【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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初めての共同作業

「へぇ、ここが五反田スタジオの作業部屋かぁ」

 

アクたんに言われたお部屋をぐるっと見渡し、ファーストインプレッションを呟いてみる。

 

誰も居ないから返事はない。

 

私はこれから2か月くらいここに定期的に通ってアクたんの映画の編集作業のお手伝いをすることになっている。五反田さんの部屋でアクたんと五反田さんが、そしてこっちの作業部屋で私と吉住さんが作業することになる。

 

とりあえず今はアクたんと吉住さんがナレーションの録音に行っているので私一人だ。

 

部屋には壁際に長い机が置いてあり、椅子とPCが2つずつ。逆側の壁際にはカメラとかマイクとか、いろんな機材が所狭しと積まれている。作業部屋とは言うけど普段は倉庫で、この映画の為に急ごしらえで用意した感が満載だった。 

 

いやはや、センスの欠片も無いお部屋だこと。ここに2か月も通うのかぁ。

 

っと、愚痴を言ってる場合じゃないね。

 

さて、仕事仕事。

 

 

 

3日が経った。

 

相変わらずごちゃっとしたままのお部屋で吉住さんと二人きり。ほとんど言葉を交わすことなく黙々と作業を続けている。

 

「吉住さん、こここんな感じで良いですかね?」

「良いんじゃないですか。雰囲気は出てると思います」

 

たまに話す内容もこんな感じ。お仕事だなぁって思う。

 

面白い経験ではあるんだけどね。でもなんというか、物置に籠って黙ってPCとにらめっこなんて、やっぱりしんどいものがある。

 

 

 

2週間が経った。

 

作業は順調。映画の作法にも慣れてきて進捗に余裕が出てきた。

 

となれば無駄話にも花が咲くわけで。

 

「MEMさん、今度またミミとコラボしませんか? 最近コスメとか興味あるみたいで」

「ああー良いねぇ。あれ? でもVチューバーじゃお化粧出来なくないですか?」

「いやぁそれが顔出しでやってた時代の動画が掘り起こされちゃって……」

「あー前世バレってやつですね。なるほどそれで今後は顔出しのお仕事もやる感じに?」

「まぁそんなところです。それにいつまでも引きこもってる訳にも行きませんから、リハビリも兼ねてB小町やMEMちゃんねるに出させてやりたいんですよ」」

 

仕事の話じゃないかって?

 

私と()()()にとっては趣味の話だから良いの。可愛い妹達の事を考えるのが楽しくてしょうがないんだから。

 

可愛い妹を持つ者同士やっぱり通ずるものがあるみたいで、彼との話はいつも良く盛り上がる。あんまり楽しいものだから、つい時間を忘れてしまうこともあり。

 

「二人とも。お昼ご飯出来たわよ早く降りてらっしゃい。もたもたしてると冷めちゃわよ。」

「あ、もうそんな時間ですか」

「やっちゃいましたねー。午前中に終わらせたかった分がまだ残っちゃってる」

 

五反田さんのお母さんは昼の到来を知らせてくれる。毎度きっかり12時だ。

 

ついさっきまで時間あるなーと思って余裕こいてたらこのざまだ。進捗に余裕が出てきたって言ったけど、今日は遅れております。

 

こりゃアクたんに怒られるな……。

 

 

 

1か月が経った。

 

もう私は映画編集のプロフェッショナル! ……でも無いけど、結構な腕前というか、映画製作の雰囲気に慣れてきた。

 

もともと映像作るのは得意だからね。後はノリというか、温度感というか、言葉に出来ない業界独特の癖みたいなものが分かってしまえば実務1か月でもそこそこ戦える編集者に早変わりだ。

 

()()()()は覚えるのもっと早かったけどね。

 

「MEMちょも雰囲気つかんできたね。もう殆ど仕上がりってところまでMEMちょだけで出来るじゃん」

「シュン君ほどじゃないよぉ。やっぱりテレビの人ってスゴイんだねぇ」

「いやいや、こき使われてただけだって」

「言えてるぅ」

 

