【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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理想の女性像

アクア君が作ってくれた動画により、炎上騒ぎはある程度の収束を見せた。そういう歯切れの悪い言い方になるのは、炎上に完全な解決は無いからだ。これからも事ある度に蒸し返され、言い続ける人は10年後も言い続けるだろう。

 

SNSから距離を置いてしばらく休養し、私はどうにかメンタルを持ち直した。そして今日、こうして収録への復帰報告をするため今ガチの現場にやってきている。ここに来るのはあの事件の日以来だ。

 

久しぶりに楽屋の扉を開くと、真っ先にアクア君が私を出迎えてくれた。その肩越しにはゆきちゃんとメムさんが仲良く並んで座っているのが見える。ケンゴ君とノブ君は仕事で早々に帰ったらしい。

 

「私、次の収録から復帰する。」

「そうか。やっとここまで回復したんだな。あかね。」

「うん。心配かけちゃったかな。」

「過ぎたことだ。気にするな。」

「アクア君は大丈夫なの?」

「俺は何ともなかった…と言うと嘘になるんだが、もう大丈夫だ。」

「そう。良かった。」

 

炎上で辛い思いをしたのは私だけではない。アクア君もバッシングの標的になり、一時はかなり精神的に追い込まれたと聞いている。でもこうして私もアクア君も元気になり、また一緒に撮影が出来る。あの時死ななくて本当に良かった。

 

彼は私よりダメージが少なかったようで、私が番組出演を見送っている間も出演を続けていたからあまり心配はしていなかったけど、こうして元気そうにしているアクア君を見ると安心する。

 

「さっそく見せつけてくれるねぇ。」

「ラブラブだねー。」

「いや、違うって。これは…。」

「何が違うのかなぁ?」

「もうどこからどう見てもカップルでしょ!」

 

ゆきちゃんとメムさんも相変わらず……いや、前より大分元気というか、凄い楽しそうだ。楽屋の奥で恋バナに興じる彼女らはキラキラと輝く瞳をこちらに向け、祝福なのか恨み言なのか良く分からない言葉を投げかけてくる。多分悪い意味ではないんだろうけど、ここまで注目されると恥ずかしいな。

 

今ガチメンバーの中では、私とアクア君はもうカップルが成立するものと思われている。組み合わせが確定したので手出しは無用とのメムさんからのお達しだ。

 

それもそのはず。私が自殺未遂をしてアクア君に助けられたあの日、吊り橋効果かあるいは同じ炎上に苦しむ者同士の共感か分からないけれど、とにかく私とアクア君は良い感じの雰囲気になった。その上、そのままお互い感極まってハグまでした。

 

……皆が見ている前で。

 

楽屋の奥からゆきちゃんとメムさんが楽しそうにこちらを見ている。いや、別に見せつけてる訳ではないよ?ちょっと二人で会話していただけで…。

 

「とりあえず中に入ろう。アクア君。」

「そうだな。あいつらの視線も鬱陶しい。」

 

逃げるように楽屋の中へ移動し、アクア君と並んで適当な椅子に腰かけた。やれやれ、と困った顔のアクア君。しかしこんな面白い状況を彼女たちが見逃してくれるわけもなく。

 

「逃がさないよ~。」

「聞きたいことが山ほどあるんだからねぇ。」

「はぁ、もう好きにしろ…。」

「お手柔らかにお願いします…。」

 

圧力に屈した私たちはついに観念し、お互いの近況を洗いざらい吐かされることになった。

 

「で?最近どうなのさ。二人で会ったりしてんの?」

「直接会うことは無い。ラインでメッセージ送ったり通話したり、まぁ普通に友達として仲良くしてるだけだ。」

「あかね、そうなの?」

「大体そんな感じ。あ、でも炎上対策とかメンタルケアについては色々教えてもらってるよ。凄い助かってる。」

 

アクア君は苺プロの社長さんの息子だ。彼はお母さんに教わったという炎上対応や誹謗中傷に対する心構えなどについて、私にも詳しく教えてくれた。そしてやっぱりと言うか、相変わらずお姉ちゃんのことが大好きで、今回の騒動の間もずっとお姉ちゃんが支えてくれたと言っていた。

 

「なるほど芸能事務所社長の息子かぁ。そりゃ体制も万全だわ。バックにはお姉ちゃんも控えてるわけだし、無敵の布陣だねぇ。」

「やっぱりコネの世界だよね、芸能界って。アクア君が羨ましいなぁ。」

 

確かに、あまり力のある事務所ではないけれど親が芸能事務所の社長と言うのは強い。姉弟揃って芸能人だし、母親のミヤコさんも相当な美人で立ち居振る舞いに隙が無いところを見るとやっぱりそういう仕事をやってきた人なのかなと思う。

 

まさに芸能一家というわけだ。見られる側の人間の苦労もその対応も良く分かっているんだろう。

 

