【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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MEMちょ

「登録者一万人!」

 

無邪気に喜ぶルビーと、それを少し冷めた感じで眺めるかなちゃん。ルビーと一緒にはしゃぐ私だが、表に出さないだけで心の内は様々な思いが渦巻いていた。

 

―――本当に可愛いくて良い子達。

 

25歳にもなってみっともなくアイドルの夢に縋る私をこんなに暖かく迎え入れてくれた。誘ってくれたルビーにも、受け入れてくれたかなちゃんや社長にも、どんなに感謝してもしきれない。これが頑張らずにいられるだろうか。

 

かつてないスピードで自己紹介動画の準備・撮影・編集・投稿をやりきったのもすべては皆に恩返しをするためだ。喜んでもらえてこっちも嬉しかった。

 

『まぁお姉ちゃんも負けてあげる気はないけどね。』

 

これは半分本当で半分嘘。

 

負けてあげる気はさらさら無いけど、やはり年齢には抗えない。こんな落ち目のお姉ちゃんに負けてるようでは群雄割拠のアイドル業界では到底戦えない。

 

私を倒す気でかかってきなさい。残りの半分はそんな意味を込めている。

 

これから旬を迎える彼女たちと違い、私の賞味期限はもう長くない。一瞬でもアイドルとして輝く瞬間が訪れてくれれば万々歳だ。

 

B小町の皆への感謝、最年長と言う立場、そして残り少ない賞味期限。これだけの状況が揃って燃えるなと言う方が無理だ。普通にアイドルをやるだけじゃ足りない。全力でB小町をやり遂げたい。アイドルとしてだけじゃなく、ありとあらゆる方向から。

 

「社長。B小町のメンバーとしての活動だけじゃなく、裏方の仕事もやりたいんですが。あの二人と違って学校も無いですし。」

「良いの? あなたのチャンネルの運営だってあるのでしょう?」

「構いません。アイドルになるのが私の夢ですから。生活のために私のチャンネルは続けますけど、メインはこっちのつもりです。」

「覚悟は決まってるみたいね。じゃあお願いしようかしら。」

 

決死の覚悟だった。

 

自身のチャンネルの更新頻度を下げ、B小町チャンネルの動画を投稿する時間を作った。

 

大事に育ててきたチャンネルの再生数や登録者数は分かりやすく減っていく。自分の身を削るような感覚。ユーチューバーMEMちょという存在が薄れ、埋もれていく。

 

それでも一向に構わない。アイドルの夢の代替として始めた配信活動だが、真の夢が叶った今となっては2番目の仕事でしかない。

 

とにかく今は、B小町。夢のためならなんだってやってやる。

 

たった一本の自己紹介動画に一喜一憂する可愛い妹たち。この子等のためならいくらでも頑張ってやろうじゃないか。

 

「先輩のパジャマ姿も可愛いね。」

「上手く撮れてるわね。テロップとかもちゃんと入ってて見やすいし。」

「ふっふっふー。私にかかればこんなもんよ。」

 

事務所に集まり、自己紹介動画の再生数やチャンネルの登録者数をチェックして喜ぶ二人。出だしは順調。チャンネルの登録者数が1万人を超え、動画のクオリティーも私が作れば及第点レベルはコンスタントに出せる。

 

じゃあ次は。

 

「まだ自己紹介動画とかしかアップしてないし、出来れば早めにPVとか上げたいけど。楽曲回りって今どうなってるの?」

「社長が知り合いのアーティストにお願いしてるみたい。楽曲出来るまでは何にも出来ないでしょ。まだまだ先の話。のんびり構えましょ。」

 

焦る私に対し、やる気の見えないかなちゃん。

 

良く分かるインターネットウミウシとか言う訳の分からない本を読みながらのんびり構えると言って憚らない。ここでキレなかった私は褒められていいと思う。

 

本を取り上げ、至極あたりまえの事実を言って聞かせる。不和を生まないように、努めて穏やかな口調と表情で。

 

「そうはいかないよ。私たちは『B小町』なの忘れた? 『B小町』には『B小町』の曲があるでしょ?」

「あ! そっか。昔の曲を使っても何の問題も無いんだ!」

「そう!」

「MEMちょ天才!」

「ちっ、気づいたか……」

 

かなの舌打ちにはさすがにカチンときてしまった。

 

ルビーは本気で気づいてなかったようだが、かなちゃんは気づいてて言わなかったようだ。先ほどの態度も合わせて考えるに、どうもかなちゃんはアイドル活動に前向きではないらしい。

 

「ねぇかなちゃん。ちっ、て何さ。私が真剣な話をしてるっていうのにどうしてそんな態度取るかなぁ?」

「別に。大した意味はないわよ。」

 

少し強めに圧をかけるも、手ごたえはない。

 

ふてくされる末っ子。なんとか気持ちを入れ替えて貰いたいが、どう説得したものか。加入して間もない年増女からの説教など、聞いては貰えまい。それどころか喧嘩の種になりかねない。