もともとテレビ業界の人だから映画っぽい映像の編集もやったことがあるみたい。というか彼に関してはやった事無いことを探す方が難しい。本当に何でもやったことがあるんよねぇ。

 

……そのせいで一度は壊れちゃった訳だけども。

 

でも今は妹のミミちゃん共々元気にやってる。ああ、公園で死にそうになってるシュン君の手を引いて家に押しかけたのが懐かしい。今思うと結構大胆なことしてたなぁ。

 

妹のミミちゃんにも発破をかけたし。

 

この兄妹は私が救ったと言っても過言じゃないよね。

 

「私が言うのもなんだけど、頑張り過ぎちゃだめだからね? ミミちゃん泣いちゃうから」

「そっくりそのままお返しするよ。MEMちょが倒れたらルビーちゃんとかなちゃんが泣いちゃうだろ?」

「確かに」

「その通りだねぇ」

「「あはははは!」」

 

もうすっかり仲良しです。

 

 

 

1カ月半が経った。

 

もうほぼほぼ映画は完成してる。予定よりかなり早いね。

 

いやぁ大変だった。アクたんと五反田さんのこだわりの強さがもうほんとに凄くて。

 

私だってユーチューバーとして動画のクオリティには一家言あった。普通の人が相手なら引いちゃうくらいには動画作りには情熱を燃やしてきたつもり。

 

でもね、あの二人はぶっ飛んでる。

 

「ねぇシュン君、映画作りの人って皆こんな感じなの?」

「いや、僕の知る限り五反田さんのこだわりは映画監督の中でもずば抜けてるね。勿論アクア君も」

「だよねぇ」

 

何千万円のお金をつぎ込んでるし、企画から数えれば1年以上の時間をかけている。何十人もの人を巻き込んで、いろんな機材や場所を借りて。

 

で、出来上がるのは2時間の動画。

 

コスパが悪い……何て言ったらアクたんブチ切れるだろうなぁ。まさに人生をかけてるって感じだったし。

 

そういう生き方も悪くないと思う。というかちょっと憧れる部分もある。目の前の事だけに全力投球して生きてきた私だけど、遠くの夢に向かってわき目もふらずに一直線に突き進んでいくのもありだよねって。

 

それが出来るアクたんは、きっと私にはない何かを持ってるんだろうなぁ。

 

「凄いよねぇ。こんな大きな作品を良く挫折せずに作りきれるもんだ」

「そうだね。構想から完成まで1年以上……これでも映画製作としては短い方って言うんだから驚きだよ」

「隅の隅まで考え尽くされてて、どこを見ても綺麗にまとまってて……」

「絵コンテも大量にあったし」

「凄いや」「凄いねぇ」

 

綺麗にハモった。

 

ふふふと子声で笑う私達。普段は暗い顔のシュン君だけど、ふと見せる笑顔はとても可愛いんだよねぇ……いや別に意識してるわけじゃないけどね?

 

そんな私の思考を読んだのか、シュン君が急に真顔に戻った。ほどなくして顔を赤くして無言になってしまう。私も、シュン君も。

 

すると、廊下をドスドスと歩いてくる足音が聞こえてきた。

 

「……お夕飯だねぇ」

「うん」

 

2秒後。

 

「夕飯出来たわよ。降りてらっしゃい……あらぁお邪魔だった?」

「いえいえ! お夕飯楽しみだなぁ!」

「うん! 僕もお腹減ってたんだよね!」

 

五反田さんのお母さん、そんな顔で見ないでぇ……。

 

恥ずかしい。

 

・・・

 

五反田家のご飯は美味しくてボリューム満点。

 

「おかわりいるかい!?」

「いらん」

「おばちゃん、俺山盛りで」

「私はもういいです」

「僕もお腹いっぱい……」

 

この量でさらにおかわり出来るのは男子高校生のアクたんだけだ。

 

どうもこのおばちゃん、物凄くアバウトな人みたい。そしてそれはご飯の量に限らない。

 

