【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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お姉ちゃんの弟離れ

アクアの口から確かに発せられた「かなちゃんも好き」発言を聞いて、先輩がおかしくなっている。

 

「アクア…待ってなさい…うふふふふ…」

 

浮かれてるなぁ。まだアクアに選ばれると決まったわけでも無いのに。

 

アクアが先輩に惹かれてたのは、まあ割と前から分かってた。先輩のキャラクターは割とママに似てる。元気で明るくて、強くて図太くて、笑顔が眩しい女の子。こんな子が同じ事務所にいていつもアクアに構ってくるんだから、好きになるのも自然なことだ。

 

先輩は悪い人じゃない。真面目で努力家で、芸能界の事も良く分かってて、役者としてアクアとお仕事の話だって出来る。悔しいけどアクアの隣に相応しい女性だと素直に思う。

 

タブレット端末の画面に目を向ければ、そこにはアクアと親しげに話すあかねちゃんが映っている。彼女もまた、アクアが好意を寄せる女の子の一人だ。

 

番組の炎上をきっかけに仲良くなり、最近はよくテレビ通話でお話ししているところを見かける。時々私も乱入してはあかねちゃんに笑われて。しばらく見ていてわかったことは、あかねちゃんもすごく良い(ヒト)だって事。

 

アクアがあかねちゃんを選んだとしても、私は心から祝福できる。…少し、いやかなり複雑ではあるけど。

 

先輩とあかねちゃん。アクアはどちらか一方を選ぶことになる。番組のラストは男性陣から女性陣への告白で締めくくられるからだ。そこで何かしらの答えを出さなければいけない。

 

先輩もあかねちゃん、どちらもアクアと両想いだからカップル成立は確実だろうな。

 

ああ、弟の姉離れがいよいよ始まる予感。

 

・・・

 

お夕飯を食べてお風呂にも入ったことだし、お部屋でのんびり漫画でも読もうか。今日あまの続きをアクアの部屋から拝借してきたし、準備オッケー。

 

コンコン

おや、ノックの音が。

 

「お姉ちゃん、入るよ。」

「うん。」

 

アクアが来た。最近はあまり私の部屋に来てくれなくて寂しいと思ってたところだ。扉を開けて私の部屋に入ってくる可愛い弟の手には、ポテトチップスとサイダー。今日は長居する気満々の様だね。お姉ちゃん嬉しい。

 

私は床に座り、ベッドにもたれかかる。するとアクアは私のすぐ横に腰を下ろす。並んで座るぬいぐるみのように二人で支え合い、ちょうど良い感じにバランスをとる。言葉も交わさず、アイコンタクトさえなく、流れるように自然な動きで二人は身を寄せ合う。

 

特に意味はない。ドキドキしたりもしない。これくらいの距離感が私たちにとっての普通だから。

 

私たち姉弟の向かいの壁にはママのポスター。写真のママはいつも輝いていて、その綺麗な瞳で私とアクアを見守ってくれる。この部屋には私とアクア、そしてママがいる。星野一家が勢揃いだ。

 

「珍しいじゃん。アクアの方から私の部屋に来るなんて。」

「たまにはいいだろ。」

「いつでもいいけど?」

「あっそ。」

 

わたしが手にとったポテチをアクアの口元へ取っていくと、アクアはそのまま器用に口で受け取って食べる。何枚か食べさせてあげた後は、ジュースをこぼさないように飲ませてあげる。子供の頃こうやっておやつを食べさせてあげていたのが、高校生になった今も続いている。

 

赤ちゃんでもないのに甘やかしすぎだろうか?

 

普通の高校生は多分こういうことはしないんだろう。友達に聞いてもやってないって言うし、漫画やドラマでも見たことが無い。

 

辞めるつもりなんてこれっぽっちも無いけどね。これが私達姉弟。誰にも文句は言わせない。

 

「お姉ちゃん、ぎゅってしていいか?」

「いいよ、おいで。」

「あ、そうじゃない。俺がする。」

「アクアが、私を?」

「そ。」

 

意外な提案だ。でも、悪くない。たまにはこういうのもアリか。

 

アクアの力強い腕が私の肩に回り、そのまま抱き寄せられる。筋肉質で固い体。ここ数年でアクアは一気に大きくなった。ちょっと前までは身長もほとんど同じくらいだったし、ご飯を食べる量もそんなに変わらなかったはずなのに。

 

