【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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アクア失踪?

五反田さんから電話があった。思ったより台風の到来が早いので、アクアは五反田さんの家に泊まるとのこと。

 

事務所には娘のルビーと最近苺プロ所属になった有馬さん、そして私の三人。この天気では、有馬さんを家に帰すのもやめた方が良い。

 

「アクア、今日は五反田さんの家に泊まるみたいね。有馬さんも今日は事務所に泊まっていきなさい。今から帰るのは危ないわ。」

「分かりました。そうさせてもらいます。」

「やったー!お泊り会だね!」

 

ルビーが喜んでいる。

 

本当にこの二人は仲が良く、監督する立場としてはこれほど嬉しいことは無い。アクアが新メンバーとして引っ張ってきた有馬さんは芸能人として知識と経験が豊富で頼りになる。役者にこだわりがあったようだけど、実際の所彼女の性格やスキルを考えればアイドルははまり役だ。

 

「あの…社長。アクアは大丈夫なんですか?炎上してるみたいですけど。」

「結構メンタルはやられてたみたいね。でも今はスマホを見ないようにさせてるし、ちゃんと学校にもいって友達と仲良くやってるそうよ。ねぇルビー。」

「アクアは私が守るから大丈夫。まだちょっと元気ないけど、だんだん良くなってるよ。」

「そう。あんたがそういうなら問題ないわね。本当にヤバいのは…」

「黒川さん、ね。」

 

アクアも気になっていたようだけど、彼女は大丈夫だろうか。ウチと違い、彼女の家は一般家庭と聞いている。となると彼女やその家族が炎上対策やメンタルケアの方法など知らないと考えて良い。事務所との距離もウチほど近くはないだろう。恐らく何も出来ずに一人で抱え込んでしまう。

 

あの真面目そうな黒川さんの事だ、最悪のケースだって考えられる。

 

「こういうのって人前に出るようになったら慣れるものじゃないの?」

「多少はね。でも個人差があるから慣れない人はずっと慣れないものよ。私だってその日のメンタル次第では本当に死んでやろうかって思う日もある。ことさら、耐性の無い10代の少女が初めて罵詈雑言の集中砲火にさらされる心境はアンタには想像も出来ないでしょうね。」

 

娘の素朴な疑問に有馬さんが答える。そして少し顔を伏せ、記憶の中の絶望を写したような真っ黒な目でこう言った。

 

「それは「人生が終わったと錯覚するほど」よ。」

 

その言葉には実感がこもっている。彼女にも経験があるのだろう。どう乗り越えてきたかは分からないが、心に深い傷を負う出来事だったのは間違いない。

 

有馬さんの表情に落ちる黒い影は、芸能界の闇そのものだ。

 

ルビーにはここで言って聞かせておくべきだろう。芸能界はただキラキラと輝いている綺麗な世界じゃない。その裏側には心を病んで壊れていった若者たちの屍がいくらでも転がっているのだ。

 

「恋愛リアリティショー番組は世界各国で人気だけれど、今まで50人近くの自殺者を出している。国によっては法律でカウンセリングを義務付けているほどよ。」

「50人が死んでるって事は、その10倍はギリギリ死ななかったけど死ぬ程の思いをした人が居るって考えた方が良いわよ。リアリティーショーは自分自身をさらけ出す番組……。叩かれるのは作品がどうのじゃなくて自分自身。そりゃキツイわよ。」

「…アクア言ってた。嘘は自分を守る最大の手段だって。」

 

あの時アクアは杞憂だろうと言ったが、恐れていた事態は現実のものとなってしまった。

 

アクアは炎上の恐ろしさを良く理解していたのだろう。今ガチに出演するにあたり、矛盾を感じない程度ではあるがそれなりにキャラを作っていた。そのためかアクアのダメージは比較的早期に回復し、翌週の撮影にもどうにか参加できた。

 

一方で黒川さんは活動を休止している。映像を見るに、黒川さんは完全に素の自分で撮影に臨んでいた。そもそも炎上する前から精神的には参っていただろう。そこにこの仕打ちだ。心中察するに余りある。

 

