【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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B小町のセンター

嵐のようなドッキリをかましてくれたぴえヨン御一行が撤収し、ダンススタジオには先輩とMEMちょ、そして私の3人が残される。

 

あれは中々に衝撃的だった。

 

ぴえヨンとミヤコさんによるドッキリで明かされたのは、ジャパンアイドルフェスへの参加。初ライブの開催が決まるだけでも嬉しいのに、まさかのJIFだ。あまりの急展開に頭の処理が追い付かない。

 

先輩は早すぎる日程と大きすぎる初舞台に頭を抱え、夢が叶ったMEMちょは大号泣。MEMちょの感動っぷりには私までうるっときてしまった。

 

あれだけアイドルが好きで、アイドルに憧れていたのだ。家の都合で諦めた夢がやっぱり叶うとなれば泣きもするだろう。

 

そして撮影の終わり際にぴえヨンによるダンスの特訓があるとさらっと明かされた。JIFという特大の爆弾を何とか処理して気が抜けたところを狙った一撃。

 

さすがぴえヨン、見事な構成だったね。

 

既に撮影は終わり、スタジオには私達B小町メンバーだけが残っている。

 

「じゃあそろそろアレを決めないとだね。」

「アレだね!」

 

MEMちょの提案に即座に反応する私。確かにアレは重要だ。JIFへの参加が決まり、これからパフォーマンスの練習も本格化するとなれば、もうこれ以上先送りには出来ない。

 

「何の話?」

 

何のことだか分かってない子が一人。そんなの決まってるでしょうに。

 

「そりゃあ当然、B小町センターを誰にするかに決まってるでしょ。」

「それってそんなに大事? 別に誰でも良くない?」

「「大事だから!」」

 

MEMちょとハモッた。

 

先輩にはきちんと教えてあげなきゃだね。これからアイドルとしてデビューしようとする妹がこんなことも知らないのでは先が思いやられる。

 

「いい?先輩。センターって言うのはアイドルの花形なの。歌って踊れて可愛い子が立つグループの顔なんだよ。」

「そうそう。一番大切なポジションなんだから。」

「仲いいわねアンタ達。で…やりたい人はいるの?」

 

そりゃあ、やりたいに決まってるけど……。自分で言い出すのも恥ずかしい。MEMちょも同じようで、やりたくなさそうな言葉とは裏腹に、センターが良いと顔にはっきり書いてある。

 

私の方が踊りが上手いだのメディア慣れしてるのはこっちだのと色々言い争った結果、やはりセンターの資格は歌だという結論にたどり着いた。先輩が歌は苦手と発言したのが決め手だ。ああ、なんて浅ましいお姉ちゃん達。

 

審査基準はカラオケの点数。これが高い方がセンターということで話がまとまった。そしていざカラオケに行くというその時。

 

「私はパス。私をセンターなんかにしたらこのグループ人気でなくなるわよ?」

「そんなことないって。やるだけやってみたら?」

「エビデンスが十分すぎるくらいあるのよ。」

 

先輩が拗ね始めた。信じがたいことに、センターはやりたくないというのだ。

 

聞いても居ないのに次から次へと自分を卑下する言葉が飛び出してくる。良くもまぁここまで卑屈になれるなといっそ感心するほどの自虐っぷりだった。

 

何をやっても人気が出ない。私に客は付いてない。口も悪い。ひねくれている。……私にあるのは子役時代の名声だけ。

 

先輩の言いたいことは大体こんな感じ。

 

どんよりと曇った顔でソファーに膝を抱えて座る先輩。お姉ちゃん待ちだよね? どう考えても。

 

MEMちょにアイコンタクト。「オッケー私から行くよぉ」と目線だけで返事が返ってくる。ああ頼もしい。持つべきものはお姉ちゃんだ。

 

先輩のすぐ横に移動するMEMちょ。自己紹介の時と同じく、先輩の右側に腰を下ろす。

 

「かなちゃん。なんか嫌なことでもあった? お姉ちゃん話聞くよ?」

「別に何もないわよ。」

「そう。なら聞かないけどさ。かなちゃんが悲しい顔してるとお姉ちゃんも悲しくなっちゃうなぁ。」

 

ここでMEMちょの目配せ。わかった次は私の番ね。

 

MEMちょとは逆サイドに座る私が入れ替わりで先輩に声を掛ける。

 

「先輩。私から見た先輩は凄い人だよ? 演技もお喋りも上手だし、努力家だし、ダンスだってどんどん上手になってる。」

「そんなことない。実績を見れば簡単に分かるわよ。私には何の才能も無いの。」

「私ね、それは違うと思うの。アクアが言ってた。子役としてのイメージが付くと役者として正しく評価されなくなるって。」

「……」

「だからね、アイドルは役者じゃないから子役のイメージとかもないし、うまく行くんじゃない?」

 

ここでMEMちょが割って入る。

 

「かなちゃん。一回さ、芸歴をリセットしたと思ってみない? 私には子役時代の活躍がかなちゃんにとってプレッシャーになってるように見えるんだぁ。日本中がかなちゃんを見てた子役時代と比べたら何をやっても見劣りしちゃうじゃん? だからさ、もう一度最初からやるの。どんな小さな仕事でも喜んで引き受けて、ファンが一人出来ただけで大喜びするの。これなら頑張れるんじゃない?」

 

さすが一番上のお姉ちゃん、言い方が凄く上手だ。先輩の心にもきっと響いているはず。MEMちょへと視線を送り「次は私が」「オッケー」高速のアイコンタクトを交わす。

 