 

グループ内の不和を恐れて動けない私。代わりに動いたのは次女、ルビーだった。

 

「先輩。役者に未練があるのは分かるよ。でも今はアイドルなんだからさ、前を向いて行こうよ。」

「フン、別にそういう訳じゃないわよ。契約した以上私は苺プロのアイドル。プロのタレントとしてそこはわきまえてるわ。」

 

拒絶にも聞こえるかなの強気な返事。しかしルビーにはその裏の意味が読み取れているようで。

 

「はぁ、全く世話の焼ける子。」

 

ルビーの雰囲気が変わった。ついさっきまでの無邪気な女の子ではない。かなちゃんに語り掛けるルビーからは、駄々をこねる妹に正論を優しく諭す年の離れた姉のような印象を受ける。

 

「分かるよ。先輩は皆に、お母さんに褒めて欲しいんだよね? でも、演技には自信があるけど歌と踊りには自信が無い。アイドルじゃ皆に見てもらえない。そんな風に考えてるんじゃない?」

「……っ! 何よ、分かったようなこと言って。」

「図星? やっぱりそうなんだ。大丈夫。先輩はアイドルだってきっとやれるよ。」

「勝手なこと言わないで! 無理なものは無理! 私には演技の才能しかないのよ!」

 

激高し、かなが立ち上がる。肩を震わせ、手は強く握られている。

 

演技、いや、芸能全般か。それを誰かに認められることに対してただならぬ執着があるようだ。そして得意なのは演技であり、アイドルではない、と。

 

私やルビーとは根本的にモチベーションの出どころが違う。

 

「先輩。」

 

ルビーがかなを優しく抱きしめる。

 

条件反射的にかなの険しい顔がゆるみ、目じりには涙がたまってくる。肉体的にも精神的にも包み込まれ、ルビーお姉ちゃんのなすがままになっている。

 

ゆっくりとかなをソファーに座らせ、ルビーもすぐ隣に腰を下ろす。肩を抱きながら頭を撫でる様子はまるで姉妹や親子の様だ。ずっと昔からそうしてきたかのように動作に淀みがない。

 

「頑張ろうよ。先輩がアイドルになればきっと皆に見てもらえるよ。」

「でも…。私アイドルやれるほど可愛くないし…。」

「そんなことない。先輩は可愛いよ。それにお話だってすごく上手。後は自信だけだよ。」

 

アイドルオタの私から見てもかなはアイドル向きだ。オタ受けど真ん中のロリ系の容姿にキレのあるトーク。そして何より、あの眩しいくらいに明るい笑顔。それらを自覚した上でビジネスライクにアイドルの道を選んだのかと思っていた。

 

しかしその予想は全くの見当外れらしい。意外と感情で物事を決めるタイプのようだ。

 

なでなですること数十秒。

 

「もう大丈夫。取り乱して悪かったわ。」

「よしよし。」

 

ひとまず落ち着いたみたい。

 

ルビーがもの欲しそうな目でこちらを見るので、なんとなくグーサインを出す。ぱぁっと明るく笑ったので多分正解だ。よくできました……ってことで良いのかな?

 

気を取り直して。

 

冷静になったかなちゃんに向き直り、今度こそ私の気持ちを伝える。

 

「かなちゃんが不安なのは分かったよ。でも私には時間が無いの。焦る気持ちも分かって欲しいな。」

「うん…。ごめんなさい。」

「一秒でも早くデビューしたいし、何より憧れのB小町を半端なアイドルグループにしたくない。やるなら全力でやりたいんだぁ。ねぇかなちゃん。私に力を貸してくれない?」

「MEMちょ……。わかった。やれるだけのことはやるわ。これでもプロだから。」

「にゃはは。その意気だよ。」

 

かなちゃんもやる気になってくれて良かった。後はこの湿っぽい空気を何とかして、万事解決ってとこかな。

 

「今からでもやれる事は一杯ある! チンタラやってたらあっという間にアラサーだから!」

「自虐ぅ~」

 

身を切るジョークにルビーの突っ込み。

 

「ふふっ」

 

かなちゃんもお気に召したようだ。全力の笑顔には程遠いけど、笑ってくれた。

 

さぁ、仕切り直し。一秒だって無駄には出来ない。

 

「アイドルのお仕事その1! アイドルの華であり最もシンドい部分! ダンスのフリ入れ始めるよ!」

 

頑張らずにはいられない。

 

あの日捨てたはずの夢は、間違いなく今ここにあるのだから。

 




interlude①を読んでからMEMちょ加入シーンを見返すとめっちゃ面白いです。

25歳で人気ユーチューバーから弱小事務所の地下アイドルに転向って、人生棒に振る覚悟を決めてないと出来ないですよね。
原作ではいつもへらへらしてるMEMちょですが内心はめっちゃ燃えてるはずと思った次第。
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