神攻撃系の魔法を使用していた。下手な嘘は逆効果になりかねない。

 

 さも当たり前のように言う泉美に文弥は一瞬たじろいだ。しかし、

 

「七草の人間が?いや、そもそもどうやって周公瑾を見つけた?」

 

「それを貴方に──四葉家に説明する義務がありますか?」

 

「──っ!!」

 

 冷たく突き放す言葉に文弥が歯を食いしばっている。しかしこの場ははぐらかせるかもしれないが、冷静に考えればこんな場所に周公瑾がいた事実から"七草家が周公瑾を呼び出した"という事はバレるだろう。

 

 もちろん泉美としてはその辺はどうでもいい。弘一はどうするのかな、と内心思いながら、名倉の元に歩いていこうとするが、そこで再び文弥が声をあげた。

 

「待て、それは封印術の類か……?……まさかっ!?」

 

 泉美が持つ光の玉『封玉』を見咎められた。どうも封印術への理解がある程度あるらしい。

 

「お察しの通り、周公瑾を封印しています。厳密にはその精神体を、ですが」

 

 おそらく文弥たちは周公瑾の"借体形成の術"を知らない。細かい説明をする気もないが、文弥からするとおそらく納得のいく結末ではないのだろう。こちらに手を出して譲渡を要求してきた。

 

「……それを此方に渡せ」

 

「何故?必要性を感じませんが」

 

 泉美の用は既に大方済んでいる。渡してもいいのかもしれないが、四葉が()()をどうするのか分からない。封印した手前、責任を持って自分で祓うなり封じるなりするべきという義務感もある。少なくとも自制の利いていない目の前の少年に渡すのは躊躇われた。

 

 七草の人間として四葉家に命令される筋合いは無いし、此方が確保した周公瑾(の、霊)を渡してやる義理もない。泉美としては至極真っ当な言い分の筈だが、文弥にはそれを受け入れる余裕は無かった。

 

「──っ、なら力ずくでいく」

 

「──いいのですか、若?」

 

 ギリィ、とこちらにまで音が聞こえそうな程歯軋りした後絞り出した文弥の言葉に、思わず側近の男が問い返す。流石にここで七草の息女に対して手を出す判断はするべきでない、と彼は考えていた。

 

 しかし続く泉美の言葉に、文弥の自制心は完全に溶けてなくなった。

 

「いやいや、はっきり言いますが貴方たち程度では無理ですよ。こちらも暇ではないのでさっさと帰らせて下さい」

 

 帰らせろという内容とは裏腹に随分と挑発的な言い方だと泉美自身思っているが、実際泉美としては実力行使をしてくれる方が色々と都合がいい。これ以上この場で時間を浪費したくなかった。

 

「ならっ!!」

 

 泉美のリクエスト通りに激昂した文弥が攻性魔法を放つ。九校戦でも密かに使っていた精神干渉魔法"ダイレクト・ペイン"、対象に直接痛みを与える魔法だが、泉美は身じろぎ一つしなかった。

 

「私の"羽衣"について聞いてないのですか?」

 

 ──いつの間にか泉美の身体の表面がほのかに輝いている。物理的な光ではない。想子の層を纏っていて、それが文弥の放った魔法式を弾いていた。

 

 "破魔の羽衣"、接触型術式解体の発展系であるこの魔法は直接干渉する類のあらゆる魔法を無力化する。精神干渉はそれの最たるものだ。

 

 ともかく、効かなかったとはいえ先に攻撃してきたのは向こうだ。反撃しても罰は当たらないだろう。

 

 既に賽は投げられている。それは黒羽の部隊も承知していて、先程までは主人を(いさ)めようとしていた側近が風のような速さで距離を詰めてきた。古式魔法は発動に時間がかかる。なので魔法を発動する暇を与えない近接戦に持ち込むのは戦術として基本的なものの一つだ。しかし今回は相手が悪かった。

 

「──っなっ!?」

 

「……っ!?」

 

 文弥と傍らの男の顔が驚愕に歪んだ。未だ半分も距離を詰めていない段階で、泉美の魔法は発動直前の段階まで完成していた。周囲一帯の精霊が喚起され、大量の風の弾丸が彼らを包囲している。密かに泉美を包囲していた他の部隊も巻き込んで。

 

「──そんな、精霊魔法?いや、それならこんな速度で発動できる筈がない。どうなっている」

 

「ネタばらしをする気はありません。とにかく、貴方達から仕掛けた以上は覚悟は出来てきますね?」

 

 この場にいる黒羽の実行部隊は文弥を入れて8人。亜夜子は近くにはいるが、直接戦闘型ではない彼女は巻き込まれないよう退避している。

 

 彼らに対し泉美がとった戦術は極めて単純だった。

 

 風精の力を介した風の弾丸。四月に拓磨に対して使った"エア・ブリット"の精霊魔法バージョンと言っていいだろう。しかしその威力と量が桁外れだった。

 

 十や二十ではない。優に三百を超える弾丸が、数の暴力を持って黒羽の部隊を蹂躙した。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 九校戦での屈辱を忘れた訳では無い。しかしそれ以上に、眼の前の状況に亜夜子は恐怖した。

 

 文弥たちの状況を理解した亜夜子が現場に駆けつけた時、既にそこに立っている部下は存在しなかった。黒羽の──四葉家の実行部隊である彼らが、一人の少女相手に全滅したのだ。

 

「──お?お久しぶりです、黒羽さん。面白い魔法ですね」

 

「──っ?!!」

 

 更にあろう事か泉美は亜夜子に話しかけてきた。さも当たり前の様に、()()()()()()()()()()()

 

 九校戦で明かした亜夜子の得意魔法は『擬似瞬間移動』。だが亜夜子にはもう一つ、先天的な魔法適正がある。

 

 それが『極散』。指定領域内の気体や光、振動などのエネルギーといったあらゆるものを限りなく均一化させることで識別出来なくする魔法。戦闘に向く魔法ではないが、亜夜子の"四葉家としての魔法"である。

 

 そして今、亜夜子は『極散』を発動している。なのに泉美は話しかけてきた──亜夜子の隠形を"面白い魔法"の一言で済ませて。

 

「ま、ひとまず黒羽くんも部下の人達も無事ですよ。気絶してるだけです」

 

 だから安心して下さいという泉美だが、それはつまり、手加減する余裕があったということだ。

 

「連れの傷も心配ですし私たちはこれで失礼しますね。周公瑾の霊魂についても此方で処理しますので、四葉の当主殿にはそうお伝え下さい」

 

「………」

 

 亜夜子は何も言わなかった。今の自分には泉美の決定に反抗する事は出来ないと分かっていたから。

 

「あ、あと黒羽くんはどうにかした方がいいですよ。お父君の事は伺いましたが、だからといってああも感情的では仕事に支障をきたすでしょう」

 

「っ!!貴方に何がっ……」

 

 とはいえ弟を悪く言われたのには流石に黙ってはいられない。しかし泉美はそれ以上話すつもりは無いようで、背を向けて歩き出した。見送るしかない亜夜子の方を振り返ることも無く、ようやく立ち上がった名倉を連れて泉美は去っていった。一つ忘れものを残して。

 

 

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