【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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ファーストステージ編
もう一人のお姉ちゃん


「人気ユーチューバーにしてインフルエンサー『MEM(メム)』。アイドルに興味があったのは意外だったわ。」

 

ここは苺プロの事務所。

 

先日行われた『今ガチ』の打ち上げパーティーでMEMちょがB小町に加入するという話が持ち上がったらしい。なんでも、大きな仕事を終えて寂しそうにしているところにルビーが声を掛けたところ、なんとMEMちょが承諾したという。

 

そして今目の前で行われているのが社長直々の面談と言うわけだ。「B小町のメンバーとして有馬さんも立ち会ってちょうだい」とのことで、私も同席している。

 

タブレット端末を片手に毅然とした態度で椅子に腰かける社長と、緊張した面持ちで向かいに立つMEMちょ。まだメンバーになると確定したわけではない以上、彼女はまだ部外者であり試される側の人間だ。

 

MEMちょの隣にはアクアもいる。今ガチで共演し、彼女の人となりを良く知る参考人枠だ。

 

「先輩はどう思う? MEMちょ結構いいと思うんだけど。」

 

事務所の隅で面談の邪魔をしないよう小声で尋ねてくるのは社長の娘にしてB小町メンバーの一人であるルビー。MEMちょをスカウトした張本人だ。

 

「今のB小町にぴったりの人材ね。ファンも多いしユーチューブで売り出し中の私等にとっては喉から手が出るほど欲しいメンバーよ。」

 

あくまでビジネス視点で正直に答える私。アイドル活動に前向きでない私は新メン加入にも実は否定的だったりするが、このお姉ちゃんに嘘は通用しないので無駄なあがきはしないでおく。

 

面談は粛々と進んでいく。まず社長は大まかな経歴を読み上げ確認する。

 

ユーチューブチャンネル登録者数37万人、ティックトックフォロワー数638k。今のB小町とは比較にならないほどの人気だ。

 

個人事業主であり、世話になっている事務所はあるが所属ではなく、自由に仕事を取ってきてよい契約のためアイドル活動をしても問題はない。

 

この経歴ならいつでもアイドルデビューできただろうに、何故しなかったのだろう。ルビーの誘いを受けたってことはアイドル志望なのは間違いないはずだけど。

 

同じことを思ったのか、社長が尋ねる。

 

「渡りに船って感じだけれど、その顔だと何か言わなければいけない事情がありそうね。」

「………」

「まぁ察しは付くけれどね。」

 

黙り込むMEMちょ。よほど言いづらい理由でもあるのだろう。しかしウチの社長に誤魔化しはきかなかった。

 

「年齢、サバ読んでるのでしょう?」

「分かりますか…」

「ええ。貴方大分骨格からして幼く見えるけど、私の目は誤魔化せないわよ。」

 

なるほど同類。年齢不詳の女はここにもいた。

 

ルビーとアクアの母親と言うからにはそれなりの年齢の筈なのに、20代でも通用しそうな容姿だ。美容には相当なお金と労力をかけているだろう。

 

「ねぇルビー、実際あんたのお母さんていくつなのよ。」

「知らない。でも30後半くらいは行ってると思う。」

 

まぁ、あり得なくはないラインね。

 

年をとってもあんな風に美貌を保つ方法があるのなら後で社長にアドバイスでも貰おうか。私も上手くすればあと20年くらいは綺麗でいられるかもしれない。

 

年齢不詳の社長は特に怒ったり失望したりする様子もなく淡々と面談を続ける。

 

「ふふっ、別に怯えなくて良いわ。個人でやってる子が年齢いくつか若く言うなんてよくある事よ。別に気にしないわ。」

「本当ですか…? 良かったです…」

「で、本当はいくつなの?」

「あの…その…」

 

皆に聞こえるのは恥ずかしいのか、MEMちょは社長に耳打ちする。もにょにょ、ふむふむと内緒話が続くが、ただ年齢を伝えるには長いような。

 

やがて余裕の表情をくずさなかった社長が真顔になり、少し考え込んだ後。

 

「ガッツリ盛ったわね!!」

「申し訳ございませんー!」

「公称18歳ってことは…中々の肝の据わり具合ね…」

「数えないでください!!」

 

一体いくつ盛ったというのか。

 

この後アクアが尋ねると意外にも素直に白状し、25歳という実年齢が明らかになる。

 

