連続してやってくるのは悪いことだけでは無いようだ。水曜日の朝、泉美の耳にとんでもないビックニュースが入ってきた。USNAに展開する激辛アイスクリーム専門店、Thirty-eightが日本に上陸するというのだ。(実際には結構前から決まっていた。調べる余裕が無かっただけだ)
Thirty-eightは珍しい激辛アイスを多く取り扱っており、泉美も一度は行きたかったのだ。
一昔前までは魔法師の国際交流も盛んだったらしいが、四葉家の現当主である四葉真夜が誘拐された事件もあり、現在は魔法師は
そんな理由もあり、食べに行くのは無理か、と諦めていたのだが、日本上陸、しかも出店場所は第一高校からも近い。生徒会の業務を考えても帰りに寄ることは十分可能だ。
(香澄も誘ってあげましょうか。風紀委員の仕事でストレスもたまっているでしょうし)
香澄は別に辛いものが好きなんてことはない。むしろ苦手だが、珍しく浮かれていた泉美はそんなことはすっかり忘れていた。
日本での一号店のオープンは一週間後の4月25日、スケジュールにしっかりメモして、泉美はウキウキしながら学校の準備に取りかかった。
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良いことも続く、という話は気のせいだったのかもしれない。
その日の夜8時頃、十文字克人が家に訪問してきた。
訪問の連絡を聞いたのは学校から帰宅した後。随分急な話で、面倒事の予感がする。少なくとも真由美との仲を深めるため、ではないだろう。部屋で大人しくしていた泉美だったが、克人は思ったよりも早く帰っていった。
10分程待ってから真由美の部屋に行ってみると、案の定真由美が荒れている。悩んでいるのではなく怒っている。問題が起きたというより、弘一に文句があるときのパターンだ。面倒事は克人が持ってきたのではなくこっちで起こしたものらしい。
関わらないほうが良さそうなので回れ右して帰りたかったが、荒ぶる真由美はそれを許してくれなかった。
「あの狸オヤジはほんっとに!!」
「姉さん、落ち着いてください。父様と克人さんはなんの話を?」
結局捕まって愚痴を聞かされることになった。とはいえ今朝のニュースのおかげで今の泉美は心にゆとりがある。この姉はなんやかんやで溜め込みがちだ。たまには姉の愚痴に付き合ってあげよう。
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「成る程、反魔法師報道をですか。それは穏やかではありませんね。しかし分断とは、またずれたことを……」
「何か狙いがあるとか言ってたけど、あの狸オヤジ!!」
言っててまた腹が立ってきたのか、クッションを地面に叩きつける真由美。やってることが香澄と一緒である。
真由美の話を聞いてみると、最近過熱している反魔法師報道の内、国防軍を非難している派閥は弘一が裏で支援しているらしい。確かに真由美が怒るのも無理はない。そして泉美としても他人事では済まなさそうだ。
「しかしこれは、こっちに被害がくる類いですね。面倒くさい話です」
「?どういうこと?泉美ちゃん、狸オヤジの考えてることが分かるの?」
真由美が首を傾げて聞いてくる。正直狙いについては分かっているとは言えないが、「どうなるか」については泉美は想像がついていた。
「父様が支援しているのは軍を非難している連中、この勢力の主張は、軍に入る魔法師があまりに多い。これは軍が学校と癒着してそうなる様に教育しているからだ、非人道的だ、といいたい訳です」
「そうね。でもそれは結局表面的にそう言ってるだけで、本心は魔法師なんかいらないと言ってるだけでしょう?」
「本心はどうあれ、そう主張している以上、証明しようとするのは当然の流れでしょう?そして彼らの主張を証明するためには、大元である魔法科高校の教育に突っ込んでくるしかないわけです」
そう、彼らの主張は軍が学校の教育に干渉し、子供を洗脳しているというもの。ならば学校の教育内容をチェックしよう、となるまでは既定路線なのだ。
「そしてマスコミのやり口として、生徒の中に軍と繋がりのある人を適当にでっち上げるでしょう。親が軍人とか、そういうのでも構いません。探せば絶対にいる筈です」
実際にはそんな間接的なものではなく、直接軍に所属している奴がいるのだが、流石にそんなことは泉美は予想していなかった。高校生を軍属にするのはいくらなんでも外聞が悪すぎる。露見したときのリスクを考えれば
そこまで聞いて真由美は顔色を変えた。なにか心当たりがあるらしい。構わず泉美は予想を続ける。
「で、マスコミはその生徒をやり玉に挙げて魔法科高校を攻撃します。そこでようやく、マスコミに対して強く反撃できる。高校生に対して何をやっているんだと。まあそれが狙いだという可能性もゼロではありません」
しかしこれは流石に遠回りが過ぎる気がするし、未成年の子供が矢面に立たされることになる。わざわざ
