「いいからとっとと座れや! 話が進まねェだろ!」
「痛ッ! もう、蹴らないで下さいよ……じゃあプッチーさんすみません、隣座りますね」
「はい。ありがとうございます」
「………」
「………」
「………」
な、なんで自分が座れって言ったのにプッチーさんが赤面してるんですか!? ああ、もうこれ、絶対ボクも赤面しちゃってる……
「ちょっとアナタさっきから乱暴過ぎるわよ。2人を見てみなさいよ。……微笑ましいわぁ」
「……ケッ、ガキンチョ共の青春劇なんて寒くて見てらんねェわ」
「君達静かにしたまえ。こういう時、大人は黙っているものだ」
あぁぁ、周りに好き勝手言われてる……! 小声で話していても、子供は大人達のそういう目線に敏感なんですよ!? そういうところをもっと───
「──! 反応出ました。用意してくれた、水以外の飲み物全てにです」
「!?」
「はァ!?」
「本当にっ!? えっ? じゃあ睡眠薬?」
「はい。巷でMRDと呼ばれている睡眠薬です。即効性があり、数分で耐える事の出来ない眠気に襲われます。──ここまで睡眠薬の反応が出ているとなると……少なくとも2時間は、何が起こっても意識は戻らないかと思われます。摂取した前後の記憶も曖昧になるかもしれません」
「……」
「……おい、本当なのかよ……」
「……いえ、ちょっと待って! MRDって過去に世界中の性犯罪なんかに利用されていた睡眠薬よね? 今じゃそんなものを飲み物に入れたりしたら真っ青になるはずよ? 悪用される恐れのある薬に、色素を混入しないのは重罪だもの」
「──そうですね。色素の入っていないMRDなんて、今ではまず手に入りません」
「………」
「………」
「え? でも、それなのに大量のお酒に入れる程の量を用意出来たって事ですよね……?」
「……用意するとなりゃ、少なくとも相当デケェ権力の伝手が必要って訳だな?」
「プッチーはそう思います。今の製薬会社はかなり厳しい監査が入りますので」
「──強大な権力……アマテラス社は確か、薬品開発も行っているという話でしたよね?」
「……いや待ちたまえ。推理の流れは分かるが、みな短絡的過ぎるのではないか? そもそもその試薬は本物なのか? ……こんな事を言いたくはないが、もしこれがプッチー君のミスリードだとしたら、ここでこの謎は迷宮入りになってしまうぞ?」
「言うと思ったぜ……」
「でも、最初に飲み物を疑ったのはボクなんです。それも、本当に飲むギリギリで……プッチーさんはそんなボクに協力してくれただけだから、ミスリードしようとしていたとは思えないです」
「……では、ユーマ君が飲み物を疑ったからこそ、私達をミスリードさせる作戦に切り替えた可能性──
「あーあー、うるせェなァ。──ガキンチョ共はしっかり根拠も結果も出したぜ? なのにまだ根拠もなく、ただ可能性だなんだのと突拍子もない推理かますのはナシだ。──とは言ってもテメェの推理に根拠を作るのは簡単だァ。
──飲め。毒までは入ってねェよ、多分な」
「ぐぅっ……!」
「──ではそろそろ推理を進めても宜しいでしょうか?」
「そうね。先ずは──この列車に最初に乗った、ワタシ達の誰かなら睡眠薬を入れる機会があったって話から始める?」
「……うーん。この件にアマテラス社が絡んでるのはもうほぼ間違いないですよね? だとしたら睡眠薬を仕込める人がこの中にいたとしても、そこから犯人は特定出来ないんじゃないですかね」
「ま、アマテラスって容疑者がいる以上そうなるな。それにこの量の酒全部に仕込むのが当日ってのも考え難い」
「では、次は───
「……いや、スマンが少し待ってくれんか」
「あ? どうしたじいさん、急に」
「今までは、"6人目の招かれざる客"が、能力を持った超探偵の裏切り者という可能性も低くはなかった。──だが、こうしてアマテラス社が疑わしいとなった以上、不本意ながら本官も探偵特殊能力を見せておこうと思ってな」
ザンゲさんの探偵特殊能力……確か念写だったな。ザンゲさんが見たものを映像として電子媒体に写す。というものだったな。電子媒体というのは、あ、今ザンゲさんがボク達がいる机に置いたスマホの事か。
「なんだそれ? じいさんのケータイか?」
「……黙ってな」
「……ふんっ」
──!! 来た……! ザンゲさんが探偵特殊能力を使っているのを感じる! ……そうだよ、さっきはこの感覚の時にプッチーさんの能力の1部を感じ取れていたんだ!
