【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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ライブツアーはダイジェストでお送りします。


B小町サマーツアー2033

今日は夏のライブツアー初日。

 

レンタカーの助手席でスマホ片手に道案内をしつつ、隣で運転する壱護とこれからの予定を再確認する。

 

「夏休みの期間中、つまり今日から8月31日までで全国8箇所を周る。スケジュールは概ね2日ライブやって3日間が移動と休憩だ。これが大体40日間続く」

「皆、体調管理だけはしっかりね。ツアー中は絶対に調子を崩さないこと。良いわね?」

「「「はい!」」」

 

後ろの座席に座るのはB小町の3人とアクア、そして吉住さんだ。万全の態勢で臨むべく、苺プロの中でもB小町に近しい人間からメンバーに同行するスタッフを選んだ結果がこれ。

 

勿論他のスタッフも連れてきているし現地で合流するスタッフも山ほど居る。

 

「いやぁ、今日と明日は満員御礼だってぇ。嬉しいねぇ」

「ねぇ先輩。まんいんおんれーって何?」

「ライブ会場の客席が満員って事よ。チケットが売り切れたからそういう言い方になってるんでしょ。まぁ実際はチケット買っても来ない人も居るわけだし会場に集まってみないと分からないからあんまり軽率に言うべきじゃないけどね」

「どちらにせよ凄いことですよ。今日の会場は今まででも一番大きな会場ですからね。それが満員になった訳ですから物凄い人数ですよ」

「すごいね! テンション上がって来たーっ!」

 

有馬さんの言う通り、『B小町サマーツアー2033』*1と銘打って売り出した各種チケットはあっという間に完売。私も壱護も予想しない程のスピードで売り切れていった。

 

予想外の反響の大きさに苺プロ全体が大慌て。ルビーははしゃぎまわるし、メムさんはやっぱり号泣するし、有馬さんはそんな二人につられて泣き笑いして、混乱を収拾するのには骨が折れた。その他のスタッフもそれ以来浮ついた様子。

 

その後もライブは何度か開催。以前よりも大きな会場で、このライブツアーを見据えた構成のパフォーマンスをこなして来た。

 

仕事は順調。チャンネル登録者数も200万人を超えた。世間はB小町を見てくれている。

 

ライブツアーのチケット売り上げの状況も踏まえて、来年末のドーム公演も開催の方向で進んでいる。本当に奇跡のような話だけど、それが今のB小町が置かれている現状だ。

 

「お、見えてきたぞ。あれが最初のライブ会場だ」

「うわー大きいね!」

「浮かれてる場合じゃないわよ。それだけ沢山の人に見られるんだから、半端なパフォーマンスは許されないわ」

「その通りだけど、楽しむのも重要じゃない?」

「お姉ちゃんなら大丈夫だろ。有馬もMEMちょも実力つけてるし、文句言う奴なんて居ない」

「そうですね。チケットの売れ行きから見てもこの会場でパフォーマンスをするに相応しい人気があるって事ですよ。心配はいりませんって」

 

見えてきたのは北海道立総合体育センター。キャパは8000人。東京ドームが55000人だから、その7分の1程度の規模になる。

 

本当に大きな箱だ。この子達が浮かれるのも無理は無い。

 

まぁ、プロとしてそこはきちんと仕事に励んでもらわないと困るのだけど。

 

「ほら皆静かにしなさい。今日はゆっくり休んで明日に備えるのよ」

「「「はーい」」」

 

さて、気を抜けない夏が始まるわね。

 

・・・

 

怒涛の日々だった。

 

息つく間もなく次から次へと状況が変わる。たった1ヶ月とちょっとの期間が3ヶ月にも半年にも感じられる程濃密な時間だった。

 

初日、二日目と北海道でのライブは大盛況。B小町は過去最高の観客動員数のライブを見事に成功させて見せた。精神的にも肉体的にもハードな2日間だが、翌日休んでその次の日にはもう移動だ。

