【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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無自覚なムードメーカー

苺プロ事務所3階、B小町専用スペース。

 

お風呂から上がって部屋に入ると、既に先輩とMEMちょがお布団を敷いてスタンバイしていた。

 

「ルビーちゃん、ほらこっちこっち」

「あんたが真ん中よ。私とMEMちょに挟まれて元気になりなさい」

「とりあえず先輩の布団に入る私」

「そう来ると思ってたわ。はいここ、入りなさい」

「かなちゃん後で私のお布団にも」

「行かないわよ?」

 

ちょっとふざけて先輩の布団に入ろうとしたらそのまま入れてくれた。やっぱり気を使ってくれてるのかな? 試しに抱き付いてみるけど大人しいままだ。

 

暖かいなぁ。

 

先輩の優しさと体温で心も身体も温まっていく。やっぱり持つべきものは妹だね。あと弟。

 

「しっかし本当に元気がないのね」

「やっぱり分かる?」

「分かるわよ。抱き方が変だもの」

 

どうやら先輩は抱かれ方で私の気分が分かるようになったらしい。私が百戦錬磨のお姉ちゃんなら、先輩は百戦錬磨の妹って事か。

 

先輩の言う通り、今の私はかなり元気がない。映画の撮影が始まってから私の調子は落ちていく一方だ。

 

理由は沢山ある。

 

アクアに会えなくなって、仕事も前よりずっと忙しくて、アクアの支えになってあげるどころか慣れない撮影現場でのお手伝いだけでも結構大変で。それに、高校生になった辺りからうっすらとアクアに感じていた違和感も、ここ最近は凄くはっきり感じるようになってきてる。

 

そのことを思うとどうしても楽しい気持ちになれないんだ。

 

「ルビーちゃん、悩みがあるなら吐き出しな? お姉ちゃんがバッチリ受け止めてあげるから」

「辛くなったら思いっきりぎゅってしなさい。今日だけは髪の毛をわしゃわしゃしても文句は言わないわ。ほら来なさい」

 

MEMちょと先輩の優しさが心に沁み渡るみたいだ。これだけでちょっと元気になっちゃったかも。

 

お言葉に甘えて今日は姉妹たちを頼らせてもらうとしよう。

 

「ねぇ二人とも、聞いてくれる?」

「なぁに?」

「アクアがね、どんどん遠くなっていく気がするの。高校生になってから一緒に寝たりおやつあげる回数がちょっとづつ減ってきてるし、人前で仲良くするのなんか凄い嫌がるようになったし」

「それって普通じゃ」

「かなちゃん、ルビーちゃんは本気で悩んでるんだよ。聞いてあげよう」

「……映画作りを始めてから、いやもっと前、今日あまのドラマに出るって決まった時から思ってたんだ。役者のお仕事でアクアが困ったとき、私は力になってあげられのかなって。それが案の定ダメで。全く何にも出来ないの。アクアは私の為に先輩をスカウトしたりぴえヨンに特訓のお願いしたりしてくれたのにだよ? アクアにしてもらってばっかり」

「別に貰った分だけ返す義務があるわけでも」

「ルビーちゃん続けて? かなちゃんは静かに」

「……えーっと、つまりね? 最近アクアになかなか会えなくて、会えてもアクアは映画の事で頭がいっぱいで、私は何もしてあげられなくて……要するにお姉ちゃん力が足りないんじゃないかなって」

「そうかしら? 大したもの」

「かなちゃん一回黙って? ルビーちゃんの話聞こう?」

 

先輩が度々話を遮るものだからMEMちょがマジトーンで注意することになってしまった。なんか雰囲気とか色々台無しだよ。

 

全くこの子は……コミュニケーションの取り方がおかしいというか、ちょっと人とずれてるというか……*1

 

私はもっとしんみりした感じで、暗い気持ちを暗い雰囲気のままぶちまけたかったんだ。分かるでしょ? 感傷的って言うかセンチメンタルっていうか。辛い……分かるよ……みたいなやり取りを期待してたの。

 

それがいざ愚痴をこぼしてみたらこんな締まらない空気になっちゃって。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

MEMちょに怒られた先輩は私の腕の中でどんより落ち込んじゃってる。さっきまで私を励まそうとしてくれてたのに、立場が入れ替わっちゃった。面白いこともあるもんだ。

 

自覚してないんだろうなぁ。私、先輩のおかげで元気になっちゃったよ?

