クズと悪女の逆襲劇(ヴェンデッタ)!〜追放された勇者の孫は勃起の力で戦キチ悪役令嬢と魔王軍に寝返って異種族娼館を建てたいようです〜   作:犬吠崎独歩

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第二十一話 バジリスクタイム 前編

 

「レオンさんと結婚しますぅ!!」

 

 急にレオンに抱きついたレヴィアはそう宣言した。

  

 確かに狙っていたけれど、そんなに急に進展するとは思ってもみなかったレオンは混乱してパチパチと瞬きをするばかりである。何も考えられないので、ただ押し付けられる豊かな肉の感触を楽しむことにした。

 

「ま、待てレヴィア。そんな行き当たりばったりで決めていいものじゃないだろう! 大体その男はだな……」

 

「未だに結婚できないおば様は黙っててくださぁい!」

 

「はぁーーーッ!? できないんじゃないが!? しないだけだが!? その気になれば余裕なんだが!!??」

 

「閣下!? しっかり!!」

 

 意図しないカウンターがモロに入り錯乱するゾーネンシュリームをヴィオラが介護に回る。

 

「へへへぇ……おば様に勝ったぁ……! うれしい……! さ、さぁ行きましょレオンさん、わたしたちの……えへっ、愛の巣に……!」

 

「う、うん……?」

 

「ちょっと待ちなさいよ!! 私は認めないわよ!!」

 

「な、なんですぅ……? 関係無い人は邪魔しないで欲しいっていうかぁ……」

 

「関係者よ!! ド関係者!! その男は私の部下! 生殺与奪は私にあるんですけど!?」

 

「そうなの!?結婚も自由にできないの!?」

 

「アンタは黙ってなさい!!」

 

「え、えぇ〜……困りましたぁ……どうしよう……あ、そうだぁ! おば様ぁ! 決闘でこの人に勝てばレオンさん貰えたりしませんかぁ?」

 

「何?決闘だと……?」

 

 決闘という単語にバトルマニアのゾーネンシュリームが正気を取り戻す。

 

「確かに魔王軍の制度として“揉め事は決闘で解決すべし”とあるからまぁ、できるな……」

 

「できるんですか!?」

 

「魔王軍は弱肉強食。強さこそが正義だからな……オール・オア・ナッシングというやつだ。」

 

「じゃ、じゃあわたし! この紫の人にけ、決闘を申し込みます!! 私が勝ったらレオンさんは私が貰いますぅ!」

 

「フ……あのレヴィアが決闘とはなぁ……。だそうだが、どうするヴィオラ?」

 

 姪っ子の成長にしみじみとした顔をするゾーネンシュリームは決闘を受け入れるかどうか、ヴィオラに問う。

 

「……聞かれるまでもありませんわ。」

 

 静かにヴィオラはそう言った。そしてカッと目を見開いて言葉を続ける。

 

「“売られた喧嘩は買え”が我がヴィオレット家の家訓ですの。……私に喧嘩を売ったこと、死ぬほど後悔するのね?蛇女」

 

「えへっ、えへへっ! せ、成立ですねぇ!? じゃあ表に出て早速……」

 

「待てレヴィア。決闘は然るべき場所で然るべき準備の後に行わなれなければならない。」

 

 調子に乗って気が大きくなり、逸るレヴィアをゾーネンシュリームが諌める。

 

「そうさな……今からなら夜にはできるだろう」

 

「わかりましたぁ……。あ、じゃあレオンさんとわたしそれまで……」

 

「賭けの対象はこちらで預かる!!」

 

「ああっ……しょんなあ……」

 

 ゾーネンシュリームは悲痛な声を上げるレヴィアからレオンの身柄を奪い取る。

 

「それでは決闘は本日19時に開始とする。場所は……まぁ訓練所の闘技場でいいだろう。レヴィアはこの部屋で待機するように!! ヴィオラとレオンは私と来い。説明することがあるのでな……」

 

 彼らが頷くとゾーネンシュリームはレヴィアを置いて部屋を出た。

 

 

 

 

 ──場所は変わり、ゾーネンシュリームの私室。女らしさの欠片もなく、大量のゴツい武器などが飾られている無骨な部屋の中央のテーブルにヴィオラとゾーネンシュリームが相対し、その近くの床にレオンが簀巻きにされて横たわっている。

