事務所で先輩と二人。相変わらず暇だ。
「うわっこのジュースマズっ…」
なんとなくパッケージが美味しそうで買ってしまったペットボトルのジュース。いざ飲んでみれば期待外れの駄作だった。色鮮やかなオレンジのイラストなんて使ってるくせに、全然オレンジ感が無い。ただの砂糖水だ。
「ツイッターでネタにして元取らなきゃ…。コンビニで買った新商品のジュースが激マズで…」
「コラーー!!!」
「きゃうう!」
なになに!?
何か柔らかいもので頬を叩かれたような感触。振り返ると妹みたいな先輩、有馬かながハリセンを手にこちらをキッと睨みつけている。私、いま先輩に今叩かれたよね?
え、何?反抗期?
「何するの?」
「アンタが何しようとしてんの!
「いやしないでしょ…」
「これだから一般人上りは…!商品名を出したら最低5人の関係者には検索される!そしてその会社から仕事は二度と来なくなる!」
ああーこれはアレだね。学校で妹キャラとかガチ泣きとか噂が広まって、いろいろ鬱憤がたまってるんだ。そこで私がちょっと隙を見せたものだから、ここぞとばかりに芸能界の先輩面してやろうってことか。アンタが知らないことを自分は知ってるんだぞ、的なアレ。
しょうがない。ここはお姉ちゃんとして妹のストレス解消に付き合ってあげよう。言ってることは真っ当だしね。
「アンタだってエゴサ位するでしょ?」
「…しないよ?」
「スマホよこしなさい!」
先輩が私の手元から強引にスマホを持っていってしまった。お姉ちゃんへの仕返しにしては、ちょっとやりすぎだよね?いつからこんなガラ悪い子になったんだか。…いや最初から結構悪かったな。
これはちゃんと言わないと駄目な奴だ。
「先輩?」
「な、なによ。」
「こっち見て。ちゃんと目を見て話して。」
真っすぐ先輩を見て、呼びかける。悪いことをしたという自覚があれば、目が泳ぐものだ。アクアもそうだった。
先輩と目が合って、1秒、2秒、…3秒は持たなかったか。アクアなら5秒は粘るところだ。何なら時々私が負ける。
私の目力に屈した先輩は私のスマホを両手で握りしめ、プルプル震えている。もう完全に私のお説教を聞くのが板についていて、そういう場面になると私が話始める前からこんな感じになる。そんなにビビるなら最初から人のスマホを奪うんじゃない。まったくもう。
「人のスマホ勝手に取ってのぞき見しようなんて、随分悪い子になったね?」
「いや、私は皆エゴサしてるって言いたかっただけで…」
「それを言うためなら、人のスマホとってもいいんだ?」
「それは…」
「そういう強引なところ直していかないと、皆に嫌われたままだよ?それでいいの?」
「良くない…」
「だよね。ほら、スマホ返して。もう怒ってないから。」
「はい。ごめんなさい…。」
手がかかる子ほどかわいいって言うのは本当らしい。アクアも先輩も、ものすごく手がかかる。
アクアは赤ちゃんの時からクールキャラというか、あまり人と関わろうとしないタイプだった。引っ込み思案とは少し違うけど、何でも一人でやろうとして周りに頼ろうとしない。私が居なかったらママのおっぱいも飲めなかったしミヤコさんとも打ち解けられなかっただろう。
それに比べて先輩は何というか、根は凄く素直で明るい子だけど、いろいろあって性格がねじ曲がってる。大人になるってことを悪い方向にはき違えてる感じかな。
大人は強くて完璧で弱みを見せちゃいけないとでも思ってるんだろう。結局、アクアと同じように周りを頼れず、しかもこの子は独りぼっちだから勝手に自滅していく。
まったく、アクアも先輩も本当にめんどくさい。でもそこが可愛い。
「先輩はエゴサしてるの?」
「まあ…人並みにはしてるわよ。別に私達が特別承認欲求が強いってわけじゃないの。皆してないって口では言うけどね…断言するわ!アイドルの9割はエゴサをしてる!!」
先輩のキメ顔。キリっとしてるけど、童顔なせいでカッコつけたがる子供にしか見えないのが惜しい。
まぁ、可愛いって言われるためにアイドルやってるんだから、自分の評価を見るのは自然な気もする。それにしても先輩、アイドルとしての自覚が出来てきたみたいで良かった。モチベーションを高めるためにもどんどんエゴサをすると良いよ。
「でも先輩。エゴサしてたら時々嫌なこと書いてくる人居るじゃん?そういう書き込みどうしてる?ちゃんと読む?」
「読むわけないでしょ。あんなの一々読んでたら身が持たないわよ。」
「でも一応私の事見て意見してくれてるわけでしょ?無視するのも違うというか・・・」
「いい、ルビー。これはマジな話だからちゃんと聞いて。アンタはまだファンが少ないからアンチの書き込みも大したことないけど、これからファンが増えて注目度が上がれば、えげつない量のアンチコメントが来るようになるわ。そういうのは基本的に無視しなさい。もし批判の意見が欲しければリアルの知り合いに聞けばいいの。間違ってもネットの意見を鵜呑みにしちゃ駄目。」
マジの顔だ。とりあえず、ネットのアンチコメントは読まない方が良いってことは良く分かった。これからはネットで何か言われたら先輩とかミヤコさんに意見を聞くようにしよう。逆に、先輩が虐められるようなことがあれば私が助けてあげなきゃだね。
「分かった。気を付けるよ。アクアにも私から言っておく。」
「そうね。あいつ、今日も今ガチの収録だっけ?」
「そうだよ。」
「恋愛リアリティショーは炎上するときついわよ。なんたって素の自分自身の行動にあれこれ文句言われるんだから。まぁアクアの事だから大丈夫だとは思うけど。」
「この前家族でご飯食べに行ったんだけどね、恋リアは思ったよりやらせが少ないって言ってて、でもアクアもミヤコさんも浮かない顔してた。なんでかなって思ったけど、多分炎上の事を心配してたんだ。」
「家族でご飯だなんて、仲いいのね。まぁ社長も恋リアのこともネットの事も良く分かってるはずだから、もしアクアに何かあったら社長が動いてくれるはずよ。」
「うん。それもそうなんだけど。ミヤコさんはあかねちゃんが気になってるみたいなんだよね。」
「あー黒川あかね。確かに恋リア向きじゃないわよねー。まぁ幸い目立ってもいないみたいだし、今の所は問題ないでしょ。」
「それもそうか。」
アクアがもし炎上に巻き込まれてしまったら大変だ。その時は私が全力で支えてあげよう。それこそスマホなんて取り上げて、ぎゅってしてよしよしして。そうすればアクアは元気になってくれるはず。
ママの死だって一緒に乗り越えてきたアクアだ。そう簡単につぶれはしない。
二人一緒にいれば、何があっても大丈夫だ。
ハリセンとはいえルビーお姉ちゃんを叩いたり、スマホを強奪するなんて、かなちゃんは度胸があるなぁ。なお直後にルビーの目力に屈した模様。
ルビーもかなもエゴサはゴリゴリやっている。
毎日投稿30日目。
文章を書くのに慣れてきてたみたいで、最初の頃と比べて2000文字程度の文章を大分楽に書けるようになりました。タイピング速度も上がった気がする。
小説としてのクォリティーは気にしちゃだめです。