【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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今ガチ打ち上げパーティー

「『今からガチ恋始めます』全収録終了です! お疲れ様でした~!」

 

今ガチの打ち上げパーティー。こういう場に出てくるのは久しぶりだ。

 

有馬と一緒に今日あまの打ち上げパーティーに出たとき以来か。あの時は場違いにもジャージで出席してしまったせいで鏑木さんに怒られた。しかし、それがきっかけで今ガチへの出演に繋がり、あかねと出会えたのだから人生何があるか分からない。

 

さすがに今日はあの時とは違いジャージ姿ではない。

 

今の俺は一見するとスーツ姿のようにも見えるが、ジャケットの下は白いTシャツ、靴はスニーカーを履いている。スーツ特有のフォーマルな印象は残しつつ堅苦しさが無い、オフィスカジュアルと言うスタイルらしい。

 

今日のためにミヤコさんと一緒に選んだ自慢の一着だ。ミヤコさんは「大人っぽく見えるように」との俺のリクエストにもきっちり応えてくれた。

 

乾杯が終わり顔見知りのスタッフへ一通り挨拶をして回った頃、あかねが話しかけてきた。

 

「アクア君。カッコイイね。」

「ありがとう。あかねも綺麗だよ。」

 

黒のシンプルな長袖のワンピースが、彼女のスタイルと相まって美しいシルエットを作り出している。化粧やアクセサリーの類も控えめで、素材の良さを上手く引き出すコーディネートだ。

 

「今ガチも終わりだね。ちょっと寂しいな。」

「そうだな。いろいろあったが、楽しい現場だった。」

「でも、私たちはこれからも一緒なんだよね?」

「まあな。」

 

我ながらあの告白はよく頑張ったと思う。クールを装っていたが内心は緊張と興奮でどうにかなりそうだった。今思い出しても体が熱くなる。

 

このままあかねと二人でゆっくり話したいところだが、これは今ガチの打ち上げパーティー。当然他のスタッフや演者も居るわけで、いつもの二人が俺たちを放っておくはずがない。俺の想像と寸分違わぬあの忌まわしい笑顔で、ゆきとMEMちょがこちらへにじり寄ってくる。

 

「ねぇねぇお二人さん。」

「早速聞いて良いかな…?」

「最後のキス!」

「本当に付き合うの!? どうなるの!?」

 

そんなの、決まっている。

 

「ああ、付き合うよ。俺は本気だ。」

「キターーーーーー!!」

「ガチ恋!カップル成立おめでとう!」

 

恋愛の話になると相変わらずうるさい。

 

子供のようにはしゃぐ二人を視界から追いやって会場を見渡してみれば、隅の方でのんびりグラスを呷りながらこちらを見つめる鏑木さんが目に入る。

 

丁度いい。彼の所へ逃げればこのうるさい二人も騒げまい。

 

「あかね。ちょっと鏑木さんと話してくるよ。」

「うん。分かった。」

「チッ、逃げやがってぇ。」

「つまんないなー。」

 

空気読めー、逃げんなー、という声が聞こえるが気にしてはいけない。引き留める彼女達をどうにか振りきり、俺は鏑木さんの隣へ移動した。

 

すると隣の俺に向け、鏑木さんが静かに喋り始める。

 

「『今ガチ』評判良いよ。やっぱり君を使った俺の目は間違ってなかったかな?」

「どうでしょうね。結局炎上で注目集めたみたいになってますし。」

「その後のカバーは君と五反田君の手腕て聞いたよ? 大したもんだ。」

「ども。」

 

監督は発案だけであとは俺に丸投げだったけどな。

 

手柄を取られたようで気に食わないが、ここで無理に否定して彼の評価を落とすのもまた気に食わない。監督の分まで素直に称賛を受け取っておいた。

 

「今日はジャージではないんだね。あの時とは見違えたよ。一体どんな心境の変化があったのかな?」

「それを俺の口から言わせますか…。多分、貴方の想像している通りですよ。」

「あかね君かい?」

「はい。あかねの前であんなみすぼらしい格好は出来ません。」

「ははは。恋は人を変える。この言葉の意味、もう分かるよね。あの日有馬君が着飾っていた理由も。」

「ええ、それはもう。」

 

期待していただろうに、有馬には悪いことをした。ジャージ姿でパーティー会場にいるあかねを想像してみれば、あの時の有馬の落胆も理解できる。

 

「そういえばこの前、家族を食事に誘ったそうじゃないか。それも君のおごりで。」

「その節はお世話になりました。ミヤコさんもルビーもとても喜んでくれました。」

「それは良かった。お節介を焼いた甲斐があったというものだ。…じゃあ、おじさんはこの辺で失礼するとしよう。」

 

鏑木さんはあかねを手招きし、呼び寄せた。そのままバーのカウンターへ俺たちを案内し、二人並んで座らせる。

 

「君たちの恋愛はビジネスとしての側面もあるから、気を付けてね。いつでも相談に乗るよ。」

「ありがとうございます。」

 

手際よく俺たちを二人きりにすると、鏑木さんは人ごみの中へ消えていった。

 

先に口を開いたのはあかね。それなりに騒々しい会場だというのに、あかねの声だけがクリアに聞こえる。

 

