【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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深堀りお姉ちゃん

アクアと先輩と私の3人で家に帰ると玄関に知らない靴が。

 

「誰だろうね。男の人かな?」

「でも壱護さんとも違うし、この家の靴ではないわね。」

 

私に心当たりはない。先輩も知らない様子。というか先輩、この家の靴のレパートリーなんてよく覚えてるなぁ。

 

「アクアは分かる?」

「分かる。良く分かる。」

 

靴をまじまじと見つめて答えるアクア。どうやら心当たりがあるみたいだ。

 

さて我が家にやって来たお客さんは誰かな? 答えてもらおう。

 

「誰の?」

「……鏑木さん。」

 

まるで果たし状でも送り付けられたかのような深刻な表情でアクアがその名を口にする。うわぁ来たよ、という心の声が聞こえてきそうだ。

 

最近のアクアはファッションモデルにドラマの端役にTV番組のキャストと、幅広く仕事をこなしている。以前からどこに出しても恥ずかしくない弟だとは思っていたけど、本当にどこにいっても何をやっても器用にソツなくやりきってしまうのだ。

 

さすが我が弟、可愛いだけじゃない。

 

でもそんなアクアのお仕事達はアクアが望んで受けたものばかりじゃない。というか、ほとんどは半ば騙されるような形で受けさせられている。

 

そう、鏑木さんによって。

 

で、今その鏑木さんの靴が玄関にあって、アクアは頭を抱えてるってわけ。

 

「またお仕事だね! 頑張って!」

「今日こそは断って見せる。俺は便利なタレントじゃないってところを見せてやらないと。」

「ふん、もう手遅れよ。」

「は? まだ手遅れじゃねぇし。分かったような口利くなよ。」

「なによその言い方。ムカつくんだけど。」

「お前が先に言い出したんだろ?」

 

先輩が無自覚に煽れば、アクアは過敏に反応する。

 

そのまま言い争いになり、末っ子二人は玄関の扉を開けたまま靴を脱ごうともせずに喧嘩を始めてしまった。

 

ちなみに最近のトレンドは私怒ってません系の煽り合いだ。特にルールがあるわけじゃないけど、先にキレた方が負けっぽい。話し合ったわけでもないのに妙なところで気が合うのは、やっぱり末っ子だからなのかな。

 

さて、仲裁に入ろうか。

 

真っ赤な顔で必死に冷静を装ってひたすら相手を罵る二人は可愛いけど、お姉ちゃんとしては黙って見過ごすわけにもいかない。

 

「こーら、二人ともいい加減にしなさい。」

 

私の一声で二人ははっと気づいて黙り込む。喧嘩は良くないけどこの瞬間だけは結構楽しい。

 

二人の表情を良く見てみれば、今回の喧嘩の勝敗がなんとなく分かる。アクアは割とすました顔なのに対し、先輩はちょっと自信なさげ。アクアの判定勝ちといったところかな? 私から見ても大分優勢だったと思う。

 

まぁ、お姉ちゃんの前でそんな大っぴらに喧嘩なんてさせないけどね。

 

「やっと家に入れるよ。誰かさんのせいですっかり体が冷えちゃった。」

「ごめんお姉ちゃん! すぐ温かい飲み物作るから! 牛乳で良いか?」

「良いよ。お願い。」

「えっと、えっと、私は……」

「ぎゅってさせてくれる? あったまると思うから。」

「それで良いわ!」

 

ようやく家に入る私達。

 

扉を開けて事務所に入ると、そこにはやっぱり鏑木さんが居た。いつものように偉そうな感じでゆったりと寛いでいる。

 

「やあやあ、相変わらず仲が良いねぇ。」

「こんにちは。今日もアクアにお仕事を持って来たんですか?」

「まぁね。ちょっとアクア君を借りるよ。」

「どうぞ。ホットミルクも持っていきます。」

 

アクアをホットミルクごと鏑木さんへ差し出し、私と先輩は家の中に引っ込んだ。また新しいお仕事を依頼? 押し付け? するんだろう。頑張れアクア、お姉ちゃん応援してるから。

 

制服を着替えてリビングに戻ると、ミヤコさんが話しかけてきた。

 

「ルビー、今事務所で鏑木さんとアクアがお話ししてるでしょ?」

「うん。」

「実は鏑木さんからルビーに仕事の依頼があるの。アクアが出てる深掘れワンチャン!!っていう番組があるでしょ? ルビーにそのリポーターをやって欲しいそうなのよ。」

「共演って事!?」

「そういう事。」

 

共演! アクアと共演だ!