「それでも…怖いものは怖いのよ…!」

「結局は失敗して独りぼっちになるのが怖いんだよね。でも先輩。今はB小町なんだから、役者の頃とは違うと思わない?」

「何が違うって言うの? B小町は失敗はしないなんて言わせないわよ。」

「あはは。拗らせてるなぁ。」

「質問に答えて。」

「B小町にはお姉ちゃんが居るでしょ? 先輩は一人じゃないの。それでもまだ怖い?」

 

先輩がここまで失敗を恐れるようになった根本原因は、やっぱり孤独だ。

 

失敗すれば人が離れる。成功しなければ価値が無い。子供の頃の経験によってそういう理屈を強烈に刷り込まれてしまっている。

 

この子には何があっても傍に居てくれる人が必要なんだ。失敗しても、有名にならなくても、お金にならなくても、どんな時も傍にいてくれる人が。

 

それってつまり、お姉ちゃんのことだよね。

 

「ねぇ先輩。もしB小町が思いっきり大失敗したら、先輩は私を見捨てる?」

「そんなわけない。」

「じゃあ私やMEMちょが先輩を見捨てると思う?」

「……思わない。」

「もう一回聞くよ、先輩。まだ失敗するのが怖い?」

「ちょっとだけ……怖くなくなった、かも。」

 

素直じゃないなぁ。顔が綻んでるよ、先輩。

 

「ああーもう。相変わらず私ってチョロいわね。良いわ。カラオケ勝負でも何でもやってやるわよ。負けても知らないんだからね!」

「うんうん。その意気だよ先輩。」

「じゃあ、今日は早めに上がってこのままカラオケに行っちゃいますか!」

 

先輩の機嫌も無事直り、3人でカラオケ勝負へと向かう。

 

・・・

 

長女MEMちょ 57点!

次女ルビー 43点!

末っ子かな 97点!!!

 

まさかのダブルスコアでの敗北を喫することになった。

 

これで下手って言うの自分に厳しすぎない? 

 

ここまで上手くなっても自分は卑下する気持ちが拭えないとなると、これは上手い下手の問題じゃない感じだ。どんなに上手くなったところで先輩は自分を認めることは無いだろう。

 

拒食症と一緒だ。どんなに痩せても痩せてると思えない病気。アイドルには時々いるけど、あれ凄く危ないんだよね。ミヤコさんに無理なダイエットだけはするなと口を酸っぱくして言われたっけなぁ。

 

つまり先輩は拒食症ならぬ、拒…自分を認める…症? なんだそれ。

 

43点でセンターを狙う私のような肝の据わったお姉ちゃんだっているんだから、もっと大らかな心を持って欲しいものだよ。

 

「先輩。」

「あーその先は言わなくて良いわよ。大体分かるから。とりあえずセンターは私ってことになるわね。」

 

先輩はマイクを持ったまま、綺麗な声を部屋に響かせて説教する。

 

「アイドル志望の奴等がここまで歌ヒドいとは思ってなかった。カオの良さにかまけてのうのうと生きてきたのが歌から感じ取れる。」

「辛辣ぅー」

 

のうのうと生きてきたつもりは無いけど。アクアのお世話、大変だったんだよ? 歌の練習はまぁ、してなかったケド。

 

芸能活動一筋の先輩から見たら、お姉ちゃん力なんていう訳の分からないものは評価対象外なんだろう。舐められるわけだ。

 

それにしても、先輩の歌は上手かった。過去に出した先輩の持ち歌は当然として、ダンスの練習で聞いただけの『サインはB』も、完璧に歌い上げた。ここまで歌えるアイドルも中々居ないんじゃないかな。

 

MEMちょもウンウンと唸っている。そしてひらめいた。

 

「私、かなちゃんのファン1号になって良い?」

「あーずるい! 1号は私だよ!」

「いやぁここは長女の私が最初じゃない?」

「MEMちょがこのグループに入る前から先輩のファンだし! MEMちょは2号!」

「いいや一番最初にファンになる宣言をしたのは私ですぅー。」

「関係ないもんね! 気持ちの問題だから! 心の中ではファン1号って思ってたから!」

 

小学生のような幼稚な言い争い。お姉ちゃん二人は末っ子の魅力にメロメロだ。ああみっともない。

 

しかし先輩に呆れられると思ったのも束の間、ふと視界に入った先輩の表情がどんどん明るくなっていくのを私は見逃さなかった。私たちの遠慮のない言い争いは思いがけず先輩の心に響いたらしい。

 

信頼するお姉ちゃん二人が、心の底から歌が上手いと認めてくれている。先輩の目にはそう映ったのだろう。わずかに残っていた不安や恐怖が、みるみるうちに消えていくのが分かった。

 

目には自信が宿り、かつて一世を風靡したあの圧倒的な輝きが戻ってくる。

 

「………フン、やっと私の魅力に気付いたみたいね! 二人とも私のファンにしてあげるわ! 感謝しなさい!」

 

……こんなにすごかったんだ。

 

これが有馬かな本来の笑顔。実物はテレビ画面で見るより100倍は眩しい。

 

―――どう? 私凄いでしょ?

 

そんな声が聞こえてきそう。

 

「おぉおおぉかなちゃん! 我々のセンター様!」

「先輩優しー! ありがとー!」

「ホントアンタ達は私が居ないと駄目ね! せいぜい私が引き立つように頑張りなさいよね!」

 

マイクを手に憎まれ口を叩く先輩は、目も眩むような飛び切りの眩しい笑顔だった。

 




ということでセンターは重曹。ノリノリです。
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