さらに言えば、九島烈が反対しなかったというのも引っ掛かる。何故九島烈が反対しなかったのか、ではない。
とはいえ流石に証拠もなくそんな話を真由美にするわけにもいかないし、これ以上ここで考えても情報不足で結論が出ない可能性が高い。
結局父の思惑は分からないままだが、面倒なことになるのは分かった。泉美は憂うつになりながら、先程から黙って考え込んでいる真由美を残して部屋に帰ることにした。
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面倒事の具体的なお知らせは2日後にやってきた。
金曜日、そろそろ新生活にも慣れてきた泉美は、ほのかの指導の下生徒会業務のトレーニングをしていた。今週に入ってから達也の自分への警戒が強くなっていることは気が付いているが、泉美からは何もすることはない。向こうもその内慣れるだろう。
しかし今日は普段と違い、始業前に達也から恒星炉の実験の打ち合わせをすると言われた。何故生徒会室で、業務時間中に行うのか分からなかったが、まあ先輩の言うことだ、大人しく聞いておくに限る。
監督役だという廿楽先生が来たタイミングで生徒会の活動は一時中断となった。泉美も会議用のテーブルに座り話を聞く体勢をとる。しかし正直、泉美は自分が関わることはないと思っていた。そもそも恒星炉実験と言われたところで、泉美の工学系の知識は普通の高校生と大差無い。加重系魔法の三大難問の一つ、という位は知っているが、具体的な内容はさっぱりなのだ。
ピクシーに給仕されたお茶で喉を湿らせて、廿楽は打ち合わせの第一声を放った。
「それで司波くん、役割分担はどのように考えているのですか」
そもそもどんな役割があるのかを知らないので黙って聞いていると、ガンマ線フィルターはほのか、クーロン力制御は五十里、中性子バリアは水波と、スムーズに役割が決まっていく。他人事のように聞きながら使用する魔法から自分なりに恒星炉の仕組みを考察していたのだが──
「
──思いがけず名指しされて、泉美は目を瞬かせた。
「……私、ですか?」
「ああ、引き受けて貰えないか?」
第四態相転移とはその名の通り、物体を第四態、つまりプラズマ化する魔法で、それなりに難易度が高い。そして泉美は主席とはいえ一年生、高難度の魔法の制御を考えれば上級生を選びそうなものだが……
一瞬驚いたが、達也の顔を見て、泉美は何となく達也の思惑を理解した。要は観察する機会が欲しいのだろう。これなら実験の準備の際、指導という名目で泉美の魔法行使を観ることが出来る。九重八雲がうろちょろしていた事からも分かっていたが、自分はかなり警戒されているらしい。
「……承知しました。先輩方に比べれば未熟な身ですが、私に出来ることでしたら」
しかし分かった上で泉美は了承した。本当に隠したいものは隠し通せる自信があるし、ある程度は見せた方が今後やり易いという判断だ。
「ただ私は実験の具体的な内容を存じないので、出来れば教えて頂けないでしょうか」
とはいえ実験の詳細を知らない以上、あまり安請け合い出来ることではない。
「そうだな。廿楽先生、光井さんと七草さんは実験の詳細を知りません。確認の意味でも一通り説明しておきたいと思うのですが」
そうして達也から実験の流れと今後の予定を聞いていくが、そのなかで泉美の中で重要な点が二つあった。
一つはこの実験を行う本当の理由、神田議員が第一高校に乗り込んで来るということ。神田議員は反魔法師派の政治家の一人で、最近の国防軍を批判している活動を行っている人間だ。当然訪問の目的はその件だろう。
恒星炉実験はこれに対して魔法科高校では軍事の分野以外でも成果を出している、と示すのが目的らしい。
つまりこの問題は
そしてもう一つは本番、神田議員がやってくるのが来週の水曜日、25日だということ。そう、Thirty-eightのオープンと被ってしまったのだ。しかし先の理由もあって抜ける事など出来るはずがない。涙を呑んで楽しみを1日遅らせることとなった。
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さて、本番が25日ということはリハーサルを含めた準備はその前日の24日には終わらせる必要がある。明日の21日から準備を始めて休日を返上しても4日間しか時間はないわけだ。生徒会の人間だけでやる訳ではないにしろ、相当忙しくなるのは間違いない。
「僕も手伝うの!?」
「はい、これは決定事項ですので拒否権はありません」
なのでとりあえず香澄に手伝わせることにした。そもそも今回の裏の事情を考えれば七草家の一員である香澄も責任をとって協力するのは当たり前である。香澄は事情を全く知らないだろうが、そんなことは泉美にとって些細なことだ。これから4日間、達也の指揮下で準備をすることに嫌そうな香澄だが、泉美はさっさと明日からの準備の内容を共有することにした。
その場のノリで激辛アイスとか書いたのを結構後悔してる……