【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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ファーストキス

今日で今ガチの収録は終わり。

 

上手く目立てなかったり、炎上で心のバランスを崩して自殺未遂までしたりと、本当にいろいろなことがあった。最近ではアクア君の理想の女性をかなちゃんだと勘違いして、カメラの前で違うって言われたっけ。

 

あれは恥ずかしかったなぁ。

 

次の撮影からは『B小町のアイ』を演じている。こっちが本当のアクア君の理想の女性だ。あれ以来、番組での私の人気は順調に上がり、アクア君とのカップリングがゆきユキに次ぐ番組の目玉となった。

 

いつだったか、アイを演じる私に対しアクア君は、とっても可愛い照れ顔を見せてくれた。頑張ってプロファイリングした甲斐があるというものだ。結局、私の武器は演技だった。

 

ラストシーンの撮影に向け、現場は準備中。演者にとっては移動兼休憩時間だ。アクア君と並んで最後の舞台、レインボーブリッジが見える東京湾沿いの広場を歩く。

 

「いよいよ撮影も終わりだね。寂しいなぁ。アクア君の言う通りのキャラ付けしたら人気も出て……かなり助かったよ。ありがとう。」

「有馬とアイの演技……いや役作りか、まるで夢を、本物を見てるみたいだった。アレってどうやってるんだ?」

「いやそんな大層な物じゃ……。一応プロファイリングの本とか読んだりはしてるんだけどね。いっぱい調べて自分なりに解釈してるだけ。勝手に色々な設定とか足しちゃってるし。」

「勝手な設定?」

「うん。例えば……アイには実は隠し子が居る…とか、かなちゃんには最近お姉ちゃんが出来た…とか。だとしたら色んな感情のラインに整合性が取れるしっ不可解だった数々の行動の理由が分かる。何を考えてどういう人格なのか数式パズルみたいに分かってくる!」

 

ふとアクア君を見れば、なんだか複雑そうな顔をしている。理由は明白。喋りすぎだ。

 

私は役作りの事になるとついテンションが上がって聞かれてもいないことまでペラペラと喋ってしまう。聞いてる人からしたら鬱陶しいだけと分かってるのに、そういう話題になるとついやってしまうのだ。

 

私ってオタクなのかなぁ。うん、どう見てもオタクだよね…。

 

「ははっ、本当に役作りが好きなんだな。なるほど、役者の基本である役作りを徹底した結果ってわけだ。不思議なテクニックとか裏技みたいなものじゃなく、ただ単純に役者としての基礎体力みたいなものが高いんだろうな。」

「そんな…誉め過ぎだよ。役者のスキルって役作りだけじゃないでしょ? アクア君みたいに現場のニーズに合わせて器用に動けるのも凄いと思うよ。」

「まあ、相反するところはあるよな。役に入り込むほどリアルな演技が出来るけど、入り込み過ぎれば周りと合わせにくくなる。要はバランスが大事って事だ。」

「達観してるなぁ…。」

 

どうやらアクア君も相当な演技オタクみたいだ。今まで演技について話すことは無かったけど、こんなに会話が弾むなら初めからもっと演技の話題を振るべきだったかな。番組での私のイメージが演技オタクになるのはちょっとアレだけど。

 

「そういえば復帰初日だけは有馬の演技だったよな。」

「…その話はもう良くない? あの日だけでもう一生分の辱めを受けたと思うんですケド。」

「もしかしてそれ、怒ってるのか?」

 

急にあの日の事を思い出して蘇ってきた羞恥心に顔が赤くなるが、こればっかりは早とちりした私が完全に悪い。せめてもの反抗としてプクーと頬を膨らませ、私怒ってますの意を表明する。

 

「悪い悪い、そうじゃなくて。あの日の有馬の演技、なんかちょっと違うというか……上手く言えないんだが、物足りない感じがした。」

「へぇ、アクア君も分かるんだ。うん、私もそう思ってた。」

 

良く見てるなぁ。私の事も、かなちゃんの事も。

 

「…足りない。どうしても足りないの。輝きが。」

「ああ。全力で輝く有馬の眩しさはあんなものじゃない。」

「随分とかなちゃんに詳しいんだね。」

「そりゃ、同じ事務所のタレントだしな。」

「そしてアクア君の好きな女の子だよね。」

「今それを言うなよ。」

 

気まずそうに話を切るアクア君。少しは仕返しできたかな?

