有馬かなの欲しかったもの
今からガチ恋♡始めます
鷲見ゆき
ファッションモデル 高校1年
熊野ノブユキ
ダンサー 高校2年
黒川あかね
女優 高校2年
MEMちょ
ユーチューバー 高校3年
森本ケンゴ
バンドマン 高校3年
アクアの姉のルビーと共に、『今からガチ恋♡はじめます』、通称今ガチのPVを確認する。アクアは恥ずかしいからと自室に引っ込んだ。
「なるほどね。芸能活動をしてる高校生たちが週末色んなイベントを通じ交流を深め、最終的にくっつくとかくっつかないとかそういう番組。鏑木Pの番組ってだけあって皆顔は良いわねー。」
この美女の群れの中にアクアが放り込まれるわけか。さすがの私もこのレベルの女達が相手では見劣りしてしまうかも。まぁ、一番の強敵はこのお姉ちゃんなんだけど。
ちらりと横のルビーを見る。やはり複雑そうな顔だ。弟の成長を喜ぶべきか、姉離れを悲しむべきか迷っていると言ったところか。
「あ、最後はアクアの登場。」
役者 高校1年
『めっちゃ緊張するわ~。皆よろしくね!』
明るい好青年が、爽やかな笑顔を浮かべながら登場してきた。立ち居振る舞いこそ普段のアクアと変わらないものの、画面に映る彼はいつもより8割増しくらい好青年に見える。
「ちょっと明るいけど割といつも通り・・・?でもなんか凄いカッコよく見えるね。」
「普段のあいつと別人とは言えないギリギリのラインを攻めてきたわね・・・。映画撮影用のテクはきっちり使ってるみたいだけど。」
「どういうこと?」
「演技のテク使ったり現場の状況をうまく操って画面の印象を操作してんのよ。
このシーンなら・・・まず、発言する前に一瞬間があったわよね。これから挨拶しますっていう雰囲気を先に作ってる。カメラマンはさぞ撮りやすかったでしょうね。
それから、目線は完全に演者に固定して微動だにしてない。普通ここまで目線が動かないのは不自然なものだけど、映像で見るならこっちの方が自然よ。きっちり演技もしてるってわけね。」
「それが分かる先輩もすごいね・・・。」
アクアのことだ、この程度は無意識でも出来る。むしろカメラを向けられた彼が映像の出来上がりを気にせずにいることの方が難しいだろう。恋リア的に大丈夫なのかは知らないけど。
一方ルビーはアクアと違って、ダンス以外にこれと言ったスキルを持っていないようだった。双子の姉弟だというのに、どこでこんなに差がついたんだか。アクアの姉ならばと期待した私がバカだった。
画面では何やらぶりっ子のユーチューバーがアクアにちょっかいをかけている。
『えぇ~かっこいい~っ。役者さんってあこがれるぅ。』
『MEMちょも可愛いね。めっちゃ照れる・・・。』
「「は?死ね」」
アクアを見守る者同士、考えることは同じだった。
「なんだあいつ・・・私には可愛いなんて勧誘の時しか言わなかったくせに・・・!」
「女に囲まれて浮かれてんな・・・。帰ったら説教だわ・・・。結局アクアもオスなんだね。」
「チョロそうなメス見つけたらすぐコレだよ。」
この姉とはなんだか仲良くなれそうな気がする。
メス共に鼻の下を長くするアクアにブチギレる私達に対し、社長でありアクアの母親のミヤコさんの反応は冷静なものだった。
「二人とも。コレメディア用だから落ち着いて。そうしないと番組が成り立たないでしょ?
身近な男が女にデレデレしてる所見ると腹立つのは分かるけれどね、アクアも役者、そういう男を演じる気持ちでそこにいるんじゃないかしら。」
分かってる。これはそういう番組で、そういう目的に沿って動いているだけ。でも・・・
「これ最後本当に告白して恋人になったりするんですよね。」
「そうね。形式だけでもそこの筋は通すことになるでしょうね。」
「告白成功したらキスとかするんでしょ。」
「まぁ定番ね。」
要するにアクアはそういう事をするためにこの番組に出ている。それでは私と恋愛関係になることを否定しているのと何ら変わらない。彼は私以外の女の子を求めている。
「こんな番組、なんで受けたんだろ・・・。」
こんなの私のわがままだとは分かってる。でも、断って欲しかった。放課後の学校で一緒に遊んで、仲良くなって。そんなことをする相手に私を選んで欲しかったのに。
寂しさを紛らわすように膝を抱きかかえ、顔を伏せる。
ああ、今顔に出ちゃってるんだろうな。いつから私はこんなめんどくさい女になっちゃったんだろう。気持ちがすぐ表にでる・・・のは昔からだけど。こんな女々しい性格してたっけ、私。
ルビーでさえ空気を読んで黙り込んでるし。
「でも・・・貴女だって女優を続けるならいずれキスシーンとかも求められる。ここを割り切るのも仕事の内。この業界でガチガチの貞操観念持ったままだと後々辛いわよー。」
「分かってるけどさ・・・。」
でも、割り切れない感情だってあるでしょ?
