コスプレ会場で初めて吉住さんの妹さんに会った。
「ルビーちゃん。これが妹のミミだ。人見知りだからルビーちゃんにそれとなくフォローを頼みたいんだ良いかな?」
「いいに決まってる! ミミちゃんよろしくね。」
「よ…よろしくです。」
自分で言うのもなんだけど、この番組は取材対象に優しくない。私の初めてのリポートもキラキラネームの人を探し出して世に晒すお仕事だったし、このまえは吉住さんが取材拒否のお店に無理やり取材をしようとしたりしてたっけ。
そんな番組に妹さん、ミミちゃんが出てくるなんて。一体どんな風の吹きまわしだろう?
「ねぇミミちゃん、ミミちゃんはなんでこの番組に出ようと思ったの?」
「えと…それは……あ、あのですね」
「ゆっくりでいいよ。」
ミミちゃんに聞いてみようと思ったけど吉住さんの言う通りとっても人見知りだ。まずは仲良くなるところから始めるべきだったね。失敗失敗。
「私は弟のアクアがこの番組に出ててね? それである時鏑木さんに誘われたの。私がいきなり出ればアクアをびっくりさせられるってね。凄い良いリアクションしてくれたんだよ?」
「あっ…それ見ました。ていうか、えと、この番組は全部見てるので。」
「そうなんだ。じゃあ私のリポートも全部見てるって事?」
「はい。見てます」
「ねぇ私、上手にやれてると思う? うちの事務所の人に色々アドバイス貰いながらやってるんだけどイマイチ自分では分からなくって。」
「と…とっても上手だと、お、思います。」
ミミちゃんが言うんだから良く出来てるんだろう。アドバイスをくれた壱護さんには感謝だね。
「良かったぁ。結構不安だったんだよね。」
本当はノリノリだけどね。でもこう言っておいた方が良いと思うんだ。
「えっ? ルビーちゃんも不安、だったんですか?」
「そうなの。もう怒られたらどうしようって心配で!」
ほら食いついた。
周りが凄い人ばかりだと思ってしまうと委縮しちゃうんだよね。でも美男美女や天才秀才が集まる芸能界では委縮は厳禁。むしろ図々しいくらいで正解だ。
実際私は凄い人な訳だけど*1、ここはちょっと下手に出てあげて、ミミちゃんの緊張をほぐしてあげよう。
「あのっ、私も今すっごく緊張しててっ! 上手く喋れるか分かんないって言うか、いや、そもそもそんなに可愛くないし。顔出しもしたことないし。」
「分かるー。初めてって緊張するよね。でも大丈夫だよ。取材するのはミミちゃんのにーちゃんなんだから。」
「にーちゃんが…。そ、そうですよね。にーちゃんは優しいから大丈夫ですよね!」
「私が保証するよ!」
打ち解けてきたかな。にーちゃんこと吉住さんの名前を出した瞬間、表情がぱっと明るくなった。やっぱり大好きなんだろうなぁ。
ああ、尊い。
そうこうしているうちに収録が始まった。
まずは軽く広場を歩いて現場の空気感をカメラに収める。ここは夏コミのコスプレ会場で、焼けるような日差しの中、コスプレイヤーさん達がこの日の為に用意して来たとっておきの衣装を着て楽しんでいる。
その辺のレイヤーさんに軽くインタビューをして回り、それなりに尺が稼げたところでいったん休憩になった。
この次は確か本番の取材だったはずだ。コスプレ会場で声を掛けて、取材に応じてくれる人を探したという設定になっていたはず。
実際は事前にアポを取って会場に来てもらってるんだけどね。まぁテレビの裏側なんてこんなものだ。
「ルビーちゃんお疲れ様です。」
「吉住さんもお疲れ様ー。じゃあ私ミミちゃんの所に行ってくるね。」
「うん。ありがとう。」
撮影が終われば忙しそうに現場を駆け回る吉住さん。休憩なのは演者だけ。たった一人のADである吉住さんに休憩なんてあるわけがなかった。
心なしかその表情は暗いように見える。
「ミミちゃんただいまー。」
「あっ、ルビーちゃん、お疲れ。」
日陰になっている休憩場所に戻ると、集められたコスプレイヤーさん達がお出迎え。ミミちゃんは真っ先に私の所に来て、そのままぴったりついてくる。
よく訓練された妹ムーブだ。尊い。
私はこの機を逃すまいとミミちゃんとさらに距離を縮めるべく会話を振る。何でも良いからお話ししたい。
「あっついよぉ。せめて日陰で撮影したかったー。」
「た、大変、だね。」
「まぁお仕事だからしょうがないし、私は結構楽しんでるよ。ミミちゃんはどう? まだ緊張してる?」
「えと、やっぱり怖いです……」
「やっぱりかー。」
ミミちゃんの頭にぽんっと手を乗せてみる。
「ルビーちゃん?」
「いいから。」
緊張をほぐすならとっておきの技がある。今日初めて会ったミミちゃんに効果があるかは分からないけど、やってみる価値はあるだろう。結構仲良くなったし、妹だし、案外いけると思うんだよなー。
