【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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ジャパンアイドルフェス

「はーーー、いよいよだね! 私達もアイドルデビューだよ! どうするどうする!?」

「良いから寝なさい。」

 

ジャパンアイドルフェスの前日。もうあと一回寝て起きれば当日だ。

 

もう布団に入りあとは寝るだけというのに、ルビーは見ての通り楽しみ過ぎて眠れない様子。子供みたいにはしゃいで、そのまま夜更かしして翌日痛い目を見るパターンだ。

 

「睡眠の重要性を舐めるんじゃないわよ。徹夜のダメージは3日位引きずるし、魅力が3割程落ちるってどこかの大学の研究で出てる。…みたいなことをDai■oが言ってたわよ。」

「Dai■oが!? 寝なきゃ! でも全然眠れない! 楽しみすぎる! どーしよー!!」

 

ああもう、うるさい。

 

なんか静かになる話題とかないかしら。

 

「ねぇ。ルビー。」

「どしたの? 先輩。」

「ルビーはなんでアイドルになろうと思ったの?」

 

この問いに特に深い意味は無かった。どうせB小町のアイに憧れての事だろうと思っていたから。しかしルビーから語られたのは全く想像もしなかった過去の話。

 

部屋から出られない生活。B小町との出会い。アイドルになったら推してくれるといってくれた初恋の人………。

 

まさかルビーが引きこもりだったなんてね。そして初恋の人にアイドルになったら推してやるなんて言われてこの道を志したと。話を聞く限りでは今でもその先生とやらに会うことを夢見ているらしい。本当にピュアな人。

 

語り終えると同時にルビーは眠った。思惑通りだ。

 

ルビーの顔にかかる髪をそっと手で払い、静かに話しかける。

 

「アンタにも推してくれる人が居るのね。分かるわよ、その気持ち。自分に期待してくれる人の為ならいくらでも頑張ろうって思えるのよね。」

 

―――私にとってはアンタとMEMちょがそうなのよ。

 

万が一聞かれていると恥ずかしいので心の中でだけ呟いた。

 

・・・

 

「さてさてやってきましたジャパンアイドルフェス!」

 

会場に到着して浮かれるルビーとMEMちょ。アイドル業界に疎く、なんとなく大きなイベントであること以外は良く分かっていない私はいまいちこの勢いに乗り切れない。

 

「社長、JIFってそんなに凄いんですか?」

「分かりやすく言うと、アイドルフェスとしては日本最大よ。」

「えっなにそれヤバくないですか?」

「ヤバいわよ?」

 

思った以上に凄いイベントだった。ルビーも眠れなくなるわけだ。昨日聞かなくて良かった。

 

B小町が立つのは10個あるステージの内スターステージ。地下アイドルが多いステージだ。持ち時間は20分。結構時間は貰えた方だろう。

 

社長に連れられて楽屋と呼ばれる大広間に入る。

 

えげつない密度で人や荷物が押し込まれている。イベントの規模が大きいだけに参加者も多い。その関係者も含めた全員の楽屋をこの部屋一つで賄うとなれば今目の前に広がる地獄のような光景にならざるを得ないのだろう。

 

「良い待遇受けたかったら売れないとね。」

 

社長のお言葉。

 

新人アイドルの私の待遇はこんなものって事か。まぁいい。こういう劣悪な環境での仕事は慣れっこだ。この程度どうってことない、やってやろうじゃないの。

 

空気に気圧されるな。ビビるな。気合入れろ。

 

私の肩にはいろんな人の仕事が乗っかってる。私がコケたら全員がコケる。私を信じて賭けてくれた人の期待を……

 

ふと脳裏によぎる苦い記憶。

 

子役の仕事が無くなった小学校高学年くらいだったか。ピーマン体操に次ぐヒット曲を生み出そうと躍起になった事務所が企画したソロライブ。

 

全く集まらない観客。何時間も椅子に座って目の前を通り過ぎていく人々を眺め続けたCD販売イベントと称する何か。

 

辛い記憶に引っ張られ、沈む気持ちを止められない。

 

やば……ネガティブはダメだ……

 

「先輩。」

 

ルビーの声で我に返る。

 

「ヤバい、めちゃくちゃ緊張してきた。」

「だだだ大丈夫だよルビー。おおおお姉ちゃんにまま、任せておきなさい?」

 

顔を上げれば、そこにはガチガチに緊張した姉二人。ルビーはまるでコントのように大げさに身を強張らせ、MEMちょはわざとやっているのかと思うくらいに嚙みまくっている。

 

ばっかみたい。

 

「あっははは! 何それ!」

 

ルビーとMEMちょの姿を見て気が緩んだのか、緊張する二人の様子がおかしくてたまらなかった。ついさっきまでネガティブに支配されそうになっていたのに、仲間の姿を見ただけでこんな気持ちになるなんて。

 

相変わらずチョロいなぁ、私。でも今回ばかりはこのチョロさに感謝しなきゃね。

 

だって、

 

「……なんか先輩見てたらどうにかなる気がしてきたかも。」

「あはは! そうだねぇ。こんな可愛い妹達が一緒ならどうにかなるに決まってるよぉ。」

 

私の大事な人がこんなに明るく笑ってくれるんだもの。

 

・・・

 

衣装に着替え、メイクも完璧。ぴえヨン監修の謎の飲み物を胃に流し込み、準備は万端。

 

