キングダム 回帰する者   作:李牧

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紫季歌、紫詠、凱孟の勧誘

 

凱孟。魏火龍七師の一角に座る後の魏国大将軍で、取った武将の首は百を超えると言われる剛将だ。数多の人の入り乱れる戦場において、一目で分かるほどの巨躯を持ち、分厚い筋肉で覆われた体は存在するだけで敵軍に恐怖心を与える。声も人並外れて大きく、さらには十四年間も投獄生活を送っていたにも関わらず、その武力や体格に衰えを見せないなど李牧をしてこいつの体どうなってんだ?と引くほどの天燐の体躯の持ち主である。もしも、投獄されていなかったら蒙武や汗明に並ぶほどの中華最強の武の達人になっていただろう。(ちなみに、ほうけん(バグ)は考えないものとする。)

 

そんな将来有望な凱孟も現在はまだ15歳。霊凰と同じく世間に名が轟いている訳ではない。しかし、既に怪童と恐れられる巨躯を持ち、天性の筋肉は暴れ牛を素手で絞め殺すほどである。四日前に行われた初めての戦場でもその膂力は遺憾なく発揮され、一兵卒ながら獅子奮迅の活躍を見せた。敵から奪った槍を振り回すだけでなく、騎兵の馬を奪い、その馬を投げ飛ばすなど、人間離れした怪力を見せ、敵だけでなく一部の仲間からも早くも畏怖と恐怖の対象となっている。もっとも、当の凱孟は気にした様子もなく、昼間っから居酒屋に入り浸り、戦場で稼いだ金で豪快に酒を仰ぐ。

 

「貴方が凱孟殿でよろしいですか?」

「ん?」

 

そんな時、自分の対面、誰も恐ろしくて近づかなかった席に恐らく年下だろう少年が腰を下ろし、あろうことか話し掛けてきた。

凱孟は無視してやろうかとも思ったが初酒で気分を良くしていたのと、目の前に座る少年から年齢不相応な貫禄を無意識に感じ取り、言葉遊びに付き合ってやろうかと気を変える。

 

「いかにも!俺が凱家の怪童、凱孟なり!そう言うお前は誰だ?」

「私は李牧と言うものです」

「して、何のために来た?他にも空いてる席があるのに俺の前に座ると言うからには何か話があったのだろう?」

「ええ、もちろん。単刀直入に言います。私の仲間になりませんか?」

「随分率直だな」

「遠回しな話し方は嫌いかと思いましたので簡潔に述べてみました」

「ガッハッハッ!よく分かっておる!物事単純なことが一番だ。もし宮廷の阿呆どものように回りくどい言い方をしてきたら即刻話を打ちきってやったところだ!ガッハッハッ!ガッハッハッハッ!」

 

凱孟の高笑いが響く。笑いで空気が振動するのは初めての経験だ。ほうけんなら出来そうな気もするがアイツは笑ってるところとか見たこと無いからな。そんなことを考えていると、凱孟がふと笑みを納め、見定めるような輝きを持った目で、李牧を見下ろす。

 

「それで、仲間とはどういうことだ?」

「まず一つ言っておきますが私はこの国の人間ではありませんし、どこかの国に所属しているわけでもありません」

「ほう。ではお前は何者だ?」

「今の私は諸国を回り、私の夢の手伝いをしてくれる有望な仲間を集める野心を持った収集家です」

「ほう、それで俺の噂を聞き此処まで来たと」

「いえ、此処に来たのは偶然ですが、貴方を一目見て、是非仲間にしたいと思ったゆえ声を掛けました」

「一目見て分かったと?」

「ええ、人を見る目はあると自負しています」

 

凱孟はちらりと李牧の後ろに控える者達を見る。彼は経験から人や物の価値を判断する力など持ち合わせていなかったが、天才故に同族を見分ける嗅覚のようなものを持っていた。その嗅覚が彼等を並みではない者達だと告げており、凱孟は李牧の言葉の正しさを静かに悟る。

 

「なるほど。お前の話は分かった。確かに興味はそそられる。それに、俺は魏国に拘りがあるわけでもない。だがなァ───

 

凱孟はドンッと椅子を倒しながら立ち上がる。

 

───この凱孟!弱い者の下にはなびかんぞ!もし俺を仲間に加えたいと言うならその器を見せるため!この凱孟と一騎討をしてみせィ!」

 

大の男すら腰を抜かしそうな凱孟の圧。それを受けて周囲で遠巻きに見ていた客達は蜂の子を散らすように悲鳴を上げて逃げ惑う。一方李牧の傘下の者達は流石に逃げこそしなかったが、肌のヒリつくような圧力に警戒を露にして、凱孟を睨む。少しでも変な真似をしたら何時でも李牧の前に飛び出せるように。この場に置いて唯一全く動じなかった李牧は手を上げることで部下達を抑え、自分は静かに立ち上がると、微風を受けながすような穏やかな態度で了承した。

 

「いいでしょう。では、一手手合わせ願いましょう」

 

 

一騎討が始まって直ぐに凱孟は李牧の強さを悟る。やる前からそこそこ強いことは分かっていたが、その評価を改めざる得ない。

 

(これはそこそこ所ではないな!)

