今日はアクアが脚本を書いた映画『きっとまた会えるから』の台本の読み合わせ、その初日だ。
苺プロからは先輩とつーちゃんが出演するので、私とミヤコさんが同行することになった。予算の少ない現場だから人手があると助かるってアクアが言ってたから、お姉ちゃんとして思う存分頼られるつもり。
出来れば役者として出演したかったけどね。でも私は役者の経験はゼロだし私にぴったりの役も無いから無理だった。
ちなみにアクアとカントク、それと吉住さんは五反田スタジオに泊まってそのまま現場に向かっているとのこと。
ミヤコさんはもう車でスタンバイしている。後は私とつーちゃんが乗り込むだけ。
「つーちゃん、準備は出来た?」
「ああ、台本もちゃんと持ってるし、問題ないよ」
事務所の玄関で靴を履こうとするつーちゃんに最終確認をする。いつものB小町chの撮影と違って沢山の人が関わるお仕事だから、迷惑はかけられない。
と言ってもアクアとカントクが仕切る現場だからかなり融通は利くと思うけど。
「こっそりお菓子とかかばんに入れてないよね?」
「……私がそんな事すると思うのかい?」
一瞬間があった。これは持ってるな。
「ちょっとお姉ちゃんにかばん見せて? 忘れ物無いか見てあげる」
「必要ない。私がただの子供じゃないことは君も知っているだろう? 映画やドラマの撮影に行くのだってこれが初めてじゃないんだ。心配しすぎだよ」
「つーちゃんがこっそりお菓子を現場に持ってくのも初めてじゃないよね」
「何でそれを……!?」
「だってつーちゃんのかばんにうまい棒のカスが溜まってたんだもん。気づくよ。ほらかばんを見せなさい」
「あ、ちょ、……あぁー」
「うんうん。チロルチョコにうまい棒、それからラムネかぁ。バランスが取れたラインナップだね」
「そう思うだろう? 私が選んだ特別ラインナップさ」
「はいはい。とりあえずこれは没収ね。いつもの場所に戻しておきます」
「はーい……」
まったく、油断も隙もありゃしない。
つーちゃんのかばんからお菓子を没収し、車に乗り込む。いざ現場に出発だ。
車に揺られながら、台本を読んでみる。私も一応映画を撮影するスタッフの一人ということになっているので、アクアに言って台本を貰ってあるのだ。
「つーちゃんの出番、結構多いんだね」
「ああ、しかも男の子役だよ。主人公の幼少期の役だ」
「アクアの子供の頃の役なんだから気合入れてよね。ちゃんと出来てなかったら私がリテイクさせるから」
「流石お姉ちゃん、本当にやりかねないと思えてしまうのが恐ろしいね。でも安心しなよ。こう見えて演技には自信があるんだ」
この映画は現在の話と過去の話の二つの時間軸に分かれている。
アクアが演じる主人公の名前は
芥は子供の頃とある綺麗な女性に一目ぼれしており、その人の事が高校生になっても忘れられずにいる。身の回りの女性には目もくれず、アプローチされても「あの人」以外は考えられないと突っぱねてしまうのだ。
しかし高校で出会った女性はその一目ぼれした「あの人」になぜか瓜二つで……
というのが話の本筋。
過去の主人公の芥が「あの人」と過ごす思い出のシーンが結構長い。話の根幹になる部分だし、ここをしっかりやるから芥に感情移入出来るんだとアクアは語ってたっけ。絵コンテも沢山描いていた気がする。
要するに幼少期の芥は重要な役で出番も多いって事だ。
「つーちゃん、責任重大じゃない?」
「だから私が選ばれたってことだね」
「自信家だねー」
「神様ですから」
おお、なんと頼もしい。さすが神様。
・・・
現場には既にほとんどの役者が揃っていた。スタジオの大きな会議室に並べられている椅子はほとんど埋まっている。
「『
「同じく幼少期の
まずは先輩とつーちゃんがご挨拶。すると部屋中の視線が一斉に集まってくる。ミヤコさんがお辞儀したので私もとりあえずぺこりとしておいた。
早くアクアの所へ行かなきゃ。可愛い弟の応援に来ただけじゃなくて、一応スタッフとして仕事をしに来ているからね。まずはアクアから指示を受けないことには始まらない。
「アクア、来たよ」
「お、お姉ちゃんにミヤコさん。荷物はとりあえずここに置いといて。スケジュールとか台本とかはもう渡してあったよな?」
「うん、持ってきてるよ。私は何をすればいいの?」
「今日はそんなにやる事無いと思うから俺の隣で座っててくれ。何かあったら言うから」
「オッケー」
そうして私は部屋の端の方、全体が良く見えるポジションの席に案内された。監督の席の近くだ。偉くなった気分。
ざっと見渡してみるともう席はほとんど埋まっていて、知っている顔もちらほらある。予算を少しでも浮かせるためにキャスティングはアクアの知り合いで友情価格で受けてくれる人を募ったと言ってたから、こうなるのも当然か。
アクアは人気者だからね。みんなアクアを助けるために集まってくれてるんだ。
ララライのエースあかねちゃん、元大根のメルト君、それから東京ブレイドの舞台で見たことがあるようなないような人が数人。あの辺の人は多分ララライに声を掛けたんだろう。
その中に一人、顔と名前が一致する有名人がいた。
「ねぇミヤコさん。あの人、みたのりおさんだ」
「アクアから話は聞いてたけど……本当に出てくれるのね」
「銀行とか裁判所とか出てこないけどいいのかな?」
「別にそういうの専門じゃないわよ……確かにそのイメージが強いけど」
倍返しだ! とか、八つ当たりだ! とか、記憶に残るセリフが多い。東京ブレイドでもなんか気持ち悪いおかまみたいな役だった。そういうヤバい人の演技が好きなのかと思ってたけどそうでもないのかな?
