【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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ユニット名はB小町!

「アクア。お姉ちゃんね、今度ぴえヨンの動画に出ることになったんだよ!」

「マジか。すげぇな。」

「良かったなぁ、ルビーちゃん。ぴえヨンチャンネルよう見とったんやろ?」

「もう大ファンだよ!この前会って打ち合わせしたんだけど、超面白かった!」

 

今日も今日とて、俺は現役アイドルと現役グラビアモデルを眺めながら昼飯を食う。仲良く3人で机を合わせ、いつものように教室中の好奇の視線を背中に浴びながら。

 

こんな世の男子高校生の夢を具現化したような状況にありながら、意外にも男子生徒からの嫉妬の声は少ない。ここにいるクラスメイト達は皆芸能人。可愛い娘と食事をする機会などいくらでもあるのだ。

 

俺たちが注目を集める理由は別にある。

 

「なぁ、その撮影、俺もついていって良いか?」

「もちろんいいよ!アクアもぴえヨンさんに紹介してあげる。」

「相変わらず仲ええですなぁ。さすがやわぁ。」

 

やたらと仲の良い美形の双子カップル。俺はあの不知火フリルに一目置かれる実力派俳優ということでマークされているし、姉は何といっても陽東高校名物ブラコンお姉ちゃんである。こんな面白い姉弟が同じ教室に居たら注目を集めるのは仕方がない。

 

教室の隅でただ昼飯を食う俺たちの方が、プロが心血を注いで作り上げたテレビ番組より面白いとまで言われるのだから、困ったものである。今ガチのスタッフ達が不憫に思えてくる。

 

「それにしてもアクアがぴえヨンに食いつくなんて、まだまだお子様趣味だねー?可愛い奴め。」

「違う違う。今ちょっとユーチューバーっていう仕事に興味があってな。何か学べることは無いかと思ってのことだ。ミヤコさんの紹介なら俺を見学にねじ込むことも出来るだろうし。」

 

お子様趣味はお姉ちゃんの方だろう。この前もぴえヨンチャンネル見て笑い転げてたくせに。お姉ちゃんモードとのギャップが大きすぎて、一人の人間が演技もせずにここまで幅広い印象を出せるものかといっそ感心したくらいだ。

 

まぁ、どんなお姉ちゃんでも俺は好きだけどな。恥ずかしいから言わないが。

 

「そういえば先輩がね、ぴえヨンのこと見てマジ泣きしたんだよ。もう宥めるの大変だった。あの子、本当に世話が焼けるんだから。」

 

お姉ちゃんの発言に周囲がざわつき始める。俺は教室の中心に背を向けて座っているからいいが、クラスメイトの視線を正面から浴びる寿さんがちょっとかわいそうだ。

 

俺の耳にも、周囲のひそひそ話が断片的に聞こえてくる。

 

(え、マジ泣き?)

(先輩って2年の有馬さんだよね)

(世話が焼けるっていってたよ)

 

「あー・・・、ルビーちゃん相変わらずやなぁ・・・。」

「今に始まったことじゃないよ。寿さんは気にしないで。」

 

ここまで教室がざわついたのは初日のブラコンお姉ちゃん誕生以来かもしれない。仮にも学校の先輩を妹認定したのが大きいのか。いやガチ泣きの方か?

 

答えは両方。

 

『有馬かなぴえヨンにマジ泣き』

『ブラコンお姉ちゃん有馬かなを妹認定』

 

その日の陽東高校は、その二つの噂で持ちきりだった。

 

・・・

 

緑の背景に、ひよこのお面を被ったうら若き女子高生が二人。中央には鋼のような筋肉を纏ったボディビルダーのごときキレッキレの肉体。

 

俺は笑いをこらえるのに必死だった。まだ何もやってないが、すでに反則級に面白い。凄いな、筋肉ってやつは。

 

「ピヨピヨピヨ~~ぴえヨンチャンネルぅうぅ!!

ハイ今回はネ!しがらみ案件です!

ウチの事務所でアイドルユニット?なんかそういうのヤルらしくてお前のチャンネルで使えと!

最初断ろうと思ったんだケドね!社長がいうからさ・・・

というわけで今回の企画!

ぴえヨンブートダンス1時間ついてこれたら素顔出してヨシ!」

 

からの全力のアヒル声である。こっそり吹いた。

 

しかしぴえヨンの喋りのうまさには感服する。こんな殺風景なスタジオで良くもあんなに高いテンションでいられるものだ。役者でもなかなかああはいかないだろう。

 

一見するとふざけているようで、その実徹底したキャラづくりとそれを貫く信念が根底にある。長い年月をかけて作り上げてきたスタイルだからこそブレが無い。一朝一夕でできるものではない。

 

監督がいつも撮っている映画とは異なり、背景は合成だ。巨大な倉庫みたいな四角い空間の中に、撮影用のグリーンバックがある。このスタジオ一つでいくらでも違う背景を作り出せるわけで、予算の無いウチの映画で使ったらどうかと思わないでもない。まぁあの監督の事だから、結局は本物の背景にこだわるんだろうけど。

 

撮影前にぴえヨンさんに聞いた話も興味深かった。

 

