七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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戦力と亀裂

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 父の四葉への対抗心は最早病気だな、と改めて感じたものの、話自体は円満に終わった。最悪決裂する未来もあっただけに泉美としても一安心だ。

 

 実際のところ、その気になれば弘一に知られないように立ち回る事は出来た。()で名倉の動きを把握し、それに便乗してバレないよう動く。難易度は跳ね上がるが不可能ではない。

 

 そうしなかったのは七草の裏の活動に発言権を持っておきたかったからだ。

 

 泉美は九校戦での一件を忘れてはいない。七草(クズ)九島(バカ)四葉(無能)周公瑾(害虫)のせいで八月の炎天下に一人歩き回るはめになったあの屈辱を。あの時から、いざという時のために名倉のような裏の人手を確保しようと思っていたのだ。

 

 なので少しリスクを冒して名倉の活動に付いて行くという形をとったのだ。想定外のことも幾つかあったが、(おおむ)ね望み通りの結果と言っていいだろう。今後は何かあれば名倉に言えばある程度便宜を図ってくれる筈だ。

 

 そう満足している泉美の目の前では、真由美が飛びっきりの笑顔を浮かべている。こちらは満足とは程遠い感じの笑顔だった。

 

「泉美ちゃん、あの狸親父と何を話したの?」

 

 場所は真由美の部屋。思ったよりもあっさり弘一に追い払われてしまった真由美の様子を見に来たのだが、怒りを向ける方向を失って暴発寸前らしい。傍らには同じく様子を見に来たであろう香澄がおろおろしている。

 

「拍子抜けさせて申し訳ないのですが姉さんが想像してるような話じゃありませんでしたよ?近々九島家の光宣くんがこっちに来るので、その辺りの話ですね」

 

「ああ、そういや修行?の為にこっちに来るんだっけ」

 

 素直に話してこの場で暴発されても困るので、泉美が違う話題を提供すると、事情を知っている香澄がこれ幸いと反応した。一方予想外の話を聞かされた真由美はきょとんとしている。

 

「……?香澄ちゃん、修行って?」

 

「この間九島家に行った時なんだけど、ほら、光宣って身体弱いでしょ?なんか泉美ならその体質をなんとか出来るって事でこっちで修行するって話になったんだよ」

 

「そうですね。それで今年の暮れに引っ越すそうです。光宣くん自身の意向もあるので冬休みから修行ですね……香澄もやります?」

 

「え゛っ。い、いやボクはいいよ、ほら冬休みはパーティとか忙しいし」

 

「修行と言っておけばサボれるのに……。まあそんな話です。なので私はパーティは新年のやつだけでお願いしますね」

 

 ちなみにこの話は九島家から謝礼が出る。お金を貰って面倒なパーティからも逃げられる、泉美にとっても良い話なのだ。

 

「えっ待って。体質を……治す?そんな事出来るの?」

 

「出来る範囲だったというだけです。医学的な分野は無理ですが、彼に関しては幽体の異常でしたから」

 

「というか泉美ちゃんが仙術を修行してたのは聞いたけど……そんな三年くらいで身に付いて、しかも光宣くんにも手軽に教えられるものなの?」

 

 仙術は古式魔法の中でも特に修得に時間が掛かる分野と言われていて、実際それは正しい。真由美の言うように普通は無理だ。

 

「光宣くんの修行については幽体の強度をあげるもので、仙術そのものを教えるという訳ではありませんからね。ただし"手軽に"ではありません。かなりキツい内容で、それも最低でも一年程度は掛かります」

 

 実際泉美の仙術は三年やそこらで至れる境地ではないのだがそちらには触れない。言ったところでどうにもならないし。

 

 そんな泉美の姑息な言い回しに、真由美は素直に流されてくれた。

 

「ふ~ん。一年って事は高校は?一高に転入するって事?」

 

「その辺は九島家の力がありますから。下宿もこの近くに借りるそうです。その辺りも私から言っておく事があったのですよ。……まあ父様のやった事は姉さんも気に入らないでしょうが、今出来る事はあんまりないですよ?どうせ来年の師族会議で問題になりますし」

 

 その辺りを弘一がどう考えているのかは分からない。方術士を放置した事は弘一には言わなかったので、証拠はないと甘い考えでいるのかもしれないし、名倉と一緒にカバーストーリーでも考えているのかもしれない。

 

「他の家も知ってるってことなのっ!?」

 

