【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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アクアを愛でる会

私の名前は黒川あかね。高校生でありながら劇団と芸能事務所に所属する女優だ。

 

小学生の頃に劇団ララライに入団し、年上の役者達にもまれながらも必死に食らいつき、彼らと切磋琢磨して来た。独自に学んだプロファイリングを武器に、弱冠17歳ながら劇団ララライの若きエースと呼ばれるほどの演技力を身に着けている。

 

5歳の頃には既に演技の世界に足を踏み入れていた。かつて一世を風靡した天才子役、有馬かなの笑顔を一目見てから彼女の虜となり、親の勧めで劇団に所属したのだ。

 

幼少期から演技一筋。演劇や役作りの事なら同年代の誰よりも詳しい自信があるし、情熱だって人一倍ある。演技の天才であるかなちゃんに追いつきたい一心でひたすら努力を積み重ね、ついに私も彼女と同じく天才の評価を手にするに至った。

 

そう、私は根っからの女優。演技を愛し、演技に生きる女。これからもそのあり方は変わらないだろう。

 

アクア君と違って。

 

ベッドにうつ伏せに寝そべり、肘をついて枕にスマホを立てかける。小さな画面に映るのは、本人の意思とは裏腹に順調に仕事を増やしてきている()()()()()()()のアクア君。

 

寝る前の通話タイム。今日はアクア君は自室にいるようで、ルビーちゃんは不在だ。一対一の通話なのだからそれが普通なのだけど、この姉弟に限っては常識など意味をなさない。二人で一つと言わんばかりに常に行動を共にしている。

 

ここ最近は夜な夜な彼の愚痴を聞く機会が増えていた。

 

「あかねは良いよな、映画の主演が決まってこれから撮影だろ? 俺なんてネット局の良く分からんバラエティ番組でひたすら毒を吐きまくる謎のイケメン枠に収まっちまったぞ。」

「いいじゃん、アクア君のトーク凄く上手だよ。毒舌なのに嫌われないってすごいことだと思う。」

「なんだかなぁ。」

 

彼は鏑木さんの口車に乗せられて『深掘れ☆ワンチャン!!』というネット番組に出演したところ人気を集め、いつの間にかレギュラーの座を獲得していたという。

 

毒舌クールキャラがウケ、彼が出る回は必ずと言って良い程盛り上がる。私は凄いことだと思うけどね。

 

でもアクア君は納得していないようで、その頃からタレントとしてのキャリア形成について相談されることが増えた。彼はなんでも出来る器用さ故に仕事を獲得しやすいのだけど、やりたい仕事に中々ありつけないといつも嘆いている。

 

「俺も早くあかねみたいに自分のやりたい仕事に打ち込みたいもんだ。」

「まぁまぁ、気長に行くしかないよ。売れて来れば仕事も選べるようになるかもしれないし。」

「いや、イメージを大事にしたいから何でもやるわけには………」

「じゃあララライに入れば? アクア君なら演技の仕事には困らないと思うけど。」

「あそこは嫌いだ。軍隊みたいじゃんか。俺はもっと自由にやりたいんだよ。」

「アクア君って意外とわがままだよね。」

 

誰に似たのか知らないけど、わがままで理想が高くて本物志向なアクア君。

 

これは苦労するだろうなぁ。

 

・・・

 

マスクよし、サングラスよし。帽子よし。

 

鏡に映る自分の姿を確認し、キチンと変装できているかを確認する。顔は出ていないし私やアクア君を連想させるようなグッズも身に着けていない。これなら街中を歩いても私だとバレる心配はないだろう。

 

「時間だね。」

 

スマホで時間を確認し、送られてきたメッセージに記された場所へと向かう。

 

大事な話があるから個室で直接会って話したいとの事らしい。出来るだけ人目を避けて歩き、目的の場所へと到着。受付で彼女の名前を出し、部屋の番号を言い渡される。防音仕様の重い扉を開ければそこには私を呼びだした張本人。

 

………とその友達が仲良くカラオケに興じていた。

 

大事な話とは一体。どう見ても友達とカラオケボックスに遊びに来たJKのグループである。しかもめちゃくちゃ楽しそうだ。

 

メンバーも良く分からない。私を呼びだしたルビーちゃんが居るのは良いとして、その隣には桃色の髪の女の子が座っており、さらにその隣では黒髪の女の子が物凄い歌唱力で流行りのアニソンを熱唱している。

 

驚いたことに彼女は不知火フリルだ。私の目に間違いがなければ。

 

とりあえず訳を聞くことにする。

 

「ルビーちゃん! これどういう事!?」

「何!? 聞こえない!」

「大事な話があるんじゃなかったの!?」

「何て!?」

「何で私は呼ばれたの!?」

「聞こえない!!!」

 

うるさい!! なんで歌うのをやめないの!?