 

「……と、決闘のルールについては以上だ。質問は?」

 

「ありませんわ」

 

「よし……ではヴィオラ、これを持っておけ。」

 

 ゾーネンシュリームは机上に二つのものを置いた。

 

「これは……?」

 

「石化除けと……即死除けの護符だ。指揮官不足の今、姪のワガママでお前を死なせる訳にはいかんからな」

 

「ありがとうございます。……しかし即死ですか? 彼女の眼は石化の効果しかないのでは?」

 

「万が一ということがあるかもしれん。……あいつ、レヴィアは先祖返りを起こしたラミア族の魔人だ、だからアイツの目には石化の力がある。それだけならまだいいのだが……」

 

 ゾーネンシュリームは目を伏せてため息をつく。

 

「アイツの家、ナイトシュランゲン家にはな……かつて魔王様と肩を並べた“蛇の王”、バジリスク様の血が流れているのだ。……視線だけであらゆる生命を即死させ、息だけで草は枯れ石を砕き通った後には何も残らない……そんな高貴な血がな」

 

「なるほど……何かの拍子に完全に先祖返りする可能性がある……と?」

 

「そうだ。アイツにはそれを引き起こすであろう固有魔法……いやさ正しくは『渇望拡大(シュタルクラスト)』と呼ぶのだが、それを触りとはいえ教えてあるのだ」

 

「固有魔法? 渇望拡大(シュタルクラスト)? ……私の知らない魔法があるなんて」

 

「まぁ知らない奴の方が多い。帝国なら勇者が『神聖術式(ディバインマギア)』というのを使っていたが……まぁ、ざっくり言うと己の渇望を具現化する術式だ。所謂自分ルールの押し付け、ってやつだな。」

 

「そんなものが……あ、もしかしてレオンの『勃起魔法』もそれに類するモノなのですか?」

 

『そう! 大正解だよお嬢さん(フロイライン)!! 僕が渇望拡大に独自に改良を加えたのが勃起魔法さ。いやいいモノだろうアレは。魔力の代わりに性欲からなる淫力を用いることで発動の簡便化を──』

 

 急にレオンの剣からテンション高めにアスモデウスが姿を表す。

 

「うわビックリした……。誰よ?」

 

『あぁ……そういえば初めましてだったかな? では名乗らせてもらおうか僕は──』

 

「こいつはアスモデウス、私の元同僚の色情狂だ。今はレオンの剣に取り憑く残りカスらしいぞ」

 

『ちょ……マリナ? 自己紹介くらいさせてもらっても良いのではないかな?』

 

「喧しい、あと名前で呼ぶな。さっさと消えろ」

 

『君はいつもつれないねぇ……おおっと、僕はここらで退散するとしよういや本当に消されてはたまらないからね……それではお嬢さん(フロイライン)、またいつか会えることを楽しみにしているよ』

 

 軽口を叩くアスモデウスをゾーネンシュリームがキッと睨むと、そそくさと姿を消した。

 

「まったく……すまん、話が逸れたな。とりあえず心からの渇望を具現化して無理を通してくる魔法があることを覚えておけ。まだアイツには無理だろうが、戦いの中で覚醒するということもある。気をつけろよ」

 

「はい、委細承知いたしましたわ。……しかしよろしいのですか? 一応姪子さんなのでしょう?」

 

「いいさ、さっきも言ったがお前に死なれても困るし……あの馬鹿姪の腐った根性をこの際叩き直してやろうと思ってな。容赦はしなくていいぞ、徹底的にやってよろしい」

 

「畏まりましたわ……まぁ、容赦する気なんてありませんけど」

 

 静かに闘志を燃やすヴィオラを見て、ゾーネンシュリームは満足そうに笑みを見せる。

 

「フフン、ならいい。……もうすぐ定刻だ。我々も向かうとするか」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 二人は意気軒昂に立ち上がり、部屋を後にした。

 

 

 

「…………え?俺は??」

 

 簀巻きのレオンを残して。

 

 

 ──すぐにゾーネンシュリームの部下が来てレオンを抱えて行った。よかったね。

 

 

 

 

 ──また所変わり、魔王軍訓練所の闘技場。月明かりと松明に照らされて、古代のコロッセウムを思わせるその場所は、ギャラリーもそこそこ入りそこそこの賑わいを見せていた。

