【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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カミキヒカル

ツクヨミは飛ぶ鳥を落とす勢いで売れていくお姉ちゃん達を見て、ため息をつく。

 

あるいは五反田監督の秘蔵っ子として業界の人間から期待され、ドラマや舞台の演技で着実に結果を出しつつ映画の製作に精を出すお兄ちゃんを思えば、じっとりと手汗がにじむ。

 

このままではいけない。このまま売れ続ければいずれは『彼』の魔の手が……。

 

「星野ルビー、星野アクア。どちらも『彼』の目には価値のある人間に映っているはず……。そう遠くない将来、私は大きな決断を迫られることになるに違いない」

 

ツクヨミは不安から逃げるように、大きく口を開けてうまい棒を一口かじった。

 

おいしかった。

 

・・・

 

ライター・プロデューサー・タレント等、有識者9名が集いその年に最も活躍したアイドルを決める『女性アイドルアワード』が今年も発表された。

 

その中の「新星賞」を獲得したのが、苺プロのアイドルグループ「B小町」だ。

 

「B小町」は十数年前に解散した伝説的グループのリブートユニットだ。となれば、熱烈的なファンの手により道半ばで命を落とした『アイ』と重ねて見る者も多いだろう。しかし新生B小町はアイ擁する旧B小町さえ超えるのではないかという高すぎる期待に応え得るポテンシャルをもっている。

 

アイ一強だった旧B小町に対し、新生B小町の3人はそれぞれがセンターを張れる実力の持ち主。現在センターを務めるのは歌、ダンス、トーク、そして太陽のような無敵のスマイルが魅力の有馬かなだが、誰がセンターになってもおかしくないだろう。

 

星野ルビーはルックスがずば抜けており、かつてのアイを彷彿とさせる。また最年長のMEMちょはグループのまとめ役としてメンバーから厚い信頼を得ている。

 

そして何よりこのグループの最大の特徴は、グループのメンバーが姉妹であるという設定だ。一人一人の魅力が素晴らしいのは勿論なのだが、3姉妹が揃った時の仲睦まじい様子は見る者のハートをガッチリと掴んで離さない。

 

彼女たちが注目されるようになったのは『深掘れ☆ワンチャン!!』で1コーナーを任されるようになった頃からだろう。半年前に話題になったコスプレイヤー炎上の際に当番組を見たという人も多いのではないだろうか。

 

星野ルビーはずば抜けたルックスと強烈なおバカキャラ。しかし小気味のいいトーク力やアドリブ力も持ち合わせており業界内での評価も高い。

 

加えて弟のアクアは『今からガチ恋始めます』で注目を集めた新進気鋭の俳優だ。長らくクールなイケメン俳優として認知されていた彼だが、『深掘れ☆ワンチャン!!』で姉の星野ルビーと共演したこときっかけでお姉ちゃん子であることが分かり、ますます人気が高まっている。

 

美男美女の双子で愛情たっぷりの掛け合いも人気を博し、他番組にも二人でゲスト出演する機会が増えてきた。

 

有馬かなとMEMちょも順調に出番を増やしており、業界的に言うとまさにこれから『一週目』を迎えようとしている。

 

また、「B小町」はユーチューバーグループとしても人気が高い。一度火が付けば伸びるがそれが一瞬であるのは近年活躍しているユーチューバー達の登録者数推移からも窺える。半年前は30万人だった登録者数も今や100万人を超えている。

 

ユーチューバーとアイドル、そしてテレビタレントとしての三軸を持つ彼女達は、まさに『令和を象徴するアイドル像』と言えるだろう。

 

彼女たちはインタビューでこう語った。

 

「「B小町」……アイの奪われた夢を私達が叶えます。「B小町」は必ずドームに立ちます」

 

新生B小町の今後の活躍に注目していきたい。

 

・・・

 

ツクヨミはうまい棒の最後の一口を口に放り込んだ。とあるネット上のニュースサイトに掲載された『女性アイドルアワード』に関する記事を一通り読み終え、スマホの画面も消す。

 

手持無沙汰になってしまった。

 

「ミヤコさん、ルビー達はまだ帰ってこないのかい?」

「ごめんねツクヨミちゃんせっかく遊びに来てくれたのに。今日は深掘れの収録だから3人とも遅くなるのよ。メムさんは直帰だから事務所には来ないし」

「そうかい。それは残念だ」

 

ルビーとかなが帰ってくるのは早くても夜の8時頃になるだろう。いくら神とは言ってもツクヨミまだ小学2年生。門限はせいぜい5時くらいだから、お姉ちゃん達と会うのは諦める他ない。

 

ツクヨミが憂鬱そうにしているのはそのせいだろうとミヤコは思った。ルビー達によく懐いているのだから、会えなくて寂しいはずだと。

 

だがツクヨミの心に暗い影を落としているのは、お姉ちゃんに会えない寂しさではない。……正確に言えばとっても寂しいし今すぐスタジオに突撃してでも会いに行きたいのだがそういう話ではない。

 

「お姉ちゃん達の最近の活躍には目を見張るものがあるよね。アクアお兄ちゃんにしたってそうだ。業界からの評価も高いしそれに見合った実力も熱意もある」

「そうね。母親としても社長としても本当に誇らしいわ。女性アイドルアワードの新星賞も取った事だし、週末はお祝いパーティーね」

「……そうだね。」

 

その二人の名が売れれば売れるほど、その時が近づいてしまう。あの頭のイカレた殺人鬼は、今はまだあの大女優、『片寄ゆら』にご執心のようだけれど。

 

次に星野姉弟のどちらかが狙われないとも限らない。

 