ステージ袖から観客席を覗くと、結構な数の観客が見える。

 

前のグループのパフォーマンスが終わったときはかなり人の移動があったから、恐らくほとんどがB小町が目当てのお客さんだ。

 

MEMちょのファンが本物を拝みに来ているのが大半だと思うけど、昔のB小町を知っている人が面白半分に見に来てるってケースもあるかもね。

 

とにかく、閑古鳥が鳴くなんて事態にはならなかったみたい。

 

「ルビー、かなちゃん。いよいよだね! ここから先は目立ったもの勝ち。遠慮なくパフォーマンスさせてもらうよ。」

「望むところだよ! MEMちょのファンもみんな貰っていっちゃうから!」

「何言ってんのよ。センターで歌もダンスも上手い私が一番に決まってるでしょ。」

 

共に支え合う仲間であり、同時にライバルでもある二人。

 

彼女達が同じステージに立つのだから不安など無い。遠慮もいらない。思うままに自分を表現すれば良い。

 

「さぁ、行くよ!」

 

MEMちょの掛け声で、ステージ中央へと駆け出す。

 

一度ステージに上がれば、緊張など無い。素早く立ち位置についてポーズを決める。静まり返った会場の中で、ライトの強い光に照らされる私達3人。

 

センターの私は姉二人の間、半歩前が立ち位置。視界を遮るものは何もない。オーディエンスを独り占めしたような感覚に心が躍る。

 

待ちに待った晴れ舞台。今から20分間は、私たちがこの世界の主役だ。

 

最初の曲のイントロが流れる。少しずつ会場の期待も高まる。

 

元気よく踊りだす私達。

 

少しずつギアを上げつつ、周囲の状況を冷静に観察する。妙に思考がクリアだ。

 

前よりの客が振ってるサイリウムはMEMちょの黄色ばかり。うちの客はMEMちょ目当てで、あの子を見たくて来てる。配信活動を通じて獲得してきたファン。これがMEMちょの強み。

 

やるじゃない。さすがは長女。

 

踊りながら観客席ぎりぎりまで前に出て、可愛らしくファンと仲良く手を振っている。

 

逆側には元気いっぱいに踊るルビー。

 

彼女のカラーである赤のサイリウムも意外と目立つ。まぁ、顔だけはすこぶる良いし、天然おバカなキャラクターがウケたんでしょうね。今のところは私よりもファンが多いみたい。

 

つくづく強力なライバル達だわ。まぁ、負けてあげる気なんてさらさらないけどね!

 

ここは私のステージ。私より輝く人間なんて認めない。私が一番なんだから。

 

自然と歌声に感情がこもる。全身に力が漲る。全力の笑顔を振りまきながら、サイリウムを掲げる観客の視線と熱気を一身に浴びる。

 

ああ、なんて気持ちが良いんだろう!

 

調子を上げる私に呼応するようにルビーがギアを上げ、ダンスのキレが増していく。私の歌声をかき消さんばかりにMEMちょの歌声が一層大きく響く。

 

そうよ。それで良いの。そうでなきゃ張り合いが無いわ。

 

負けてなんかやらない。

 

ルビーよりもカッコよく。MEMちょよりも可愛く。もっと私を見て! もっと! もっと!

 

最初の曲が終わる頃には会場も大盛り上がり。私たちの魅力が存分に伝えられたようでホッと胸を撫でおろす。

 

束の間の休息。興奮冷めやらぬ様子でルビーがMCをこなしている。

 

「ありがとうございましたー! 今お送りした曲は、『STAR☆T☆RAIN』です! みんな覚えてくれたー? 」

 

慣れたものだ。子供の頃から繰り返してきたイメージトレーニングの成果か。

 

「じゃあ次の曲行くねー! 次は皆お待ちかねのあの大ヒットソング! 『サインはB』!!」

 

ホント、この子は眩しいわね。アイドルが好きで、ずっと楽しそうで、アイドルになるために生まれてきたみたいな子。今この瞬間も誰かの心を奪って、どんどんファンを増やして。

 

相手にとって不足なし。さぁ、次の曲で勝負よ!

 

呼吸を整える。

 

次の曲は、今日のセットリストで最も気合を入れて練習を重ねてきた『サインはB』だ。

 

最初からエンジン全開。温まった喉と身体は思いのままに動く。今の私に出来る最大限のパフォーマンス。それを観客に思い切り見せつける。

 

どうこれ? 凄いと思わない? お姉ちゃん達のお墨付きなんだから!

 

会心の出来だった。

 

目線を向ければその方向から歓声が上がり、手を振った先ではサイリウムが揺れる。まるでこの場を支配しているような感覚が癖になる。

 

我を忘れて興奮する観客。波打つサイリウムの光。割れんばかりの大歓声。その中心に居るのは私。

 

……これがアイドル。お姉ちゃん達が夢に見た光景。

 

今なら分かる。彼女たちが人生をかけてこの夢を追いかける気持ちが。

 

決めたわ。

 

私がアイドルやってる間に、会場の皆のサイリウムをまとめて真っ白に染め上げてやる。まだ白いサイリウムはほとんどないけど、どんどん私のファンを増やしていって、いつか白一色にしてやるんだ。

 

そんなステージで歌ったら、きっと最高に楽しいから!

 




ファーストステージ編はこれでひと段落。
重曹の楽しさ、伝わったでしょうか。

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