七草泉美の苦労日誌   作:オオアリクイ

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言い忘れてましたが乗積魔法(マルチプリケイティブ・キャスト)は使えないです。魔法演算領域が同一じゃないので。


国会議員と恒星炉

 23日、準備は滞りなく進んでいた。機材準備はほぼ完了し、明日には廿楽が確保してくれた重水も届くことになっている。そこで最終リハーサルを行って準備は終了だ。時間の空いた泉美は今のうちに実習室で第四態相転移(フォースフェイズシフト)の練習をしていたが、そこで()()()()()()自分を見ようとしている視線に気がついた。

 

 情報次元からエイドスを直接視る能力、それは泉美の持つ能力の()()と同じものだ。達也の周囲はこの能力の事を『精霊の眼(エレメンタル・サイト)』と呼んでいるが、泉美はただ単に『眼』と呼んでいる(そもそも誰にも話してないので、呼び名が必要なかった)。

 

 しかしこの能力で勝手に人の事を()()のはあまりにも失礼過ぎる行為だ。流石に好きにさせる気にはなれないので、ちょっと驚かせてみることにした。

 

 「纒衣(まとい)」と呼ばれる、自分のエイドスを偽装する技術、もともとは世界の裏側から情報次元で人を観測している妖魔を騙すための技術で対人用ではないのだが、それを応用して『眼』を「眩ませて」みる。

 

 偽装した自分の情報を絶えず大幅に変化させる。観測者が処理出来ないほど大幅に、急激に。第四態相転移を使いながらだが、七草家の人間は魔法のマルチキャストが得意なのだ。この程度なら問題なく行える。

 

 果たして自分を見ようとしていた視線が途切れ、実習室の外にいた達也が少しふらついている。「眼」にダメージを受ける前に咄嗟にイデアとの接続を切ったらしい。まあ集中が必要な魔法の練習中にストーカーも真っ青な行動をとったのだ。ある程度は痛い目を見て反省して貰わないと困る。チラッと達也の方を見た泉美はそのまま練習を続けた。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 その後は特に何事もなく、24日、最終リハーサルは成功という形で終了した。

 

 明日は本番、神田議員の来訪に合わせてデモンストレーションとして行う。魔法科高校と軍の癒着を主張している議員とマスコミに、軍事目的以外のことも成果を出している、と見せつけるのだ。

 

 本番は五限目の授業時間に行うが、その後の片付けまで含めれば夕御飯の時間ギリギリまでかかるだろう。やはり激辛アイスは明後日に持ち越すしかなさそうだ。

 

「あの、達也さん!今日、お誕生日ですよね!」

 

 そんなことを思っている泉美の前ではほのかが達也に誕生日プレゼントを渡している。

 

「光井先輩と司波先輩ってそういう関係だったの?」

 

「いえ、それが結構複雑な関係のようで……」

 

 香澄が耳打ちしてくるが、泉美としてはそう濁すしか出来ない。早い話泉美もよく分かっていないのだ。

 

 生徒会の業務を通じてみた限りほのかが達也に対して()()()()感情を抱いているの間違いない。そして達也は恐らくほのかから直接()()を伝えられている。

 

 つまり告白済みということだが、どういう返事をすればこういう状況になるのか、泉美には良く分からなかった。

 

 というかほのかは達也の、司波家のことを何処まで知っているのだろう。

 

 パラサイトと繋がるはめになった上、(多分)とんでもない家柄の男の事を、恐らくそうとは知らずに好きになったほのかを、泉美は実のところかなり心配していた。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 そして25日、いよいよ嬉しくもなければ待ちわびてもいないお客様が魔法科高校にやってきた。

 

 泉美達が準備をしている放射線実験室に、ジェニファー・スミス先生(魔法工学科の担任だ)に連れられて入ってきた神田議員と記者の集団を、生徒達は冷たい目で迎え入れた。尤もそれは一瞬のことで、直ぐに作業に集中した(振りをした)が、怪しまれる真似はしないで欲しい。

 

「スミス先生、そちらの方々は?」

 生徒の作業を監督していた廿楽先生が対応に向かう。これは前もって決めていたことだ。

 

 議員と記者の相手は生徒がするべきではない。自分達の仕事はこの実験を成功させること。

 

 生徒達は各々の作業に向かい、泉美も自分の担当する魔法に集中することにした。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 実験は無事に成功し、魔法科高校生がエネルギー問題への取り組みとして恒星炉の実験を行ったという事実は示せた。後はマスコミ工作、大人達の仕事になる。

 

 (しかし結局父様は何を考えていたのでしょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()以上、この来訪が不意打ちで成功した方がいいと思っていた?)