 

何を勘違いしたのか先輩は慌てて喋り始めた。先輩のつむじがすぐ目の前にあって、可愛らしい声が布団の中から響いてくる。

 

「えっと、ルビー? 私は別に茶化すつもりは無かったのよ? ただ、別に気にすることも無いって言いたかっただけなの。だって、高校生くらいになれば人前でカッコつけたくなるのは当たり前のことでしょ? アクアにしてもらってばかりって言うけど、家族間で貸し借りの計算なんてする必要も無いわ。気にするだけ無駄よ。それに何よりルビーのお姉ちゃん力は凄いって私が良く知ってる。何も悩むことないじゃない」

「でも演技のお仕事には何もしてあげられないし……」

「アクアが一度でもそんな事頼んだかしら? 絶対にそんな事しないと思うけど」

「えっ? どうして分かるの?」

「あいつの気持ちなんて手に取るように分かるわ。アクアはね、お姉ちゃんに褒めて欲しいのよ。見て見てこんなすごい映画出来たよってね。それをお姉ちゃんに手伝って貰ったりしたら意味ないでしょ?」

 

先輩の言葉は真っ直ぐ心に響いてきた。

 

アクアが褒めて欲しいのは多分ママなんだろうけど、でも言いたいことは分かる。アクアはそれを自分の力でやり遂げてこそ意味があるって思ってて、だから私に頼ろうとしないって事なんだ。

 

私は過保護すぎるあまり、アクアが苦しそうな時はいつも助けようとしてしまう。

 

でもどんな時でもそうするべきとは限らない。助けない方が良い場合もある。それを言いたいんだろう。

 

「先輩、いい事言うじゃん」

「でしょ? 見直してくれていいのよ」

「言い出すタイミングは最悪だったけどね。ああいうのは相手の言い分を全部聞いてからいうものだからね? 話を遮るのは良くないよ?」

「それについては深く反省してる。ホントに」

「まぁどうせまたやるだろうからこれ以上は言わないけど」

「それは心外」

「そんなところも先輩の魅力だと思ってるから気にしないで良いよ」

 

だって私は先輩のおかげで確かに元気になったんだから。話の腰を折るのだって、それが人を元気にするためなら何の問題も無いよね? むしろ良いことだ。

 

「まぁ何にせよさぁ、ルビーちゃんが元気になってくれたみたいで良かったよぉ。お姉ちゃん今日も安心して眠れそうだぁ」

「私もよ。ルビーがあんなんじゃこっちまで調子狂うわよ。あんた自分が思ってる以上に周囲への影響力強いんだから気を付けなさいよね」

「うん。先輩ありがとね。なんかいい感じに元気になった」

「なら良かったわ。さて寝ましょうか。ルビー、そろそろ放して」

「おやすみなさーい」

 

私が先輩を放すと思った? こんなチャンス二度となさそうだから今日はきっちり先輩を抱いて寝るよ!

 

「ちょっと! これは強引……」

「まぁまぁ、落ち着いて先輩。別に取って食おうとしてる訳じゃないんだから」

 

腕の中で先輩が暴れようとしてたけど、柔らかく抱きしめてあげてよしよしして、「お願い、今日はお姉ちゃんと一緒に寝よ? 先輩が居てくれると心強いな」って優しく耳元で囁いてあげたらすぐに大人しくなった。

 

「それは卑怯よぉ……」

「え? 何? 聞こえない」

 

先輩を抱き枕にしたらめっちゃよく眠れた。人肌の温もりって良いよね。

 

 

 

翌朝。

 

「二人とも起きろぉ。時間だよぉ」

「うーん……後5分……」

 

MEMちょの声で目が覚めた。

 

先輩はまだ私の腕の中に居て、布団の中で私にしがみついてる。昨日寝る時は背中を向けてたような気がするけどね。

 

素晴らしい寝相の悪さだ。毎日やって欲しい。

 

お布団の中で先輩の温かさと可愛さを堪能していたけど、MEMちょが起きろ起きろとうるさい。待ってお願いもうちょっとだけこの天国に居させて……。

 

「起きなさーい! 起きろぉ! 起きないとぉ、こうだ!」

 