「SNSは有名人への悪口を可視化するの。表現の自由と正義の名の下、毎日のように誰かが過剰なリンチに遭ってる。皆自分だけは例外って思いながらしっかり人を追い込んでるのよ。何の気無しな独り言が人を殺すの。」

 

有馬さんがさら説明を続ける。ネットや炎上に詳しい子だ。一体どんな過去があったのやら。

 

「アクアは大丈夫かなぁ。」

「大丈夫でしょ。噂になってるわよ。アクアがあんたのおっぱいで元気になったとか、不知火フリルが二人の仲を認めてるとか。どうせいつもみたいにイチャイチャを見せつけてるんでしょ?」

 

…この子、もしかして学校でもいつもの距離感で接してるの?おっぱいで元気?

まぁとりあえず、アクアの精神状態は快方に向かっていると考えて良さそうだ。

 

prrrr

 

スマホが鳴った。

電話の主は、五反田さんだ。

 

「もしもし、五反田さん。どうしました?」

「社長さんか。すまねぇ…アクアが急に家を飛び出しちまって、その…行方が分からねぇんだ。」

「どういう事!?」

「すまん、俺にも分からねぇ。電話にも出てくれないんだ。ミヤコさんとルビーの方からも連絡してみてくれないか。」

「言われなくてもそうするわよ!」

 

アクアが急に居なくなった。電話にも出ない。なぜ? いや、考えたくもないが、思い当たる節はある。

 

自殺というのは、一度病んだメンタルが回復する過程で実行されるケースが多い。希死念慮を抱きつつもそれを実行に移す気力が無いどん底の状態よりも、行動を起こす活力が戻ったタイミングの方が危ないというのは有名な話。

 

……今のアクアがまさにその状態ではないか。

 

「社長…?あの、今の電話って。」

「ミヤコさんどうしたの?凄い慌てて…。」

「五反田さんからよ。アクアが突然家を出て行方が分からなくなったって。電話も無視してるみたい。」

「それって…!まさかあいつ、死ぬ気じゃないでしょうね!?」

「早まらないで。まだそうと決まったわけじゃないわ。」

 

不安にさせまいと有馬さんの言葉を否定するものの、二人の表情は険しいままだ。私の不安が伝染している。こういう時こそトップの自分が毅然と構えてないといけないのに。何か、何かこの子達を安心させる言葉をかけてあげないと。

 

「大丈夫。アクアは元気になりつつあるでしょ?そういう事はしないはずよ。」

「でも社長。こういうのって、メンタルが回復して意欲が高まるタイミングで起きやすいって…。」

 

そんなことは分かってる。分かった上で不安を煽らない為にあえて伏せていたというのに。ここにきて有馬さんの知識が悪い方向に発揮されてしまった。

 

「え…嘘…アクアが…?そんなことないよね…?」

「ルビー、落ち着いて。五反田さんは私達からも連絡してと言っていたわ。とにかく電話をかけてみましょう。今はアクアに連絡が付くことを祈るしかない。」

 

ルビーと二人で電話をかけるが、応答しない。五反田さんならともかく、あのアクアがルビーからの電話に出ないなどということがあり得るだろうか? まさか本当に、想像している通りの行動に出てしまったのか。本当に、自ら命を絶とうとしているのか。

 

「お願いアクア…!電話に出てよ。なんで出ないの…!」

 

悲痛な面持ちでひたすら電話をかけ続ける娘。そのあまりにも痛々しい姿は、かつて彼女が母親を失ったときに見せたそれと重なる。アイを、母親を失うというトラウマを抱えた彼女が、最後の肉親である双子の弟を失うようなことがあれば……それこそアクアの後を追いかねない。

 

お願いアクア…無事でいて。

 

私にはもはや祈ることしか出来ない。

 

prrrr

 

「社長!電話なってますよ!」

「アクア!?アクアからなの!?」

 

スマホを確認するも、表示される番号はアクアの物ではなく。

 

「はい斎藤です。…えっ警察、ですか…?」

 

電話の主は、警察だった。

 




※アクアはあかねを探しに行っただけ


アクアがあかねを助けるのは既定路線。しかしアクアはメンタルを病み監視状態。
結果、苺プロの面々が盛大に勘違いする展開に。

報連相って大事ですよね。私もこれが出来ないせいでよく怒られます。
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