 

不知火フリルの歌声が部屋の中に響いてマイクなしの声では会話がままならないので、とりあえず気持ちよく歌う不知火フリルからマイクをひったくり強制的に歌うのを辞めさせる。

 

そして奪ったマイクに向かって一言。

 

「これは何なの!? 説明しなさい!」

 

演劇で鍛えた声量にマイクの増幅が合わさりとんでもない音量となって部屋に響き渡る。さすがのルビーちゃんやそのお友達もこれには面食らったようで、ひとまず落ち着いて話が出来る環境が整った。

 

私の問いにルビーちゃんが答える。私につられたのか物凄い大声で。

 

「見ての通り! カラオケだよ!」

「そういう意味じゃない!」

「じゃあどういう意味!?」

「大事な話があるんでしょ!?」

「それもあるね!」

 

ツッコミは入らない。桃色の髪の子も不知火フリルも楽しそうに私とルビーちゃんのコントのようなやり取りを眺めるだけだ。

 

このままでは埒が明かないので一旦仕切り直し。マイクのスイッチを切り、とりあえず私以外の3人には並んで座ってもらう。部屋の中央に仁王立ちで彼女たちを見下ろしながら、改めて訳を聞くことに。

 

「ねぇルビーちゃん。私は今日なんで呼ばれたのかな?」

「メッセージアプリに書いたでしょ? 大事な話があるって。」

「とてもそうは見えないんだけど。」

「それはそうかも。でも大事な話って言うのは本当だよ。だってアクアについての事だもん。少し前からこの3人で色々話し合ってたんだけど、やっぱり彼女のあかねちゃん抜きで話すのも変かなって思って。」

 

アクア君の名前が出るだけで私の中でこの集まりの重要度が跳ね上がる。彼女である私に先んじてアクア君についての大事な話をしている人間がルビーちゃん以外に2人も居たことに驚きを隠せなかった。

 

一体どういう関係? ただの友達? それとも仕事関係? だったら良いのだけど。

 

揃いも揃って途轍もない美人だ。もしかしたらもしかするかもしれない。まさか男女の関係にあるなんてことは………無いと思いたい。

 

とにかく今はルビーちゃんの話を聞こう。推測だけで疑うべきじゃない。

 

「で、話って何なの?」

「うん。今日あかねちゃんを呼んだのはね………とある目的を持った集まりにあかねちゃんを招待するためなの。ここに集まった3人がそのメンバーで、あかねちゃんは4人目になる。」

「その集まりって言うのは……?」

 

「アクアを愛でる会だよ。」

 

「へぇ、アクアを愛でる会。………アクアを愛でる会ぃ!?

 

衝撃は3秒遅れでやって来た。

 

つまりはここに集まった女子3人はアクア君を愛でることを目的にアクアを愛でる会なるものを作り、私をそのメンバーに迎え入れようとしているらしい。

 

全く意味不明な会だ。発案は恐らくルビーちゃんだろう。

 

「うんそうだよ。フリルちゃんが考えたの。」

「へぇ、不知火フリルが………不知火フリルがぁ!?」

 

2度目の衝撃。アクアを愛でる会と言う会が存在すること自体が衝撃だというのにその発案があの不知火フリルだという。驚くなと言う方が無理だ。

 

そんな私の心境を察したのか、不知火フリルがフォローを入れる。

 

「初めまして。不知火フリルです。彼女のあかねさんに先んじてこのような会を発足させてしまったのは大変心苦しいんですけど、欲望は抑えきれず。」

「はぁ。」

 

あ、不知火フリルってこういうキャラなんだ、と現実逃避に走る私。そのまま宇宙の果てを眺めること数分。ようやく事態を飲み込み、頭の中を整理することが出来た。

 

黒髪の子が不知火さんで、桃色の髪の子が寿さん。どちらもルビーちゃんとアクア君と仲の良い友達らしく、学校ではいつも一緒にお昼ご飯を食べる仲なんだとか。そして毎日のようにアクア君とルビーちゃんの絡みを間近で見せつけられて、アクア君の魅力に取りつかれてしまったらしい。

 

なんて羨ま………じゃなくて欲望に忠実な子達だろう。

 

「あなた達はアクア君のクラスメイトで、陰ながらアクア君の事を愛でているってことで良いんだよね?」

「大体そんな感じ。あかねちゃんなら私達の知らないアクアを知ってたりしないかなーと思って呼んだの。」

「なるほど………」

「入るよね? アクアを愛でる会。」

「入る。」

 

もちろん即決ですとも。

 

なかなかぶっ飛んだことをしている自覚はあるけど、星野姉弟を相手にするならこの程度の事は広い心で受け入れないとやっていけない。

 

それに、私だってアクア君を愛でたい。なんたって彼女ですから。

 




最近アクア成分が足りてない気がしまして。
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