 

自分の動きを見て、次の一手を予測するヨミの深さと正確さ。

豪腕を紙一重で避けつづける冷静さ。

ギリギリを踏み込み、死地と隣り合わせの活路を進む胆力。

 

凱孟は数打の交わりの後、手を止める。

 

「もう充分だ。お前の強さは良く分かった」

 

凱孟は李牧を見る。多少息を乱していたが、一騎討前と同じく、流水のような印象を受ける。

李牧の強さは凱孟の持つ剛の強さとは違う。幾百年の研鑽を経て辿り着く経験の結晶のようなものだ。

これが多くの実践を潜り抜けた老将ならば理解できるが、目の前にいるのは10かそこらの子供だ。

げに、おかしき。

しかし、それ以上に興味を惹き付けられるのは、李牧の双眼。強く、苛烈で、猛々しい絶対の意思を宿した碧い瞳だ。その先にあるだろう語られることのなかった野望に凱孟は強く興味を抱く。

 

「心!技!力!何れを取っても不足ない!見事だ!この凱孟!お前の仲間となり!お前の野望とやらに手をかす事を此処に誓おう!」

 

 

こうして、後に李牧七将の一人に数えられる猛将凱孟が仲間になるのだった。

 

 

 

紫詠の勧誘

 

紫詠。現紫伯の血の繋がらない息子で、紫伯が囲った女の連れ子。そのため、存在を疎まれ父紫伯の手で何度も激戦地送りにされる。しかし、その地獄を生き抜き、最強の槍術を身に付け、後に魏火龍七師の一角を任されるほどになる。しかし、大将軍の地位についても彼に愛国心や忠誠心、名誉欲、金欲などは芽生えず、ただただ義妹の紫季歌のみを心の拠り所とした。つまり、分かりきったことではあるが、紫詠を仲間に引き入れるには紫季歌を使しかない。問題はどうやって紫季歌を引き入れるかだが、その前に紫季歌について軽く触れておこう。

 

紫季歌とは。現紫伯の血の繋がらない娘で、紫伯が囲った女の連れ子である。そのため、幼少期から紫家でいじめを受けていたが後に魏国屈指の美女に成長する。(最も父である紫伯が紫季歌を愛することはついぞなかったが……)そんな境遇ゆえか似たような境遇の義理の兄紫詠と恋愛関係に落ちた。そして、紫詠同様相手さえいれば良いと考えるようになる。所謂深い共依存の関係だ。しかし、二人の幸せを許せなかった父の策略により紫季歌は太呂慈に娶られた挙げ句殺されるのだった。

 

紫季歌が太呂慈に殺されるまでの猶予は約15年。その騒乱を利用すれば恩を売りつつ仲間に引き入れることも簡単だろう。しかし、生憎そこまで待つほど気は長くない。したがって、今年この場で決めさせてもらおうと李牧は考える。

 

そのために李牧はまず金を用意して豪遊した。女を大量に集め、酒池肉林を築き、その噂を恣意的に歪めて伝聞した。女好きの金持ちとして。そもそも、そんな金何処から来たのかと最もな疑問を思う者もいるだろうが、李牧は結構の金持ちである。元々の家がそれなりの裕福な家庭だったこともあるが、それだけでなく、未来の知識を幾通りも持つ李牧には金を作ることなど造作もなかったからだ。

李牧はこの先の流行も、飢饉が起きるタイミングやお家騒動などどんな事件が何時何処で起きるか、全て知っている。更に言えば李牧ほどの頭を持てば賭博で確実に金を稼ぐことも出来る。金を持った盗賊などのアジトも知ってるし、そこを潰す手段もある。何より、この戦国の世では情報と武器が何よりも金になることを李牧は理解していた。

そして、それだけでなく、李牧は既に一人の大商人の後ろ楯を得ていた。この大商人と言うのは、未来の知識で知っている後に大成して大商人となる男の父の事で、李牧が元資金と知識を与え、手を貸して、歴史よりも早く大成させた者である。だから、後ろ楯と言っていいのか、部下と言っていいのか、あるいはパトロンと言うべきなのかは不明だが………。

何はともあれ現在李牧は金に困ることはなかった。

 

 

そして、李牧は今、紫伯領の商館にて、仮面の女好きの富豪の息子として豪遊している。

目の前には裸の美女がずらりと並び、美酒や高級肉がともされている。

現在この屋敷にいる李牧の仲間は李牧と他三人だけで、まだ年若い舜水樹と慶舎などはあまりにも教育上悪いと言うことで当然此処にはいない。彼等を含めた他の者達は別の役割を与えて、今は魏国東部のとある町にいる。

