半年後
「B小町」のMV撮影から半年が過ぎた。
会社に支給されたお高いPCで、今日もゆったりとお仕事に励む。仕事は極めて順調。B小町の登録者数も増え、苺プロの労働環境も壱護さんの復帰によって大幅に改善された。
「B小町」は今やブレイク寸前特有の空気を持っている。
きっかけはあのMV。
アネモネさんとヒムラさんは私が想像していた以上の仕事をしてくれた。
いやアネモネに関しては仕事と言って良いのか分からない。どちらかと言うとあれはプライベートのアート作品だった。
ヒムラさんの楽曲は全盛期の物と比較しても劣るどころか洗練され熱のこもった曲に仕上がって、それにアネモネのアートが乗った。通常のアイドルMVと比較したら頭が一つ二つ抜けた完成度となった。
そして、その中心に居たのはお姉ちゃんモード全開のルビーちゃんと可愛い末っ子かなちゃん。この二人の仲睦まじい様子は見る者の心に何かしらの爪痕を残した。
私? うーん、ちょっと目立てなかった。まぁ分かってたことだけどね。
再生回数は驚異の2000万再生をマーク。これは最大手のグループと同じくらいの再生数。勿論その火種になるだけの登録者数は元々いたし……打てるだけの広告戦略は取った。
けれど、これは到底新人のアイドルグループが叩き出せる数字じゃない。
「やっぱウチの妹達は最高に可愛いってことだね。」
そのことを思えば顔がにやけるのが止まらない。ようやく世間が私らの可愛さに気付いたという事なのだから
そうなればこの機を逃すわけにはいかない。
バズが新鮮な内に大手ユーチューバーにコラボの打診を掛けまくり、そのうちの幾つかは結実。定期的にチャンネルに呼ばれる位の関係性を築いた。
企画動画の投稿数を増やし、SHORT動画なども使って極力投稿がない日をなくし、長時間生放送も行うようにした。社長に無理を言って改善された労働時間をまた増やすことになってしまったけど仕方ないよね。
バイトのおじさんこと壱護さんも大活躍だった。
動画編集者、切り抜き屋との交渉。有名楽曲制作者から歌唱許諾を取り、企画動画の為にティックトッカ―やプロゲーマーからキッズ向け動画の製作者までオファーをだし、横の繋がりを強化してくれた。
チャンネル登録者数を増やすには一回きりのバズでは効果がない。
如何に継続的に客が入ってくる導線を確保するかが重要になってくる。コンスタントに外部との交流をもったり他のチャンネルのおすすめ欄に載ることが重要。
チャンネル登録者数36万人。ユーチューバーとしては大成功の域まで達していた。
あかねは初の主演映画の公開を控えていて、ドラマの撮影も何本か始まるそうだ。実力派女優として着実に表舞台へのし上がっている。
「B小町」もあかねも仕事は軌道に乗って嬉しいばかり。
でも一番意外なのはアクたんだ。
アクたんはネットTVのバラエティ番組レギュラーの座を獲得した。
一方でドラマの脇役をやったりファッション誌のモデルやったり多方面。毎度毎度鏑木さんの口車に乗せられて気づけば仕事を押し付けられているみたいだけど、なんだかんだ言って器用なアクたんはどれもソツなくこなしている。
あ、そうそう。最近五反田監督さんと新しい映画の企画もやってるんだっけ。なんだか凄い気合が入ってるみたい。
私達の近況はこんな感じ。
さて、今日も私の家で動画撮影だったね。準備準備っと。
・・・
撮影用のお部屋でいつも通りのトーク。
カメラが回ってるのでいつものノリよりは少しテンション抑えめ。動画のテーマから逸れないようにちょっと注意して会話するだけ。まぁ、要するにただの雑談だよね。
「じゃあ子役の頃二人は会ってるんだ?」
「小さい頃に現場でね。実質幼馴染だよね。」
「違うわよ。ホントにルビーは小さいころから私に失礼で、久々に会った時も……」
「世話の焼ける子!」
「重曹を舐める天才子役!」
「え、先輩重曹を舐めるの?」
「アンタがそう言ったんでしょうが! ていうかこのチャンネル見てる人で私の名前言える人どれだけいるの!? 末っ子ちゃんとか重曹ちゃんとか妹ちゃんとか世話の焼ける
「まぁまぁかなちゃん、あだ名で呼ぶのも愛ゆえだよ。……よしっ、これ位で大体尺は稼げたかな。今日はこの位で。」
普通はカメラを止めればそこで仕事も終了。もうトークを続ける必要もなくなる。普通ならね。
でもうちは普通じゃない。
「カメラ止めた?」
「止めたよぉ。」
「先輩確保ぉ!」
「もう! いっつもいっつもホント飽きないわね。」
カメラを止めた後の方が面白いトークが見れるのだ。
