家のリビングでアクアに餌付けしつつ、ツイッターを眺める。深掘れワンチャンで検索を掛けるまでもなく、画面には昨日放送された特別編に関するツイートが画面に表示されていた。
「昨日放送の特別編、凄いことになったね。」
「ああ、完全に狙い通りに世論を誘導出来てる。というか狙った以上に上手く行ってるな。」
深掘れワンチャン特別編は大きな話題となった。
漆原さんは批判を一手に引き受けて雲隠れ中。時々コメントを出しては集中攻撃を浴びている。面の皮の厚い漆原さんの事だから、しばらくしてほとぼりが冷めるまで待って、またDとしての仕事を再開するんだろう。
番組側は批判を受けないどころか、むしろ被害者扱いで好感度が上がっている。
ミミをちゃんの涙ながらの訴えが視聴者の心に突き刺さったのだ。台本通りの進行によって漆原Dが悪で吉住兄妹が被害者であると明確に示すことが出来、そこにミミちゃんの心からの叫びが上手くかみ合った。
その結果、この企画を考えた壱護さんの予想の範囲を大きく超える反響を呼んだ。
曰く、上手く行きすぎて怖い、とのこと。
でも私はそうは思わない。吉住さんが壊れる前に助けてあげることは出来なかったし、ミミちゃんを泣かせることになってしまったし。
今思えば未然に防ぐことだって出来たと思う。
「ねぇアクア。吉住さんの事、もっと早く助けてあげられなかったのかな。」
「んー、難しいだろうな。吉住さんは働き続けるつもりだったわけだから初めからスカウトは出来ない。かといって労働環境を改善するのはもっと無理だ。今回の炎上が起きて、吉住さんが体を壊したから出来たんだろ。」
「そういうものなのかなぁ。」
「問題が起きてしまったのは仕方がない。でもその後のお姉ちゃん達の動きはベストを尽くしてた。こんな綺麗に解決するとは正直思ってなかった。」
「褒めるじゃん。」
「そりゃあ、お姉ちゃんだし。」
「可愛い奴♪ チロルチョコあげちゃう。」
「ん」
過ぎたことを考えてもしょうがないか。
吉住さんはすぐに元気になったし、漆原さんは反省してる。終わり良ければ総て良しという言葉の通りなら、今回の騒動は総て良しと言って良いかもね。
・・・
「本日からお世話になります。吉住シュンです。妹のマネージャーとしての採用ですが、頼まれれば何でもやるつもりです。よろしくお願いします。」
「同じく本日からお世話になります。吉住
数日後、吉住兄妹が苺プロに加入した。
自己紹介を行う事務所には、ミヤコさんと一護さんとアクア。それからB小町の二人とつーちゃんが集まっている。
新しい仲間に対し、皆の反応は好意的だ。
当然の事だ。普段の吉住兄妹を知っている人は悪い人じゃないって分かってる。深掘れワンチャンでこの二人を知ったとしても、悪いDの被害者としての側面しか知らないわけだし。
日ごろの行いの結果だね。
「あなた達は今日は予定無いから、ゆっくり親睦を深めておきなさい。特にお兄さんの方はこれから苺プロの裏方の仕事もすることになるから皆仲良くしておきなさいね。」
「「「「「はーい」」」」」
ミヤコさんと壱護さんはすぐに仕事に戻っていき、残ったメンバーで親睦会が開かれることになった。
「私お姉ちゃんのお膝の上座るー。」
「はーい、どうぞつーちゃん。」
まずはつーちゃんが私の膝の上を確保。アクアと先輩がそれを見て顔をしかめるけど、つーちゃんはお構いなしだ。
とりあえず頭をなでなですると、「ん~♪」と嬉しそうな声が聞こえてきた。
よし、このままおやつを……と思ってテーブルに手を伸ばそうとしたけど、お菓子を出していないことに気付く。取ってこなきゃ。あ、でもつーちゃんが私の膝の上に座っちゃったから立てない。
MEMちょ助けて!