「あのさアクアくん、これからどうする?」

「どうするって……あぁ、そんな事悩んでたのか。言ったろ、本気だって。」

「それは勿論分かってるんだけど…。だったら、だからね、その……」

 

少し言い淀むあかねだったがやがて覚悟を決めたようで、俺にあの問いを投げかける。

 

「かなちゃんの事は、もういいの?」

「いや別に、お前に告白した時点で…」

「変な気は使わないで良いよ。アクア君はかなちゃんのこと今でも好きなんでしょ? でもかなちゃんはアイドルで、私は恋リアの共演者。どうしても最後まで選べなかったアクア君は私とかなちゃんの立場を考えて私を選んだんだよね?」

「いや…」

「分かるよ。それ位。」

 

鋭い指摘。

 

彼女の言う通りだ。俺は結局最後まで決めきれなかった。だってそうだろう? 好きという感情に優劣などつけようが無い。どっちも好きなんだ。

 

最終的にあかねを選んだのは、今ガチのストーリー上告白するタイミングがあって、付き合ってることが世間にバレてもスキャンダルにならないからだ。方や有馬は現役のアイドル。アイドルに男がいたとバレればファンは間違いなくキレる。最悪の場合母さんのように…。

 

あんなのは二度と御免だ。

 

「確かに俺は、有馬がアイドルで、あかねが今ガチの共演者だからあかねを選んだ。ただ、俺はあかねのことを妥協で選んだわけじゃない。本気で好きだから告白した。これは嘘じゃない。」

「……そっか、ならいいかな。これからよろしくね。…これでゆきたちと私達、2組もカップルが出来ちゃった。」

「えっ?」

「気づいてない? ゆきとノブくん、こないだ付き合い始めたんだよ。」

「マジ? でも撮影の時はふって……」

「テクニカルだよねぇ。でも私はゆきのそういう所が結構好きなんだ。ゆき…マジで人生初カレみたいだよ。」

「……分かんねぇもんだな。」

 

その後も二人だけの世界に籠り、時間いっぱいまであかねと語り合った。

 

パーティーはお開き。ゆきユキコンビにケンゴ、そしてあかねは一足先にタクシーで帰宅だ。家がこの辺にある俺とMEMちょは徒歩での帰宅だが、お姉ちゃんが迎えに来るまではここで待機となる。

 

タクシーを見送るMEMちょは少ししょんぼりした様子だ。

 

「寂しいな。私この現場めちゃくちゃ好きだった。」

「……そっか。」

「でもアクたんは寂しくないかなぁ? あかねの彼氏だもんね~」

「まぁ、そうかもな。」

 

そういえばMEMちょは女性陣で唯一彼氏が出来てない。励ましの言葉でもかけてやった方が良いだろう。

 

「MEMちょにもそのうちいい出会いがきっとあるさ。」

「嫌味かなぁ?」

 

出来るだけ爽やかな笑顔で言ったはずだが反応は芳しくない。乙女心は難しいな。

 

「アクアお疲れー。迎えに来たよー。」

 

待つこと数分。暗い夜道を一人で歩き、お姉ちゃんが迎えに来る。

 

いつも思うが、どう考えても迎えが必要なのはお姉ちゃんの方だ。一旦俺が家まで迎えに行った方が良かったんじゃないか? いや、それではただの帰宅になってしまうか。

 

「MEMちょもいっしょ?」

「ああ、途中までな。」

「そう。元気出してね、MEMちょ。そのうちいい出会いがきっとあるよ。」

 

お姉ちゃんの笑顔も爽やかだった。

 

「全くこの姉弟は…」

「なんで私呆れられてるの?」

「彼氏できなかったから八つ当たりしてんだろ。」

 

もういいよ…とうなだれるMEMちょを先頭に、俺たちは暗い夜道を歩いて進む。別れるのが惜しいのか、時折後ろを振り向いた入りしながらMEMちょはわざとらしくゆっくりと歩く。

 

「そんなに寂しいならさ、ウチくる?」

「ウチって、ルビーちゃん()?」

「家っていうか、事務所っていうか…。ほら、MEMちょ可愛いじゃん? いけると思うんだよねー。」

 

何を言い出すかと思えば、まさかアイドルにスカウトする気か?

 

確かにキャラが立ってて可愛いしアイドルも出来そうではあるが、彼女は人気ユーチューバー。今更売れるかも分からないアイドルユニットに加わってくれるとは思えない。

 

しかしお姉ちゃんは本気らしい。

 

「MEMちょさん。苺プロでアイドルやりませんか? B小町のメンバーになってください。」

「え…嘘…だよね?」

「嘘じゃない。ほんとだよ。」

 

お姉ちゃんの真紅の瞳がキラリと輝く。決して嘘や冗談ではないとその瞳が強く訴えかける。

 

「『B小町』に私が……? あはあ。そんな冗談……」

 

突然のスカウトを冗談だと笑って流そうとするMEMちょだったが、お姉ちゃんの目を見て徐々に笑みが消えていく。

 

胸の前で祈るように手を組み、まるで白馬に乗った王子様でも見るような目でお姉ちゃんを見つめるMEMちょ。

 

「その話、受けさせてください。」

 

B小町3人目のメンバーが決まった瞬間だった。

 

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