【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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背伸びしたいお年頃

「ミヤコさんただいまー。」

「ただいま。」

 

今週の今ガチの収録とその打ち上げが終わり、ようやくお姉ちゃんと帰宅した時にはすでに夜の10時を過ぎようとしていた。家に着いてカバンや上着をしまい、いざリビングでくつろごうとすると、お姉ちゃんが話しかけてきた。

 

「ねぇアクア。ちょっと話があるんだけど。」

「はい。」

 

短い一言の中には、お姉ちゃん怒ってますというメッセージが強く籠められており、反射的に敬語で答えてしまう。俺はおとなしくリビングのソファに腰掛け、お姉ちゃんからのありがたいお説教を受け入れる体制を整える。言いたいことは分かる。焼肉屋の前でしていた話の続きだろう。

 

しかし今更なぜここまで怒るんだ?毎週チクチクと文句を言われてはいるが、怒りをため込んでいる様子はなかったはずだ。

 

「仕事の付き合いで仕方ないとはいえ、毎週毎週こんな夜遅くまで帰ってこないなんて、最近ちょっと羽目を外しすぎじゃない?

お姉ちゃん、アクアが家族の時間を大事にしてくれないので怒ってます。」

「悪いとは思ってる。でも番組の打ち上げも大事だから、大目に見てほしいんだけど。」

「日曜日は皆でご飯食べる日って約束じゃん!」

「ほんとにごめんって。」

「謝罪の言葉はもういいです。行動で示しなさい。」

 

なるほど、今更何に腹を立てているのかと思ったがそういう事か。要は毎週末俺がお姉ちゃん抜きでうまい飯を食うから、その埋め合わせをしろと言いたいようだ。怒ってるのも多分事実だろうが、それはそれとして何かご褒美的なものがあってもいいじゃないかと。

 

だったら。

 

「じゃあお姉ちゃん、今度ミヤコさんと三人でうまい飯でも食べに行こうか。あ、そうだ。俺に奢らせてくれない?」

「良いけど、さすがに奢らなくてもいいよ?」

「いや、ちょっと理由があるんだ。最近やっと役者として仕事を始めただろ。それで今日あまと今ガチの分のギャラが入ってるんだ。俺にとっては初任給みたいなものだから何か良い使い道ないか考えてたんだけど、家族でちょっと豪華な食事をするってのは悪くないと思うんだ。どうかな?」

 

今日あまの打ち上げパーティーで鏑木さんに子供扱いされたことが、実はちょっとだけ気になっていた。別にそこまで強く意識しているわけではない。ほんのちょっとだけ。俺は高校1年生としては大人びた方だと思うし、前世の記憶を抜きにしてもそんなに子供っぽいとは思わない。

 

しかし俺は何かと子供扱いされることが多い気がするのだ。鏑木さんもそうだが、何よりお姉ちゃんとミヤコさんが俺のことを子供扱いしてくる。もう高校生だし仕事もしてお金を稼いでいるのだから、そろそろ大人と認めてくれてもいいんじゃないか?

 

自分で稼いだお金で美味しい食事をご馳走すれば、二人は俺が一人前の大人になったと認めてくれるはず。もちろん計画からエスコートまでちゃんと俺がやるつもりだ。

 

「アクア…立派になって。お姉ちゃん泣きそう。ちょっとミヤコさん呼んでくる!」

 

さっそくお姉ちゃんには俺の成長が伝わったようだ。あくまで上から目線なのは相変わらずだけど。

 

「話って何なの?改まっちゃって。」

 

お姉ちゃんがミヤコさんを連れて戻ってきた。リビングにやってきたミヤコさんと俺たち姉弟が、テーブルを囲んで座る。ミヤコさんはまだルビーから話を聞いていないようだ。良かった。この話は俺から切り出さないと意味が無いからな。

 

