【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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意気投合

あれはまだ私とアクアが生まれてすぐの頃。

私は夜な夜なママのスマホをこっそり借りて隣の部屋で弄っていた。ママの素晴らしさを理解しない類人猿どもに宇宙の真理を理解させる神聖な活動を行うためだ。というのは半分冗談で、実際のところは話し相手がいない寂しさを紛らわせるために勝手にママのスマホで遊んでいただけ。

 

私は会話に飢えていた。何せ、一言もしゃべってはいけないのだ。目の前にママの美しい笑顔があっても褒めちゃいけないし、ミルクが欲しくてもおむつを替えて欲しくても泣くことしか出来ない。

それどころか、相槌を売ったり、面白い話を聞いて笑うのもNG。そんなことをしたら日本語を理解しているとバレてしまう。

 

マジのマジで、身動き一つ取らずに大人たちにお世話されることしか出来ない。そんな私の生活で楽しみと言えば、可愛い弟の寝顔を眺めるくらいなものだ。そんな生活がしばらく続くという現実に私は絶望していた。

 

そんなときだ。弟のアクアが話しかけてきたのは。

 

「お前もしかして、俺と同じか?」

「赤ん坊が喋った!キモー!」

「お前もだろ。」

 

赤ん坊が流暢に日本語を話すというあまりに異様な光景に、思わず罵倒してしまった。

対するアクアの反応は冷静なものだ。私が思いつく限りの悪口を言いながらツイッターでリプ合戦をしているところを見ていたから当然なのだけど。

 

「まあ双子だしな・・・。ルビーも前世の記憶を持ってる可能性は視野に入れていたが・・・。」

 

何やらぶつぶつとつぶやいている。アクアも一人きりで考え事をして過ごす期間が長かったから、目の前に話が通じる人間がいることに気付かずに考え込んでしまっているようだ。ここはひとつ、お姉ちゃんとして弟の悩みを聞いてあげよう。

 

「どうしたのアクア。何か悩んでるの?お姉ちゃんに話してごらん?」

「え、ああ、そうか。ルビーとは話しても問題ないんだよな。」

「そうそう。だからね、一人で考え込まないでお姉ちゃんに相談していいよ。」

「いやだ。」

 

断られた。ふふふ、シャイなんだな私の弟は。目をそらす仕草も可愛くて、ぷいっという効果音が聞こえてきそうだ

姉にすら心を開けないようではこの先大変だぞ?我が弟よ。しばらくはお姉ちゃんしかキミの話し相手になってあげられないんだからね。というか、お願いだから仲良くしてほしいな。じゃないとマジで心が死ぬ。

 

「そんなこと言わないでよ。アクアが私と同じだって分かって嬉しいんだよ。やっとお話しできるって。ねえ、アクアも寂しかったんじゃないの?」

「それは、まあ、そうだな。俺も話し相手は欲しいと思ってた。」

「でしょ。私とアクアはしばらく二人でいるときしか話せないんだから。お姉ちゃんと仲よくしよ?」

「妙にお姉ちゃん面してくるのが気になるが、もっともな話だ。仲良くしたほうが良いな。」

 

ちゃんと言えばアクアも分かってくれた。そっけない態度だけど、根は良い人なのかな。とにかく、アクアとは姉弟として仲良くしなきゃ。アクアが口を聞いてくれなくなったらまたあの地獄に逆戻りだ。

 

「ルビー。これからはアイが寝た後に目が覚めたときは、この部屋で待つことにしよう。俺たちが確実に二人きりになれるタイミングは深夜くらいしかないからな。」

「うん。分かった。」

「それから、ミヤコさんは育児に慣れてないからちょっと振り回せばすぐに疲れて寝る。」

「うわ、それはちょっとかわいそう。」

「なりふり構ってられるか。それに、普通の子供に比べれば俺たちの世話は楽なもんだよ。」

「それもそうか。普通はもっと大変なんだもんね。」

 

仲良くしようと決めた途端、アクアは私たちが会話できそうなタイミングを作るための方法を話し始めた。

やばい。私の弟、賢い。

というか、やっぱりアクアも一人でじっとしてるのは辛かったんだろうな。今も難しそうな顔をして、真剣に考えてくれているのが分かる。

 

「ねえ。もっとお話ししようよ。アクアはママのこと知ってるの?」

「俺はもともとアイドルオタクで、アイを推してたよ。ルビーはどうなんだ?」

「私もアイが一番好き。っていうかアクア、私のことはお姉ちゃんって呼んでよ。弟でしょ。」

「いや、お前雰囲気が子供っぽいし、なんか俺の方がお兄ちゃんっぽくないか?」

「何言ってるの。先に生まれたのは私。ママだって私のことお姉ちゃんって言ってたもん。これが全てだよ。」

「うーん。そうなんだけどさ・・・。なんか腑に落ちないなぁ。」

 

そんなに私って頼りない?

確かに前世では助けてもらってばかりだったし、実際のところお姉ちゃんってどういう存在なのかは良く分からないけど。でも、弟が出来たと分かってから妙にアクアに世話を焼きたいというか、可愛がってあげたい気持ちになる。これがお姉ちゃんになるってことなんだと思う。ひごよく?っていうのかな。とにかく、アクアを思いっきり可愛がって、甘やかしてあげたいんだ。

 

「そんなことよりさ。ママを推してるんだよね。もっとアイについて語ろうよ。」

「ああ。アイは最高のアイドルだ。まず顔が良い。それに表情も完璧なんだ。いつも吸い寄せられるような可愛い笑顔を崩さない。もうその一点だけでも他のアイドルとは一線を画しているな。でもそれだけじゃないんだ。例えば・・・」

 

アクアが目をキラキラさせて話し出す。ママのこと好きすぎでしょ。まぁ、私の方が好きに決まってるけど。

 

「・・・確かにあれは良かったよね!あの時のママは神がかってた!じゃあこの時のライブは知ってる!?これはね・・・」

「・・・当然見てるさ。あの頃のアイは何というかちょっとまだあどけない感じが可愛かったなぁ。ここ最近のセクシーなアイも良いけど、昔のアイもそれはそれで・・・」

 

ママのライブ全部見てるのかな。なんでも知ってるなぁ。

 

「「やっぱりアイは最高!」」

 

お互いが一通りママに対する思いを吐き出し終わる頃には、私とアクアはすっかり意気投合していた。アイの娘に転生しただけでも嬉しいのに、弟も前世の記憶を持っていて、アイについて熱く語ってくれるなんて。私は世界一の幸せ者だ。

 

「ありがとな。とても楽しかったよ。これからもよろしくな、お姉ちゃん。」

 

そういって笑いかけてくるアクアの瞳はママみたいに輝いていて、とても綺麗だった。

 

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