息子の五反田泰志さんがそろそろアラフィフであるという認識も無く、まだ食べ盛り働き盛りの年齢だと思ってる。アクたんなんかまだまだ小学生とかだと思ってるんじゃないかなぁ。

 

「アクア君大丈夫? 一人で帰れる?」

「いや、さすがにもう17歳だし。おばちゃん俺の事子供扱いしすぎ」

「あらそう? つい2,3年くらい前までこんなちっちゃな子供だったような気がするけどねぇ」

「ついにボケたか、かーちゃん」

「泰志?」

 

何と言う目力。昭和の時代を生き抜いた強さを感じる。

 

で、お母さんがお母さんならその息子も曲者なのだ。そして当然その弟子も。

 

「ここのシーンなんだけどさぁ、もう少し暗い感じの方が良いかなって思ったんだけどどうかな」

「ほう、悪くねぇな。ただそれをやるとなると……」

「ああ。全体的にちょっと味付けが変わってくる。正直どっちの雰囲気もありなんだよなー」

「ナレーションもパターンいくつか違うの録ってたよな? その辺も含めるとどうだ?」

「そういえばそっちもあったか……くそっ決めきれねぇ」

「まぁ素材が足りなくて後悔するより100倍マシだよ今の状況は。素材の取捨選択で悩めるのは撮影が上手く行った証拠だ」

「それはそうだが……」

「そういやこの前上映されたあの映画なんだが見たか?」

「見たに決まってんだろ。あれは凄かった。映画を作った今だからこそ分かる」

「そうかそうか! お前にもあの良さが分かるようになったか!」

「嬉しそうじゃん」

「たりめぇだ! で、気になってたあの映画もちょっと見てみたんだけどよ」

……

……

……以下無限に続く。

 

いやぁ、ルビーちゃんに聞いてはいたけど、そしてこの1か月半ずっとこの光景を見てきたけど、やっぱり凄い。まさにノー映画ノーライフ。

 

五反田さんって本当に映画の事しか頭に無いんだなぁ。

 

そしてその五反田さんに息子同然に育てられたアクたんもかなり染まっちゃってて……。ルビーちゃんとミヤコさんが中和してくれなかったら新たな映画モンスターが誕生するところだったね。

 

「泰志あんたそんな事ばっかり言ってると結婚出来ないわよ」

「またその話か。もう良いだろこんな年なんだし。諦めろよ」

「そうは言ってもあんたの将来が心配じゃない? 私が死んだら独りぼっちなんだよ?」

「そしたら映画作りに専念できらぁ」

「いいやごみ屋敷一直線だね」

 

今度はお母さんのターン。この話も映画と同じくらい聞いたなぁ。

 

延々と同じ話題が繰り返される食卓。それが五反田家なのだ。

 

だから私は油断してた。BGMみたいに聞き流しながら美味しいごはんを食べて、家に帰ってゆっくりお風呂に入ろうかなって考えてた。

 

いきなりだったよ。

 

「吉住君とMEMちゃんを見習いなさい」

「ブフッ」

 

シュン君が米を吹いた。私は味噌汁。

 

「あら皆大丈夫?」

「お構いなく」

「…… 泰志。夫婦ってのはね、ああやって助け合って生きていけるんだよ。吉住君とMEMちゃんも似たお仕事なんだし、あんたも見習って映画好きのお嫁さん見つけたら?」

 

どうやら五反田かあちゃんの中では私とシュン君はカップルという事になっているようで。ひょっとすると夫婦かと思ってるんじゃないかなぁ。この人アバウトだし。

 

夫婦、ねぇ……。私とシュン君が……?

 

ぷしゅー

 

「あらぁ二人とも赤くなっちゃって。若いって良いわねぇ」

「……ミヤコさんに言っておいた方が良いか? こういうのは報告する決まりだし」

「いや私から言うよぉ」

 

外堀から埋まっていく。私らの反応を見れば一目瞭然だもんね。

 

だってしょうがないじゃん! 1カ月半も気になってた男子と同じ部屋で二人きりでお仕事してたらさぁ! こうなるじゃん!

 

こう、なっちゃうじゃん……!

 

ねぇ?

 

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