「えっ!アクアドラマ出るの!?」
監督の所から帰ってきたアクアが、特大のサプライズを持ってきてくれた。アクアがついに役者としての活動を始めるというのだ。
アクアの演技を最後に見たのはいつだろう。監督の作品に端役で何本か出てたけど、それももう何年も前の話だ。
「アクアって最近役者の仕事やってなかったよね。なんで?」
「子役として有名にならないように監督から出演を止められてたんだよ。一度子役として有名になると、そのイメージに引きずられて役者として正しく評価されなくなるってな。もう俺は十分成長したってことで出演を許してくれたんだ。」
なるほど。監督もアクアのキャリアの事を良く考えてくれてるんだ。
それにしてもアクアは大きくなった。同い年の私が言うのもなんだけど、赤ん坊のころから見守ってきた身としては、ようやく子役ではない役者として活動を始めるのは感慨深いものがある。よちよち歩きで寝室から出てくるアクアの姿がまるで昨日のことのように思い出せる。うん、記憶の中のアクアも可愛い。
アクアが出演する作品は『今日は甘口で』という少女漫画原作のドラマだ。『今日あま』という呼び名で親しまれている名作で、私もアクアの部屋に置いてあったのを読んだことがある。とても面白かった。
「アクアの部屋にあったやつだよね?あれ面白かったー。」
「勝手に人の部屋のマンガ読むなよ。」
「いいじゃん別に。アクアもお姉ちゃんの部屋に来て良いからね?一緒に寝てあげる。」
「今日はいい。」
「あんたたち・・・。相変わらずね。」
今日も今日とて私達姉弟は仲良しだ。
「で、アクアは何の役なの?」
「最終話に出てくる悪役みたいよ。」
悪役か。お姉ちゃんとしては、正直あまりそういう役はやって欲しくない。アクアに悪いイメージが付いたら困るからね。まあアクアと監督が良いというなら良いんだろうけど。
「ネット局のドラマだから今見れるわよ。」
ミヤコさんがパソコンでドラマの内容を見せてくれるという。さっそく家族3人でドラマの鑑賞会が始まった。
『人間は嫌い。だって皆自分の事しか考えないから。』
『オマエソンナカオシテテタノシイノ?』
『ナンダワラエバカワイージャン』
『からかわないで』
『オレノオンナニテヲダスナ』
『ハッナンダテメエ』
『けんかはやめてー!』
パタン・・・
あまりの出来の悪さに、ミヤコさんはパソコンをそっと閉じる。
沈黙に支配された部屋の中で、3人が顔を見合わせる。どこから突っ込んでいいのか分からないけどとにかく酷くて、なんの感想も出てこない。
「『今日あま』ってこんな作品だったっけ?」
「概ねこんな感じじゃなかったかしら?」
ミヤコさんも自信なさげに答えている。何とか作品を擁護しようと頑張ってはいるが、さすがに無理がある。私が読んだ今日あまはこんな感じじゃなくて、もっと面白くて心温まるような、すごい作品だったはず。私の思い出を返して欲しいよ。
原作に居ないオリキャラ、尺の都合で意味不明に継ぎ接ぎされた展開。そして何より、役者の演技がひどかった。演出とかはしっかりしてるからギリギリ見れないことはない。でもさすがに、これを今日あまと銘打って放送するのはどうかと思う。それくらいひどい出来だった。
「なんていうか・・・ひどいね!」
「ルビー、ストレートに言い過ぎよ。」
嘘偽りのない、素直な感想と言って欲しいね。真っ当な評価だ。
そして気になった点がひとつ。
「ていうかロリ先輩ってさ、もっと演技上手くなかった?」
子役時代の演技を何度か見ているが、もっと上手かったはず。ロリ先輩は仮にも天才と呼ばれたこともある女優だ。今日あまにおける演技は素人目に見ても彼女が期待されるレベルの演技ではなかったように見えた。
「お姉ちゃんには分からないかもしれないけど、ちょっと困った事情があるんだよ。」
「なにそれー。」
アクアには事情とやらが分かっているみたいだった。なんだかロリ先輩とアクアだけが知ってる秘密があるみたいでいい気分はしない。私は演技の事は分からないし、アクアみたいに頭も良くない。役者のお仕事でアクアが困ったとき、私は力になってあげられるだろうか?
これからアクアは役者として活躍の場を増やしていくんだろう。私の知らない世界で活躍するアクアを想像すると少し寂しい気持ちになる。
「問題のある現場ね・・・面白そうじゃん。」
原作漫画を片手に呟くアクアは、まるで面白いパズルゲームでも見つけたような顔をしている。
アクアは今、何を考えているんだろう。
アクアのお姉ちゃん離れが始まる予感。
いつまでもべったりだと面白くないからね。手始めに重曹とイチャイチャさせてお姉ちゃんの反応を見よう。