オトナはそんな事無いの?こんなに胸のなかがざわめいていても、すました顔でなんでもないって言うの?そんなの、無理だよ。
まだまだ私は子供だったんだ。一人暮らしして、一人で仕事もマネジメントもやって得意げになってただけで、中身はママに捨てられたあの頃と変わっていない。私はまだ大人になんてなってなかった。
涙目になった顔を見せまいと、私はさらに顔を伏せて泣きたい衝動を堪える。
泣いてるのを見られるのが嫌で、事務所のソファーの上で体育座りのように小さく丸まって膝に顔をうずめる。社長のミヤコさんと後輩のルビーが見ている前だというのに、湧き上がる気持ちを止められない。アクアが私を女として見てくれないのが悲しくて、それを受け入れられずに駄々をこねる自分も嫌になる。
「先輩、アクアのことが本当に好きなんだね。」
「何よ。悪い?」
「ううん、全然。ただ泣いてる仲間をほっとけないだけ。」
すぐ隣からルビーの声がする。普段とは違う、優しい声。泣いてる子供をなだめるような、落ち着いた大人の雰囲気だ。これではどっちが先輩だか分かったものじゃない。
私はルビーより1年ばかり長く生きて、ちょっと芸能界の事を良く知ってるだけ。姉として生まれたときから一番近くでアクアを見守り続けたルビーの方が、精神的には大人なのかもしれない。
それに比べて私は、子供の頃からいつも自分が目立つことばかり考えていた。それがダメと分かって仕方なしに協調性を身に着けたけど、性根は変わらない。結局ママや他の大人たちに褒めて欲しくてやってただけ。
でもルビーは違う。心の底から他人を想って行動できる。アクアが姉に絶対的な信頼を寄せる理由が分かる気がする。私を一人の女として見てくれない理由も。
頭に何かが触れるのを感じる。顔を伏せていて周りは見えないけど、たぶんルビーの手だ。頭を撫でられている。親が子に対してするように、丁寧に、ゆっくりと。膝を抱える腕の隙間からのぞき込むと、ルビーはいつの間にか隣に腰掛けているのが見える。さっきまでとはまるで別人のような雰囲気を纏っている。
私の視線に気づいたのか、ルビーは撫でるのをやめて私の肩に腕を回してきた。もう一方の腕も大きく広げ、ちょうど私の身体が収まるスペースが出来ている。
「ほら、ぎゅってしてあげる。おいで?」
私にかける言葉も、その声も、普段のルビーからは想像もできないほど柔らかく、慈愛に満ちたもので・・・。
年甲斐もなく、その優しさに身を預けてしまった。
「泣きたいなら泣いても良いんだよ?私たちは仲間なんだから。辛いときは私を頼っていいからね?」
「・・・ありがと。」
慣れた様子で私の背中をさするルビーはまさしくお姉ちゃんだった。
私が本当に求めていたのはこういうコトなのかもしれない。誰かに構って欲しかった。ただ愛して欲しかったんだ。
なのに、周りにいた大人たちが、マネージャーが、家族が、売れなくなった私を見放して離れていく。そうやって最後は独りぼっちになった。自分の価値を証明することでしか、人は私を愛してくれないと思った。だから必死にお仕事を頑張ったし、売れるためならやりたい演技も我慢して周りを立てるようにした。
強がってばかりいるくせに内心はいつもビクビクしてた。自分に価値が無いって思われることが、見放されることが怖かった。
ルビーの抱擁は私の心の欠けた部分を埋めてくれる。みっともなくて未熟で、何の価値もない私を受け入れてくれる。ルビーの前では自分を良く見せる必要がない。その事実が何よりも私を安心させてくれる。
涙はもうとっくにあふれている。この包容力の前では強がる気持ちさえ溶けてなくなっていく。ただ、甘えていたくなる。
全く大したものだわ。
さすがはアクアのお姉ちゃんってわけね。
星野ルビー
10年以上アクアのメンタルケアを続けてきたお姉ちゃん。
原作よりも精神的に成熟している部分がある。
有馬かな
構って欲しい愛して欲しい、でも皆売れなくなった自分から離れていく。そんなトラウマを抱えているので自分を良く見せるのに必死。
ルビーお姉ちゃんのメンタルケアにより回復の兆しを見せている。
斎藤ミヤコ
有馬は存在を忘れているがずっと同じ部屋にいた。
娘の成長を感じ、嬉しく思っている。