ここはとあるダンススタジオの前。
そこに佇むのは異様な存在感を放つひよこの覆面をしたゴリマッチョ。
変質者………ではない。苺プロの稼ぎ頭のぴえヨンだ。そして隣に立つのが私。苺プロ社長の斎藤ミヤコ。二人の向かいにはビデオカメラを構えるカメラマンと数人のスタッフ。これからぴえヨンチャンネルの撮影だ。
何故社長の私がぴえヨンの動画に出演しているのかと言うと。
「ピヨピヨピヨ~~ぴえヨンチャンネルぅうぅ!!
ハイ今回はネ! またしてもしがらみ案件です!
皆覚えてるかな? 以前ぴえヨンブートダンスでシバいてあげたアイドル、B小町とのコラボです!
ハイ、今回も社長に負けました。
というわけで今回はドッキリ企画!
B小町の皆に初ライブがJIFって言ったらどんな反応するの?ドッキリィィイィ!!!!」
彼の言う通り、B小町のメンバーにJIFへの参加を伝えるのが目的だ。
しかし弱小事務所のアイドルグループの初ライブがJIFとは中々にセンセーショナルだ。これは動画にしないともったいないとぴえヨンからの提案があり、レッスン中のメンバーへドッキリで告知しようという流れになった。
「どうも、苺プロ社長の斎藤ミヤコです。」
「いやぁ、相変わらずお美しいですネ。」
「ふふ、そんなこと言ってもギャラの取り分の比率は変えてあげないわよ?」
「キビシー!」
今でこそ社長業をしている私だが、タレントとして人前に出る仕事もそれなりに経験してきた。カメラを向けられてシナリオ通りのトークをするなど余裕も余裕だ。並みのタレントより上手く喋れる自信がある。
「さて、B小町の皆は今このダンススタジオでレッスンの最中です。」
「現場の星野アクア君にビデオ通話がつながってるヨ! さっそく中の様子を見せてもらおう!」
ここでアクアの登場。彼には時々ダンスレッスンのサポートをお願いしているので、現場でドッキリ前のターゲットの様子を視察する役回りをお願いしてある。
「現場の星野アクアです。映像見えてるでしょうか。」
「見えてるわ。」
「見ての通り、彼女たちはダンスの練習中です。お姉ちゃん二人が末っ子の有馬さんにダンスを教えてあげているようですね。」
「ウン。微笑ましい光景だネ。さぁ、ここからどんなリアクションを見せてくれるのか、今から楽しみだよ。アクア君。休憩のタイミングになったらまた連絡をお願いネ。」
「了解しました。」
ダンスの練習がひと段落するまで待機。カメラを止め、ぴえヨンと共にスタジオの待合室でアクアからの連絡を待つ。
「この企画といい彼女たちへの指導といい、本当に良く引き受けてくれましたね。」
「社長の頼みなんだから否も応もないですよ。ははは。」
事務所の社長には逆らえないと言うぴえヨンだが、ウチの稼ぎ頭である彼はその気になれば私の要求など突っぱねることも出来たはずだ。一言「移籍しますよ?」と言われればこちらは引き下がるしかない。
彼がB小町の指導を引き受けたのも、こうして企画を持ってきてくれるのも、彼の好意によるものだ。つくづく苺プロは良いタレントに恵まれたと思う。
それはB小町についても同じことが言える。
3人とも並みのアイドルグループならエース級の容姿。たかが弱小芸能事務所が揃えられるメンバーでは決してない。例えるなら、大手の人気アイドルグループから上位2名を引っこ抜いて、そこにアイを加えたような布陣。
そして初ライブがあのJIFに決まったのだ。こんな奇跡は芸能界のどこを探しても他に無いだろう。
アイドルグループをやってとせがむルビーに語った言葉の数々を思い返す。
『あんな奇跡は二度と起きない』
『宝くじに当たったようなもの』
『現実はあんなにとんとん拍子にいかない』
またアイドルグループを立ち上げたい。いつかあのドームをサイリウムで染め上げたい。でも、無理なものは無理。そう自分を納得させるための言葉でもあった。
それがどうだろう。奇跡のような確率でレベルの高いメンバーが揃い、とんとん拍子にJIFという大舞台への参加が決まってしまった。これに期待するなと言う方が無理というものだ。
「社長。アクア君から連絡が。」
「行きましょうか。」
彼女たちはどんな反応をするだろうか。
扉を開け、一気にスタジオになだれ込むスタッフ。遅れてぴえヨンと私もスタジオに入る。
「ピヨピヨピヨ~~ぴえヨンチャンネルぅうぅ!!
ただのダンスレッスンだと思った!? 違うヨ!!