 

「さて、第九師団の同胞たちに加え傭兵団の新たな同志たち。本日は『ヴィオランテ親衛隊』の発足並びに初活動日である!! 皆で一緒にヴィオラ様を応援しようではないか!! では一発行ってみよう! はいせーーの!!」 

 

「「ヴィオラ様(姐さん)がんばれーーー!!!」」

 

「何やってんのかしら……あいつら」

 

 でもまあ悪い気はしないわねと親衛隊に向けてにこやかに小さく手を振ると、怒濤の如き歓声が返ってきてヴィオラはちょっと引いた。

 

「き、来ましたねぇ!! に、逃げなかったのは褒めてあげますよぉ……! えーと……紫の人!!」

 

 ヴィオラが闘技場に立つと、そこにはレヴィアが先に待っていた。

 

「はん、逃げるワケないじゃないの……つか紫の人って何よ? ……はぁ、まぁいいわ。さっさと戦りましょ」

 

「よし、二人共位置につけ。此度の決闘はこのマリナ・リンメルグラス・グレモリー・カデンツァヴナ・ベーゼン・ゾーネンシュリームが取り仕切る」

 

(本名めっちゃ長いわね……閣下)

 

「ルールを確認するぞ。お互いのどちらかが負けを認める、もしくは戦闘不能になるまで決闘は続く。そして勝ったほうにレオンハルト・ノットガイルの所有権が与えられる。相違ないな?」

 

「ありません!」

 

「無いわ」

 

(え……? 俺の意思は……?)

 

 逃げないように縛られながらことの成り行きに身を任せるしかないレオンは表情で抵抗の意思を見せるが、特に気にも留められていなかった。

 

「ならばよし!! では貴様ら、先ずはお辞儀をするのだ」

 

 闘技場にて、10m程距離を取って相対する二人が頭を下げる。レヴィアはただ頭をペコっと下げ、ヴィオラは大仰に、しかし優雅なお辞儀をした。

 

 開戦前の張り詰めた雰囲気が闘技場を包んだ。開始の合図は未だなされず、闘技場の誰も彼もが息を呑む。

 

 ──いつしか月を隠していた雲が晴れ、月光が一層強く闘技場を照らした。その瞬間、ゾーネンシュリームが掲げた右腕を一気に振り下ろす。

 

「始めッ!!!」

 

「『焼き払え(ブレネンデ)』!!」

 

 刹那、レヴィアが手を払うように動かすと炎が地を走りヴィオラを襲う。

 

「ふ、ふひひっ! 先手必勝ですぅ!! まだまだいきますよぉっ! 『焼き払え』! 『焼き払え』!」

 

 炎の絨毯爆撃とも言うべき魔法の連打、幾重にも重ね掛けされた炎がヴィオラを包み、濛々と煙が立ち込め、彼女の姿を隠していた。

 

「あーーーッ! あの女なんてことを!! ヴィオラ様の姿が見えないだろうが!! それに御髪(おぐし)が燃えたらどうする!!」 

 

「ええい外野が五月蝿いぞ!! 黙って観戦するということができんのか!!」

 

 審判役のゾーネンシュリームが親衛隊のヤジを怒鳴りつけている間に、レヴィアは魔法を撃つのを止め、ふふんと勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「えへっ、えへっ……! これはもう勝ちなんじゃないですかねぇ……! 人間なんかにこれが耐えられるワケないしぃ……! 私魔法は得意なのでぇ……!」

 

「あら、奇遇ね? 私も魔法は得意なのよ」

 

「へ?」

 

 瞬間、炎が突如として霧散し、その中から半透明の障壁を展開したヴィオラが現れる。

 

「『全魔導(マギアヴァン)障壁(ト・アレス)』……そう、こんな風に全属性対応可能なワケ」

 

「ぜ、全属性ぃぃ!?」

 

「で、そんな貴女は何属性扱えるのかしら?──あぁ、別に言わなくていいわよ。『汝の力を晒せ(ステータス・オープン)』。」

 

 ヴィオラの眼の前にレヴィアの名前が書かれた半透明のスクリーンが現れる。「禁術秘録」に記されていたその魔法の能力は、相手の力量を数値化してその全てを看破することであった。

 

