「さて、どうだ? これまでの話に聞き覚えは?」
「何もかも初めて聞く事ばかりです……すみません」
「そうか……まぁいい。何か思い出せたら教えてくれ」
「ありがとうございます」
なんだか、ものすごい話だったな……一企業が何年も鎖国だなんて尋常じゃないぞ。
統一政府が手を出せないカナイ区に探偵として向かうなんてとんでもない大仕事じゃないか。
あれ、でもこの状況は──
「あの……エイフェックスさんの探偵特殊能力って人間以外も分かるんですか?」
ボクが質問したのはエイフェックス=ローガンさん。
エイフェックスさんは『生命体探知』という、50メートル以内にいる生命体の有無と、その位置を知る事が出来る能力を持っている。
事前にこの能力を使って確かめてくれたのだが、この列車は全自動無人運転という事もあって、ボク達6人以外誰も乗っていないそうだ。
「あァ? 出来なきゃ生命体探知なんて名前をつける訳ねェだろ。そりゃ微生物やらノミみてェなもんまで反応しねェが、ゴキブリよりデカけりゃ楽勝だ。金持ち連中から害虫探知はよく依頼されるからな」
「……君は探偵特殊能力をそんな事に使っているのかい? もっと超探偵としての誇りを持ちたまえ」
「ケッ、いかにも金で苦しんだ事のないボンボンのセリフだなァ?」
このエイフェックスさんにボンボンと言われた男性は、ジルチ=アレクサンダーさん。
やっぱりこの列車には動物は乗っていないのか。
この大仕事で、探偵特殊能力には絶対に必要になる『動物』を連れて行かない事なんてあるのか? 持ち物検査があるような特別な駅には見えなかったけど……
そして能力が使えないというなら、イタコであるメラミさんもそうだ。
事前に亡くなった人が着ていた服を何着か用意出来ればそんな制限も……ってこれは飛躍し過ぎか。
ボクがイタコ能力を持っていたなら用意したいとは思うけど、倫理的に問題があるし、自己紹介で能力の全てを話したとも限らないよね。
でも自分達の強みである探偵特殊能力が使えないのに、2人のこの堂々とした態度。
自分達への絶対的な自信に寄るものなのかな。ボクだったら荷物の用意は……ボクだったら……?
ボクの持ち物はっ!? ……いやどう考えてもボクは、ずっと手ぶらだった……
せめてお金はっ──ない。携帯も身分証も──見当たらない。……極め付けに記憶が、ない……
さっきから幻聴まで聞こえて、持ち物は乗車券と世界探偵機構からの手紙だけ?
ふふっ、ボクはこの状態で黒い噂以外の情報が無いカナイ区に、超探偵として向かうのか。
たしかメラミさんが言うにはこの列車はカナイ区に着くまでドアも窓も開かない特別臨時便なんだよね。
──なんで呑気に推理に参加なんかしてるんだボクは!?
「……おい、何急に青くなって自分の体弄ってんだよ。財布でも落としたかァ?」
「い、いや、財布どころか……あ、あの! 何から何まで優しく教えてくれてありがとうございます。それで、あの、言いにくいんですけど、何とかこの列車から降りる方法はないでしょうか? 緊急停止ボタンのような……」
「はァ? テメェさっきから話が急過ぎんだろ!」
「それでしたら予備コントロール室で、管制室に繋がる非常用のインターホンをプッチーが確認しました。それで聞いてみてはどうでしょうか?」
教えてくれたのはプッチーさんという女性。
この人もとんでもない探偵特殊能力を持っているけど、今は深く考えてる余裕はない!
「──いや待て待て、何普通に答えてんだロリ女!
いくら俺らしか乗ってねェとはいえ列車を緊急停止なんて大事だぞ!? しかも停めたところで帰りの便なんかねェから徒歩で帰る事になんだぞ! 発車してから何十分経ったと思ってんだ!? 何が起これば降りようなんて思うんだァ!?」
「……ボ、ボク、乗車券と手紙と……今着てる制服以外の物を、何も持っていないんです……」
「……」
「ぁー……」
「……」
「何しに来たんだよオメェはァ!?」
「ごめんなさいぃ! 自分の身元を確かめなくちゃとしか考えられなかったんです!」
「……」
「──ハァー、聞くだけ聞いて来いよ……」
「は、はい! 皆さん勝手な事を言ってすみません! ありがとうございます!」
「……いやちょっと待ちたまえユーマ君。君も世界探偵機構から正式に辞令を受けたのだ。記憶を失ったとは言え仲間なんだ。向こうに着いてからのお金や生活の事くらい私がなんとかしようじゃないか」
「はァ? 無責任な事言ってんじゃねェよ! これから行くカナイ区がどんな所かも分からねェし、ニセモノの問題も解決してねェんだぞ!? 探偵特殊能力も覚えてないこんなジャリンコが───」
「坊や。ここはいいからもう行ってきていいわよ。停止出来るなら早い方がいいものね」
「予備コントロール室は3号車にありました」
「は、はい! 本当にすみません、ありがとうございます!」
……はぁー、乗車してからずっと、皆に迷惑を掛け続けて自己嫌悪が止まらないよ。さっきから幻聴もボクの情けなさを執拗に責めてくるし……くっ……何もそこまで言わなくても……!
幻聴による心ない罵倒を聞きながら3号車への扉を開ける。
よし、あった! 予備コントロール室! インターホンは、あ、これだな。お願いします!何とか降ろしてくれますように……!
「……」
「……」
……あれ? コール音どころかなんの音もしない。
「あの! すみません! もしもし!」
「……」
繋がってない……確かにボクの状況は非常時とは言えないかもしれないから断られる事はあっても、管制室に繋がりすらしない事なんてあるの? なんだろ……故障とか……?
他の機械類は──何の異常もなさそうだけど……
こうなったら携帯で……! って持ってないし、圏外なんだよ、そして助けを求める人なんて1人も覚えてないんだよ……!
……鎖国されているカナイ区からは外と連絡が取れないよう圏外になっている、なんて事はあり得そうな話ではあるけれど……路線図を見る限り、カナイ区まではまだ相当な距離がある。
この列車自体が電波対策をしている……? 何のために?
いや……こんな事考えていても仕方ない。ひとまずみんなの所に戻ろう。
だけど本当にどうしよう……ジルチさんは自分を頼ってくれていいと言ってくれたけど、エイフェックスさんが言ってる事の方が正しい気がする……
そうだよ、確かにニセモノの件が解決していないのに頼るのは間違っている。だってボクが誰よりもニセモノとして疑わしいんだから。
ボクだって『ボク記憶喪失なんですぅ』なんて突然知らない人が声を掛けてきたら当然疑う。
たとえニセモノの件が無かったとしても、間違いなく何かしらを疑う。
いや……なら考え方を変えよう。帰れない以上なんにも持っていないボクは、カナイ区であの人達を頼らなくちゃ生きていけないんだ。
それなら1番の問題であるニセモノ容疑だけは晴らさなくちゃいけない。そうだ、ニセモノを見つけなくちゃ! カナイ区に到着するまでに……!