【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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まだまだ続く映画製作

撮影を終え、俺はお姉ちゃんと共に束の間の休日を満喫した。

 

久しぶりに心の底からゆっくり休むことが出来たと思う。デートではちょっと有馬に嫉妬したし、DVD鑑賞では壱護さんがちょっとした爆弾発言をしてしまったがそれも結果的にはトラウマ克服を一つ克服することに繋がったし、結果オーライだ。

 

とても安らかで充実した一日だったな。

 

そして今、俺は休日の最後の時間をお姉ちゃんのベッドの中で過ごしている。お約束だ。

 

「寝て起きたらまた映画三昧だね。頑張って」

「ああ。ここまで来たら後は走りきるだけだ。公開楽しみにしててくれよ」

「うん。まってる」

 

まだまだ映画製作の作業は残っている。明日からはまた映画製作に没頭する日々が続くだろう。撮影程スケジュールはシビアではないし、素材が揃っている以上はもう大きな失敗は起きないはずだが、それでも大変な仕事には変わりない。

 

今はまだ映画の素材となる細切れの映像が手元にあるに過ぎないのだ。

 

これを繋げて一本の映像にしなければならない。必要に応じてアフレコでナレーションを追加したり特殊な映像効果を入れたりと、やらなければならないことは山ほど残っているのだ。

 

映像を作った事のある人でないと想像しにくい部分かもしれない。撮影こそが映像制作の主たる作業だと思い込んでる人も多いだろう。

 

だからこんな頓珍漢なやり取りが発生したりもする。

 

「映画はいつ完成するの? 来週くらい?」

「いや、2か月後の予定」

「え?」

「いやだから2か月後」

「え? え? 2時間くらいの動画を編集するだけでしょ? MEMちょなら4,5日くらいで……」

「いやお前な、ユーチューブの動画と一緒にするなよ。」

 

これでも映画の編集期間としては短い部類に入るんだけどな*1

 

編集は主に俺、監督、吉住さん、MEMちょをコアのメンバーとして、特殊な技術が必要な部分だけ外注するというスタイルで行うことになっている。

 

気心の知れた面子だし、俺が監督の家で昼夜を問わず作業できることもあり、作業効率は高くなるだろう。

 

トラブル等も想定したバッファを含めての2か月だ。

 

「そういう訳だからまた2か月くらい忙しくなる」

「えっと、今更だけど、アクア死なないでね?」

「ああ、そこは大丈夫だ。撮影と違って多少のミスは許される作業だからな。そこまで気を張り詰めることも無い」

「なら良いけど……」

 

怒涛の1か月を見せつけられた後の2か月作業します宣言は確かに恐ろしいだろう。これも映画製作の中身を知らない故の反応か。

 

こんなんじゃおちおち寝ても居られないだろうから、お姉ちゃんを安心させてやるとしよう。

 

「心配するなよ。要するに監督の家に籠って映画の編集するってだけだから。これまでも散々やって来たことだろ?」

「まぁ、確かに……」

「MEMちょと違って一人で作業するわけでもないんだし、危なくなったらおばちゃんが助けてくれるよ。ご飯もいっぱい食べさせてくれるしな」

「うん……うん。分かった。アクアがそういうなら大丈夫だね。でも無理だけはしないでね」

「分かってるって」

 

お姉ちゃんの安心した顔を見たら俺まで安心してしまった。そしてそのまま眠気までやって来る。

 

うとうとする俺を優しい笑顔でお姉ちゃんが眺めている。ああ、安心するな。お姉ちゃんの体温が感じられて、すぐ目の前にお姉ちゃんがいて俺を……

 

おやすみなさいを言う暇もなく俺は夢の世界に落ちて行った。

 

・・・

 

五反田スタジオ(笑)、某子供部屋。

 

映画製作におけるポストプロダクション。つまりは編集、アフレコなどの撮影後に行う作業全般を行う工程。それを行うためのコアメンバー4人が集結した。

 

