キングダム 回帰する者   作:李牧

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行動指針

 

楚国は地方の公族が力を持った国であり、有力な公族が治める地域は、例え都から遠く離れていても首都さながらの賑わいを見せる。韓国国境近くのその街も有力な公族が治める大都市であり、街の中には大規模な風俗や、旅館、賭博場、商店などが立ち並び、昼間は端から端まで人で埋まるほどの賑わいを見せる。しかし、深夜も二時を回れば、昼間の賑わいが嘘のように街の様子は一変し、風が木の葉を揺らす音が聞こえるほど静寂が街全体を包んでいた。

 

それは李牧達一行が泊まっている大旅館も同じで、普段は煩い凱孟なども久しぶりに野宿ではなく、ベッドでの睡眠を甘受できたことにより、ぐっすりと深い眠りについている。ただ一人李牧だけは皆が寝静まった後も、窓から夜の景色を見上げ、何もない筈の虚空を見つめていた。いや、実際に何もないわけではない。確かにそこには翼の生えた麗しき裸体の少女がいる。ただ彼女の身に付ける天女の羽衣の隠蔽効果により李牧以外には見えないだけで。

 

「久しぶりだな。暇だから会いに来てやったぞ」

「ええ、そろそろ来る頃だと思っていましたよ」

 

唐突に姿を表し、唐突に挨拶をする少女にも

李牧は驚くことなく答える。最初の頃こそ随分と驚かされて醜態を晒すことも何度もだったが、唐突に裸の少女が目の前に出てくるこの状況にも、慣れてきてしまった。

 

「ところで、随分と仲間を増やしたみたいだが、楚国ではどうするつもりだ?」

「楚国は大国ですからね。優秀な武官や文官は腐るほどいます。(それら全てを回るのは距離的にも時間的にも無駄が多すぎます。)ですが、その中でも大国楚を支える大柱となりうる人材となればそれほど多くはありません。武官で言えば項燕、汗明、かりんの三人。文官で言うなら四人ですね」

 

李牧は地図を取り出し、それを開き、机上に広げる。

 

「まず私達が今いるのが韓国国境のこの街で、汗明もこの街にいます。そして、項燕がいるのがここで、かりんがここです。それに越国を辿るルートを考えると、こんな感じで楕円を描くように楚国を巡る予定です」

「ふーん、越にも行くの?あそこかなり小国だったと記憶してるのだけど?」

「ええ、越は小国ですが、関係を持っておけば楚国を滅ぼすとき役に立ちますからね」

「なるほどなのよ。でも、確かあの国は訛りが凄くて言葉の疎通が難しかったはずなのよ」

「それなら大丈夫です。この中華で使われる大抵の言語は体得していますから」

「相変わらずの化け物ぶりなのよ。もう私の手助けとか必要なさそうなのよ」

「そう言えば手助けしてくれるって話でしたね」

「必要そうには見えないけど」

「そうでもないですよ。汗明やかりんは兎も角、項燕は楚国の名家の男。正直どう勧誘するのか決めかねています。今のところ暗殺して消すのが最有力ですね」

「随分、物騒なのよ」

「私も出来れば暗殺など使いたくないので手を貸してほしいんですよ」

「手を貸すって言った手前無下にも出来ないのよ。でも、前にも言ったけど大したことは出来ないのよ」

 

クロムはそう言いつつ、手を空をなぞるように動かす。すると、空間がジッパーのように開き、そこからクロムは三つの品物を出した。一つは赤い玉、もう一つは青い玉、最後の一つは黄色い玉である。

 

「なんですか、それ?」

「この赤い玉は性別反転薬。24時間性別を変えることが出来る薬。ただし、1/2の確率で戻れなくなるから注意が必要なのよ。

こっち青い玉は忘却薬。物を忘れさせる薬。ただし、1/5の確率でパーになるから注意が必要なのよ。

この黄色い玉は惚れ薬。これを食べた者は、食べてから初めて見た相手に惚れる。ただし、1/10の確率で頭がはぜるから注意が必要なのよ」

「ろくなものがありませんね」

「一応3つあげるのよ。どう使うかは勝手にするといいのよ。水に入れると直ぐに溶けるのよ」

 

そう言うとクロムは消えてしまった。残された李牧は使えないこの薬をどう処分するか頭を悩ませるのだった。

 

(この薬玉どうしましょうか?赤い玉と黄色い玉は副作用が強すぎて使う気にはなれませんね。捨てましょう。青い玉はまだ副作用が軽いですが、使い道の方がなさそうです。一応、成恢にでも成分分析でもさせましょうか?)

 

と、その時、突風が起こり、くしゃみが出る。その反動で持っていた青い薬玉が手から放たれ、空を舞い、突然起こった突風に飛ばされて、ぽちゃりと、ある男が持っていた酒瓶の中に落ちる。突風に目をつぶっていた男は酔っていた事もあり、薬玉が混入した事に気付くこともなく、男は李牧が止める間もなく性別反転薬の溶けた酒をごくごくと飲んでしまったのだった。男の名は項燕。後に楚軍大将軍になるはずだった男である。

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