「へぇ、火と水。二属性は使えるのねぇ? 根暗女にしては頑張ってるじゃない。……ま、何もかも私に比べればカス同然なのだけれど。筋力ぐらいかしら? マシなのは」

 

「え、えぇ!? なんでわかるんですかぁ! ズルですかぁ!?」

 

「れっきとした魔法よ、禁術だけどね? ……さ、今度はこっちの番よ。どのくらい耐えられるか見物ね」

 

「……ッ!! 『焼き払え』!!」

 

 ついに動き出したヴィオラを止めようと、レヴィアは再び炎を走らせる。が、ヴィオラはそれを難なく避け炎は虚空を燃やす。

 

「鈍臭ぇのよ。──『(シュネル・)(デトネィション)』」

 

 ヴィオラの足元が爆発したかと思った次の瞬間、まさに爆発的な加速を伴う彼女の正拳がレヴィアの身体に突き刺さり、吹き飛ばす。声にならない悲鳴を上げて、レヴィアの身体が空中二、三回程回転して闘技場の地面に無惨に転がった。

 

「ぐ……げぇっ……」

 

「まだ終わらないわよ? 私、アリンコ一匹潰すのにも全力を尽くすタイプなの──『爆ぜよ(デトネィション)』」

 

 ヴィオラの、倒れ伏すレヴィアを指す指からチッと火花が飛んだかと思うと即座にレヴィアが爆風に襲われる。

 

「『爆ぜよ』、『爆ぜよ』、『爆ぜよ』! ……まぁこんなもんかしら? 原形が残っているといいのだけれど」

 

「うわぁ……容赦ねぇな、アイツ。なにも殺すことないじゃん……」

 

「いや……まだだ」

 

 もはや死んだかと思ったレオンだが、ゾーネンシュリームはそれを否定する。

 

 煙が晴れる。──レヴィアの肉体は満身創痍ながらも、まだ原形を保ち、水の壁を展開し生きながらえていた。

 

「……あぁ、水属性も使えたんでしたっけ。雑魚にしては粘るじゃない、褒めたげるわ」

 

「はぁっ……はぁっ……痛い、痛いよぉ……でも、まだ、まだぁ!!」

 

 黒墨を垂らしたような緑なす流麗な黒髪は乱れ、その隙間から鮮血が流れ出る。どこもかしこも傷だらけ、だが彼女の目はまだ生きている。──そんなレヴィアを見て、ヴィオラは呟いた。

 

「……わからないわね」

 

「げほっ……な、何がですかぁ」

 

「どうして立つのよ。たかだか会って数時間程度のアイツが、そんなに大事?」

 

「そ、そんなの当たり前です、だって、だって……」

 

 傷ついた両手をぐっと握りしめ、それを胸に押し抱き、絞り出すようにレヴィアは言葉を紡ぐ。

 

「私はレオンさんを……好きになっちゃったから……!」

 

「す……き……?──あはっ、あはははははははは!!」

 

 レヴィアの突然の告白に、ヴィオラは眼を掌で覆いながら火がついたように笑い出した。

 

「あはっ、何? 好き? アイツが? いひっ、だから、だからそんなになってまで戦うって? 随分とまぁ、純情なことで、あはっ、あははははは!」

 

「笑うなッ!!」

 

 嘲笑するヴィオラにレヴィアが激昂する。

 

「あの人はわたしの眼が綺麗だって言ってくれたんだ!! わたしのこの眼を! わたしなんかのこの眼を! 綺麗だって、好きだって言ってくれたんだ!! 皆に忌み嫌われた、呪いとしか思えなかったこの眼を!! ……好きだって、言ってくれたんだ……!」

 

「ふぅん、そうなのぉ……ふふっ、まだ一言二言しか交わしてないのに、好きになっちゃったのねぇ? 随分初心だこと」

 

「黙れッ!! 『焼き払え(ブレネンデ)』!!」

 

「またそれ? ……あぁもういい、飽きたわ」

 

 レヴィアが怒りのまま撃ち出した魔法を、魔導障壁で難なく散らすと、心底興醒めといった顔でヴィオラは指をパチンと鳴らした。

 

「『一切合切無惨に(ディ・シュテルクスト)爆ぜよ(・デトネィション)』。……消えちゃいなさいな」

 