 

(そもそも外国の干渉による反魔法主義報道に対して、他にやり方がありそうなものですが)

 

 弘一との会話の中で、世論に対抗するには分断すればいい、と克人は言ったそうだが、泉美に言わせればその発想が既に間違っている。本当の意味で分断など出来やしないし、それは()と戦うときの戦術だ。背後で煽っているものはともかく、踊らされているのは国民、つまり定義上味方なのだ。

 

 日本国民を「魔法師」と「非魔法師」に分断するのが敵の策だ。それに対して反魔法主義者を分断する、では対抗策になっていない。

 

 このような場合の対応としては、外部にヘイトを集めるのが基本になる。

 

 例えば去年の横浜事変の侵略者である大亜連合。ここにネガティブキャンペーンをぶつけて、自分達は「魔法師」とか「非魔法師」である前に、同じ「日本人」だとアピールする訳だ。

 

 このように共通の敵を作って団結を促すのが一番判りやすい対応だろう。

 

 これぐらいは考えていても良さそうなものだが、まあ何か泉美の知らない事情があったのかもしれないし、もう過ぎたことだ。今更言っても仕方ない。

 

 父の悪企みもよく分からないが多分失敗なのだし、これで良しとするべきだろう。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

 明くる26日、ニュースを観ていると意外と昨日の件に好意的なものが多かった。大人達は仕事をしたらしい。政治家やマスコミだけでなく、大企業であるローゼンの日本支社のトップまでもコメントしていて、魔法科高校への風当たりはかなり良くなりそうだ。

 

「昨日の実験もうニュースになってるの?」

 

「はい、随分好意的に受け止められていますね」

 

「……ふーん。アイツの実験がねぇ……」

 

 香澄は相変わらず達也に対しては感情的だ。そんなに引きずるタイプでもないはずだが、ひょっとしたら内心達也の事を怖がっているのかも知れない。そんなことを考えながら泉美はこの話題を打ち切ることにする。

 

「さて、そろそろ学校に行きますよ。あと前にも言いましたが、今日は帰りにThirty-eightにアイス食べに行きますけど本当に一緒に来なくていいんですか?珍しいアイスもいっぱいありますよ?甘いアイスはありませんが」

 

「……うん、一人で行って。ボクはパス」

 

 香澄も誘ったのだが、どうも香澄は辛いものが余り好きではないようで全く乗ってこなかった。

 

 まあとにかく面倒事も一旦片付いたし、しばらくは平穏な日常生活を送れそうだ。放課後の激辛アイスに思いを馳せ、泉美は気分よく学校へ向かった

 

 

★☆★☆★☆★☆

 

 

 

 その日、七宝琢磨は極めて機嫌が悪かった。一年B組の教室、五時限目の授業が終わり部活に行く準備をしていた琢磨(この時代の高校に帰りのホームルームなんてものはない)の耳に、また不愉快なお喋りが飛び込んできた。

 

 クラスメイトの女子が話題にしているのは、誰もが知るあのローゼンの日本支社長のインタビューで絶賛したという昨日の実験についてと、実験に参加したA組の女子についてだ。

 

 世界的企業の幹部から高い評価を得たことに興奮する自分以外の生徒に対し、それが七草家のやったことだと思い込んでいる琢磨は「七草家の手柄」をとことん苦々しく思っている。

 

 そんな不愉快な話を聞かされ続けた(別に琢磨に向けて言った生徒はいない。琢磨の高圧的で、誰にでも噛みつくスタイルはクラスでも敬遠されていた)琢磨は荒々しく立ち上がった。周りの生徒のお喋りが止まり、クラスが静まり返る。

 

 しまった、と琢磨は思ったが、苛立ちと嫉妬で頭の中がぐしゃぐしゃになっていた彼は、何も言わずに、逃げるように教室から出ていった。

 

 嫌なことは連鎖するものだ。部活中もまともな精神状態ではなかった彼は魔法が雑になり普段ではあり得ないミスを連発した。下校する頃には琢磨の苛立ちはピークに達していた。

 

 今日はとことん琢磨にとって間が悪い日のようだ。厄日と言っても良いかもしれない。

 

 事務室に預けていた自分のCADを受け取って下校する途中、風紀委員の腕章をつけた香澄と前庭でばったり出会ってしまったのだ。

 

 苛立ちはまともな判断力を奪う。

 気がつけば、口が動いていた。

 

「上手くやったもんだな、七草」

 

 証拠があるわけではない。第三者が聞いたら呆れるか、または気分を害するかのどちらかだろう。しかし琢磨は感情のままに、香澄を「糾弾」した。

 

 

 






 泉美のやったことが分かり難い気がしたので少し自分のイメージを話します。分かってるって人は飛ばして大丈夫です。


 まずエイドスですが、世界さんが編集してるwikiのようなものです。あらゆるものに専用のページが作られていて、人間なら今何処にいるのか、どんな状態か、何が得意か、魔法師としての称号なんかも載ってるみたいです。この情報は現実とリンクしています。

 魔法師はこれに書き込み(上書き)をすることが出来ます。例えば達也に掛かっている重力は普段1Gと書かれていますが、これを3G に上書きしようと投稿します。この投稿が魔法式です。

 書く力、干渉力が足りていると、エイドスにその情報が上書きされ、リンクしている現実でも達也に3倍の重力が襲います。

 しかし世界さんは勤勉にサイトを見回っていて、変な書き込みを見つけると元に戻してしまいます(世界の復元力)。なので治癒魔法を定着させるには世界さんが諦めるまで書き込みまくる必要があります。

 ここで重要なのが、一般的な魔法師はwikiに投稿することは出来てもページを閲覧することは出来ない、という事です。しかし精霊の目を持つ達也はイデア(インターネットのようなもの)に接続してページを閲覧出来ます。少しならリンクも辿れます。条件付きで検索も出来ます。

 今回泉美は、達也がネットに接続して自分のページを見ていることに気付き、偽サイトを上から被せました。そして達也は画面全てが文字化けしたサイトを視てしまい、「うわっ!」となって切断した、という感じです。

 あくまで例えで少し違うところもありますがこんなイメージでお願いします

 
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