 

突然の朗報に喜ぶ私。でも少し引っかかることがある。

 

「あれ? でもなんで鏑木さんから直接言わないの? 下にいるよ?」

「それがね、鏑木さんがアクアには言わないでと言っているのよ。要するにドッキリみたいなものね。スタジオとリポーターで中継をつなげて、いざ画面が映ったらあなたが出てくるっていう段取りみたいよ。」

「何それ面白そう。」

「やるってことで良いわよね?」

「やるに決まってる!」

 

これは俄然やる気が出てきたよ。毒舌クールキャラを演じるアクアには悪いけど、お姉ちゃんの登場で慌てふためく姿をバッチリカメラに収めさせてもらっちゃおう。

 

鏑木さんも分かってるなぁ。

 

「じゃあそういう訳だから。収録の日時とか詳しいことは追って連絡するわ。」

「了解!」

 

こうして私は深掘れワンチャンに出演することになったのだ。

 

・・・

 

「第2回、アクアを愛でる会の開会をここに宣言します!」

「「「いえーい」」」

 

前回と同じカラオケ屋さん。同じメンバー。新たなネタと新メンバーを得た私は居ても立ってもいられずアクアを愛でる会の会員を集めてしまった。

 

まずは新規会員のご紹介。

 

「やあ、アクアを愛でる会の会員の皆。私はツクヨミ。星野アクアを愛でる同志として君たちの仲間に加えてくれないかな。」

「という訳でツクヨミちゃんでーす。」

 

相変わらず神様だ。

 

年齢的には愛でられる側になるのが普通だけど、つーちゃんは特別だ。この年にしてアクアと先輩を手玉に取って上手いこと操っている。愛でていると言っても過言ではないね。

 

会員の反応も上々だ。

 

「ひゃああぁぁ、かわええなぁ。ほっぺたぷにぷにやぁ。」

「君のグラマラスボディには負けるよ。」

「待って直視できない。何この美少女。ほんとやばい。まって鼻血でてないよね。」

「凄い……この年にしては認知能力がしっかりしすぎている……。ギフテッド? それとも特殊な教育によるもの? 何にせよ普通ではなさそうだね……」

 

一人だけ盛り上がり方の方向性がおかしいけど気にしない。

 

マイクのスイッチを入れ、大音量で司会進行。アクアを愛でる会は勢いが大事だ。普段は恥ずかしくて話してくれないことでもここでなら言ってくれる。

 

ガンガン行くぞぉ!

 

「さぁ、今日も楽しく行こー! という訳で私からご報告! 今度深掘れワンチャンのリポーターとして出演するんだけど、最初の出演はアクアが知らない状態でいきなり私がリポーターとして出てくるドッキリをやりまーす!」

 

やりまーす! やりまーす! やりまーす!

 

マイクのエコーが響き渡る。そして数舜の静寂の後、会場が沸いた。

 

「ルビーちゃんナイスぅ! ええよええよ盛り上がってきてるよぉ!」

「いつ!? それはいつなの!? ねえルビー早く答えなさい!」

「待ってフリルちゃん。まだ決まってないの! 私も知らないから。」

「へぇ、撮影もしていないというのに報告してしまうなんて、随分私達を信頼しているんだねお姉ちゃん。」

「そりゃそうだよ! 皆アクアの驚く顔見たいでしょ?」

「「「「見たい!」」」」

 

今この瞬間、私たちの心は一つだ。アクアの可愛い姿をこの目に焼き付けたい。インターネットに乗せて全世界に知らしめたい。そんな気分。

 