「えっ? えっ? 私、撫でられて、ルビーちゃん?」
「よしよし。怖くないよー。」
「あの、ちょっと恥ずかしい……」
「じゃあやめる?」
「やめなくて、良いけど……」
効いてる効いてる♪
効果があると分かった私はノリノリでミミちゃんをなでなでした。出来るだけ緊張がほぐれるように、思いっきり優しいなでなでだった。
「ありがとう。なんか行けるかもって思えた。」
「よしよし。その意気だよ!」
吉住さんが戻って来たのは、ちょうどなでなでが終わったタイミングだった。
「じゃあ今からインタビューの映像撮りますんで、順番にお願いします。じゃあ最初、メイヤさんから。」
「はい、よろしくお願いします。」
一人ずつ呼び出されてインタビューが進んで行く。
げっ、吉住さんの横に居るの、漆原Dじゃん。あの人いつも怒鳴ってて怖いんだよなー。ミミちゃんなんか漆原Dが吉住さんを怒るときの余波でノックアウトされかねない。ここは私が守らなきゃ。
「ミミちゃん、あの眼鏡のおじさんに気を付けて。めっちゃ怖いよ。」
「あ、漆原さん……かな。」
「知ってる?」
「うん。にーちゃんがいつも、怒られてるから。」
そりゃ知らないわけないか。吉住さん家でも働いてるっぽいし。
漆原さんは今日も期待を裏切らない活躍を見せていた。たまには裏切って欲しいものだけど、そうはいかないのが漆原さんという人間だ。
一足先にインタビューをするために呼び出されたメイヤさんに早速絡んでいる。
「あー君かーっ! 結構きわどいコスやってるんだよね! エロいねー!」
「いやまぁ、あはあ…」
うっわ物凄いセクハラ。ミヤコさんだったら思いっきりビンタされてるな、あれは。メイヤさんもやっちゃっていいと思うよ。思いっきり紅葉が出来るくらいかまして欲しい。
質問の内容も……言いたくないくらいひどい。
いくらエロ系でやってるからってあの聞き方は無いよねぇ……。やるにしてももうちょっと配慮って言うか、エンタメの為にこういう事聞くけど気にしないでねとか一言言ってくれても良いのに。
何の信頼関係も無しに聞くことじゃない。
「ミミちゃん……」
「えっ、あんなこと聞かれるの? 嫌なんだけど……?」
「流石に大丈夫でしょ。あの人はほら、エロ系の人だから。ミミちゃんは高校生なんでしょ? 変なことは聞かれないって。」
「だといいけど……」
しかし悪い予想は見事に的中してしまった。ホント、どこまで言っても漆原Dは漆原Dだ。悪い意味でブレない男。
兄である吉住さんがカメラを構え、妹であるミミちゃんが正面に立つ。吉住さんの後ろから様子を眺めているのが漆原Dだ。
取材担当である吉住さんの口から放たれた質問は、容赦なくミミちゃんの心を打ちのめしていった。
二人とも辛そうな顔をしている。ミミちゃんは当然だけど、吉住さんからもこんなことやりたくないんだって言う気持ちが強く伝わってくる。いくら仕事とはいえ、本当にこんなことをしなければいけなかったんだろうか。
あまりのひどさに、インタビューは途中で打ち切られた。
「ミミちゃん、大丈夫?」
「うぅ…だ、大丈夫」
「じゃないよね。どう見ても。震えてるよ。」
「本当は…凄く……嫌だった。にーちゃん…何でよぉ……。」
そのまま泣き出しそうなほど落ち込んでいる。
「ミミちゃん元気出して。吉住さんもわざとやってるんじゃないから。家に帰ったら仲直りすればいいんだよ。ちゃんと謝ってもらって、いっぱいお話しして、今日あった事なんて忘れちゃおう。」
「うん……ありがと。」
収録が終わって家に帰るその時までミミちゃんの表情が晴れることは無かった。
・・・
私は激怒した。必ず、かの
……要するに邪悪な漆原Dのパワハラで吉住さんが壊れて、その妹のミミちゃんも辛い思いをしてる。私はそれを見過ごせないって話だ。
危機感を覚えた私は、早速頼れる姉妹たちに連絡を取った。
吉住さんがパワハラで潰れちゃう
! 何とかして助けたいんだけど
何か良い方法無いかな!?
他所の会社の事となると難しいね
ぇ。
末端のADが使い潰されて仕事辞め
るなんてよくある事よ。そういう
世界だと思って割り切りなさい。
先輩……
そうかもしれないけど、吉住さん
にはミミちゃんっていう妹が居て
ね? 吉住さんが壊れちゃったら
ミミちゃんが泣いちゃうの。
ああー……なるほどね。
やけにあのADにこだわると思って
たけどそういう事。
なら私も手を貸すわ。
大体把握した。
お姉ちゃんに好きなだけ頼りな。
二人ともありがとう……!
明日相談させて!
分かったわ。
了解!
私の性格は二人ともよく知ってるから事情の説明も簡単だった。ただあの兄妹を助けたいだけ。他の理由なんていらない。
とにかく集まって話をしなきゃ。まずは作戦会議だ!