「私達より大分お姉ちゃんだね…」

「言っておくけど私だってあんたより年上よ?」

「それはそれ、これはこれだよ。お姉ちゃんは年齢じゃなくて気持ちなの。」

「じゃあMEMちょはどうなるのよ。」

「よくよく考えたらお姉ちゃんじゃないかも。」

 

このお姉ちゃんが感覚でものを言うのは今に始まったことじゃないので、この位では驚かない。慣れたものだ。

 

しかし25歳。なぜ今になってアイドルを志すのか。その答えはMEMちょの家庭環境にあった。

 

子供の頃からアイドルになるのが夢だったMEMちょはオーディションに応募して普通にアイドルを目指していたという。しかし母子家庭で弟も二人いたため家計が苦しく、高校3年の時に頑張りすぎた母親が倒れてしまった。仕方なくMEMちょが高校を休学し働きに出て、弟たちを大学に行かせ母親も元気になった。

 

しかしすべてが片付いた時、MEMちょは23歳になっていたのだ。

 

「この世界、20歳でババア扱いされる世界じゃん? どこのオーディションにも応募要項には『満20歳までの女子』ってあってさ。私が夢を追える環境が整った時には、私は夢を追える年齢じゃなくなってた。」

 

MEMちょが現役JK(笑)の配信者として活動を始めたのもアイドルになる情熱が行き場を失った結果ということのようだ。それが思いの外ウケて辞め時を見失ったまま今に至ると。

 

「先輩。私MEMちょをB小町に入れてあげたい。」

「珍しく意見が合うわね。私もよ。」

 

年齢はともかくインフルエンサーとしての知名度は申し分なく、彼女のファンの何割かでもB小町に引っ張れれば良いスタートを切れるだろう。いまのB小町が取るネットで知名度を稼ぐ戦略に彼女の力は大いに役立つ。

 

そして何より、年齢のせいで夢を追えなくなるなんて悲しすぎる。こんな過去を聞かされては同情するなと言う方が無理だ。

 

事務所の隅で静観していた私だが、居てもたってもいられずMEMちょへと話しかける。

 

「話は聞かせてもらったわ。私も年齢でウダウダ言われた側だから、ちょっとだけ気持ちわかる……」

「先輩…。辛かったよね。よしよし。」

「ちょっとルビーは黙ってて。…子役の事務所も高学年になったらお払い箱でさ……ほんとムカつく…」

 

いつの間にか泣いていた私をなだめるルビー。相変わらず大事な話の最中だろうとお構いなしだ。

 

社長の反応は意外にも悪くなかった。

 

「だから私は反対しないわよ。ルビーは?」

「勿論! MEMちょは絶対に良い人だよ! B小町に入れてあげて!」

 

私以上の熱量でMEMちょを歓迎するルビー。何か思うところがあるようだ。

 

「MEMちょ、夢を諦めてまで弟の為に働きに出るなんてお姉ちゃんの鏡だよ。弟を持つお姉ちゃんとして、あなたの頑張りはたとえ神様が認めなくたって私が認めてあげる。もう十分頑張ったよ。だから私と一緒に夢を追いかけよう。」

 

さすがアクアのお姉ちゃん。着眼点がおかしい。

 

てっきり年齢で夢を諦めたという所に同情しているものと思っていたが、弟を持つお姉ちゃんとしてMEMちょの弟想いな行動に心打たれたようだ。

 

「ルビーちゃん…。うぅ、なんてお姉ちゃん想いな子なの…。」

 

感涙するMEMちょ。どうやら私たちは既に妹認定されているらしい。しれっと自分の事をお姉ちゃんとか言ってるし。

 

さてはルビーと同類だな?

 

「私たちの事は妹と思っていいからね。仲良くしよう。MEMちょ!」

「はぁ、ルビーがこうなったらもう何を言っても無駄かしら。よろしく。MEMちょ。」

「なんだこの子等…あったけぇよぉ…。かなちゃんにルビーちゃん、不束なお姉ちゃんだけど、よろしくねぇ…。」

 

かくして私たちのグループにMEMちょが加入。新生『B小町』は正式なスタートを迎えるのでした。

 




MEMちょ
B小町の長女。
本名不詳(原作通り)。アイドル志望のインフルエンサー。
ルビーの誘いによりB小町に加入した。

星野ルビー
B小町の次女。
弟のために自らの夢を犠牲にして働きに出るというMEMちょのお姉ちゃん力を高く評価している。

有馬かな
B小町の末っ子。
MEMちょのインフルエンサーとしての実力を高く評価するとともに、年齢のせいで夢を追えなくなったという彼女の話に強い共感を覚えた。
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