【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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あかねの夏休み

少し前のある日の事。

 

「B小町サマーツアー2033……!? これは……行くしかないっ!!」

 

日課として行っているB小町のオフィシャルサイトの巡回。ある日私が見つけたのはB小町が夏休みを丸ごと使った長期のライブツアーを実施するという知らせだった。

 

かなちゃん擁するB小町が、初の全国ライブツアーを行うという。

 

私は居てもたってもいられず既に入っていた夏休みの予定を全てキャンセルした。そこそこ大事な予定もあったような気がするけどそんなことはどうでもいい。一番大事なものを見失ってはいけないのだ。

 

友達との旅行? 演劇サークル? ドラマの撮影? とんでもない!

 

かなちゃんの晴れ姿を見に行くんだ!

 

幸いなことに主演級やそれに準ずる役の仕事は無く、ララライで声を掛ければすぐに代役は見つかった。これで大事な映画の撮影なんかがあったりしたら、私は血涙を流して悔しがっていただろう。

 

ライブの日程を確認し、ライブで歌って踊るかなちゃんを思い浮かべてはベッドの上をのたうち回る。今年の夏はずっとかなちゃんを追いかけるんだと思うと冷静ではいられなかった。

 

「まっててねかなちゃん……うふふふふ」

 

そういえば彼はどうするのだろう? やっぱりお姉ちゃんと一緒に全国を回るのだろうか? 一ヶ月以上の長期にわたってあの二人が離れ離れになるとは考えにくい。

 

たった三日の宮崎旅行でさえ留守番は無理と言っていたほどだ。

 

私としては夏の間ずっとかなちゃんを追いかけながらアクア君と二人で過ごすのも良いかなーなんて思ってるけど。

 

その日の夜、いつものようにアクア君に電話。

 

最近引っ越して新しくなった部屋の背景と共にアクア君が画面に映る。今日はルビーちゃんも一緒だ。

 

「あ、もしもしアクア君?」

「おう、あかね」

「あかねちゃんこんばんはー」

「ねぇ聞いたよ? B小町が全国ライブツアーやるんだって?」

「そうなの! 凄いでしょ!?」

「アクア君も付いていくの? よければ私と一緒にライブ観戦とか……どうかな?」

「ああ……悪い。俺もスタッフとして同行するんだ。40日間一度も家には帰らない予定になってる」

「そうなんだ……。じゃあ現地で集まるのは?」

「それなら良いんじゃないか? ミヤコさんに言ってライブ観戦だけできるよう頼んでみるよ。あと、あかねは関係者ってことで招待できると思うからチケットは買わないで良いぞ。行きたい会場があれば教えてくれ」

「全部」

「え?」

「だから全部」

「……分かった、手配しておく」

「うん、ありがとね。あーあ、アクア君と夏の間ずっと旅行とか、やってみたかったけどなー」

「へへーん。アクアは私が連れてっちゃうからね! 残念!」

「いいもん。私も付いていくから」プクー

「あかね?」

「いや、何でもない。じゃあ約束だよ」

「ああ。待っててくれ。じゃあお休み」

「お休みなさい」

 

通話停止ボタンを強めに叩いて通話を切った。

 

ちょっとルビーちゃんの物言いにカチンと来ちゃったなぁ。いつもならこんなことはしないけど、仕方がないよね。ルビーちゃんがその気なら私だって……

 

私を甘く見ないで欲しいかな。

 

私は慣れた手つきでPCを立ち上げ、検索窓に思いつく限りのワードを打ち込んで情報を集め始める。大丈夫、何度もやって来たことだ。それを今はアクア君の為にやれば良い。

 

「会場の一覧はこれか……。今苺プロを仕切ってるのは壱護さん。性格上恐らくスケジュールとかの細かい仕事はミヤコさんに任せてる。となると宿を決めてるのはミヤコさんと見ていい。そうなるとかなちゃん達が泊る宿はミヤコさんの性格上……」

 

殆ど無意識で付箋を手に取り、情報書き込んでいく。

 

ペタ……ペタ……

 

      斎藤ミヤコ 

  社長という立場を強く意識     几帳面で真面目  

アイ殺害事件   セキュリティー      

      トラウマ     経験のない規模   

旧B小町のスタッフが残ってる?           

仲の良い3姉妹 

     部屋数       スタッフの凡その人数

 追っかけが狙いそうなところは避ける?  