「なぁ、ミヤコさん。俺ってこの前から役者としての活動を始めただろ?」

「ええそうね。」

「それで、今日あまと今ガチのギャラはもう入ってると思うんだ。」

「入ってるわよ。何か欲しいものでもあるの?」

「違う違う。子役の仕事を除けば、これが俺にとっての初めての給料ってわけで、初任給みたいなものだろ?だからさ、そのお金でミヤコさんとお姉ちゃんにご飯を・・・ってミヤコさん!?」

 

全てを言い切る前に俺はミヤコさんの異変に気付き、言葉を切った。ミヤコさんは感極まって涙を流している。喜んでるってことで良いんだよな?まさか泣くほどとは。

 

「アクア…立派になって。息子の成長を感じられて嬉しいわ。」

「お姉ちゃんも嬉しいよ…。」

 

感動で涙を流す二人。喜んでくれるのは嬉しいが、これってまだまだ俺の事子供扱いしてるよな。こういう反応じゃなくて、もっとこう、対等な関係になりたいというか。なんか思ってたのと違う。

 

まあそんなことは良い。初めて自分で仕事をしてお金を稼いだという事実は変わらないんだから。俺はもう子供じゃない。

 

・・・

 

食事会当日。

 

店についてはお姉ちゃんとミヤコさんには完全に内緒にしている。一応個室であることと、ドレスコードはなく焼肉のように匂いは付かないからいつも通りの格好で来るようにと言ってある。

 

「予約の星野です。」

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」

 

案内されたのは6人くらいは入れそうな、こぢんまりした少し薄暗い個室。お姉ちゃんとミヤコさんは横並びに座ってもらい、俺はその向かいに座る。いつもは隣りに座るお姉ちゃんが向かい合っているから、ちょっと新鮮だ。

 

いつも通りでいいと言ったが、やはり2人ともそれなりにオシャレな格好だ。もちろん俺も、わりとカジュアルだがそれなりに気合の入った服装で来ている。ここだけの話、お店選びも俺の服も、こっそり鏑木さんにアドバイスを貰っている。

 

「へぇ。中々オシャレなところじゃない。」

「なんか落ち着かないね…。」

 

ミヤコさんはやはりというべきか、普段の様子と全く変わらない自然体だ。さすが芸能事務所の社長。こういうお店での接待とかは慣れっこなんだろうな。

 

対するお姉ちゃんはそわそわとして目線があちこちに動いている。こういうお店は初めてだろうから、緊張するのも無理はない。

 

「どうしたお姉ちゃん、緊張してるみたいだけど。まだこういう店は早かったかな?」

「べ、別に緊張なんてしてないし。よゆーだよ。」

「思い切り緊張してるじゃない。ルビー、個室なんだからくつろいで良いのよ。」

「今日は俺がお兄ちゃんみたいだな。ははは。」

「むむむ…」

 

ますます縮こまるお姉ちゃん。いつもは俺がやられてばっかりだから、たまにはこういうのも悪くないな。

 

「まあまあ、そんな事はどうでもいい。今日は俺の初任給でうまいもの食ってくれよ。」

「じゃ、そうさせてもらおうかしら。ほらルビー。アクアがご馳走してくれるのよ。味わって食べなさい。」

 

料理が次々と運ばれてくる。高級料亭なだけあってどれも美味しいが、やっぱりこういうのは誰と食べるかが大事だ。そもそも俺は美食家じゃないので、ある程度美味しい料理なら何でもいいのだ。

 

今ガチメンバーと食べる焼肉もうまかったが、家族3人での外食にはまた違った良さがある。こうして揃って食事をして他愛のない会話を楽しめるのは、何物にも代えがたい幸福だと思う。

 

時々食べ方が良く分からない料理も出てくるが、そこはミヤコさんにレクチャーしてもらう。お姉ちゃんもミヤコさんも楽しんでくれているみたいで良かった。

 

「ねぇアクア。恋愛リアリティショーって皆マジで恋愛してるの?」

「スタンスはまちまちだな。ゆきとノブは結構ガチで恋愛を楽しんでると思う。MEMちょもそうかな。ケンゴと俺は仕事モードに入っちゃって中々そういう気分にはならない感じ。」