 ヴィオラの最大級の爆破魔法の発動が告げられる。太陽の如き光の玉が、レヴィアの近くに現れ、収縮し、今まさに破壊の嵐を巻き起こさんとする。

 

「まだだァッ!! わたしはまだ()()()()()んだァ!! 『守護の盾たる(マキシマル・ヴァッサ)大瀑布(ー・ヴァント)』ォォッ!!」

 

 レヴィアが叫ぶと、展開された魔法陣から滝と見紛う程の水流が彼女を護る様に吹き出した。

 

 それを見たゾーネンシュリームは、ほうと感心したように微笑む。

 

「水のない所でこれ程の水魔法を……成長したな、レヴィア……」

 

「いや姪子さん本当に殺されますよ? 大丈夫なんすか?」

 

「案ずるな!! アイツとて我が家の貴い血を引く女だ!! 頑張れーーッ! レヴィア!! まだやれる、まだやれるぞォーーッ!!」

 

 審判であるゾーネンシュリームが立場を忘れてエールを送ったその時、ヴィオラの魔法が弾け、闘技場を爆風が襲った。これまで以上の破壊と爆煙が辺りを包む。

 

「どうなったんだ!? レヴィアは!!?」

 

 闘技場の観客席から、身を乗り出すようにしてゾーネンシュリームが目でレヴィアの姿を探す。

 

 反対方向ではヴィオラが勝ち誇った笑みを浮かべている。

 

 ──が、煙が晴れ始めるとその顔は驚愕に変わった。

 

「はあッ!? 何で、何でまだ立ってるのよ!? ……レヴィア・ナイトシュランゲン!!」

 

 全てを葬る破壊の嵐を耐え抜いて、レヴィアはそこに立っていた。しかし先程より大きく身体は損傷し、服にはまだ炎が残り、パチパチと音を立てている。

 

「まだ……! まだだぁ……! まだァ!!」 

 

 カッと眼を見開くレヴィアの眼力に、護符により石化しない筈のヴィオラの身体が威圧感を覚え、強張り始めた。

 

「はあッ……? この私が? この私が威圧されてるっての!? ふざけんなっ……! 『爆ぜよ』ッ!!」

 

 苦し紛れのヴィオラの爆破を、今度はレヴィアが水魔法で難なく消し去った。

 

 そしてレヴィアの目がふっと遠くなり虚空を見つめ──彼女の口は言葉を紡ぎ始める。

 

『今宵の月は(さび)しく汚辱に浸って、まるで死んだ女の様──』

 

 レヴィアが言葉を発し始めると同時に周りの空気が、魔力が淀み始める。

 

『あなたがこの狂った月が綺麗と言うなら、

きっと私は死んでもいい。

──愛しいあなた。その口に口づけしたい』

 

 これはヤバいと、危機を察知したヴィオラが『爆進』にて突撃し、レヴィアの詠唱を止めにかかるもそれは虚しくも受け止められてしまう。

 

「クソッ……! 離せッ!」

 

『その龍の住む暗い岩屋の様なその瞳で、

愚かな私だけを見つめて欲しい。

──あなたの口に口づけしたい』

 

 しかし、振りほどける筈のレヴィアの力は、打って変わって万力の様であり逃れることができない。──尚もレヴィアの詠唱は続く。

 

『あなたの毒蛇の様な紅い口で、

きっと私だけに語りかけて欲しい。

あぁ、あなた。愛しいあなた。

私はあなたのその口に口づけしたい』 

 

「これはッ……!!覚醒したかッ!! レヴィア!!」

 

 ゾーネンシュリームが歓喜の声を上げる。

 

『あなたのその口は苦い味がするのでしょうけど、

きっとそれは恋の味だから。

死告天使の羽ばたく音も、あなたの声で無明に消える。

死の秘密よりも大きいのが恋の秘密なのだから。

ならばそう、

人は恋だけを、一途に想っていればそれでいい──』

 

そう、彼女の内なる渇望は極限まで高まり、今まさに流出しようとしていた。──渇望拡大(シュタルクラスト)、その覚醒である。

 

『──具現(インカルノ)

 

 ──そして今、渇望が流出した。 

 

死蛇変生・月(フロル・トーテンタン)下狂愛舞踏(ツ・バジリスク)!!!!』




ここまでお読みくださりありがとうございます。



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