【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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世話の焼ける子

今日は土曜日。学校は休みだ。

 

いつもなら弟のアクアをデートにでも誘って断られて家の中でイチャイチャしてるはずの時間。しかしアクアはここ最近今ガチの収録で忙しく、週末はずっと予定が埋まっている。

 

事務所には先輩と私の二人だけ。ソファーに寝そべる先輩の手には、良く分かるエリマキトカゲとかいう訳の分からない本が開かれている。もしかしなくても、仕事する気ないよね?

 

「先輩。仕事無いの慣れてるでしょ?普段何して過ごしてたの?」

「顎にジャブ入れて脳揺らすぞコラ。」

「もう、そんな言葉どこで覚えてきたの?そういう事言うのはやめな。」

「本当にあんたってどうしようもなくお姉ちゃんよね・・・。私にまでお姉ちゃん面してくるのは想定外だったけど。」

 

苺プロに先輩を誘ってから、土日はほぼ必ず事務所に、というか私の家に来ている。ここの所ずっとだ。アクアが居なくて可愛い弟を愛でることは出来ないけど、妹みたいに可愛い先輩が入れ替わりで来てくれたと思えばそんなに悪くない。

 

「まぁ毎週うちに来てる時点で家でやる事無いのは察しがつくけど。」

「別にそんなんじゃないわよ。苺プロ所属のタレントとして何か仕事が来たときにすぐ動けるようにしてるだけ。見くびらないで。」

 

毎週末顔を合わせてれば先輩の人柄や境遇なんかもだんだん分かってくる。

 

例えば今みたいに不必要なほど強く反論してくる時は、大抵何か隠している。先輩は本来優しくて臆病な性格をしている人畜無害なタイプだ。そんな先輩が強い言葉を使うのだから、意識的であれ無意識的であれその裏には目的がある。例えば、動揺を悟られないように強がっているとか。

 

まったく、世話の焼ける子。

 

「そうやってすぐ嘘つく。」

「はぁ?別に嘘なんか」

「いい加減にしなさい。」

 

可哀そうだけど、ちょっと強く言わないとこの子は本心を出してくれない。放っておくとなんでも一人で抱え込んで、自分がつぶれてしまうまで頑張り続ける。そういう子だ。

 

「ああもう!本当にあんたには敵わないわね。そうよ嘘よ。家に居たって誰も居なくて寂しいのよ!これでいい!?」

「うん、いいよ。別に先輩を責めてるわけじゃないんだから。そんなに怖がらないで。」

「別に怖がってなんか・・・」

「先輩?」

「ごめん。ちょっとビビってた。」

「よろしい。ごめんね怖がらせちゃって。よしよししてあげる。」

「ああもう・・・」

 

気づいてしまえば単純なことだった。事務所からも親からも見放されて、誰も頼れる人が居ない中、必死に暗闇の中をもがく可哀そうな女の子。それが先輩。

 

普段は大人びた口調で芸能界の先輩として威厳のある姿を演じているけど、それが本性じゃない。意外と小心者で子供っぽいところがある。人を引っ張るよりもちょっかいをかけて困らせる方が好きで、そのくせ寂しがりやだから本気で拒絶されることを恐れている。

 

本当、世話の焼ける子。

 

「ねぇ先輩。私達アイドルなんだよね。なんか今できることは無いのかな?」

「新人アイドルの仕事ってライブハウスで歌って踊って、たまにメディアの仕事受けたりとかでしょ。持ち曲も無ければユニット名もまだ未定。今の私等に何が出来るってのよ。」

「ユニット名がまだなのは先輩がゴネるからじゃん!」

「だって名前つけたらもうマジでしょ・・・。私まだアイドル名乗る踏ん切り付いてないっていうか・・・。」

「良いじゃん「アイドル有馬かな」って」

「恥ずかしい!実績の無い自称アイドルとか親になんて説明したら良いの!?」

 

契約書には先輩のサインとハンコがあるのだから、今更悩むことも無いのに。実績が無いならゴネるんじゃなくて、何か出来ることが無いか考えるべきなんじゃないの?私は一刻も早くアイドルとして活動を始めたいのに。

 

今日も何かと理由を付けて活動を始めようとしない先輩に、私は手を焼いていた。ああもう、早く仕事しないと学校で虐められる!

 

「実績があれば踏ん切りがつくのかしら?じゃあ実績を作りましょう。」

 

その声は・・・!

 

「みやえもーん!」

「遅くなって悪かったわね。スケジュールがなかなか合わなくて。でも頼れる助っ人を捕まえてきたわよ。」

 

事務所にやってきたミヤコさんはいつものお母さんの顔じゃない、仕事をするときの社長の顔をしている。仕事モードだ。こういう顔をしている時のミヤコさんは頼りになる。

 

「社長、助っ人ってどういうことですか?追加のメンバーでも探してたんですか。」

「そうじゃないわ。当面はあなた達2人で活動してもらいます。とはいえ知名度も無ければメンバーも揃っていないあなた達に出来ることは限られてる。そこであなた達にはまず、ネットで知名度を稼ぐことから始めてもらうわ。」

「ユーチューバーってこと!?」

「そう。ユーチューブで固定客を作ってライブに人を呼べば効率がいいでしょ?」

「ミヤコさん賢い!」

 

なるほどユーチューバーか。アイドルって歌って踊るだけが仕事じゃないんだよね。もちろんステージ上でパフォーマンスをしてそれを皆に見てもらうのが目的だけど、まずは自分たちを知ってもらわなきゃ意味ないんだ。

 

という事は助っ人はユーチューバー?いったい誰だろう。

 

「じゃ、あとはお願い。」

「オマカセ!」

 

聞き覚えのある声だ。まさかあの人が?

 

ゆっくりと開くドアの隙間から見えてきたのは見覚えのあるひよこの覆面。そしてムッキムキに鍛え上げられたカラダ。間違いない。あの人が来てくれたんだ。

 

感無量だ。あの大人気ユーチューバー、ぴえヨンに直接指導してもらえるなんて。ああ、なんて挨拶しよう。嫌われないようにしなきゃ。私筋トレしてないけど大丈夫かな。

 

先輩も喜んでるに違いない。

 

「へ・・・変質者だーー!!」

 

ガチビビりである。

 

先輩の絶叫が事務所に響き渡る。まさか、ぴえヨンをご存じない?

 

いやまぁ、何も知らない人がいきなりあの覆面ゴリマッチョに遭遇したらそういう反応になるのも当然か。リアルで見ると確かに変質者。もしこれの中身がぴえヨンじゃなかったら私も叫び声をあげながらみっともなく泣いて逃げ出す自信がある。

 

先輩はいつの間にか私の服の袖をつかんで震えている。こういう先輩も可愛くて画になるなぁ。

 

「先輩、大丈夫だよ。この人は覆面筋トレ系ユーチューバーのぴえヨンさん。私たちの助っ人だよ。」

「信じていいのよね?ドッキリとかじゃないわよね・・・?」

「これがドッキリなら良い映像だったネ。ごめんごめん、驚かせちゃって。ボクはぴえヨン。ユーチューバーさ。」

「ほら怖くないでしょ?安心して。」

 

結局、先輩を落ち着かせるのに10分かかった。

 

なんというか、幸先の悪いスタートだ。いきなり先輩がこんな調子でユーチューバーとして上手くやっていけるのかなぁ。心配だ。

 

ああもう、世話の焼ける子。

 




有馬かな
世話の焼ける子。
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