「あかねちゃんは?」

「あかねは…良く分からない。あまり目立つタイプじゃなくて番組の出番少ないだろ?最近ちょっと焦ってるみたいでさ。恋愛どころじゃなさそうなんだよね。」

「ふーん。」

「恋愛リアリティショーは今まで見たこと無かったから不勉強でさ、いろいろ偏見から入ったワケなんだけどリアルを売りにするだけはある。想像してたよりやらせが少ない。そして思ったよりも各々の人間性をそのまま映す構成になってる。」

「そうね。大抵の演者は極力自分を良く見せようとする程度。そんなのリアルでも皆やってることよ。合コンに行けば同じ光景が見られるわ。」

「行った事無いから知らないけど…。二人とも、考え込んでどうしたの?やらせが少ないのは良いことじゃない?」

「見てる側からしたらそうだろうけど、嘘は身を守る最大の手段でもあるからさ。まぁ杞憂だろうけど。」

 

恋愛リアリティショーは自分の人間性がそのまま映し出される。それはつまり、もし炎上など発生しようものなら、叩かれるのは役ではない自分自身ということなのだ。少し想像力を働かせれば分かる。恋愛リアリティショーへの出演は映画やドラマへの出演に比べてはるかに危険だ。

 

ミヤコさんもそのあたりは良く分かっているようで、神妙な面持ちになっている。内心では俺が恋愛リアリティショーに出演することにあまり肯定的ではないのだろう。気持ちはわかる。お姉ちゃんが今ガチに出演するとか言い出したら俺は絶対に止めるだろうからな。

 

「黒川あかねさん、最近どうなの?」

「うーん。さっきも言ったけど、焦ってるな。いろいろ試行錯誤して頑張ってるみたいだけど、どうしても素の性格がおとなしいから出番が無いんだよ。思いつめて無茶なことしなきゃいいけど。」

「そう。あの子、真面目そうだものね。恋リア向きじゃないわ。」

 

黒川あかね。いつもメモ帳を持ち歩いて、スタッフのアドバイスや気づいたことをメモして回っている女の子だ。恋愛リアリティーショーが苦手でいつも気を張り詰めている。恋リアだからこそもっと気楽にいく必要があるのだが、その辺のバランスが彼女にとっては難しいのだろう。

 

この前の焼肉でもずっとトングを離さずに肉を焼いていたし、MEMちょの話を聞いてまたメモを取っていた。本当に真面目な人だ。

 

「あー美味しかったね。アクア、ご馳走様!」

「どういたしまして。どうだ?これで俺も一人前の大人って感じじゃないか?」

「バカ言わないの。大人になりたいとか自分は子供じゃないとか言ってるうちはまだまだ子供よ。一人前の大人を名乗ろうなんて10年早いわ。」

 

一人で会計を済ませ、店の外に出る。金額に少しビビったが、今の俺なら問題なく払える額だ。

 

「お会計はさすがに緊張したな。3人分の食事では見たことない金額だった。」

「その金銭感覚は忘れちゃだめよ?これが当たり前なんて思わないように。」

「アクア、すごい。なんだか大人の男って感じがする…。」

 

これからもっと凄い役者になって沢山稼げるようになれば、もっといいお店で食事したりできるんだろうな。いつかミヤコさんも見たことが無いような素敵なお店に連れて行ってあげたいものだ。

 

今日の所はこれで十分。お姉ちゃんもミヤコさんも喜んでくれたし、俺も楽しかった。

 

二人とも、少しは俺の事見直してくれたかな。

 




星野アクア
鏑木さんに子供扱いされて以降、早く大人になりたいと内心ちょっと焦っていた。
前世の自分はノーカンだと考えている。

星野ルビー
初めて訪れる高級料亭の雰囲気にのまれ、ガチガチに緊張していた。

斎藤ミヤコ
息子からのサプライズに思わず泣いてしまう息子想いなお母さん。
若いころは芸能界の偉いおじさんに色んなお店に連れて行ってもらっていた。そのせいで金銭感覚がおかしくなり、結構苦労した。

鏑木P
アクアの成長を陰ながら喜んでいる。
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