私も成長した。前世では12歳で死んでしまったけど、星野ルビーはもう16歳だ。ほとんど大人と同じくらいの背丈になり、自分で言うのもなんだけど結構セクシーな体をしている。写真に写るママのように。

 

今の私たちを他人が見たら恋人のように見えるだろうか。まぁこれくらいの年ならそう考えるのが普通だと思う。でも私達にはこれが当たり前すぎて、今更別の感情が湧いてくることも無い。ただ心が安らぐだけだ。

 

アクアはしばらく無言で私を抱きしめていたが、それほど時間が経たないうちに私を離して元の位置に戻った。

 

「もういいの?」

「うん。やっぱ違うな。」

「何が?」

「あー…なんていうか。お姉ちゃん、ちょっと相談したいんだけどさ。」

「なに?」

「お姉ちゃん以外にもこうやってぎゅってしたい人が居るんだ。」

「二人?」

「うん。」

 

ああ、そうか。そうだよね。お姉ちゃんもそのことをずっと考えてた。

 

アクアはどんどん大きくなって、私の傍から離れていく。今までアクアに近づく女の子にやきもちをやいては遠ざけてきたけど、もうそろそろ潮時なのかもしれない。弟離れしなきゃいけないってことなんだろう。

 

アクアが真剣に悩んでることはもう十分わかってる。相談されたときに返す言葉も決まってる。後はそれを伝えるだけ。

 

「その二人抱きしめたい気持ちは、お姉ちゃんにそうするときの気持ちとは違くて。」

「うん。」

「多分、これが恋、なんだと思う。」

「きっとそうなんだろうね。でも二股はだめだよ?」

「分かってるよ。けど…」

「決められないんだ?」

「比べようが無い。どっちも好きで大切な人だから。」

 

青春してるなぁ、我が弟。

 

要するに、アクアは先輩とあかねちゃんが好きで、どちらかを選ばなくちゃいけなくて、でも選べなくて悩んでる。そういう話。

 

アクアらしい、誠実で真っ直ぐな悩みだ。誤魔化そうとか有耶無耶にしようなんてことは思いつきもしない。私の素晴らしい情操教育の賜物か。

 

「アクアが真剣に悩んで決めたことならお姉ちゃんは何も言わないよ。きっと相手もそれで納得してくれる。適当に誤魔化すのだけはやめてね。」

 

用意していた言葉をアクアに投げかける。これが私の結論。どこぞの先生と同じだ。相手の事を思えばこそ、勝手に決めつけるのがためらわれる。お姉ちゃんという立場になって良く分かった。

 

「そんな適当な…。丸投げじゃん。」

「これでも結構真剣に悩んだんだよ? どっちを選んだってアクアは後悔するんだから、そうなったときに傍にいてあげるのがお姉ちゃんの役目なの。」

「…分かったよ。ちゃんと考えて決める。」

「うん。応援してる。」

「今度有馬に遭ったら遊びにでも誘ってみようかな。」

「二人きりで?」

「ああ。俺の気持ちを確かめて来るよ。有馬と二人きりで話すことってほとんどないしな。あかねとは収録で会うからそこで。」

「うん。」

 

そこからしばらくは、また無言の時間だ。アクアにお菓子を食べさせたり、読み終わった漫画をアクアの部屋に戻して次の2冊を取ってきたり。何のことは無い、アクアと一緒に過ごす余暇の時間だ。

 

手元にある今日あま2冊を読み終え、時計を見るともう夜の11時。寝る時間だ。

 

「アクア。今日は一緒に寝よっか?」

「俺思うんだけどさ、そろそろ姉離れした方が良くないか?これから彼女作ろうっていうのに、いつまでもお姉ちゃんに甘えてたらカッコ悪いっていうか…。」

「まぁ、私もそういう事は考えるけど…。嫌じゃないんでしょ?」

「嫌なわけあるか。」

「じゃあ良いんじゃない?我慢しなきゃいけないってことはまだ姉離れできてないんだよ。本当に嫌になったときがその時じゃない?」

「まぁ一理ある…のかな?」

「そういう訳だから。今日は一緒に寝よ。」

「うん。」

 

よし。押し切った。でもどんどん手強くなってくるなぁ。

 

この数か月でアクアは大きく変わった。仕事か、恋か、思春期だからか。理由は良く分からないけど、一人の大人として自立していきたいという思いを感じる。素直に喜べない成長もあるんだね。

 

あと何回、アクアと一緒に寝れるだろうか。

 

 




いつぞやのツイッターで流れてた「距離感バグ星野兄妹」を書きたかっただけ。
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