撮影が終われば大抵かなちゃんはルビーちゃんの抱き枕と化す。このときのかなちゃんの嬉しそうな楽しそうな顔がたまらないんだよねぇ。口では嫌がるけど可愛い笑顔が眩しくてしょうがない。
こうなっちゃうとまともなトークが出来ないから動画に出すことは滅多にないけどね。
そんでそれを一歩離れた場所から見守るのがマネージャーのミヤコさん。
「明日は踊ってみたの撮影で……明後日は午前にぴえヨンコラボ。午後はプロゲーマーたちとコラボ生放送。」
「週末は北海道でライブだからね。忙しくなったねぇ。ミヤコさん私もう疲れたぁ。よしよししてよぉ。」
「よしよし、頑張ってるわね。」
長女の私はルビーちゃんやかなちゃんに甘えるわけにもいかなかったけど、ここ最近はミヤコママの圧倒的母性に癒される日々だ。私たちは壱護さんが苺プロに戻って最も恩恵を受けた二人。絆も強いのだ。
さぁて、仕事も終わった事だしこの後の予定はナシ! どうしようか。
「この後どうする? ご飯でも食べに行く?」
「良いね! お肉食べたい!」
「ええー、私はパスタの気分なんだけど。」
「もう、しょうがないなぁ。じゃあイタリアンの美味しいお店を探そうか。」
かなちゃんもルビーちゃんも、少し雰囲気が変わった。
すっかり末っ子としての振る舞いが定着し、以前のようなとげとげしい態度を見せることはほとんどなくなったかなちゃん。JIFや宮崎旅行を通じてトラウマを克服し、子役時代のような眩しい笑顔を振りまいている。
一方のルビーちゃんはお姉ちゃんモード全開だ。宮崎で何があったのか、年不相応に子供っぽかったルビーちゃんが急に大人っぽくなった。
お姉ちゃんモードでいる時間がながくなったって言えば伝わるかな?
この年頃の子は半年とか一年という短い期間でも大きく変わるものだ。それが良い方向であれ、悪い方向であれ。
妹二人の健やかな成長を願ってやまないお姉ちゃんとしては、B小町の活動が良い影響を与えていることがこの上なく嬉しい。
・・・
この半年で一番大きい変化と言えば、やっぱりツクヨミちゃんじゃないかと思う。
ルビーちゃんのお友達で、壱護さんがスカウトした女の子。可愛くて頭が良くて、ルビーちゃんに良く懐いている。そんでいつもルビーちゃんがツクヨミちゃんに構うもんだからアクたんとかなちゃんが不満を抱えるわけだ。
こんな風にね。
「なぁツクヨミ。今日は仕事があるわけじゃないんだろ? なんで事務所に来てるんだよ。」
「所属タレントが事務所に居たらダメなのかい? 同じ事務所の先輩方と親交を深めるのも大事な事だと思うけど。」
「ちょっとアンタ、いい加減ルビーから離れなさいよ。」
「まぁまぁ、そうカリカリするなよ。君が怒っても可愛いだけだよ?」
ルビーちゃんの膝の上が定位置になりつつあるツクヨミちゃんに、アクたんとかなちゃんが過剰に反応しちゃうのだ。
でもツクヨミちゃんは賢い子。この二人の扱い方も良く分かってるんだよねぇ。
「頼れる男はお姉ちゃんを取られた位で騒いだりしないものだよ。ねぇ、アクアお兄ちゃん?」
「お兄ちゃん……」
「知的でイケてる女の人はいつもクールに振舞うものさ。ねぇ、かなお姉ちゃん?」
「お姉ちゃん……」
「「今日の所は見逃してやる」」
お兄ちゃんとかお姉ちゃんとかっていって持ち上げておけばこの二人は満足するってことをいち早く見抜いて上手く手のひらで転がしてる。ていうかこの二人、これを言って欲しくて突っかかってる節もあるね。
鉄板ネタってやつ? とにかく数日に一度はこんなやり取りを見せつけてくる。
ツクヨミちゃんはタレントとしても凄い才能の持ち主だ。ルビーちゃんにも負けないルックスと神秘的な雰囲気がウリの天才子役として絶賛売り出し中。
初仕事ながらあの五反田監督をして悪くないと言わしめた期待の新人だ。
この半年で既にいくつかのドラマに出演が決まっている上、五反田監督の新作映画への出演も決まっている。あの年ですでに確かな演技力と演出の意図を汲む頭の良さを兼ね備えている、らしい。
んで、私達B小町とも無関係じゃないんだよねぇ。
なんとツクヨミちゃんは歌も踊りも上手いのだ。これは期待しちゃうよね。B小町のアイがスカウトされたのは12歳って聞いてるから、もう2,3年もすればツクヨミちゃんもB小町加入の流れかもしれない。
私は数年もすれば年齢的に引退だけど、入れ替わりでツクヨミちゃんを入れるって言うのはアリかもね。
まぁ、そんな感じで私の周りはいつも賑やか。楽しい日々を送るMEMちょです。