「で、アクたんのお母さんの助言もあってあかねは元気になったわけね。」

「もう大丈夫?無理しなくていいからね?」

「うん。もう大丈夫。」

「ずっと見てきたけどもう大丈夫だろ。どん底の時とは比較にならないくらい明るくなったと思うぞ。」

「ありがとう。アクア君のおかげだよ。」

「気にするな。言ったろ?一緒に乗り越えようって。俺だって仲間がいた方が心強いし。」

「アクア君…。」

 

ああ、アクア君は本当に優しいな。あの台風の中私を探して助けてくれて、イメージ回復のためにドキュメンタリー映像まで作って、こうしてずっと一緒に居てくれた。離れたくないな。出来ることなら、この先もずっと一緒に。

 

そんな私の気持ちが伝わったのか、先ほどからずっとハイテンションな二人のテンションがさらに上がり、もう訳の分からないことになっている。

 

「ああもぉ何なのこの二人は!カメラも回ってないのにこの湿度!」

「やっぱり見せつけてるでしょ!?このバカップル!」

「あの…うん、見せつけてるわけじゃなくてね…」

「もうほっとけ。付き合ってられない。」

 

私とアクア君ではこのテンションにはついていけない。まぁ、楽しそうだし良いか。

 

しばらくきゃーとかやばーとか、興奮状態で歓声を上げていた彼女たちも、さすがに数分も放置すれば静かになった。そして話題は私の今後の方針へと移る。

 

「これからはさ、あかねもちょっとキャラ付けた方が良いんじゃない?やっぱ素の自分で出て叩かれるとダメージ大きいし。」

「そうだな。何かしら演じてたららその「役」が鎧になる。素の自分を晒しても傷つくだけだ。この鎧のおかげで俺も命拾いしたわけだし。」

「そうだねぇ。確かにアクたんが軽傷で済んだのもそのおかげだぁ。」

「そうだったんだね。」

 

実際の所、私にも今ガチ用の人格を演じるという発想自体はあった。しかし初めての経験する恋愛リアリティショーという仕事で変に気を使ってしまい、演技という最大の武器を自ら封印してしまったのだ。

 

今になって思えば、本当に愚かな選択だった。

 

あんな目に遭った以上、もう自分の身を守るためには四の五の言っていられない。演じよう。恋愛リアリティショーにふさわしい人間になるのだ。もう出し惜しみはしない。

 

「でも、どんな役演じればいいんだろ?」

「んー。…アクたんはどういう女が好み?」

「なんで俺に…」

「いやもう君以外ありえないでしょ。理想の女性像を教えてあげてよ。」

「うーん、理想の女性像ね…。」

 

少し考え込んだアクア君は、まるでその人が目の前にいるかのように宙を見ながら、その特徴を言葉にしていく。そこから浮かび上がってくる人物像に私は内心ものすごく驚いた。まさか、こんなことがあるなんて。

 

「太陽みたいな笑顔。」

…太陽みたいな笑顔といえば、かなちゃんが思い浮かぶなぁ。

 

「完璧なパフォーマンス。」

…かなちゃんは演技も素晴らしい。非の打ち所がない。

 

「まるで無敵に思える言動。」

…私を見ろって輝いてるときのかなちゃんだ。

 

「吸い寄せられる天性の瞳。」

…可愛すぎて思わず見ちゃうよね。わかる。

 

一体何の冗談だろうか。彼の理想の女性像は、私の良く知る人物にピタリと一致する。

 

そういえば彼女は最近アクア君と同じ苺プロの所属になっていた。今はルビーちゃんと一緒にアイドルをやっている。うん、これはもう間違いないだろう。

 

なるほど良く分かった。アクア君の好みの女性は有馬かなだ。私の憧れの人であり、最大のライバル。まさか、こんなところでかなちゃんが私の前に立ちはだかるなんてね。もはや運命すら感じる。

 

「わかった。やってみる。」

「え、今ので分かるのか?」

「うん。完璧に分かった。アクア君の好みの女の子、やってみるね。」

「うーん?」

 

アクア君が不思議そうな顔をしている。当然だ、私がかなちゃんのファンであり、また私達が女優としてライバル関係にあることを彼は知らないのだから。ふふふ、びっくりするだろうな。

 

演じるならアクア君の好みに合わせてあげたい。でもそれだけじゃない。有馬かなに勝ちたい。アクア君がかなちゃんを好きと言うなら、それ以上の魅力で彼を振り向かせるだけだ。絶対にかなちゃんには渡さない。

 

負けないぞ…。

 




物静かでおとなしい二人なので、普通に話してるだけでいい感じに二人の世界が出来上がるのが強い。


星野アクア
あかねと共に苦境を乗り越えて一気に距離が縮まり、演者の中ではカップル成立扱いとなっている。
理想の女性と聞かれて自身の母親を思い浮かべたが、有馬の事も普通に好きなのであかねの推理はそんなに外れていない。

黒川あかね
自殺を図るほど追い込まれたメンタルは無事回復し、撮影に復帰。
アクアの理想の女性を見事に有馬かなだと勘違いした。特徴だけ並べると吸い寄せられる天性の瞳以外は意外と一致しているので無理もなかった。
勘違いにより、有馬かなに対するライバル心に燃えている。
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