俺、監督、吉住さんは企画段階から居たので今まで通り。

 

そこへ新たに加わる新メンバーがMEMちょだ。俺の人脈の中で最も編集技術に長けた人間だろう。映画に限れば俺や監督、バラエティーやドキュメンタリーなら吉住さんの方が上手いだろうけどな。

 

しかし企画、撮影、編集を一人でやって著名ユーチューバーに上り詰めた実力は本物。

 

是非力を借りたいところだ。

 

「という訳で苺プロからMEMちょを助っ人で呼んだ。映画製作は未経験だけど動画編集の技術は間違いない」

「MEMちょです。よろしくお願いします。ユーチューバーやってるので動画編集は出来ます。映画についてはさっぱりなので細かく指示をくれると有難いです」

 

ちょっと緊張気味のMEMちょ。

 

当たり前だろう。狭くて薄暗い部屋に男3人女1人。むしろ良くここまでまともに喋れてるなと感心するくらいだ。

 

「で、早熟。作業の割り振りを頼む」

「ああ。ええっと、まず俺と監督はこの部屋で作業する。いつもここでやってるからな。監督には俺から口頭で指示を出すよ」

「おう」

「で、MEMちょと吉住さんはもう一つの作業部屋で作業をお願いします。指示は直接聞きに来ても良いですけど、ビデオ通話を使えばテキストや画像も送れるのでそっちメインにしたいですね。一応編集のプランは既に書き起こしてあるので、たたき台レベルなら俺が居なくても作業が止まることは無いでしょう」

 

大雑把な作業はMEMちょと吉住さん。そして仕上げが俺と監督の役割だ。

 

指示通りの時間で映像を継ぎ接ぎしてくれればたたき台としては十分。切り替えをコンマ数秒遅らせるとか、音量を5パーセント大きくするとか、そういう細かい部分は俺が見て判断するしかなく、事前に指示の出しようも無い。

 

これで俺が居なくても作業が止まることは無いだろう。

 

何故そこまで作業が止まることを懸念しているのかというと、俺には編集以外にもやらなければならないことがあるからだ。

 

「という訳で俺はナレーションの録音に行ってきます」

「りょーかい」

「MEMちょと監督は作業開始。お願いします」

「おう」

「ラジャー!」

「吉住さんは……」

 

手早く指示を出し、俺はとあるスタジオへ向かう。

 

・・・

 

ナレーションを取るには高性能なマイクと防音室が必要だ。

 

マイクは監督の家にも苺プロの事務所にもいくつか転がっているのだが、防音室はそうはいかない。どうしても専用の部屋を借りる必要がある。

 

……母さんが生きてた頃は自宅にあったけどな。防音室。*2

 

とにかく音質というのは重要だ。

 

映画を作るうえで音質と画質、どちらかを諦めなければならないとするなら、諦めるのは画質。音質を下げる選択だけはありえない。

 

故に俺は最高の音でナレーションを録音するため、こうしてスタジオに出向き、音のプロの監修の下で収録することにしたのだ。

 

そろそろ来る時間なのだが……お、来た来た。

 

「やあアクア君。連れてきたよ」

「えと、あの、初めまして……。吉住ミミです」

 

音のプロとは吉住さんの妹のミミさんだ。

 

毎日の長時間の配信をこなす彼女はマイクの前で喋ることにかけてはアナウンサーや声優にも負けない経験値を持っている。ゲーム実況をメインに活動しているらしいが、ノベルゲームを朗読しながらプレイする企画も好評でナレーションには定評があるらしい*3

 

人気Vチューバーの実力は伊達ではない。

 

「俺のお姉ちゃん、星野ルビーとは知り合いでしたよね。俺は双子の弟のアクアです。今日はよろしくお願いします」

「あ、はい。あんまり教えるの……上手くないかもしないですけど……」

「にーちゃんが居るから大丈夫だよ。ミミとアクア君の間は僕が取り持つから安心して」

「うん。やってみる」

 