「今アクアは毒舌クールキャラを頑張って演じてるの。でも今回鏑木さんからドッキリの提案があった。つまり……」

「アクア君にはイメチェンして欲しいんだね。」

「あかねちゃん正解! 私が番組に出ればアクアは絶対にクールじゃいられないはず。きっといつもの可愛いアクアに戻っちゃうよ。」

「ああ、アクアさんが必死に作り上げてきた毒舌クールキャラというイメージが崩れる瞬間を拝めるというわけね。」

「アクア君、きっと頑張ってクールキャラを貫こうとするんやろなぁ。」

「でも必死の努力も空しくお姉ちゃんのお姉ちゃん力の前に屈してしまうという訳か。これは愉快なことになりそうだね。」

 

私の膝の上でドヤ顔を決めるつーちゃん。

 

前回に引き続き熱狂的な盛り上がりを見せている。やっぱり皆アクアの可愛さに骨抜きなんだ。本人はいつも謙遜して「お姉ちゃんを見てるんだよ」なんて嬉しいこと言ってくれるけど、今目の前にあるこの光景が何よりの証拠。

 

最初のネタはこんなものかな。間髪入れず次を投入だ!

 

「じゃあ次行くよー!」

「「「「おー!」」」」

「アクアは今カントクと一緒に映画を作っててね、あらすじを頑張って考えてるところなの。それであらすじを何とか書き上げて監督の所に持っていくんだけど、初めてだから上手く行かないんだ。しかも監督は映画に厳しい人だから何度も突き返されて書き直しを食らっちゃうんだよね。」

「なるほどなぁ、アクア君確かに最近お疲れ気味やけどそういうことやったんやね。」

「でもルビー? ちょっとこれはアクアを愛でる会に持ち寄るネタとしては弱いんじゃない?」

「分かってないなーフリルちゃん。」

 

フリルちゃんだけじゃない。みなみちゃんもあかねちゃんもフリルちゃんと同じくこの話のどこにアクアを愛でる要素があるか気づいてないみたい。

 

でも膝の上のつーちゃんはただ一人キラキラした目で私を見つめてくる。

 

これは分かってるな?

 

「つーちゃん、説明。」

「引き受けた。僭越ながら新参者の私が説明させてもらうよ。」

 

つーちゃんが立ち上がってマイクを握る。声も綺麗なつーちゃんはただ話すだけでも皆の視線を集めてしまう。

 

「まぁ説明するまでも無いとは思うけどね。星野アクアはお姉ちゃんが大好きでしょうがない。そんな彼が精神的に追い込まれればどこに救いを求めるのか、この会の会員の皆なら分かるはずだけど?」

「ああ、ああ、そうやん。なんでウチそんな簡単なこと……」

「私としたことがっ…! なぜ気づけなかった……!」

「なんだそんな事か。当たり前すぎて逆に気付かなかったよ。いつもビデオ通話でルビーちゃんに甘えるアクア君を見てるから特に違和感ないなぁ。」

 

悔しがるフリルちゃんとみなみちゃん。そして一人余裕を崩さないあかねちゃん。さすが彼女なだけあって頭一つ抜けてるね。

 

つーちゃんはそのまま次のネタを投入する。

 

「では次は私から。最近苺プロの所属になってお姉ちゃんと一緒に過ごす時間が増えた訳だけど、当然ながら星野アクアや有馬かなからお姉ちゃんを取ってしまう形になるんだ。でも彼らは高校生で私は小学生。どっちが大人の対応をするべきかは一目瞭然だよね。結果私がお姉ちゃんの膝の上に陣取ることになるわけだけど……ここから先は言うまでもないかな。」

 

オーバーキルって言う言葉があるけど、この先の展開を詳細に話すとそういう事になるんだろうね。みなみちゃんとフリルちゃんはもう限界が近い。

 

あかねちゃんは……やっぱり落ち着いてるなぁ。それも余裕があるというよりそんなに興味がない感じかな?

 

「あかねちゃんは今の話面白くなかった?」

「やっぱり私はカッコいいアクア君の方が好きみたい。」

「そっか。」

 

色んなアクアの愛で方があるってことだね。私はカッコいいアクアも否定しないよ。きっとそれぞれの視点から違った見え方をしてる。だからアクアを愛でる方法も皆違って当然なんだ。

 

「アクアを愛でるって、奥が深いね。」

「何言ってるか分からないけど、ルビーちゃんがそう思うならそうなんだろうね。」

 

こんな感じで第二回アクアを愛でる会も大盛況だ。

 




映画の話は期間が長いのでちょっとずつ進めます。
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