落選
14歳になった私は、某大型アイドルグループ追加メンバーオーディションに応募した。
応募総数は13万6114人。応募要項は14から20歳の女性。前回は年齢制限で応募できなかったけど、ついに私もアイドルとして夢を追える年齢になった。
書類審査は通過。二次審査の面接は合否待ちだけど、手ごたえはあった。
「私はママみたいになる!」
突拍子もなく叫ぶ私の頭に、ポンっと優しい突っ込みが入る。突っ込みの主はアクアだ。その手には丸めた教科書が握られていた。
「夢を語るのは結構だけど、高校受験は目の前だぞ。」
「分かってないねアクア。私はアイドルになるんだよ。芸能科がある高校は面接重視!学力なんて参考程度!アイドルになれば受験勉強なんてしなくて一石二鳥!」
「豆知識感覚で人生かけたギャンブルすんな。」
というか、勉強したくないだけなんだけどね。本当はお姉ちゃんとしてアクアに賢いところを見せたかったんだけど、そんなものは生後一か月で諦めたよ。期待しないで。
「アイドルを夢見るのは構わんけどさ、アイドルに夢を見るなよ。」
「分かってるよ。楽しいばかりじゃないってことくらい。それに、危険な仕事だってことも。アクアはお姉ちゃんが心配なんだよね?」
「・・・まあ、そんな感じ。」
アクアはあれから私がいなくなることを極端に怖がるようになった。昔ほど素直じゃないけど今でも私にべったりで、怖いことや辛いことがあると必ず私の所に来る。
一番近くでアクアを支え続けてきた成果が表れていた。お姉ちゃん冥利に尽きるね。ミヤコさんにはちょっと申し訳ないけど。
アクアを支えていたと言えば、監督のことも忘れてはいけない。
ママの残した言葉を頼りに役者の道を選んだアクアはすぐに監督に弟子入りし、考える暇もないくらいに演技の練習に打ち込んだ。監督はなんとなく私達の事情を察してる様子で、アクアが死なないために、元気になれるように手を尽くしてくれた。
監督がいてくれなかったら、アクアはどうなっていたか。考えたくもない。
「じゃあお姉ちゃん、俺は監督のとこ行ってくるから。」
「うん、わかった。お姉ちゃんが送っていこうか?」
「いいって。もうすぐ高校生だし、襲われるならお姉ちゃんの方じゃないの?」
「いいよ、全然。気にしない。」
「俺が気にするんだよ・・・。じゃあ行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
全く、可愛い奴。
アクアが出かけて、事務所には私とミヤコさんが残った。
苺プロの元社長は、あの事件の後連絡が付かなくなって、ミヤコさんが後を引き継いだ。アイというスターを失ったB小町は2年後に解散。現在苺プロにアイドル部門はなく、ネットタレントのマネジメントに手を広げて運営は成り立っている。
「ねー、またアイドルグループやらないの?」
「簡単に言わないで。私だってやれるならやりたいわよ。」
軽率に言っているつもりはないけど。
「アイの見せてくれた夢は中々忘れられる体験じゃない。この仕事を長くやればやるほど分かる。あんな奇跡は二度も起きない。あれは宝くじに当たったようなものと考えなきゃ。現実はあんなにとんとん拍子にいかない。」
何回聞いてもミヤコさんはアイドルグループをやってくれない。私としてはアクアと一緒に苺プロに所属して、出来る限り近くにいてあげたいんだけど。
ミヤコさんの言い分も理解できる。苺プロは弱小事務所。こんなところからデビューするよりも大手の事務所に所属してほしいと思うのは親として当然だ。私だってアクアがひどい事務所と契約するようなことがあったら絶対に反対するから。
「そろそろオーディションの当落の電話がある頃ね。受かれば向こうの所属になる規約でしょ?うちよりちゃんとしてる事務所よ。」
「まぁ、それはそうだけど・・・。」
プルルルル・・・
「噂をすれば。」
スマートフォンの画面には某アイドルグループの選考担当者の番号。当落の電話だ。意を決して電話に出る。
担当者から告げられたのは、落選の知らせ。
「駄目だった・・・。」
ああ、私はまだアイドルにはなれないんだ。
悔しくて悲しくて、涙が出る。結果を聞いたミヤコさんは後ろからそっと私を抱きしめてくれた。
「現実はそういうものよ。いろんな政治もあるし、実力が正しく審査されることに期待してもいけない。皆アイみたいに行くわけじゃない。」
ごめん、ママ。今回は駄目だったみたい。いつか必ずドームに立つから、もう少し待っててね。
監督はアクアの救世主になりました。復讐に時間を割くことも無いのでみっちり演技の練習が出来、役者としての実力は本編より上がってます。
ルビーは普通に審査に落ちてます。アクアの妨害はありません。