 

次の会場はセキスイハイムスーパーアリーナ。ライブで少しトラブルもあったがつつがなく終了。メンバーに多少の疲労感は見られるものの、慣れの問題だろう。

 

三か所目、長野ビッグハット。四か所目、横浜アリーナ。

 

続いて名古屋レインボーホール、大阪城ホール、広島グリーンアリーナ、マリンメッセ福岡。

 

約40日間かけて北は北海道から南は福岡まで、日本全国の会場でライブを成功させて見せた。

 

次から次へと大規模ライブの準備や実施や後片付けのとりまとめに奔走する毎日。旧B小町での経験がなければここまでスムーズには行かなかっただろう。メンバー間の仲も良く、無用なトラブルが一切起きなかったのも大きい。

 

メンバー同士が互いの体調を心配しあい、気分が乗らなければレクリエーションをしたりと、メンバー間で上手く心身のコンディションを保ってくれた。

 

誰かの衣装がゴミ箱に捨てられるような事態は起きようもない。

 

とにかく全員でこのツアーを乗り切ろうと日々格闘するメンバーたちには私の方が元気づけられたくらいだ。

 

ある時メムさんが夜中に起きてきて、私と晩酌したことがあった。

 

「社長……私、夢を見てるんでしょうか? こんな可愛い妹達と毎日のように大きなライブをやって、大勢の人の前で歌って踊ってコールされて……正直これが現実だと思えないんですよね」

「気持ちは分かるわ。私ですらちょっと上手く行きすぎて怖いと思ってるくらいだから」

「でもそれだけのポテンシャルはあるって信じてたからここまで突っ走れるんですよね」

「そうね。あなた達3人はアイさんにも負けない魅力を持ってるわ。傍で見てきた私には分かる」

「あはは。そういって貰えると嬉しいです」

「お世辞じゃないからね?」

 

今のB小町はかつてアイさんが居た頃のB小町にも負けていない。はっきりそう言えるほどの魅力と実績を持っている。

 

傍で見てきた私が保証する。

 

「そろそろ寝なさい。明日は移動だから疲れるわよ」

「そうですね。おやすみなさい」

 

ルビーと有馬さんの待つ寝室に帰っていくメムさんは幸せそうな表情だった。

 

私と壱護は毎日遅くまでホテルで仕事。

 

ライブ中であっても本社からの連絡が止まるわけではないし、社長の私や壱護でないと判断できない案件もある。ライブツアーの事だけを考えれば良いというものではなかった。

 

でもツアーの興奮に比べればそんなのは些末な事。

 

浮かれ過ぎたのか、大阪のホテルではついに壱護が酔いつぶれて翌日の仕事を休む事態にも発展したりもした。

 

「最高だなぁ! どこもかしこも満員御礼! 大盛り上がりじゃねぇか!! 今日も相変わらず酒がうめぇな! がははっ!」

「その辺にしときなさいよ。明日も昼からリハーサルでしょう?」

「あーそうだったそうだった。お前も飲むか?」

「話聞いてる? やめなさいって言ったのよ?」

「がーっはっはっは!!! ……っぷはっ、うんめぇなぁ!」

 

無理やりにでも止めなかった私も共犯なんだけど。

 

でもこんなに幸せそうにお酒を飲む壱護を見るのは、かつてB小町がドーム公演をする直前、新居祝いに酒をふるまったあの日以来の事。幸せだったあの頃の記憶がフラッシュバックしてしまい、どうしても水を差す気にはなれなかった。

 

まぁ、壱護が目覚めたら思いっきり叱ってあげたけどね。ルビーとアクアも一緒に叱ったら凄く落ち込んでた。

 

ざまぁ見なさい。

 

最後の会場に移動するころにはすっかりこの生活にも慣れてきたようで、メンバーからは終わるのがもったいないという声が聞こえるようになった。

 