「今回の企画はぴえヨンさんが考えたんですか?」

「いいや、ぴえヨンブートダンスを踊るって言ったのはルビーちゃんだね。けどそのまま踊ってハイ終わりでは面白くないから、ボクの方で少し企画を練ってあげたんだ。」

「具体的にはどのような。」

「まず最初に決めたのが、彼女たちにひよこのお面をかぶってもらうことだ。いくつか狙いがあるんだけど、一番大きかったのは彼女たちの表情に少し不安があったってことだ。見ての通りウチのスタジオは殺風景だから、女優のかなちゃんはともかく、素人のルビーちゃんは上手く笑顔を作れないだろうと思ってね。ブートダンスを踊れば否応なしに苦しい表情になるから、マスクを外す頃には良い表情が撮れるはず。他には・・・」

 

お姉ちゃんと有馬の為にここまで深く考えてくれているぴえヨンさんに尊敬の念を禁じえなかった。

 

汗だくの美少女には一定の需要があるとか、自己紹介という最大の見せ場を動画の最後に持ってこれるとか。恐らく質問をぶつける限り無限に話せるのだろう。さすがに何年も覆面筋トレ系ユーチューバーのトップを走り続ける男である。俺もこの人のように仕事熱心でありたいものだ。

 

スタジオではすでにぴえヨンブートダンスが始まっている。ぴえヨンの動きに容赦はない。筋トレ系ユーチューバーだけあって内容はしっかりキツイ。それに1時間という長丁場だ。このペースで持つのだろうか?

 

日ごろ走り込みを欠かさない有馬はともかく、お姉ちゃんが心配だ。

 

「ははは、きっつ!きっつ死んじゃう!!あはははは!」

 

・・・大丈夫みたいだ。待ちに待った初仕事を存分にエンジョイしているようでなによりだ。やっぱりお姉ちゃんは楽しそうにしている姿が一番可愛い。

 

2人は1時間きっちり踊りきった。終了と同時に床にへたり込み、息も絶え絶え。全身汗だくで、シャツが素肌に張り付いて強調されたボディラインが艶めかしい。ここに不知火フリルが居たらきっと良い反応を見せてくれただろう。

 

なるほどぴえヨン。いい画を撮ってくれた。

 

「はいお見事!着ぐるみ撮って自己紹介どうぞ!」

「いちごぷろしょぞく・・・ほしのるびー・・・自称アイドルです。」

「はい!そっちも!」

「有馬かな!自称アイドルですこんにちは!!」

「名前は聞き覚えある!」

「聞き覚えだけかよ!」

 

有馬の鋭い突っ込みで綺麗にオチが付き、撮影は終わった。有馬はやはりバラエティー適性が高いし踊る姿も可愛い。アイドルに誘った俺の目に狂いはなかったな。

 

ぴえヨンがカメラを止めるのを見て、俺は二人のところへ向かう。お姉ちゃんが心配だ。有馬に酸素を吸入させてもらっているが、相変わらずぐったりしている。いつもなら『大丈夫?汗冷えないように気を付けてね?』とか言って世話を焼くお姉ちゃんだが、さすがにそんなことを言う余裕もないみたいだ。

 

「いや凄い凄い。ホントは編集して1時間やったことにしようと思ってたんだけど、マジでガチったね。視聴者には伝わらんことだけどさ。やっぱ現場の人間は見てるワケで、僕は君ら好きよ?」

「お姉ちゃん、有馬。本当にお疲れ。二人ともいい仕事したな。」

 

何はともあれ、お疲れ様だ。

 

それにしてもこれだけ動いて全く息の上がらないぴえヨンは改めて化け物だな。お面を付けて呼吸もしづらいだろうに。もし役作りで肉体改造することがあれば、ぴえヨンを頼ろう。

 

「あっ大事なこと聞き忘れてた。二人のユニット名とかあるの?」

「あー・・・」

「もうルビーが好きに決めていいわよ。」

「良いの?えっとじゃあ私たちの名前は、『B小町』!」

「えっ、それ大丈夫なの?」

 

こうしてお姉ちゃんと有馬のアイドルとしての活動が始まり、ユニット名もB小町と決まった。

 

まだまだ先は長いだろうが、お姉ちゃんのことだ。どんな困難も乗り越えて、母さんが叶えられなかったドームの夢を実現させるに違いない。

 

母さん、見てくれてるかな?

 




星野アクア
毎日現役アイドルと現役グラビアモデルと一緒に昼飯を食べている。国民的美少女も時々そこに加わる。

星野ルビー
陽東高校名物ブラコンお姉ちゃん。最近有馬かなを妹に迎え入れたという噂が立っている。
初仕事はぴえヨンチャンネルとのコラボ。今の苺プロが使える最大限のコネがこれだった。ぴえヨンブートダンスで疲れ果て、さすがにお姉ちゃん面する余裕はなかった。

有馬かな
ぴえヨンにマジ泣きしてルビーに宥められたことが学校中に広まり、泣き虫妹キャラのイメージが確立されてしまった。

ぴえヨン
被り物を被ったまま1時間喋りながら動き続けても全く疲労の色を見せない化け物。
アクアの前では地声で話した。
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