 

カミキヒカル

 

 

この先もずっとお姉ちゃんと一緒に居るためには絶対に避けては通れない相手。星野アイの子供を彼が黙って見過ごすはずがないのだ。

 

ツクヨミは気が気ではない。彼が次に狙うのは一体……

 

・・・

 

「B小町のch100万人突破! 新星賞獲得! おめでとー!」

「「「「おめでとー!」」」」

 

苺プロのメンバーが勢揃いし、その中心でルビーがパーティーの開始の合図として元気よく声を上げる。

 

事務所は色とりどりの飾りつけでカラフルに仕上がっている。四方の壁をぐるりと囲む、折り紙の輪っかをつなげて作った長い鎖のような飾りはツクヨミ渾身の力作だ。ルビーお姉ちゃんと一緒に頑張って作りました。

 

壁の一面には大きな飾り文字で「B小町 新星賞獲得」と書かれており、ちょうど記念撮影が出来るようになっている。

 

中央の机にはミヤコが腕によりをかけて作ったご馳走が並んでいる。大人にはちょっと高級なお酒が振舞われ、ツクヨミにはファミリーレストランさながらのお子様ランチプレートだ。山盛りのご飯の頂点に旗を立てるのも忘れていない。

 

「つーちゃん、今日はMEMちょお姉ちゃんのお膝に来ない?」

「かなお姉ちゃんでも良いわよ? 私だってルビーより年上なんだから」

 

そろそろ皆が席について豪華な夕食を食べる時間。人気者のツクヨミはMEMちょとかなから熱烈な歓迎を受ける。

 

しかしツクヨミの一番はやっぱりこの人。

 

「ルビーお姉ちゃんのお膝をお借りしようかな」

「ふっふっふー。やっぱりあふれ出るお姉ちゃん力は隠せないね☆」

「くっ……! やっぱりルビーちゃんには勝てないか……!」

「ふん、私は別にかまわないけど」

「かなちゃん! おいでぇ! お姉ちゃんと一緒に食べよぉ!」

「いや別に私は……」

「じゃあいいや。社長、隣良いですか?」

いやちょっと待って

 

ツクヨミがルビーにべったりくっつき、かなには温かい視線が注がれた。まぁいつものことだ。

 

ルビーの両サイドにアクアとかな。膝の上にはツクヨミ。そしてかなの隣にMEMちょ。これが苺プロの主要タレント達のお決まりの並び順だ。ルビーが常に中心にいて、MEMちょはちょっと離れた場所から3人を見守るという関係性が見事に表れている。

 

「にーちゃん……離れないでね……」

「分かってるって。ここに居るから安心して」

 

吉住兄妹も勿論参加。妹のミミは相変わらず兄のシュンにぴったりとくっついて離れようとしない。そして本人は気づいていないがルビーとMEMちょがそんな兄妹の姿に悶絶している。ルビーならこれをおかずにご飯3杯、いや5杯はイケてしまうだろう。

 

「早く始めようぜ。こりゃあ絶対に酒が旨いぞ!」

「壱護、子供たちの前でみっともない姿見せるんじゃないわよ」

「……おう」

 

羽目を外そうとする壱護に冷ややかな視線と言葉を投げかけるミヤコ。しかし壱護が戻ってからそれなりの時間が経った今、二人の関係は以前ほど悪くないように見える。

 

B小町もアクアも順調に仕事を獲得している。会社の経営も順調でブラックな労働環境も改善された。子供は立派に育ち、長い失踪から戻った壱語を温かく迎え入れてくている。この17年間のミヤコの頑張りは報われつつある。

 

「お姉ちゃん、今日は楽しんでくれよ。ようやく世間がお姉ちゃんの凄さに気付き始めたんだ」

「アクアもね。アクアがいるからお姉ちゃんがんばれるんだよ?」

「そうだな。俺もめいっぱい楽しむことにする!」

 

そしてこの姉弟はいつも通り有り余る愛情をストレートに伝えあう。どこまで行っても星野姉弟は星野姉弟なのだ。

 

「おめでとう、B小町の皆。ささやかながら私からも祝福の言葉を贈らせてもらうとするよ」

「つーちゃんよく言えました! 偉いね!」

「それじゃあ乾杯しましょうか。」

「「「はーい」」」

「B小町ch登録者数100万人突破と女性アイドルアワード新星賞受賞を祝って……乾杯!!」

「「「乾杯!!」」」

 

社長のミヤコが音頭を取り、乾杯。

 

一介の弱小芸能事務所からいよいよスターが生まれるかという期待感に、その場にいた皆の気持ちが高揚する。

 

B小町のメンバーは勿論、苺プロでアイドルグループをやると決断したミヤコや会社の創設者である壱護、それからいつも隣でルビー他2名を応援して来たアクアからすれば、夢のような話だ。ほとんど0からアイドルグループを立ち上げ、僅か1年ちょっとでここまで来てしまった。

 

一体この勢いは何処まで続くのだろう。彼女たちはどこまで上り詰めていくのだろう。紅白出場? ドーム公演? そんな夢もB小町なら叶うのではないかと思わずにはいられない。

 

B小町に関わる者にとって、今日という日は忘れられない一日となることだろう。

 

「まったく、呑気なものだよ」

「なんか言った? つーちゃん」

「ううん、何でもない!」

 

しかしただ一人ツクヨミだけは、憂鬱な気持ちでこのパーティーを過ごしたのだった。

 




原作の情報が開示されるのはまだまだ先になりそうなのでカミキについては勝手に想像で埋めちゃうことにします。そこそこ雑に処理されるんじゃないかと思います。

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