【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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小悪魔ゆき

恋愛リアリティショーに台本はない。それぞれの演者が好きに話題を決め、自由に喋ることが許されている。あくまでリアルさが売りなのだ。

 

だから、こんな意味不明な会話もカットにはならない。

 

「でえ、うちの犬ぅ。」

「うんうん」

「ほら、かわいくてぇ。みてみてぇ。」

「うんうん。かわいいねぇ。」

 

だるぅ。女の子特有の共感しあうだけの会話キツう・・・。

 

「でぇ、猫がぁ、」

「うんかわいいね。」

 

・・・この話、そろそろ十分だろう。もう適当に相槌打っておけばいいか。可愛い物好きというキャラは良くアピールできているが、そんなものに興味はない。

 

だが、よくよく彼女を観察してみると、恋愛リアリティショーの演者としては中々面白い存在だ。彼女はユーチューバー。ほとんど毎日動画を撮影し、編集し、投稿している。それだけ数をこなしていれば当然様々なスキルが磨かれていくわけで。

 

「本当に可愛いペットたちだねー。・・・あっ、そういえば、」

 

パンッ

 

例えばこんな感じで間をおいてわざとらしく手を叩いてみる。もう犬猫の会話は十分撮れたという意味をこめ、アイコンタクトを送る。

 

「・・・」

 

さっきまでの犬猫を自慢するMEMちょはもういない。ちょうど今俺を見つけて、これから会話を始めますって顔でこちらを伺っている。

 

やっぱり合わせてきた。ほんの一瞬で俺の意図を読み取り、今の間が()()()であることを即座に理解した。

 

ならばさっきの会話はパターンA。ここからの会話はパターンBだ。ガラッと雰囲気を変えてMEMちょの反応を伺ってみよう。

 

「MEMちょは動画作成を一人でやってるの?」

「基本的にはそうだよぉ。人に頼んだりすることもあるけど、やっぱり自分の動画は自分で作りたいよねぇ。」

「分かる。自分の目の届かないところで変な事されたくないよね。」

 

何食わぬ顔で別の話題で盛り上がる。ペットを溺愛するMEMちょと、クリエイターとしてのMEMちょ。この短時間で俺たちは2パターンの映像を撮影できたわけだ。

 

どちらの映像を使うかは分からない。両方使うかもしれないし、どちらもお蔵入りかもしれない。でも、ずっと同じ話題で話し続ける場合と比較して、今の映像が使われる可能性は確実に増えている。

 

「ちょっと場所を変えようか。」

「うん。」

 

今のやり取りで向こうも大体わかっただろう。俺は映画製作で培ったテクを惜しみなく使い、番組を盛り上げるつもりでいる。

 

演者の中で映像制作の知識を持つのがMEMちょだから、最初に声を掛けたんだ。

 

「さすがはユーチューバー、撮られ方が上手い。君となら上手くやれそうだ、仲良くしようぜ。」

「アクア君こそ、バリバリやってんねぇ。役者って言ってたけど、裏方のスキルも持ってる感じ?」

「まあな。演技の師匠が映画監督でさ。裏方の手伝いとかもやってる感じ。」

「なぁるほど。それは好都合。若いのに良く周囲が見えているし、番組の調整役には私らが適任かな?」

「他のメンツを見てからだけど、まぁそうなるだろうな。」

 

なるほど、これが素のMEMちょってわけか。ぶりっ子キャラやってるより、遥かに話しやすいし好印象だ。それに、人気ユーチューバーとしての実力は恐らく本物。学べることもたくさんあるだろう。個人的にも仲良くさせてもらいたいものだ。

 

「じゃあ、私はこれで。次はケンゴ君に挨拶でもしてこようかな。」

「おう、またな。」

 

さて、次は誰と話そうか。

 

・・・

 

「アクア君、だよね。私は鷲見ゆき。高校一年生だよ。よろしくね。」

「役者の星野アクアです。同じく高校一年生。よろしく。」

 