今日はドッキリ! 社長からの超!重大発表があるんだ!」
驚く暇を与えず、ぴえヨンの良く響くアヒル声が場を支配する。3人娘は呆然とぴえヨンと私を見つめることしか出来ない。
さすがぴえヨン。入りは完璧ね。
「それでは社長ォ! お願いします!」
さあ、メインイベントとなるJIF参加の告知。だがいきなり全ては明かさない。2段階で告知を行い、2度驚いてもらう作戦だ。
「皆、よく聞いて。この度………B小町の初ライブの日程が決定しました!」
「やったー!」
「よっしゃぁ来たあぁぁあ!」
満面の笑みを浮かべて飛び跳ねて喜ぶルビー。気合の入った雄叫びを上げるMEMちょ。まだJIFの事は伝えていないというのにこの喜びよう。この後が楽しみだ。
有馬さんは……固まってるわね。いよいよアイドルとしての活動が近づいてきて不安を感じてるのかしら。
すかさずMEMちょがフォローに入る。
「どしたのかなちゃん? 喜びなよ。やっとデビュー出来るんだよ?」
「ええ、まあ喜ばしい知らせなのは間違いないのだけど……」
「不安なんだね?」
「…ええ。まだ振りだって覚えきれてないしね。でも大丈夫。何とかするわ。」
舞台はJIFで、本番は1か月後と聞いても強がっていられるかしら? この後の展開がなんとなく読めるわね。
一方で、ルビーの興奮は未だに収まらない。
「ミヤコさん! いつなの!? いつステージに立てるの!?」
「まぁまぁ。そう慌てないで。」
「ああもう早く教えて!」
「ちょっと待ってって。」
「ああーヤバい! 早くも緊張してきたかもー!」
収集が付かなくなりそうなので一旦仕切り直し。
「社長命令。皆一旦落ち着いてそこに座りなさい。」
「ハイ。」
社長としての威厳を最大限に発揮し、小娘たちを横一列に並んで座らせる。ちょっと圧が強すぎたのか、指示していないのに全員正座だ。
とりあえず場は整ったので、いよいよ初ライブの舞台がJIFであることを明かす。
「さて、具体的な場所と日程だけど、むしろこっちが重大発表のメインだったりするわね。存分に驚くと良いわ。………あなた達には、ジャパンアイドルフェスに出てもらいます。」
今度は全員が固まった。
辛うじて意識を取り戻し、最初に発言したのはMEMちょ。
「マジですか。」
「ええ、大マジよ。」
そして彼女はまた固まった。いや、よく見ると涙を流している。困惑していた表情も次第に崩れ、そのままわんわんと泣き出した。
「あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛ー。」
「良かったねMEMちょ。」
「泣くほどなのね。」
「私…JIFみたいな大きなステージにB小町が立てるようになるのは何年も先かなって思っててぇ……。その時にはもう引退してるんだろうなって…。でもやっぱり憧れがあってぇ……どうしても出たくてぇ……」
「MEMちょ…よしよし。」
「これ夢じゃないよね……現実なんだよね………」
「どうやらホントの事みたいね。」
胸に秘めていた思いを吐き出すMEMちょ。ルビーと有馬さんがその背中を優しくさする。メンバー愛あふれる実に美しい光景だ。初めての大舞台にかける思いの大きさを伝えると同時に、B小町のメンバー間の仲の良さもアピールできる。
経営者の悲しい性か、こんな時でも冷静に動画の取れ高を気にしてしまう。
号泣するMEMちょとは対照的に、有馬さんは冷静だ。
「社長。JIFって確か来月ですよね?」
「ええ。そうね。」
「うあああ……。」
ゼロから振り入れを行う彼女には酷な日程だろう。間に合う……いや間に合わせる算段はあるのだが、それを知らない彼女が頭を抱えるのも無理はない。
スタッフたちにそろそろ終わらせてとアイコンタクトで指示を出し、B小町の姿をバックにぴえヨンが締めのトークを開始する。
「というワケで! B小町の皆に初ライブがJIFになったと告知したわけですが! いやぁ良い反応でしたネ! 社長!」
「ええ。明確な目標が出来たことだし、レッスンにも気合が入るでしょう。」
「ここで少しだけ次回予告。次回のぴえヨンチャンネルはー……B小町の皆とダンスの特訓です!」
「頼むわよぴえヨン。この子達を思い切りしごいてあげて頂戴。」
「分かりました、全力でしごきます。以上ぴえヨンチャンネルでした! チャンネル登録と高評価も忘れずに! ではまた。」
打ち合わせ通り、次回予告でぴえヨンが彼女たちのコーチとなることを明かす。エンディングの映像には3度目の驚きに顔を見合わせる3姉妹の姿がバッチリ映っているはずだ。
さて、JIFまで1か月。どこまで仕上げられるかしら。
「25歳だけどアイドルグループ入って良いよ」
からの
「最初のステージはジャパンアイドルフェスだよ」
これはどう考えても泣く。
次回はセンター争いです。