「先輩、MEMちょ、私このツアー終わって欲しくない」

「私も同じ気持ちよ。世のアイドルやアイドル志望の女の子たちが夢に見た仕事を今まさに私たちはやってるんだから」

「そうだねぇ。私も正直引退までにここまでこれるなんて想像もしてなかったからさぁ、毎日が夢みたいなんだぁ。本当にB小町に入ってよかったと思ってる」

「MEMちょは最近そればっかりね。気持ちは分かるけど」

「先輩だって嬉しそうじゃん。もう誰が見ても一流のアイドルだし、今の先輩は最高に輝いてるよ」

「それを言うなら私達全員でしょ。3人でB小町なんだから」

 

最後の何日かはずっとこんな雰囲気。全員が同じ方向を向いて、同じ気持ちを共有して、アイドルとして高みに上り詰めたことを誇りに思ってくれている。

 

傍で聞いていた私は涙を堪えるのに必死だった。

 

・・・

 

全てを終え、自宅に帰ったのが8月31日。

 

「じゃあメムさん、おやすみなさい」

「お疲れさまでしたぁ。ではまた明日」

 

玄関の前でメムさんと別れ、家族4人で帰宅した。皆へとへとに疲れ切っていているけど表情は満足気だ。

 

玄関を開け、ルビーが呟いた。

 

「帰って来たね」

「そうだな、お姉ちゃん。本当によくやりきったよ」

 

アクアの働きも凄かったけどね。ライブの観戦だけは外せないと言ってパフォーマンス中は観客席に行ってしまったけど、それはご愛嬌。

 

楽しんでくれたみたいで嬉しいわ。

 

「さ、お風呂に入っちゃいなさい。明日は学校でしょ? 早くご飯食べて寝なさいね」

「「はーい」」

 

流石に夕食を用意する時間も気力もなく、宅配ピザを注文し、ちょっとしたパーティーのような感じで夜を過ごした。何となくしんみりした雰囲気になってしまったが、それも仕方のない事だろう。

 

あまりに充実した40日間だったのだから。

 

「「おやすみなさい」」

「おやすみ。疲れたからって寝坊するんじゃないわよ」

「「はーい」」

 

ルビーとアクアを先に寝かせ、8月最後の夜を壱護と過ごす。

 

取り出すのはちょっと高めのお酒とお揃いのグラス。お互い少し年を取って落ち着いたのか、酒の趣味も部屋の雰囲気もあの頃とは少し変わった。

 

でも胸の中にしまい込んでいた情熱だけはあの頃と全く変わらない。

 

「ミヤコ、やっと見えてきたな」

「そうね。もうはっきりと見えてる」

「決まりだ。来年の12月、アイがドームに立つはずだったその日に、B小町はもう一度ドーム公演をやる。次は絶対に成功させるぞ」

「ええ。絶対に」

 

グラスを軽くぶつけ、一気に飲み干した。

 

ライブツアーの余韻に浸れるのもきっと今日だけだろう。明日からはまた激動の日々が待っているはずだ。このツアーでさえ、私と壱護にとっては通過点でしかないのだから。

 

14年前、一度は手が届いたあの場所に、再び手をかける時が来た。

 

後はそこめがけて突き進むだけだ。

 

*1
推しの子は未来の話らしいです。考察した方がネットに居ました。




全国各地のライブ会場調べるの面倒だったので嵐のライブツアーを参考にしています。
本当は11か所あったのですが夏休み期間に回った会場が8か所だったので適当に8か所ピックアップして北から順に回ったことにしてます。
どれも8000~12000くらいのキャパです。東京ドームはその5倍あります。さすがに大きいですね。

北海道立総合体育センター
セキスイハイムスーパーアリーナ
長野ビッグハット
横浜アリーナ
名古屋レインボーホール
大阪城ホール
広島グリーンアリーナ
マリンメッセ福岡
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