「相変わらず仲いいねぇ。とりあえずお菓子とジュース出そうか。」
テレパシーが通じた。さすがMEMちょ。
頼れる長女によってテーブルにお菓子とジュースが広げられる。
吉住さんも積極的に手伝っていて、早く苺プロに馴染もうとする姿勢が見える。ミミちゃはさすがにまだ緊張が解けないのか吉住さんの傍にぴったりくっついたまま喋らない。
ちなみに私の左は先輩、右はアクア、正面はつーちゃんだ。モテモテです。
それぞれ定位置について、飲み物が行き渡ると会話が始まる。
話題の中心はやっぱりミミちゃんだ。苺プロにとっては久々の大物Vチューバーの加入だからやっぱり皆気になるみたい。勿論私だって気になる。
「ミミちゃんてあの鈴音コミミなのよね?」
「はい…、ゲーム実況をメインにやってます……。」
「コラボも出来そうじゃん。やっと先輩のゲーミングPCを使う時が来たんだね!」
「ああー…、そんなものもあったわね。もう何カ月も電源入れてないけど。」
「ミミちゃんはなんでVチューバー始めたの?」
「えっと、にーちゃんに勧められて。」
「個人で30万人は凄いってMEMちょ言ってたわよ。大変だったでしょ?」
「毎日配信してたら、なんか増えてて……良く分かりません。」
「にーちゃんパワーか……」
「コーラ飲むか?」
「あ、いただきます。」
「お兄さん好き?」
「いや、それは、恥ずかしい……」
「それじゃあ好きと公言してるようなものだね。ここでは隠すことも無いのだから素直になれば良いのに。ね、お姉ちゃん♥」
「そうだよミミちゃん。良いことじゃん、仲が良いんだから。」
「あわわわ」
質問攻めにあってミミちゃんがパンクしてしまった。
いつもの配信ならこれ位は簡単に捌いて面白いこと言えるはずなのに、対面だと本当にポンコツだ。世の中にはいろんな人が居るんだね。
あわあわしながら吉住さんの服の袖をつかんでるのが可愛い。先輩も不安になったり泣きそうになったりすると私にくっ付いて来るけど、それと同じような感じかな。やられる側からすると可愛くてたまらないやつ。
一方、吉住さんはMEMちょと苦労話で盛り上がっていた。
「MEMちょさんは裏方の仕事もされてると聞いてますけど、大変じゃないですか?」
「そーですねぇ。でも好きでやってることですから。苦になりませんよ。」
「分かります。どんなに仕事で疲れていてもミミのサポートだけはやめられなかったんですよね。」
「ですよねぇ。私も憧れのアイドルになれた上に二人の妹が可愛すぎて、働きまくっちゃって……。同志ですね。」
「ええ、同志です。これからも身体に気を付けて頑張りましょう。」
「期待してますよぉ。ルビーちゃんとも仲が良いみたいですし、B小町のサポート業務とかどんどん任せちゃっても良いですよね。」
「もちろんです。ミミのマネージャーとしての仕事はそれほど多くないですし。」
「よっしゃあ! 社長に言っときます!」
境遇がなんとなく似てるし年も近いから、意気投合するのも当たり前か。この二人が頑張ってくれれば苺プロの将来は安泰だね。
ていうか結構お似合いだよね。少しつついてみるか。
「MEMちょと吉住さんてお似合いだよねー。こうしてみてるとカップルみたい♪」
さぁ反応はどうだ?
「へ……? バ、バカな事言うんじゃないよぉ! カ、カップルなんてそんな感じじゃないしぃ!」
「お似合い!? こんな綺麗な人と僕が!? 無理無理、無理ですって、釣り合いませんよ!」
「綺麗って……!? やめて恥ずかしいってぇ!」
うわぁ、めっちゃ慌ててる。そんな顔を真っ赤にしてしどろもどろになりながら否定したら意識しちゃってるのバレバレだよね。
「もう、ルビーちゃんったら、何を言い出すかと思えば……」
「べ、べつに僕はMEMちょさんを狙ってるとかそういうのじゃないですからね? 誤解しないでくださいよ?」
「私だってそういうつもりは無いって言うかぁ、ちょっと驚いただけっていうかぁ。」
あれ? 何か凄い良い雰囲気になってる気がする。私恋のキューピットになっちゃったかな?
「つーちゃんどう思う?」
「お姉ちゃんの一言でお互いに異性として意識してしまったようだね。良いのか悪いのかは別として、影響力の強さはさすがと言わざるを得ないよ。やっぱりお姉ちゃんはお姉ちゃんだ。」
「えっへん。」
さすが私。
吉住さんの件はこれにて解決。原作での苺プロのフルメンバーが早くも揃いました。