【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

46 / 165
新生B小町

「「登録者1万人!」」

 

ノートパソコンを覗き込みながらルビーとMEMちょが歓声を上げる。私達B小町のユーチューブチャンネルはMEMちょ加入によって凄くソレっぼい動画を作れるようになっていた。

 

「まぁ私のチャンネルからも導線つくったし、このくらいはいって貰わなきゃ困るよね~」

…どや顔で自身の功績を語るのはB小町の長女、MEMちょ。

 

「なんか……公式って感じ!」

…目を輝かせて動画に食い入り、アホみたいな感想を漏らしているのがB小町の次女、ルビー。

 

「公式以外のなんだって言うの」

…そしてルビーに冷静な突っ込みを入れる理知的な美少女がB小町の末っ子、有馬かなこと私だ。

 

実の姉妹ではない。アイドルグループとして各々の立ち位置を明確にした方が今後の仕事もやりやすいだろうとMEMちょとルビーの提案でこのような設定が加えられた。

 

つまりはキャラ付けである。

 

丁度今ノートパソコンで流しているのがMEMちょ主導で作成された最初の動画。私たちの自己紹介だ。お揃いのもこもこパジャマ姿で、仲良くソファーに並んでお喋りに花を咲かせる3姉妹という設定だ。

 

今でこそ落ち着いて状況を受け入れている私だが、この設定案が出されたときは驚いた。

 

あれはMEMちょの加入が決まり、B小町メンバーと社長が集まる最初のミーティング。MEMちょを交えて腰を据えた話し合いをするのはこれが最初だった。

 

弟を持つ姉でありアイドルオタクであるルビーとMEMちょが意気投合するのは自然の成り行き。あっという間に打ち解けてアイドルへの愛や今後の展望を凄まじい熱量で語り合う。その勢いには社長も気圧されるほどだった。

 

「ルビーちゃん、昔のB小町にも詳しいんだねぇ。」

「当然だよ! 映像は全部チェックしてるしダンスも全部踊れるんだから。世界中探したって私以上のB小町ファンはいないって断言できるね。」

「なにおぅ。B小町への愛なら私だって負けてないんだけどぉ?」

「あなたたち落ち着いて。これは真面目なミーティングなのよ。」

 

出だしは確かこんな感じ。社長が上手く場を収め、これまでのB小町の活動、つまりユーチューブの動画をMEMちょに確認してもらうことになった。

 

ぴえヨンブートダンスの動画に始まり、苺プロ所属のユーチューブチャンネルにいくつか出演、そして簡単な自己紹介動画。ざっと10本くらいだったか。ところどころ端折りながら1時間程度で見終わった。

 

「悪くない戦略だと思いますよ。事務所のバックアップで著名チャンネルとのコラボが最短ルートなのは間違いないと思います。後は動画の質と量ですけど、そこは私に任せてください。二人を貸してくれればいくらでも動画作りますんで!」

 

一通り動画を確認したMEMちょは自信満々に答えた。さすが人気ユーチューバー。彼女に任せておけばその方面は問題ないだろう。

 

「でもキャラが薄いかなぁ。インパクトが足りないっていうか、覚えが悪いというか…。正直、生で見る二人の方がよっぽど個性的に見えるねぇ。」

「それもそうね。正直なところ、どういう方向性で売り出していくかは決まってなかったのよ。メンバーもいなかったし。」

「なるほどそういう事ですか。でもこれから本格的に登録者数増やそうと思ったらキャラ付けは必須ですよ?」

 

社長とMEMちょの主導で話は進み、私たちのキャラ付けをどうするかという問題にぶち当たる。

 

ここで声を上げたのがルビーだ。薄々そんな気はしていた。彼女は嘘を嫌う。見る人をだましてファンを増やそうだなんてやり方を認めるはずがない。

 

ところが事態は思わぬ方向へと動いていく。

 

「嘘は嫌だ。」

 

瞳に強い意志を宿し、ルビーが言う。

 

「じゃあどうするって言うのさ。キャラ付けなしでこのまま続けたって大して再生数も登録者数も増えないよ?」

 

当然の反応だ。MEMちょも大人。如何にルビーの存在感があろうと筋の通らない話はきっぱり断るだけの判断力を持っている。

 

しかしここでルビーの会心の一撃が炸裂した。

 