          私の事じゃん

会場までの導線           

     会場からの距離

 

 

気づいたときには宿の一覧が出来上がっていた。

 

部屋の壁一面に付箋が張ってあって、時計を見ると結構な時間が経過してて。我ながらなんてことにプロファイリング能力を使ってしまったんだろうと思ったよ。

 

まぁきっちり宿は取りましたけど。

 

厄介ファン? 確かにその通りかもしれない。でも一応全員知り合いなわけだし、多少は大目に見てくれると思う。

 

何なら仕事を手伝ってあげたいくらいだ。

 

……かなちゃんの付き人とかね。

 

「ふぅ。久しぶりにプロファイリングに没頭しちゃったなぁ。でもこれでアクア君とかなちゃんに現地のホテルで会えるかも」

 

なかなかの満足感だった。

 

そんなことがあったのが一カ月半くらい前のことだ。あれからずっと、今日という日を首を長くして待っていた。今日がかなちゃんとアクア君を追いかける旅の出発日なのだ。

 

そう、今から出発だ。

 

玄関で大きなキャリーケースを再度開いて中を確認、問題なし。白のペンライトも予備を含めて4本用意。電池も沢山。『末っ子ちゃん』の文字とかなちゃんの可愛いイラストがプリントされたうちわ、『なでなでぎゅーっTシャツ』といったライブ用の装備も忘れない。

 

「B小町サマーツアー2033のチケット全て購入。よし」

「宿の予約も問題なし」

「時間よし」

 

準備は万端。さて、最初の会場に向かうとしよう……

 

・・・

 

という訳で遠路はるばる北海道までやってきた。

 

流石は北海道。夏と言えども涼しく過ごしやすい。今の気温は20度。夜にはもう少し冷えるだろうし、これならライブもやりやすいだろうなぁ。

 

まずは最初のホテルにチェックインだ。

 

スマホの地図を頼りにホテルを目指し、フロントへ。私の読みが正しければ今はアクア君達がリハーサルの準備をしに会場へ向かう時間だ。運が良ければここでアクアとかなちゃんに会えるかもしれない。

 

そんなことを期待しながらチェックインの手続きをしていると、ホテルの奥から良く知る人物が。

 

……ビンゴ!

 

「……は?」

「あ、アクア君。奇遇だねこんなところで会うなんて」

「いや、この宿お前に教えて……」

「偶然だよ。会場に近くてアクセスの良い宿を選んだだけ」

「まぁそれなら良いんだが」

 

ごめん、本当はここに来るって予想してたしアクア君に会う気満々だった。

 

続いて続々とB小町メンバーとその関係者が出てくる。皆一様に私を見て驚いている様子だった。そんなにおかしいかな? 私がライブに来ることは想像できるだろうし、()()()()()()()

 

そんなB小町関係者の中で、強く非難の視線をぶつけてきたのがかなちゃんだ。仁王立ちで腕組みをして、可愛いお顔で精一杯私の事を睨んでいる。

 

いいよ! もっと視線下さい!

 

「黒川あかね。アンタまさか私達の事つけて来たんじゃないでしょうね?」

「偶然だって。私はただライブを見に来ただけ」

「ああ。一応俺も一緒に見る約束してるんだ。まさか同じホテルに泊まるとは思わなかったけどな」

「奇跡だよねー」

「ま、邪魔だけはしないでよね。じゃあ私たちは行くわ。さよなら」

「行ってらっしゃーい」

 

早速かなちゃんのオフに立ち会えた。幸先の良いスタートだ。

 

・・・

 

ライブ開始直前。

 

私はアクア君と一緒に関係者専用の席に居た。

 

装備はばっちり。うちわにペンライトにTシャツ。どこからどう見ても末っ子ちゃん推しのB小町ガチ勢にしか見えないだろう。人が多いからかなちゃんからは見えないかもしれないけど、全力で応援するつもり。

 

アクア君はシンプルにB小町Tシャツと3本のサイリウム。相変わらず箱推しだ。

 

「あかねも随分とアイドル文化に染まったよな……」

 

私の格好を見るや否やアクア君が呟いた。彼氏としてはあんまり良く思ってないですという気持ちが声と表情からにじみ出ていた。苦々しい。

 

そんなにおかしいかなぁ? かなちゃん可愛いから仕方がないと思うんだけど。

 

「逆にアクア君はなんでそんなにあっさりしてるの? 昔からアイドルオタクなんでしょ?」

「大事なのは装備じゃなくて熱量だから。気持ちなんだよ」

「それはそうだけど、やれるだけの事はやらないとって思わない?」

「あかねののめり込み方はちょっと異常だろ」

「かなちゃんが可愛いのがいけない」

「まあ楽しいなら何でも良いか。俺もお姉ちゃんに関しては人のこと言えないしな」

 

理解のある彼氏で本当に助かってます。いやむしろこの道に誘ったのはアクア君だから、私が理解のある彼女なのかな?