現在李牧と共に此処にいるのは、李牧に計画を聞かされている三人だ。一人は、これまでの旅で李牧のカリスマに当てられ、今や嘗ての舜水樹達の如く李牧のやることなら何でも正しいと信じる立派な李牧教の信者になってしまった霊凰の父、霊豪。

二人目はこれまた李牧教の信者である下素顔の上手い男。

三人目はまだ李牧教の信者にはなっていない武の達人凱孟だった。

 

「紫詠ってのはこれ程やるほどの男なのか?聞いたことがない名だが」

「俺の才能を見る目は確かだ。アイツはいずれ俺の野望を叶えるための力となる」

「その野望ってのを知りたいんだがな」

「まあ、いずれ話すよ」

 

凱孟との話を短く終え、李牧も凱孟も酒池肉林へと戻る。今の李牧達は金に物を言わせて美女と美食を貪る変態だ。その点から見て凱孟の野蛮さは実に良いキャラを立てている。この配役の為に配下にしたわけではないが、思った以上のフィット感だ。今の凱孟は何処からどう見ても、ろくでなしのボンボンの子供を金のために守る武力一辺倒の下衆な用心棒である。

一方李牧は顔が優男過ぎて今一迫力に欠けるので、仮面をつけ、その下の顔は二度見られぬほどの醜悪な物だと噂を流している。仮面の下は化粧をしているので、仮面が仮に取れたとしても直ぐに問題になることはないが、出来るだけ完璧を望んだ李牧は宴会初日にわざと仕込みの女に仮面を取らせて、その女を切って捨てて見せた。もちろん、李牧特性の血糊を使っただけなので、本当に死んだわけではないが、そう見えるように頑張った。

 

「貴様!よくも!」

 

先程まで賑わっていた宴会場が一瞬で静かになり、カラン、コロン、コロンと仮面が地面を転がる乾いた音だけが響く。誰も何も発しない。もし一言でも発すれば命がないと言うように。痛いほどの沈黙の中李牧は台本通りの言葉を発す。

 

地を這うような、怨嗟と劣等感に濁りきった声を出せたと思う。リアリティーを出すために血糊は本物の動物の血を使ったので迫力も満点だ。これ以上無いほどの成功を収めた。いや、成功を収めすぎた。

 

その結果、女達は李牧が近付いただけで顔を真っ青にさせ、ガクブルと震えるようになってしまった。それでも気にせず酒池肉林を楽しまなければならないのだが、何だが可愛そうになってきてやりにくいったらない。だれだよ?血糊を使うとか言いだした奴!……俺だった。

 

そ、そんな風にちょっとした予想外の事態はあったものの、李牧の目論見通り噂は紫伯にまで届き、さらに、紫季歌と紫詠を何とか不幸にしたい紫伯を諭し、娘の紫季歌を仮面の男の妻にする契約を結ぶことができ、紫季歌を無事手に入れることが出来た。

 

そうなってしまえば後は簡単で、紫季歌に事情を説明し、恐らく数日中に怒り狂って帰ってくるだろう紫詠の説得をしてもらう。この説得に失敗すると高い確率でやり直さなければならなくなるので注意だ。今迄の回帰で紫詠を勧誘したことはないが、こいつが紫季歌が絡むことで大変に短絡的になり、その上バトル漫画の主人公の如く理不尽なパワーアップをすることを李牧は知っている。

だが、幸い、今回は一発で成功を引き当て、紫詠と紫季歌を仲間に加えることが出来た。

 

これが、後に李牧七将に数えられる紫詠とその妻紫季歌と李牧との出会いであった。

 

 

さて、後の魏火龍七師の三人を手中に収めた李牧は、最早魏国にいる理由が無くなったため、次は馬車の足を韓国へと向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

初回の人生の魏火龍七師について……

昔、呉慶を除く魏火龍七師の六人が仲違いをしてしまい、真っ二つに割れて対立をした。当時の王にはそれを抑える力はなく、凱孟・霊凰・紫伯の三人が残り三人を殺す事態となる。(厳密には妹を殺された紫伯が怒り狂って一人で三人を殺した……)

 

しかし、理由はどうあれ身内討ち、それも大将軍の殺害を咎めないわけにはいかず、何より当時の王は火龍の恐ろしい同士討ちに恐怖を抱き、また、火龍の活躍を妬むものの諫言の後押しもあり、彼らを斬首させようとした。しかし、当時既に魏国第一将であった呉慶の説得により三人は「病死」ということにされ、十四年もの長い間、地下牢につながれることになる。こうして呉慶以外の火龍は、表舞台から姿を消し、秦の六将や趙の三大天ほど名が広がることはなかった。

 

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