【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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せんせとの再会

静まり返った病室で一人寂しくB小町chの動画を見る。

 

『今日もルビーちゃんはお休みです。』

『でも心配無用よ。私達二人でもやれるってところを見せちゃうんだから!』

『よぉし、その意気だよぉ! ルビーちゃん見ててねぇ! それじゃあ今日の企画は………』

 

「あはは、面白いなぁ………」

 

心に大きなしこりを残したまま無理やり笑おうとしてみるが、やっぱり駄目だ。アクアの後ろ姿がちらついてしまう。昨日の面会からずっとこんな調子。ずっと楽しくなくて、盲腸は良くなってるのにお腹のあたりが重たい感じがする。

 

弟を傷つけておきながら自分だけ動画を見て楽しい気持ちになろうなんて駄目だ。アクアはもっと辛いんだから。

 

そんな自罰的な思考に陥ってもう丸1日以上が経つ。病院という場所もあって、先輩やMEMちょと電話でしゃべりするわけにも行かない。お腹を壊しているからやけ食いなんてもっての他だ。ただじっと時間が過ぎるのを待つしかない。

 

色々と暇をつぶす方法を考えてみたけど、中でも一番マシなのはメッセージのやり取りだった。

 

『ルビーちゃんお腹どう? こっちは今日もかなちゃんと動画とったよ。昨日撮ったやつはもうアップされてるから良かったら見てね!』

『見たよ! とっても面白かった。早くお家に戻りたいなぁ。』

『そうだねぇ。ルビーちゃん復帰企画も色々考えてるから、その時が分かったら早めに教えてね。』

『うん分かった!』

 

『今日も学校で妹扱いされたわ。いい加減にして欲しいわよ。まったく。』

『先輩が可愛いから仕方がないね。』

『9割くらいあんたのせいでしょうが! 責任取りなさいよ!』

『じゃあ退院したら思いっきりぎゅーってしてあげるね。』

『逆効果よ!』

『じゃあやめとこうか……』

『そうは言ってない。』

 

メッセージはすぐに返ってくる。

 

MEMちょは仕事人だから常に臨戦態勢。プライベートでも仕事のでも、連絡に対するレスポンスは早い。だからこそ連絡が来ないと不安になるんだけどね。

 

先輩は家で独りぼっちだから電話もメッセージも凄く喜んでくれる。これは想像だけど、家の中でもスマホは肌身離さず持ってるに違いない。トイレでもお風呂でもお構いなしに。実際、電話を掛けたらお風呂だったというのはよくあることだ。

 

そしてアクアも、いつもならすぐにメッセージを返してくれる。何かあれば真っ先に私に電話してくる。ずっと側にいるか、そうでなければ何かある度に連絡を取り合っていた。いつだって私とアクアは繋がっていた。

 

昨日、アクアにあの一言を言うまでは。

 

『ごめんねアクア。お姉ちゃん怒ってないからね。』

『もうお腹は痛くないよ。そろそろ退院だね!』

『学校はどう? 皆と仲良くやれてる?』

『夜の病院って静かなんだよねー。』

 

何を送っても返信は無く、画面の右側だけにメッセージが溜まっていった。メッセージアプリを開いてこんなに空しい気持ちになるのは初めてだった。

 

もう一度アクアとのトーク画面を開いてみる。

 

通知が無いから分かってたことだけど、前回メッセージを送ったときから何も変わってない。私から一方的に送り付けた言葉がずらりと並ぶだけ。

 

アクアは心を閉ざしてしまったんだ。もう病室にいる私から出来る事なんて何もない。そんな気持ちになり、スマホの画面を消そうとした。

 

その時だった。

 

「あ、通知。………アクアからだ!」

 

待ちに待ったアクアからの言葉。たった1日間が空いただけだというのに、トーク画面を開く指が緊張で震えている。果たしてそこに書いてあったのは。

 

『お姉ちゃん。今まで連絡返さなくてごめん。明日お見舞いに行くよ。』

『分かった。待ってる。』

『でさ、ちょっとお願いがあるんだ。』

『なに?』

『俺は明日も多分雨宮さんになると思う。そしたら、彼の気が済むまで話を聞いてあげて欲しいんだ。』

『良いけど、どうして?』

『昨日の事をずっと考えてたんだけど、雨宮さんの心残りを解消してあげれば勝手に人格が入れ替わることも無くなると思うんだよ。そしたら俺も心置きなくお見舞いに行けるだろ? きっと雨宮さんは何か思い残したことがあるんだ。お姉ちゃんがそれを聞き出してくれ。』

『分かった。やってみるね。』

 

アクアはずっと考えてくれてたんだ。私に会いに来るために。心を閉ざしたわけじゃなかった。

 

そうだよね。私たちの絆がこんなことで無くなるわけが無いんだ。私の心が弱いせいでアクアの事を疑ってしまったけど、アクアは私の事を思って解決方法まで考えてくれた。やっぱりアクアはアクアなんだ。