「四葉と九島は知ってます。なので大人しく待ってて大丈夫ですよ。ちなみに克人さん辺りに相談するのは無駄でしょうね。十文字家はそういうの苦手ですし」

 

 真由美が個人で持っているツテはそこくらいだが、十文字家の役割は国の最終防壁。外敵が攻めて来たときに()()役にたつが、平時は突っ立っているだけでほぼ役にたたない。情報収集や暗躍の分野は特に苦手だ。

 

「……」

 

 釘を刺された真由美がムスッとした顔で黙りこむ。もう一押しだ。

 

「父様がまた何か悪さをするようなら私から姉さんに教えますよ。それで今回は終わりにしましょう」

 

 十師族の息女という事で外部への影響力はそれなりに持っていても、この問題をどうこう出来るほど七草内での立場は強くない。不満げではあったが真由美は頷いた。

 

 

★☆★☆★☆★☆

 

 

 泉美は周公瑾を封印したが、全てが解決した訳では無い。むしろ日本魔法界にとって問題はここからなのかもしれない。

 

 10月22日の朝、達也は九重寺を訪れていた。門下生に襲われて返り討ちにするのはいつも通り。違ったのはその後、八雲との手合わせは無く、達也は部屋に招かれた。パラサイドールの相談をしたとき同様に周囲に結界が張られている。

 

「師匠、また内緒話ですか?」

 

「そうだね。というか達也くんは聞いていないのかい?」

 

 そう言われても達也には心当たりが無い。それを察したのだろう、八雲はもったいぶらずに本題に入った。

 

「封印した周公瑾の魂魄(こんぱく)を此処で預かってるんだ。滅するには少し時間が掛かるんだけどね」

 

 完全に予想外の話に達也は目を見開いた。泉美が周公瑾を処理し、その精神体を封印したという報告は受けていたが、その後についてはなんの指示も受けていなかった。達也としては泉美が裏の仕事に参加していたことや文弥たちが負けたことはともかく、周公瑾にはさして興味もなかったため、面倒な任務が無くなった程度の認識だったので気にしていなかったのだが。

 

「何故師匠が?七草が自分から渡してきたのですか?」

 

 達也の頭によぎったのは今年の始め、彼と仲間たちが捕まえたパラサイトを七草家の息のかかった部隊が横から掻っ攫っていった件だ。あの家が自分たちの戦果を他所に預けるとは達也には思えなかった。

 

「まあこれでも古式魔法の大家と言われてるからね。そこまで不思議ではないよ」

 

 八雲が言うには四葉家から七草家へ引き渡しの要求があったが当然七草は拒否。平行線になった結果、何処にも所属しておらず高名な古式魔法師という事で九重寺で預かる事になったらしい。

 

「実は七草家から古式魔法について聞かれる事は前にもあったんだよ。あそこの当主は力に飢えている。()()()に対抗できるように、とね」

 

 九重寺を傘下に出来ないかと弘一は以前から企んでおり、自分には良い顔をしておきたいのだろう。そう八雲は説明した。

 

 実際は揉めているところに元老院の介入があったり、八雲と達也、達也と四葉の関係を知っている泉美が気を利かせたりと幾つかの思惑が絡んだ結果なのだが、八雲はその事を言わなかった。

 

「そんな訳で魂魄はボクがしっかり預かったから、安心していいよ」

 

 こう言っているが、八雲がただ自分を安心させる為にこの話をしたとは達也は考えなかった。

 

「それで、七草家と”仮想敵”の仲はどうなんですか?」

 

「いやいや、ボクは世捨て人だから。名家の権力争いなんていう世俗の事には興味がないよ」

 

 達也の問に、八雲は飄々と(とぼ)けた答えを返した。しかしこの男に限って把握していない筈がない。達也もこの場の意図を理解した。

 

 黒羽家当主、黒羽貢を周公瑾に殺害され、四葉の実働部隊は確実に弱体化している。長年四葉に対抗する手段を模索していた弘一にとってこれは絶好の機会だろう。一方身内を失った四葉もまた、今回の件で七草を徹底的に叩きにいく筈だ。そして間近に迫った4年に一度の師族会議。荒れない筈がない。今年の年末は四葉の身内での迎春会に参加を命令されてもいる。全く見通しのつかない未来に達也は頭が痛くなった。

 

 





 原作と比べて
七草……超強化泉美がいて名倉も生存
四葉……貢死亡

とパワーバランスを良くしてみました。きっと(老害)も喜んでいることでしょう。
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