さあ、収録開始だ。

 

吉住兄妹はコントロールルームと呼ばれる各種録音機材の置かれた部屋へ、そして俺はマイクのある録音ブースへと移動。ガラス越しの吉住さんからゴーサインを貰い、録音が始まる。

 

まずは何も考えずに普通に喋ってみた。しかしなんとなく納得のいかない結果に終わってしまう。

 

演技に関しては問題ない。つい一昨日まで役に入って撮影をしていたのだからそのあたりは完璧に出来ている。

 

しかし音が納得いかないのだ。録音したナレーションを映像と合わせてみるのだが、どうしても声だけが浮いた感じになってしまう。ナレーションとは元々そういうものだが、その違和感が凄く大きく出てしまうのだ。

 

俺はコントロールルームに移動し、二人の意見を仰ぐ。

 

「まずはこの音を基に機材の方を微調整してみます。それは僕の方でやっておくのでアクア君は気にしないでください。ミミからは何かある?」

「も、もう少しだけ声を大きく……あと、マイク、からも離れた方が……」

「ミミ。マイクからはどれくらいの距離が良いと思う?」

「えっと……50cmくらい、かなぁ。アクアさん声が通るし……ここは防音室だから……」

「という訳です。アクア君、次いけますか?」

「ええ、勿論」

 

そしてこれらのアドバイスを踏まえた上でもう一度録音。すると初回の音よりも格段に良くなっていた。たった幾つかのポイントを押さえただけなのに。

 

俺は楽しくなってしまい、色々と注文を付けたり意見を聞いたりしながら何度も録音を繰り返した。

 

「もう少し耳元で喋ってるような感じにしたいです」

「マイクの種類変えて良いですか」

「別のパターンも収録しておきましょう」

 

とまぁ、こんな調子で録音しまくった。

 

当然のように予定していた時間を過ぎ、録音ブースの予約に空きがある事を良いことに時間を延長。ひたすらナレーションの音質を追求した。

 

そしてようやく録音は終了。満足のいく結果となった。

 

「今日はありがとうございました。とても助かりました」

「いえ……私も楽しかったです……お疲れ様です」

「じゃあ僕はミミを家に送ってからまた五反田スタジオに戻ります。アクア君は直接ですか」

「ええ。先に戻って待ってます」

 

さて、早くデータを持ち帰って編集しないと。

 

・・・

 

意気揚々と帰った俺だが、監督のこの一言で厳しい現実を思い出した。

 

「よぉ早熟。随分と熱が入ったらしいじゃねぇか」

「ああ。二人とも知識と経験があって助かったよ。おかげで良いナレーションが録れた」

「それは良かった。で、時間オーバーした分の費用は当然計算に入れてるんだよな? 録音ブースのレンタル費用だ」

「あー……予算には余裕を持たせてあっただろ? そこで吸収するよ」

「おう、そうか。それは結構だが、こういう事を日常的にやってるとどうなるかは分かるよな? ……資金がショートしねぇように努々気を付けるこったな」

 

監督が映画作るときだってお金の計算は割とアバウトだと思うけど……?

 

エクセルに金額を打ち込む手伝いだってやってるんだぞこっちは。監督の映画製作の金の流れなんて俺の方がかなり正確に把握してるはずなんだが。

 

とは言え、ここで反論するのは野暮ってものだ。

 

これは教育。こういう悪い癖は早いうちに直すべきだし、監督の言ってることはもっともだ。監督自身が出来てないからと言って言う事を素直に聞かなくて良いという事にはならない。

 

ここはおとなしく聞いてやるとしよう。

 

……次監督が映画作るときは絶対に口うるさく言ってやるけどな。

 

*1
多分ね。ググっても詳しい情報が見つかりませんでした。

*2
ダンススタジオがあるくらいだし多分ありますよね

*3
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