 

こうして話している間に準備は整い、いよいよ撮影は番組のクライマックスシーンだ。レインボーブリッジが見える海沿いの広場の真ん中で、男性キャストが一人ずつ相手を指名し、告白する。

 

私は広場の近くのベンチで座って待機する。ああ、緊張してきた。顔が熱い。胸がドキドキする。

 

アクア君は私を選ぶはず……だよね? だってもうそういう雰囲気になってるし、アクア君との距離はかなり縮まってるはずだし…。いやでもそれはメムさんがそう言っただけで絶対じゃなくて……駄目だ、緊張で上手く頭が働かない。

 

撮影が始まり、トップバッターはノブ君。ゆきちゃんへたった一言「俺と付き合ってください」と言って、赤いバラの花束を差し出す。彼らしい、ストレートな愛情表現だ。しかしゆきちゃんはまさかの交際NG。ノブ君は悔しそうにその場を後にした。

 

次はケンゴ君。相手は……メムさんだ。メムさんの前に跪き、アコースティックギターの音色と共に自らの想いを歌にしてメムさんへ伝える。しかしこちらもNG。可愛らしくごめんねと言うメムさんに背を向け、一目散に走りさっていくケンゴ君には少し同情してしまった。

 

そして、アクア君の番。

 

ベンチに一人座りノブ君とケンゴ君の告白の様子を眺めていた私の所へ、カメラマンやその他のスタッフを引き連れてアクア君がやってくる。

 

さっきから心臓が煩い。アイの演技をしながらなんとか平静を装っているけど、これもどこまで持つだろうか。

 

いつの間にか彼は私の目の前。背後から街頭に照らされ、顔に薄く影が落ちていて表情が良く見えない。対照的に綺麗な金色の髪はキラキラと輝いていてとても綺麗だ。

 

跪き、ベンチで座る私に目線を合わせてアクア君が私の名前を呼ぶ。

 

「あかね。」

「はい。」

 

彼の一言でさらに緊張が高まる。頭の中が真っ白になりそう。

 

大丈夫。たった一言、よろしくお願いしますと言えば良いだけ。何も難しいことは無い。無いはずなのに。

 

アクア君が告白のセリフを口にするまでの数秒間、真っ直ぐに私を見つめる彼の碧い瞳に釘付けになり、周りが見えなくなる。

 

「この番組が終わった後も、ずっと傍で君を守りたい。これから先も俺と一緒に居て欲しい。俺と、付き合ってください。」

「はい。よろしくお願いします。」

 

ああ、言えた!

 

アクア君の告白を受け、私の返事はもちろんOK。これで私たちは番組公認のカップル。初恋がこんな素敵な形で叶うなんて、夢のようだ。

 

はぁ、凄く緊張した。これで良かったよね? 告白されて、OKして。うん大丈夫。

 

ここで、アクア君が予想外の行動に出た。私の前に跪いていた彼が立ち上がる。そして半歩前に踏み出し屈むようにして顔を近づけ、私の顔を覗き込む。何をするんだろうと思う間もなく彼は私の頬に手を添え、そのまま互いの唇を合わせて……キスをした。

 

不意打ちのキスを受け、私の精神は限界を超えた。もはや何も考えられない。唇の感触と、アクア君の綺麗な顔だけがそこにあって、撮影中である事さえ忘れて夢のような時間を過ごす。

 

唇が離れ、目の前には顔を真っ赤にして照れるアクア君。時間にしてほんの数秒だったはずなのに、一瞬にも、数分にも感じた不思議なひと時だった。これが私のファーストキス。一生忘れられない思い出になるだろう。

 

アクア君と二人だけの世界を作り上げ、その中で私はうっとりと彼を見つめる。拍手の音も撮影終了の声も耳に入らない。演技をする余裕などとうに無くしている。

 

ファーストキスの余韻と初恋が叶った喜び。それだけが私の胸を満たしていた。

 

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