お姉ちゃんが退院し、復帰の動画を撮影した翌日。
今日から学校にも復帰し、久しぶりにお姉ちゃんと二人で学校の教室に入る。一人での登校は本当に心細かったから、お姉ちゃんが隣に居ることの幸せをここでも実感する。
(お姉ちゃんだ………)
(アクア君嬉しそう)
(末っ子先輩も喜ぶね)
そして、お姉ちゃんの凄さも実感する。ただ登場するだけで教室がざわつき始め、教室中の視線がお姉ちゃんと俺に突き刺さっている。
陽東高校名物ブラコンお姉ちゃんが実に一週間も学校を休んでいたとあって、結構な騒ぎと言うか非日常な雰囲気となっていたのだ。物足りない、刺激が足りないと呟くクラスメイトも多く、ようやく戻って来たお姉ちゃんを見てテンションが上がっているらしい。
そんな中をお姉ちゃんは動じることなく席へと向かう。お姉ちゃんにとってはいつもの光景だから、慣れたものだ。
「相変わらずだな、お姉ちゃん。」
「うわー、皆アクアの事見てる。やっぱりアクアは可愛いもんねぇ。」
「いやお姉ちゃんだろ。」
「何言ってるの。皆アクアの可愛さに目が離せなくなってるんだよ。」
全くこのお姉ちゃんは………。
と思ったものの、よくよく教室を見渡してみると確かに俺の方を見ている人が多くいることに気付く。これは好奇の視線だろうか? 一部の女子からは可愛い弟を愛でるような視線も感じる。元々有名人ではあるが今日はいつもより注目度が高い。
何故だろう? 俺は普通に登校していたしこれと言ったイベントも起こしていない筈だ。
退院して久しぶりに登校してきたのはお姉ちゃんだというのに、何故か俺が注目されるという謎の現象が発生している。一体これは何なんだ? 非常に気になる。
そのまま1限目、2限目、3限目と、周囲を観察しつつ退屈な時間をやり過ごすが、やはりお姉ちゃんではなく俺が注目を集めているようだ。
結局、昼休みになるまでその理由は全く分からず悶々としたまま授業を受けることになったのだった。
謎が解けたのは、昼休みの事だ。
いつものようにテーブルを合わせ、今日は不知火フリルも含めた4人での昼食だ。後ろの方の席で教室の中心に背を向ける形で座っている為分からないが、恐らくいつも通り強烈な視線を浴びていることだろう。
「ルビーちゃん、退院おめでとうなぁ。」
「みなみちゃんもお見舞いありがとね。凄い嬉しかったよ! あとフリルちゃんも!」
「どういたしまして。」
「いやー持つべきものは友達だね!」
仲良く退院トークに花を咲かせる美少女3人を眺めつつ無言で飯を食う俺。
女子3人に対し男子1人といういつものグループなのだが、この面子で話が盛り上がるとしばしば俺は蚊帳の外となりスマホを弄るだけの置物と化すことがあるのだ。今日も例によってお姉ちゃんの退院おめでとうの話で持ちきりであり、俺の出る幕は無さそうだ。
手持ち無沙汰になった俺はスマホで適当に動画でも見ようとユーチューブを開く。すると画面には通知のマークがあり、今日のB小町の動画がアップされていることに気付いた。
「お姉ちゃん復帰の動画、早速アップされてるじゃん。仕事早いな。」
心の声が独り言となって漏れる。当然クラス中の注目を浴びたままだ。
何気なく放ったこの一言がきっかけとなり、教室が静まり返った。どういう事だろうと教室を見渡してみれば、クラスメイトが一斉にスマホを取り出して動画を再生し始めている。
もちろん皆が見ているのはB小町chだ。
恐るべきはお姉ちゃんの影響力だが、忘れてはいけないのはお姉ちゃんの復帰により何故か俺がクラスメイトの注目を集めている件。一通り動画の視聴が終わり、友人たちと感想を言い合って盛り上がってくるタイミングでその答えが判明した。
いつものようにひそひそ話が聞こえてくる。
(末っ子先輩めっちゃ泣いてる! 可愛い!)