 

「ありがとうアクア。お姉ちゃん頑張る。」

 

何をやっても晴れなかった気分が、一気に明るくなっていく。じっとりと冷たい雨を降らせる灰色の空が割れて、日の光が射しむみたいに。凄くいい気分だ。ちょっと目を凝らせば虹も見えるかも………なんて。

 

落ち込む原因がアクアなら、元に戻るきっかけもアクアって事だ。単純なものだね。

 

・・・

 

アクアは昼過ぎの面会時間の開始直後に来るという。仮病を使って学校を休んだらしい。

 

いつもだったら「コラッ」って言って叱るところだけど、今日は許そう。どうせ叱ったところで相手はせんせだしね。

 

そして待望の瞬間が訪れる。

 

「来たぞ。今日は調子良さそうだな、お姉ちゃん。いや、今はさりなちゃんか?」

「せんせ?」

「ああ、僕だ。雨宮吾郎……だった男だよ。今は星野アクアとして生きてるけど。」

 

歩き方も、話し方も、身振り手振りも、何もかもがせんせだった。見た目だけはアクアなのに、アクアじゃない。

 

でも私は知っている。アクアが居なくなったわけではないことを。アクアはちゃんとアクアの中に居る。その時が来ればちゃんと戻ってきて私の前に出て来てくれる。それが分かっているから私はせんせとお話しすることに何の憂いも無い。

 

私はいつの間にかさりなになっていた。病院のベッドに寝ていて、隣にはせんせが居る。私の手元のタブレットではママのライブの映像が流れていて、何もかもがあの頃と同じ。

 

「せんせ、私だよ。さりなだよ。分かる?」

「ああ。ああ。分かるよさりなちゃん。」

「………っ!! せんせー!」

「おおっ、こらこら暴れるな。病院だぞ。」

「だって……だって……!」

 

言葉に出来ない。気持ちがぐちゃぐちゃになって、話そうとしても涙と泣き声ばかりが出てくる。

 

でもしかたないよね。だって16年分の気持ちだよ? 16年しか生きてないのに、16年分なんだよ? 私の人生の全部の時間を使ってせんせのことを思ってたんだから。

 

……もちろんアクアとは別にね?

 

「さりなちゃん、元気になったじゃないか。やっと病院から出られたんだな。」

「うん! うん! 出れたの! 病院の外に出れた! しかもママがアイで、弟がアクアで、すっごく可愛くて!」

「待て待て。そんないっぺんに言われたって分からないよ。まぁ全部知ってるんだけど。」

 

嬉しすぎて暴走してしまう私に対しせんせはちょっと呆れつつも優しく受け止めてくれる。せんせがここに居るという安心感は絶大で、あっという間に落ち着きを取り戻すことが出来た。

 

ちょっと恥ずかしいところを見せたけど、せんせなら問題ないよね。

 

「せんせも一緒だったんでしょ? 赤ちゃんの時のアクアはせんせだったんだよね?」

「ああ。よく覚えてるぞ。『俺の方がお兄ちゃんぽく無いか?』とか言ったんだよな。」

「言ってた言ってた。今となっては考えられないけどね。」

「僕からすれば今でもちょっと違和感あるけど。」

「だーめ。そこは譲れないんだから!」

 

アクアなら絶対に言わない言葉だ。私がお姉ちゃんであることに違和感があるなんて微塵も思ってないだろう。生まれた瞬間からずっとお姉ちゃんとして接して来たからね。

 

傍にいるのが当たり前。アクアにとってはお姉ちゃんが私で私がお姉ちゃんだ。

 

もう少し赤ちゃんアクアの思い出に浸っていたいところだけど、そろそろ本題に入ろう。

 

アクアがせんせに乗っ取られてしまう現象をどうにかしなければいけない。私としてはせんせにあえて嬉しいけど、アクアからすればいきなり前世の人間と精神がぐちゃぐちゃに混ざって戸惑いや不安を感じているはず。

 

私の「アクアを返して」という言葉に強く反応したのもそう言った不安感が初めからあっての事かも知れない。

 

まずはアクアの心を安定させることが大事だ。そのためにはせんせの思い残したことを解決してあげないといけない。アクアが言うようにまずはせんせにそれを聞いて、気が済むまで話を聞いてスッキリしてもらえばいい。

 

これで念願のアクアとの再会が果たされるんだ。

 

「ねぇせんせ。アクアが言ってたんだけど、せんせは私の事が気になるから無理やり出てきちゃったんだよね?」

「多分だけどな。成仏できない幽霊みたいなものか? アクアは心に溜まってる気持ちを全部吐き出せば良いって言ってたけど。」

「うん言ってた。それって何なの?」

「………さぁ? 僕としてはさりなちゃんが元気にアイドルやってるだけで十分なはずなんだけど。」

「でも戻ってない。」

「だな。」

 

え、分からないの? 話が違うんだけど?

 

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