定点カメラに映る位置で待ち構えていると、ファッションモデルの鷲見ゆきが話しかけてきた。

 

さすがモデルだ、歩き方が洗練されている。定点カメラとの位置関係も完璧で動きに迷いがない。自分が可愛く映る角度を知っているな。

 

「本当にこういう番組って台本ないんだね。どんな話して良いか全然分からない。」

「確かにそうだね。」

「あたし臆病でガシガシ前に行けないし、あんまりトーク得意じゃないし、きっと埋もれるんだろなぁ。」

 

しばらく鷲見ゆきとの会話を楽しむ。事務所の看板の人が仕事を持っていくせいで暇だとか、恋愛に興味はあるかとか、そんな他愛もない会話。ゆきは初対面の俺相手に踏み込み過ぎることなく、かといってよそよそしくもない、絶妙な距離感を守っている。

 

彼女に対する第一印象は、臆病で純粋で、守ってあげたくなるような子だった。

 

さて、アイスブレイクは十分。今の会話では普通過ぎて放送されるかどうか分からない。そろそろ何か面白い画が欲しい。そんなことを漠然と考えていたのだが、先に動いたのは意外にも鷲見ゆきだった。

 

「知ってる?前シーズンのカップル、最後にキスしたんだよ。」

「まぁ、一応予習はしたし。」

 

何だろう、鷲見ゆきの雰囲気が少し変わったような。

 

「良い人が居るか不安だったけど、」

 

そう言いながら彼女は一歩前へ踏み出す。彼女の顔がすぐ目の前に迫る。

 

そのまま互いの頬が触れるかというところまで顔を寄せ、

 

「私、君にならキスできるかも。」

「なっ」

 

意表をセリフに、耳をくすぐるささやき声。

 

「後ろ。カメラマンさんが撮ってるよ。カメラに視線は送っちゃ駄目。ここはきっと使われるよ。」

 

・・・やられた。

 

彼女は余裕の表情で微笑みながら、俺に対するアドバイスまでやってのけた。良い性格してるな。何が臆病だよ。

 

颯爽と歩いていく鷲見ゆきの背中を眺めながら、俺は呆然と立ち尽くす。向かいのカメラの映像には、ゆきのアプローチに顔を赤くして照れる俺が映っているというわけだ。

 

良い映像を作るテクじゃない。人の感情の機微を肌で感じて理解している。演技ではない、俺本来の反応を鮮やかに引き出し、カメラに収めて見せたんだ。

 

リアルな人間関係とそこに生まれる本物の感情がコンテンツ。全く未知の世界。

 

なるほど。これがリアリティショー。

 

・・・

 

後日、撮影した内容が放送され、なぜか俺はお姉ちゃんに説教されていた。

 

「弟の幸せを願う一人のお姉ちゃんとして、アクアが彼女を作ることに反対はしません。でも、悪い女にアクアが騙されるのを黙って見過ごすわけにもいきません。というわけで、アクアが付き合うべき女性を私が決めます。」

「勝手にも程がある。」

「私の一押しは鷲見ゆき!多分この子は純粋でいい子だよ!!」

「・・・お姉ちゃんは見る目が無いから、しばらく恋愛すんなよ。」

「はぁ!?」

 

姉の幸せを願う一人の弟として、お姉ちゃんの将来が心配です。

 

 




MEMちょ(18?)
人気のユーチューバー。撮るのも撮られるのもプロな仕事人。
番組に対する姿勢がアクアと似ており、早くも意気投合する。
とある理由により、ガチで恋愛する気は毛頭ない。イケメンは好き。

鷲見ゆき(15)
リアリティショー向きの性格をしている、いわゆる上手い奴。
さっそくアクアの赤面シーンをカメラに収めることに成功する。

星野アクア(16)
やっぱり撮影の事ばかり考えている。
いつもの教室にも可愛い子は沢山いるのであまり緊張はしなかった。むしろお姉ちゃんが居ないことが異常事態。
一応恋愛のことも真面目に考えてはいる。
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