だからもしかしたらこの感覚中なら他の人の能力も使えるんじゃないかって発想が出来たはずだったのに、どうしてボクは考えるのをやめていたんだ!?
いや後悔している場合じゃない! ボクもスマホを……って持っていないんだよ。メラミさんが持ってるのは!? 見当たらない! じゃあ目の前のザンゲさんのだ!
念写するもの……ボクが今日見たものの中で印象に残ってるものなら何でもいい! 念写出来ていてくれっ!
「さっきも説明したが……本官の能力は"念写"だ。本官が見聞きした情報を記憶から引っ張り出し、静止画ではなく映像として電子媒体に念写……記録する。記録されるのは、およそ5分前の出来事。まぁ、実際に見てもらった方が早か……っ!!」
「あ? なんだよ。って、そこに写ってるのって……あぁ!?」
「……え?」
「……は?」
ん? あれって……メラミさんの胸の写真!? ……え? じゃあこの人は推理を中断させてまで突然セクハラに走ったって事!?
……許せない、あんなに優しいメラミさんを唐突に辱めようだなんて! ザンゲさんもあんなに格好いいセリフを吐いていたのに中身はこんなに助平な……あんなに……格好……いい……
っく! 笑うなボクっ! メラミさんは傷付いているかもしれないんだぞ!?
「……おい、エロジジィ」
「ま、待て! これは何かの間違いだ!!」
「……間違いも何も。これはどう見てもワタシの胸の写真よ? 口元のホクロも髪も写っているし…」
「だから! ……もしかしたらここにいる他の奴の能力で……」
「……ザンゲさん、これはもう、言い逃れは出来ないと思います」
「……ふむ、ご老人、これは本当に"念写"なのか? この端末で盗撮していただけ、そう見えなくもないが?」
「……これは、本官の念写ではない……本官の念写であれば、背景までしっかり写っている筈だ。こんな不完全なものは違う……」
「いや、すげェ食い下がるじゃねェか……こんな事を推理してる場合じゃねェからもう放っておくぞ?」
ん? 不完全な映像……? 何か引っかかるな。それにあの写真、そういえば、どこかで見たような……
……あれ、ボクの記憶じゃないか……?? さっき、焦って何でもいいからとザンゲさんの携帯に念写しようと挑戦した時に……ボクがメラミさんの胸を見ていたのはちょうど5分前くらいだった筈だし、時間も合ってる……
……謝ろう。ボクがザンゲさんの能力を使って念写してしまったと……
「ち、違う……本官では、くぅっ……!」
……待てよ、ボクが他人の能力を使った……? これってニセモノを見つけるのに物凄く役に立つんじゃないか……?
そうだよ、例えばプッチーさんの心音を聞き分ける能力だけでニセモノを暴いても、嘘だ嘘じゃないの平行線になる。そこにボクが証人として登場出来れば……!
「く、くぅぅう……」
そうだ! 罪悪感に負けている場合じゃない! 無理矢理にでも前向きに行こう! ……あ、エイフェックスさんが笑いを堪えてる。
ザンゲさんの格好いいセリフの数々を思い出しちゃったのかも……うんうん、今ザンゲさんが耳まで赤くして呻いているのも、格好いいセリフを連発したザンゲさんにも責任はある!
でも、心配しないで下さいザンゲさん。アナタの犠牲は……ボクが絶対に無駄にはしませんからっ!