「意外と普通の人なんだね」
「普通かというとそうでもないわ。少なくとも役者としては超一流。しかもその地位に胡坐をかくことなく面白いと思った役には果敢に挑戦し続けてる。この映画に出演するのもアクアに興味を持っての事でしょうね」
「じゃあアクアが凄いってことだね!」
「全くあなたは……でもみたのりおさんの参入に関してはその認識で間違ってないかもね。高校生がこんな規模の映画を作るなんて中々ない事だからそこに面白味を感じたんでしょう」
そういえばこの前の家族会議では苺プロから1000万円出すとか出さないとかって言う話をしてたっけ。凄い金額だ。
そんな大金を使って、これだけの役者とスタッフを集めて、色々な機材を用意して場所を抑えて……これをほとんどアクアが指揮してやりきったというのだから驚きだ。私の弟がどんどん凄い人になっていく。
そうこうしているうちに人が揃ったみたいだ。いよいよ台本の読み合わせが始まる。
「ルビー、よく見ておきなさい。貴方も将来役者としての仕事をするかもしれないわ」
「りょーかい」
言われなくたってちゃんと見るよ。先輩やつーちゃんがしっかり演技出来てるかお姉ちゃんとして見ておかなきゃいけないし、アクアが頑張ってここまで進めた企画なんだから。
・・・
読み合わせは滞りなく終了。
皆凄く上手だった。悔しいけど私がここに交ざるのは無理だろう。私の演技力じゃ逆立ちしたってこのレベルの人たちには敵わない。
その中心で自身が主役として読み合わせをしつつ演技指導もこなして見せたのがアクアだ。真剣な表情で、生き生きとしてて、大変そうなんだけどどこか楽しそう。私には引き出してあげられない表情をしてた。
ちょっと悔しい気持ちになっちゃった。お姉ちゃんでは映画の代わりにはなってあげられないんだ。
「アクア、お疲れ様。どう? 手応えあった?」
「ああ。良い感じだよ。今までやって来たどの現場よりも士気が高い。役者のレベルも文句なしだ。仕切るのは俺と監督だし、作品のクオリティを最優先に考えて自由に動ける」
「良い映画撮れそう?」
「絶対良い映画にする。撮れそうかどうかじゃなくて俺が何とかするんだ。なぁ監督?」
「ああその通りだ。良い覚悟じゃねか早熟。その調子で突き進め」
「言われなくても。監督も手ぇ抜くなよ? 俺の大事な処女作なんだから」
カントクは言葉を返さずに笑って頷いて見せた。
読み合わせで実際にアクアが作った台本のセリフが声に出して読まれる様子を見ていたら、今までなんとなく現実感がなかった「アクアが映画を作る」という事実が急にリアリティを帯びてきた。実感がわいてきた。
ああ、これがアクアの映画なんだなって。
ママは私達姉弟に道しるべを残してくれた。「アクアは役者さん?」という言葉の通り、アクアは真っ直ぐ、力強く目標に向かって突き進んでいる。多分ママもここまで頑張るとは想像できなかったんじゃないかな。
「天国のママもきっと喜んでるよ。アクアが立派になったって」
「……そうかな。確かに映画作りは頑張ってるけど、俺相変わらずお姉ちゃんに甘えてばっかりだぞ?」
「それはそれ、これはこれだよ。甘えん坊のまま立派になれば良いの」
「俺の思う立派とちょっと違うんだよなぁ」
ママ、きっと天国で見てるよね?
アクアはこんなに大きくなった。お姉ちゃんも負けてられないね。
そろそろ完結に向けて雰囲気を作っていきたい
アクアの映画がヒットしてルビーがドーム公演やってハッピーエンドが目標です。