有馬のやつ、気合入った格好してたな。
咄嗟に仕事の話でごまかしたけど、ドレス姿の有馬が可愛すぎて思わず見惚れてしまった。気づかれてなきゃいいんだが。お姉ちゃんが居たら絶対なんか言われてたところだ。
「やぁやぁ最終回評判だったよ。作品の収益的にはキビかったけど、君みたいな才能に機会を与えることが目的だから、それは達成できたのかな?」
「ああ、鏑木さん。そう言ってもらえると嬉しいです。」
到着早々、プロデューサーの鏑木さんが話しかけてきた。どうやら俺、狙われてたっぽいな。まあ、自分で言うのもなんだが結構いい仕事をしたと思っている。最終回の評判は良かったし、あの状況でやれるだけのことはやった。
監督の言う通り、周りを巻き込んで作品のレベルを底上げする役回りが俺には似合っている。
「さすがあの五反田監督が自慢するだけのことはあるね。現場に出すのはもう少し先って話だったから、有馬君が君を引っ張ってきたときは驚いたよ。」
「俺の事知ってたんですか?」
「ああ、五反田君がよく自慢してたよ。顔良し演技良しで頭も回る、裏方の知識まで持ってる凄い役者を育ててるってね。なんでも、小さいころから彼の息子同然に育てられてきたそうじゃないか。」
「ええまあ、監督は父親のような存在ですけど。まさかそんな自慢されていたなんて知りませんでしたよ。」
「五反田君とは昔からの知り合いでね。彼の映画のキャストを見繕ってあげたことも何回かある。本物にこだわるクリエイター気質あふれる男で面倒なところもあるが、出来上がる映画作品の質は確かだ。
さすが彼が手塩にかけて育てただけのことはある。今回のドラマでは本当にいい仕事をしたよ。
・・・君が来ると知っていたら、もっと良い現場に入れてあげたかったけどね。」
「急な話だったので仕方ないですよ。それにあの現場、なかなか遣り甲斐がありました。」
「それなら良い。しかし、周りに先んじて五反田君の秘蔵っ子とこうして繋がりを持てたのは幸運だった。今後もよろしく頼むよ。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
どうやら監督は俺を業界のお偉いさん方に売り込んでくれていたみたいだ。何から何まで本当に世話になっている。監督もそれだけ俺の育成に本気ってことだろう。その恩に報いたい。
さしあたり、俺にできることは監督が作ってくれたコネを無駄にしないことだ。幸いなことに、鏑木さんは俺に期待してくれている様子だ。ここはおとなしく鏑木さんの話に付き合おう。こちらから何か仕掛けたところで、悪い印象を与るリスクの方が大きいだろうからな。
「しかし打ち上げパーティーにジャージで来るとはねぇ。五反田君を尊敬するのは良いけど、そういうところまで彼に染まってしまうのは良くないよ。彼はクリエイターとしては一流だけど、人としてはあまり褒められたもんじゃない。君ももう高校生になるんだろう?いい加減大人になった方が良い。」
・・・なんで俺ジャージなんて着てきちゃったんだろうな。完全に失態だ。ちょっと考えれば業界の偉い人に会うことくらい想像できただろうに。監督に染まってんのかなぁ、俺。
「有馬君を見てごらん。今日の衣装は気合が入っていてとても綺麗だね。何度か仕事に呼んでいるが、あそこまで着飾る彼女は初めて見たよ。なんでか分かるかい?」
「10年ぶりの大仕事と言ってましたからね。次の仕事に繋げるために人脈づくりに精を出しているんでしょう。貪欲に仕事を獲りに行く姿勢は俺も見習いたいですね。」
「・・・うーん、なるほどね。」
鏑木さんの表情が少し深刻になる。マズいな。何か失言があったか?
この業界で初めてお近づきになれたお偉いさんだ。監督の根回しを無駄にしないためにも、ここで彼に嫌われるわけにはいかない。
「恋愛リアリティショーに興味はある?」
「いえ、あまり詳しくは知らないですね。見ることも無いので。」
「人生経験を積むのも大事だよ。恋愛は人を変える。君のような子供が、たった一度の恋で見違えるほど大人の雰囲気に変わることもある。五反田君はこういうとこ疎いから、僕からのアドバイスだ。
ここはひとつ、僕に貸しを作ると思って出演してみないか?芸能活動をしている容姿の良い高校生を探してるんだ。」
「そうですか・・・」
恋愛か。前世の記憶も含め、あまり深く考えたことはなかったな。鏑木さんの言う通り監督は恋愛に疎いし、学校ではお姉ちゃんが鉄壁のガードになって女子が近づけない。俺はそんな事望んでないのだが。
良い機会なのかもしれない。俺だって年相応に恋愛には興味がある。お姉ちゃんが居なければ今頃彼女の一人や二人いたっておかしくないはずだ。恋愛リアリティショーなら、大手を振って恋愛が出来る。役者としての成長にも繋がる。
そして何より、ここでオファーを断れば鏑木さんとのパイプが無くなるかもしれない。
「分かりました。出演させてください。」
「決まりだな。良い恋愛が出来ることを祈ってるよ。もちろん君の演者としての手腕にも期待してる。良い番組にしようじゃないか。」
こうして俺は恋愛リアリティショーへの出演を決めたのだった。
・・・お姉ちゃんになんて報告しようか。
一足先に大人の階段を上った有馬かなに対し、まだまだお子様なジャージ姿の星野アクア。
大体お姉ちゃんと監督の教育のせい。
鏑木P 「五反田君の秘蔵っ子に唾をつけておこう。」
アクア「今日の有馬気合入ってるな。なんでだろ。」
鏑木P 「恋をしなさい。」
↑この内容で1話丸ごと使うとは思いませんでした。まさかの鏑木回。