 

アクア君の事はなんでも受け入れるつもりだよ。もちろんお姉ちゃんの事も含めてね。

 

「さて……もうすぐ始まるな」

「そうだね」

 

静かにステージを見つめる。さすがに会場が大きいこともあり、関係者席といえどステージとの距離はそれなりにある。必死に目を凝らさないとかなちゃんの表情が確認できないくらい。

 

やがて会場の照明が落とされ、カウントダウンが始まった。

 

「5!!」

 

「4!!」

 

かなちゃん、ルビーちゃん、MEMちょの声が会場に響き渡る。会場に集まった何千もの観客にも負けないような、元気でエネルギーに溢れた声。

 

「3!!」

 

どこに居るんだろう。早くかなちゃんの姿を見たい!

 

「2!!」

 

ライブの演出に呑まれ、あるいは自らのめり込み、気分が高揚していく。お祭り騒ぎが始まる直前の期待感で胸が高鳴る。ライブ特有の熱量。これが私をおかしくしてしまう。

 

「1!!」

 

次のカウントで、かなちゃんとご対面!

 

「0!!」

 

暗闇から一転、ステージが眩しく照らされ、その中心にB小町の3人が現れた。センターは勿論かなちゃんだ。

 

ライブが、始まった。

 

「かなちゃん! かなちゃん! かなちゃーん!!」

「お姉ちゃーん! 有馬ー! MEMちょー!」

 

 

 

……ここから先私がどんな様子でかなちゃんを応援していたかは、詳しくは語らない。というか、自分でも良く分からないので語れない。

 

アクア君に後で聞いたところによれば、「エンジョイしてた」とのこと。

 

この一言でおおよその想像はつくと思う。

 

ひたすらかなちゃんって叫んで、ペンライトを振り回して、うちわを掲げて。曲の合間にはアクア君と感想を言い合ったり、かなちゃんと目が合って眩しい笑顔に脳を焼かれたり。

 

B小町が私の期待通りのパフォーマンスをしてくれたことだけは確かだった。

 

「お疲れ。あかね」

「アクア君こそお疲れ。お仕事頑張ってね」

「ああ。お姉ちゃんをしっかりサポートしてくるよ」

()()()()()()()()()()

「……ああ。そうだな」

 

ライブが終わればアクア君はお仕事に戻り、私は宿で一休みだ。ライブで消耗した体力をしっかり回復し、翌日以降のライブに備える。

 

長丁場だからね。バテないようにしないと。

 

かといって一つ一つのライブで手を抜くわけにもいかないのが難しいところだ。かなちゃんの応援にペース配分などあってはいけない。常に全力で応援しなきゃいけないんだ。

 

いや、言い方を間違えた。かなちゃんの笑顔を前に力のセーブなんてできない。どうしても叫んじゃうし、飛び跳ねちゃうし、ペンライトやらうちわやら髪の毛やらを振り回してしまう。

 

これもかなちゃんの魅力だね。

 

こんなのが40日も続くのかぁ。ライブツアーを追いかけるのって大変だなぁ。*1

 

・・・

 

7つ目の会場、広島グリーンアリーナではちょっとした事件があった。

 

既に6つの会場でライブを観戦しその度にホテルを転々としていた私は、チェックインの手続きも慣れたものだ。広島のホテルに素早くチェックインし、部屋に荷物を置いて次の5日間を快適に過ごす準備を整える。

 

そしてホテルの施設を把握する……と見せかけて徘徊し、B小町関係者との邂逅を待つのがルーティンだ。

 

部屋に用意されたスリッパを履き、あてもなく歩き回る。

 

しかしいくらホテルを徘徊すれどもかなちゃんやアクア君は愚か、苺プロの関係者の姿さえ見えない。これまで6つの全てのホテルでビンゴだったのに、もしやここにきて外してしまったのだろうか?

 

そこへ電話がかかってきた。アクア君から。

 

「おい、あかね。今どこだ? 今日広島に到着するんだよな? お前の姿が見えないんだが」

「え? もうホテルについてるよ? 今エントランスにいる」

「なるほど、あかねの推理にもミスはあるんだな」

「あ、外しちゃった感じ?」

「だな」

 

パーフェクトを目指して予想した宿泊先のホテルだけど、一か所だけ外しちゃいました。

 

それだけがちょっと残念な夏休みでしたとさ。

 

*1
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