「アクア、いい加減ママのおっぱい飲んであげなよ。」
「いや、やっぱり恥ずかしいって・・・。」
「ママ、アクアに嫌われてるって思ってるかもよ。」
「それはそうなんだけどさ・・・。」
俺はまだ大人だった頃の自分を引きずっている。未だに俺はおっさんで、アイは推しのアイドルだという認識のまま赤ちゃんをやっている。だからアイが授乳をしようとすると全力で嫌がり、そのたびにアイに悲しい顔をさせてしまうのだ。
アクアは哺乳瓶が大好きだねーなどと言ってアイは笑っているが、内心は心配に思っているに違いない。前世でも子どもがおっぱいを飲まないことに悩む新米ママをたくさん見てきた。
ルビーの言う通りだ。赤ちゃんとして生きていく以上、自分のためにもアイのためにも授乳を受け入れた方が良いのは間違いない。いい機会だ。もうそろそろ今の状況を受け入れて、赤ちゃんから人生をやり直す覚悟を決めるべきなんだろう。
「分かった。今から俺は大人じゃない。一人のか弱い赤ん坊だ。」
「そうそう。その意気だよ。お姉ちゃんも応援してるからね。」
「じゃあお休み。」
「お休みアクア。」
翌朝。
「ルビー、アクア、おはよー。」
アイはいつも目が覚めると一番に俺たちの所へ来て笑顔を見せてくれる。すっぴんで髪も整えていないというのに、相変わらずアイは綺麗だ。
「ああーー、あんぎゃー」
隣にいるルビーが泣き出す。いつもの授乳の合図。
「はいはい、おっぱいね。ルビーはおっぱいすきだねー。」
おいしそうにおっぱいを飲むルビー。しばらく飲んでお腹いっぱいになった姉が振り返り、どや顔を向けてくる。ほら、アクアもお姉ちゃんみたいにやってみなさい、とでも思ってるんだろう。
恐らくいつもの流れでアイは俺にもおっぱいを飲ませようとする。
今までは自分のことを雨宮吾郎、アラサーのおっさんだと思って生きてきた。だから16歳アイドルのおっぱいを飲むなんて言語道断だし、お風呂でアイの生まれたままの姿を見るなんてもっての外だと思っていた。
だが俺は生まれ変わった。今は雨宮吾郎ではなく星野
「ルビーもうお腹いっぱい?よく飲めましたねー。はい、おねんねしましょうねー。」
アイが腕に抱いていたルビーを俺の隣へそっと寝かせる。親子そろって満足気な表情だ。
続いてアイは俺を優しく抱き上げる。首は手でしっかり支えられ、体も安定感がある。しかしどこも窮屈なところはない。抱っこも上手になったものだ。
「アクア、おっぱいのむ?」
そういいながらアイは俺の顔をおっぱいの前に近づけた。これまでに何度も断ってきたせいで、アイは恐る恐るという感じで聞いてくる。確かに不安だよな。自分の子供がおっぱい飲んでくれなかったら。何か自分の体がおかしいのか、子供に嫌われてるんじゃないかとか考えてるに違いない。俺のせいで不安な思いをさせてしまった。
でももう大丈夫。今日から俺は雨宮吾郎ではなく星野
俺はアイのおっぱいに吸い付き、生まれて初めて母の母乳を飲んだ。
「え、飲んでくれた。初めてアクアがおっぱい飲んだ!」
アイの嬉しそうな声が聞こえる。今までおっぱい拒否して悪かったな。これからはちゃんと飲むから。キミが喜んでくれて俺も嬉しいよ。
アイに抱かれて素肌で触れ合いながらおっぱいを飲んでいるとものすごく安心する。口が勝手におっぱいを吸って母乳があふれてくる。これが本能ってやつか。ああ、今まで俺はなんてもったいないことをしていたのか。変な意地を張らずに素直に赤ちゃんをやっていればよかった。
「アクア、必死に飲んでるねー。今まで我慢してたのかな?」
ああその通りだよ。赤ん坊なのに変なプライドこじらせておっぱいを飲むのを拒んでたんだよ。それも今日までだがな。今や俺はただの赤ん坊。何も後ろめたいことなど無い。
自分に足りない部分をぴったり埋めてくれるような、そんな充実感と安心感を感じる。赤ちゃんにとって授乳が、母親とのスキンシップがどれほど大切か。知識としては知っていたが、まさか自分の身で思い知ることになろうとは。
そろそろお腹いっぱいになってきた。この夢のような時間ももう終わりか。おっぱいから口を離すのも名残惜しい。
「もうおしまい?初めてのおっぱいよくできましたねー。」
ああ、おなか一杯になったらいい感じの眠気が。
「おねむかな?いやー寝顔もかわいいね。さすがうちの子だ。」
眠る間際に聞いた母の声は、とても満足気だった。
・・・
目が覚めるとルビーが隣で待っていた。
あのあと俺はアイに抱かれて眠ったようだ。ルビー曰く、これまでに見たことないほど満足気な表情をしていて、アイもすごく嬉しそうだったという。ミヤコさんや斎藤社長にも浮かれた様子で今朝の出来事を報告していたそうだ。
「良かったねアクア。おっぱい飲めて。ママもすごい喜んでたよ。」
「ああ、なんというか、すごい良かった。自分は赤ちゃんになったんだってことが良く分かったよ。星野
「あくあまりんw」
「人の名前を笑うな!!お前も似たようなもんだろ!」
こうして俺はようやく本当の意味で第2の人生を歩み始めたのだった。