ついにMEMちょが布団をどかしてしまった。うー寒い……冬の寒さがダイレクト……。

 

私達を起こそうと布団を引っぺがしたMEMちょだったけど、どかした布団の中を見てにんまりと笑った。分かるよ。私も今同じ気持ち。

 

「おやおやぁ? かなちゃん、随分と幸せな寝起きだねぇ」

「分かる?」

「……見ないで頂戴」

 

恥ずかしがる先輩。にやける私とMEMちょ。最高の目覚めをありがとう。

 

・・・

 

映画の撮影現場。

 

今日は出番が少ないらしく、先輩が暇そうにしていたので気になっていることを聞いてみた。

 

「ねぇ先輩」

「なに?」

「アクアの作った台本なんだけどさ、なんかつまんなくない? 地味って言うか、どこがおもしろいのか分からなかった」

「あー、ルビーにはそう感じるかもね。台本って読んで楽しむための物じゃないから読みなれてない人が読んでも面白くは感じないわよ」

「先輩は面白いと思うの?」

「まぁね。私は台本読み慣れてるから読めばどんなシーンを撮ろうとしてるのかが大体分かるわ。だから台本を普通に読み進めていくだけでも小説を読むのと同じように頭の中でストーリーが展開されていくの。この台本読んだ時だって普通に感動したわよ?」

「へぇ、やっぱり先輩ってスゴイね。私文字ばっかりの本は読まないから小説の例えは良く分かんないけど」

「オイ」

「で、どんな話なの? 見どころはどこ?」

「まぁ良いわ、教えてあげる」

 

先輩が語りだす。

 

この物語は主人公の星川芥と転校生の黒木綾音が高校で合って色々青春した末に恋に落ちて、最終的に結ばれてハッピーエンドになる話。でもただ告白して付き合いましたでは面白くないから仕掛けがあるんだって。

 

「この映画のキモはタイムリープよ」

「タイムリープ?」

「そう。時間跳躍とも言うわ。映画や小説ではよくあるギミックなんだけど、要するに登場人物が過去や未来に行くってこと。そうすることによって普通の時間軸だけじゃ起き得ない話の流れを作れるの」

 

星川芥の前に現れた黒木綾音は一目ぼれした「あの人」にそっくりなのではなく本人だった、というのが大事らしい。

 

つまり黒木綾音は過去にタイムリープしてたって事だ。

 

「物語の終盤に綾音が山で遭難して、そこで同じく山で迷ってしまったある少年と出会ってしばらく行動を共にするわけだけど……」

「なるほど、その少年が昔の芥なんだね!」

「そういう事。で、綾音は芥の想い人が過去に山で遭難した時に出会った女性だとこの時点で知っている。そこで綾音は、自分が過去にタイムリープしたんじゃないかと考えるのよ」

「でも怪しくない? いきなり過去に来たなんて。いくら映画とは言ってもなぁ」

「そこは色々頑張ってリアリティを出そうとしてるみたいね。地元には有名な神隠しの言い伝えがあるっていう設定で、幼少期の芥も神隠しに遭ったとされてるわ」

 

そういえば過去や未来に行く話ってたくさんあるけど、あんまり疑問に思った事無かったような気がする。ストーリーを考えた人はそういう所気を使ってたのかな?

 

面白ければ万事オッケーって言う方が正しい気もするけど。

 

「綾音は過去の山中で秘密の合言葉を芥に教えるのよ。で、綾音が山から帰って来て高校生の芥に再会するわけだけど、ここで綾音がその合言葉を言って芥が全てに気付くっていうのが物語のクライマックスよ」

「ここで泣けって感じ?」

「アクアはそう思って書いてるでしょうね。実際泣けるかは映画の出来次第でしょうけど」

 

なるほど、うん、大体わかった……気がする。多分。*2

 

とにかく映画撮影頑張れって事だね!

 

*1
ブーメランって知ってる?

*2
作者も良く分かってない




映画の内容を中途半端に出してしまったので大雑把に全容を書いておきました。東京ブレイドのように映画の内容を詳細に描写するつもりは今の所ありません。(というか考えてません)

連載150話に到達。もう5ヶ月近くも小説を書いています。ここまで続くとは思ってなかったんですけどなかなか終わらない。
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