(アクアも泣いたんだろうな)
(そういえば弟も末っ子だもんね。絶対家で泣いてよしよししてもらってるよ。)
理由がやっと分かった。有馬が末っ子として人気を集めれば、同じく末っ子でありお姉ちゃんの弟である俺にも注目が集まるわけだ。末っ子先輩があんなに泣くなら、弟のアクアはどうなんだ? そう思うのも無理はない。
最初に食いついてきたのは不知火フリルだ。鼻息を荒くして早口でまくし立ててくる。
「で、どうなのアクアさん。泣いたの? 子供みたいにわんわん泣いてお姉ちゃんに優しく抱きしめてもらったの? 末っ子先輩もびっくりの弟っぷりを発揮したの?」
「黙秘する。てか顔が近い!」
「つれないなぁ。」
これだけの美人かつ知らない人の居ない程のトップタレントに至近距離で見つめられるとさすがに動揺してしまう。質問の仕方も卑怯だ。ここではいと応えれば子供みたいにわんわん泣いたことを認めることになるじゃないか。
ここは黙秘一択。俺にも一応プライドはあるからな。なんとしてでも隠し通す覚悟だ。
しかし、ここにはお姉ちゃんも居ることを忘れてはいけない。
「フリルちゃん分かってるね! アクアったら家に帰って一緒に部屋に入った途端急に抱き着いて来て離れなかったんだよ? それで先輩にも負けないくらい思いっきり泣いたの。」
「お姉ちゃん!」
「最高ね。その後は?」
「もちろん一緒に寝てあげたよ?」
「……!! ルビーさん。本当にありがとう。」
「どういたしまして?」
こうなることは分かってたよ! お姉ちゃんの口に戸は立てられないからな! くそっ、フリルの奴満足気な顔しやがって。
一方で寿さんは俺に柔和な微笑みを向けている。これは多分アレだな。こんな可愛い弟が居たらなんたらかんたらという、庇護欲のような感情を刺激されてしまっているやつだ。
もう大人の男としてのプライドなどあったものではない。
「アクアさん、よかったなぁ。お姉ちゃんが戻ってきてくれて。」
「いや、まぁそうなんだけど。こうまで明け透けに話されると恥ずかしいんだが。」
「ええんやない? 今更やろうし。クラスの皆も楽しみにしてたんとちゃう?」
「そうなんだよなぁ………」
つまりはこういう事なのだ。皆が俺達姉弟の話を楽しみにしている。
俺とお姉ちゃんの姉弟関係はB小町chに負けず劣らず陽東高校の人気コンテンツであり、お姉ちゃんの復帰に際し俺がどのような反応を見せるかに注目が集まっていたのだ。そして完璧なタイミングでお姉ちゃんがそれを暴露してみせた。
その結果俺のプライドがズタズタに破壊されたという訳だ。相変わらずお姉ちゃんが居ると話題には事欠かない。
その日公開された復帰動画に俺とお姉ちゃんの添い寝の件が合わさり、またしても陽東高校の話題を独占することとなった。最近ではお姉ちゃんだけでなく有馬も話題に上ることが多かったが、もしかしなくてもこれからは俺も弄られる対象になるのだろう。
例のごとく噂が流れる。
『ブラコンお姉ちゃん復活』
『星野アクア一週間ぶりのお姉ちゃん添い寝で満喫』
『こっちの末っ子も可愛い』
ちなみに有馬からは昼休みが終わらないうちに電話がかかってきて
「アクア、笑えばいいのか同情すれば良いのか分からないけど、なんというかご愁傷様ね。」
「もうそっちにも噂が流れてるのか。早いな。」
「いつもの事よ。こっちも今大変なんだから。……ちょっと電話中なんだからあっち行っててよ! ………ごめんなさい、ちょっと邪魔が入ったわ。」
「そっちは物理的に可愛がられてるのか。俺の方がまだましかな。」
「何かされそうになっても簡単に許しちゃダメよ。どんどんエスカレートしていくから。」
「肝に銘じておく。ありがとうな。」
「末っ子どうし頑張りましょうね。アクア。」
「ああ。」
謎の連帯感が生まれる俺と有馬なのだった。やはり同じお姉ちゃんを持つ者同士、通じ合うものがあるのかもしれないな。
まぁ、お姉ちゃんの一番は俺な訳だが。
これにて入院編もお終いです。
ゴローの乗っ取り問題は解決し、MEMちょの働きすぎ問題が顕在化しました。ついでにミヤコさんも原作通り精神的にお辛い状況です。
次の目標はそのあたりを絡めつつ壱護を復活させることですかね。