【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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ぴえヨンブートキャンプ

JIFまで約1か月。

 

B小町のセンターは私に決まった。ルビーはオンチ、MEMちょはヘタウマと、揃いも揃ってセンター志望の奴は歌がダメだったからだ。全く情けない。

 

専門的なボイストレーニングを積んだ私と同じレベルは求めないが、せめてもう少しまともなレベルであって欲しかった。

 

「おはようございます。」

「おはよう。先輩。」

 

土曜の朝。いつものように事務所へとやって来た私をルビーが迎える。

 

「いよいよ特訓だね。」

「そうね。もう残り1か月もないし、かなり追い込まないと間に合わないでしょうね。」

「大丈夫だよ。先輩歌上手かったし。」

「でもダンスはまだまだよ。」

「そこはぴえヨンが何とかしてくれるよ。」

 

本番に向けていよいよ本格的にパフォーマンスを仕上げていかなければならない。そんな折、なんと私たちはぴえヨン直々の特訓を受けることになった。彼と個人的に親しいアクアがぴえヨン宅まで赴いて直談判したらしい。

 

そして今日がその特訓の初日。

 

私に続いてMEMちょも到着。事務所と同じ建物に住んでいる社長とアクアもすでにスタンバイしている。B小町の関係者が勢揃いだ。

 

「ヤァ」

 

ぴえヨン登場。

 

初めて遭遇した時とは違い、ジャージを着ている。筋肉を布で隠すだけでもかなり威圧感が減っており幾分目に優しい。ジャージが小さくてパッツパツに張り詰めてなければもっと良かったけど。

 

筋肉はぴえヨンのアイデンティティだし、完全に隠すわけにもいかないか。

 

招集をかけたメンバーが全員揃った事を確認し、社長が説明を始める。

 

「皆。すでに知っていると思うけど、ジャパンアイドルフェスまでの間ぴえヨンがあなた達を徹底的に鍛えてくれることになったわ。こう見えて元プロダンサーでアイドルの振付師の仕事もしていたことがあるから、腕は確かよ。これからは基本的にぴえヨンの指示で動いてもらいます。ちゃんと言うこと聞くのよ。分かった?」

「「「はい!」」」

「じゃあ、さっそくボクから特訓のプランを説明させてもらうね。」

 

ぴえヨンの言う特訓プランはかなり本格的だった。

 

まず、MEMちょと私は本番までずっと苺プロに泊まり込み。ルビーも交えて3人で共同生活を送ることになる。起床から就寝まで、学校以外のすべての時間はぴえヨンが作ったスケジュール通りに行動しなければならない。

 

食事もぴえヨン監修だ。カロリー計算もバッチリな肉体改造用の食事メニューを用意してくれた。事務所、というか社長宅で生活するということは、私たちのご飯を用意するのは社長ということ。

 

アクアはカメラマン兼マネージャーだ。JIFに向けた特訓はドキュメンタリーとしてB小町チャンネルへと投稿されることになっている。まさに苺プロ総出の特訓計画である。

 

普段の業務に加えて食事も担当する社長の負担が大きいように思えたが、意外とそうでもないらしい。

 

「まあ、この手の料理はいつも作ってるから慣れてるわ。この年でこのスタイル維持をするのも楽じゃないのよ。」

「ええーミヤコさんだけずるい! 私もそういうご飯食べたい!」

「何言ってるのよ……。いつも一緒に食べてるでしょう?」

「え、いつものご飯がそうなの? 意外と普通なんだね。」

 

言われてみれば、この美魔女がボディメイクに詳しくないわけが無かった。ルビーと自分の身体を交互に見つめ、その肉体の成長格差を今一度確認する。ルビーの発育が良いのもその食事のおかげって事かしらね。

 

大方の説明が終わり、ぴえヨンの指示の下いよいよ今日の練習メニューに入る。

 

「さて、長々と話してきたけど難しく考えることは無いよ。キミ達はボクの言う通りに練習して、社長のご飯をちゃんと食べてくれればそれでオーケー。じゃあ早速始めようか!」

 

子供でも分かる楽しくて簡単な説明。私やMEMちょは勿論、ルビーも飽きることなく最後まで聞いていた。以前コラボした時も思ったけれど、人を飽きさせずに話を聞かせることに関しては超一流だ。

 