「キャラはもうすでにあるよ。私はお姉ちゃんだから。」

 

嘘ではない。キャラも立つ。そんな無理難題を解決する案が存在したのだ。何を隠そうこの女は陽東高校名物ブラコンお姉ちゃん。最初から強烈なキャラクターを持っているならそれをそのまま使えばいい。

 

しかしこのままでは片手落ちだ。そこを目ざとく見抜いた私が反論する。

 

「お姉ちゃんとしてキャラが立ってるのは認めるわ。でもそれは弟のアクアが居てこその話でしょ。姉一人だけ出張ってきてお姉ちゃんですって言ったところで何にもならないわよ。」

「何言ってるの先輩。妹がいるから何の問題もないよ?」

「えっ」

「なるほどねぇ! その手があったよぉ!」

「ええっ!?」

 

華麗なカウンター。ついでにMEMちょがルビー側に付いた。

 

それはつまり、私が妹役をやるという事。それはあんたの嫌いな嘘じゃないのかと反論しようとするが、よくよく考えればルビーと私の関係性はある意味姉妹と言えなくもない。つい最近だって黒川あかねの演技を見て泣く私をルビーが……。

 

もはや反論の余地は無かった。

 

そこから先はとんとん拍子に話が進み。

 

「じゃあ、長女がMEMちょで次女が私、そして末っ子が先輩ね!」

「いいねぇソレ! リアルでもそんな感じだしやりやすいよぉ。」

「決まりね。貴方たちは姉妹という設定で行きましょう。まずは自己紹介動画の撮影かしらね。」

「早速出番ですか! 色々決めないとですね!」

「可愛いお部屋でパジャマでお喋りとかどう?」

「うんうん悪くない。それ採用!」

「立ち位置どうする? やっぱりお姉ちゃんから順に並んだ方が良いかな?」

「いんやぁ、末っ子が真ん中ってパターンもありだよねぇ。」

「そうか。それもありかも。MEMちょの家ではどうしてたの?」

「一番下の子が真ん中だよ。」

「じゃあウチもそうしよう!」

 

気づけば動画を撮影する準備が整い、あれよあれよという間に私達3姉妹(あくまで設定)の自己紹介動画が世に公開されることとなったのだ。

 

あのときのスピード感と言ったら。

 

そして今目の前で再生されているのがその動画。投稿されてからチャンネルの登録者数が1万人を超えるのに1週間もかからなかった。

 

その数字の出どころを考えれば、B小町のチャンネルを見てくれている人のほとんどはMEMちょのファンということになる。私とルビーはさしずめMEMちょとその仲間たち、いや妹分と言ったところか。

 

「さっすがMEMちょ、いや、MEMお姉ちゃん! 一気に登録者数増えたね!」

「まだまだ安心するのは早いよぉ。この1万人は私のファン。このチャンネルもまだMEMちょのサブチャンネルみたいな扱いだからね。ここから君たちがどれだけ自分のファンを増やせるかが勝負になる。まぁお姉ちゃんも負けてあげる気はないけどね。」

「お姉ちゃん凄い……」

「私のファンだって多少は居るでしょ。これでも元天才子役よ?」

「まぁまぁ先輩。そんなに怒らないで。先輩がすごいのはお姉ちゃんも良く分かってるから。」

 

3姉妹の真ん中は難しいポジションだろうに、姉と妹両方にとんでもなく高い適性を持つルビーにはさして問題にならないらしい。普段はかなり子供っぽい性格をしているくせに、時折見せるお姉ちゃんの姿が違和感ではなく適度なギャップになっている。

 

長女のMEMちょも様になっている。精神的にも肉体的にも最年長。B小町への貢献度も現状は断トツのトップ。社長とのビジネス的なやり取りも彼女が中心となるだろう。まさに頼れるお姉ちゃんだ。

 

そして末っ子の私。悔しいけど見た目も中身も一番子供。実年齢ならルビーより上だが妹キャラがあまりにはまり役過ぎる。

 

こうして私達B小町はメンバーも揃い、グループとしての方向性が定まった。チャンネル登録者数も増え、私たちの魅力をアピールする下地も出来た。アイドルグループとしてスタートラインに立ったと言って良い。これから新生B小町の活動も本格的に忙しくなっていくのだろう。

 

正直、あまり自信はないけれど。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。