これからのレッスンも、それはそれは和やかで充実したものとなるだろう。ぴえヨン様様である。

 

出来れば、このままの雰囲気で行って欲しかった。

 

運動着に着替えて事務所の外に集合。

「へっ?」

 

急に地声で話始めるぴえヨンにあっけに取られ、変な声がでる。

 

何ぼさっとしてるの。ほら早く。

「「「はい!」」」

 

ほんの数秒前まで人畜無害そうなムキムキのひよこだった男は、たった一言で誰も逆らう事の出来ないスパルタ鬼コーチへと変身した。このガタイの男が遠慮なしの地声で喋ったのだ。当然のように怖い。

 

彼の全身から発せられる身が竦むような強烈な威圧感は、まさしく体育会系のそれだ。この威圧感とゴリゴリの筋肉の前では、どんな聞き分けの悪い馬鹿でも素直に言うことを聞くことだろう。

 

あの丸太のように太い腕で絞められたら、呼吸が止まるどころか首の骨が複雑骨折するんじゃないか。隣のルビーとMEMちょもぴえヨンの豹変ぶりに震えあがっている。

 

実に原始的かつ確実なやり方。

 

ああこの人、本気だわ。マジのガチで私たちを鍛えに来てる。

 

ぴえヨンに言われるまま、スポーツウェアと運動靴を着用し事務所を出る。言われるまでもなく綺麗に整列。姿勢を正して微動だにしない。まるで軍隊だ。

 

一体何をやらされるのだろう。

 

「さて、まずは走り込みだ。残された期間でどこまで伸ばせるか分からないが、体力は基本中の基本だから徹底的にやるよ。アクア君が自転車で先導するから、彼に付いていきなさい。」

「「「はい!」」」

 

ぴえヨンの圧にはビビったけど、案外普通のトレーニングね。それもそうか。ぴえヨンが怖いのは単純に強そうだからであって、私達を絞め殺すつもりなんて無いんだ。

 

私達はただ真面目に特訓をこなせばいいだけ。

 

それに、私は普段から走り込みを欠かさない。ぴえヨンが本気なのは間違いないが、姉二人のペースに合わせるならそう辛くなることは無いだろう。

 

体力には自信がある。

 

なんなら余裕を見せつけてお姉ちゃん二人から尊敬の眼差しを向けられて……などと浅はかな事を考えていたが、現実はそう甘くない。

 

「ああ、言い忘れてたけど有馬さんは僕とマンツーマンでダンスの特訓だよ。今から社長の車でスタジオに行くから。」

「……」

「返事は?」

「あっ、ハイ」

 

本気のぴえヨンとマンツーマンの特訓。

 

別にいじめや贔屓などではない。あくまで合理的に考えられた練習メニューだ。

 

体力はあるがダンスの振りに難がある私は、走り込みよりダンスレッスンをするべきという当然の結論。そしてダンスレッスンはぴえヨンにしか務まらない。それだけの事。

 

初日の、それも練習開始前だというのに、私の心は早くも折れそうになっていた。

 

「ぴえヨンさん。ウチの妹をよろしくお願いします。」

「かなちゃん。生きて帰ってきてね。」

 

あからさまにホッとした表情で私をぴえヨンに差し出すルビーとMEMちょ。

 

後で覚えてなさいよ。

 

 

 

………ちなみに、ぴえヨンのダンスレッスンは素晴らしいの一言だった。

 

お手本は完璧だけど感覚派のルビーや、説明は上手いけどダンスはそこそこなMEMちょとは違い、ダンスの腕前も説明のうまさも一級品。

 

言葉では伝えるのが難しい感覚的な動きも簡単な動きから徐々に難易度を上げる的確な指導によって確実に体に叩き込んでくれる。

 

圧倒的な安定感。

 

この男についていけば間違いない。そう思わせるだけの実績と実力、そして存在感を兼ね備えていた。

 

ぴえヨン、本当にビジュアル以外は完璧な男ね。

 




ぴえヨン
元プロダンサーで現覆面筋トレ系ユーチューバー。
ガタイ良さと良く通る地声を巧みに使い一瞬でB小町メンバーとの上下関係を作り上げた。

斎藤ミヤコ
料理担当。
若々しい肉体を維持するために食事にも気を使っているため、料理の腕と栄養の知識はプロ級。ルビーとアクアはミヤコと共に普段からかなり良いものを食っている。


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