【完結】ルビーがお姉ちゃん   作:座右の銘

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観客席にて

アクア君と付き合い始めてから、1か月が経とうとしている。

 

いつものようにベッドに寝そべり、アクア君とのビデオ通話。こうして画面越しでは毎日のようにお話ししているけど、B小町のサポートで忙しい彼とはあの初デート以降一度も会っていない。

 

スマホの画面にはパジャマ姿のアクア君が小さく映る。相変わらず格好いいしお話しできるのは嬉しいけど、やっぱり直接会って彼の体温や息遣いを感じたくなる。

 

アクア君に会いたい。

 

「そろそろB小町の初ライブなんだよね。」

「ああ。やっとお姉ちゃんの夢が一つ叶うな。感無量だ。」

「ふふっ。本当にお姉ちゃんが好きなんだね。」

「当たり前だ。お姉ちゃんだからな。」

「それはもう聞き飽きたよ。」

「勿論、あかねも好きだぞ。」

 

星のように輝く瞳を真っ直ぐこちらに向けて、臆面もなく言ってのけた。

 

「もう……ずるいなぁ。」

「ずるいってなんだよ。あかねって時々わけ分からないこと言うよな。」

 

乙女心には疎いアクア君だけど、好きって気持ちを真っ直ぐに伝えてくれる。あまりに純粋で直接的だから、受け止める方が大変なくらい。

 

ちょっと仕返ししちゃおう。

 

「かなちゃんはどうなの?」

「その話はもう良いんじゃなかったのか?」

「私には会いに来ないくせにかなちゃんとはいつも一緒に居るじゃん。」

「あかねにだって会いたいけど、どうしても今は無理なんだ。……ごめん。」

 

君はどこまでも正直者なんだね。少しくらい取り繕ってもいいのに。こっちが毒気を抜かれちゃったよ。

 

そんなアクア君だから好きなんだけどね。

 

「でも、忙しいのももうすぐ終わりだ。それまでの辛抱だから。」

「そうだね。」

「そういえばあかねって有馬のファンなんだよな。」

「まあファンと言うかライバルと言うか……。好きなタレントではある、かな?」

「なんだそれ。とにかく有馬のことが好きなら、今度のライブは絶対に見た方が良いぞ。」

「なんで?」

「とにかく見てみろ。あいつは凄いパフォーマンスをする。絶対に後悔はしない。」

 

わざとやってるのかな。あなたの彼女は私だよ?

 

かなちゃんが好きならライブは見た方が良いだなんて、推しを自慢するアイドルオタクそのものだよ。さっきもかなちゃんが好きっていう事は否定しなかったし。やっぱり何か隠してる?

 

……隠してないんだろうなぁ。私の事が好きで、かなちゃんの事も応援してる。どちらも紛う事なき彼の本心だ。

 

アクア君のあまりの純粋さに、自分の心の醜さが炙り出されるみたい。

 

「じゃあ、私をそのライブに連れて行ってよ。」

「それって、つまり……」

「デートの約束。」

「分かった。当日時間を作れないかミヤコさんに聞いてみるよ。」

 

かなちゃんを推すアクア君にむっとした。でもアクア君と一緒にかなちゃんを推せるのが嬉しいのも本当。かなちゃんとアクア君、どっちも大好き。

 

私もアクア君のこと言えないなぁ。

 

・・・

 

東京、お台場。

 

かなちゃん擁するB小町のライブが行われるという会場に私は来ていた。

 

辺りはすっかり暗くなり、星が出てきている。時刻はもうすぐ7時。待ち合わせの時間だ。アクア君と合流しなきゃ。

 

「もしもし、アクア君。私はもう会場についてるよ。」

「分かった。すぐ行く。」

 

凄い人の数。

 

私の知らないアイドルがステージ上で歌ってて、その手前には沢山の観客が叫んで跳んで手を振っている。アイドルのライブは初めて見るけど、ものすごい熱量に圧倒されそう。

 

これがジャパンアイドルフェス。かなちゃんの初ライブの舞台。次にあそこに立つのがB小町だ。

 

数分もしないうちに彼はやって来た。

 

「凄い熱気だね。」

「凄いだろ? これがアイドルだ。もうすぐお姉ちゃん達の番だからもっと前の方に行こう。こんな後ろじゃ良く見えない。」

「むー」プクー

「怒ってんのか? それ。」

 

相変わらず私以外の女の子の事で頭がいっぱいなアクア君。やっと会えたのに、目の前の私にもう少し興味を持って欲しいな。

 

ムカついたので、アクア君の手を握る。

 

「人が多いからはぐれないように、ね?」

「あ、ああ。」

 

良い顔だ。耳まで赤い。……私の耳とどっちが赤いかな。

 

B小町の前の枠が終わり、人が入れ替わり始める。人の流れに乗って出来るだけステージに近づく。最前列には行けなかったけど、まあまあ良いポジションだ。

 

つないだ手から、アクア君の期待と緊張が伝わってくる。

 

「いよいよだな。」

「うん。」

「お前は有馬推しなんだよな?」

「そうだけど?」

 

アクア君はカバンから白い棒のようなものを取りだし、私に手渡した。アクア君の手には白の他にも赤と黄色が握られている。

 

「何これ?」

「サイリウムって言うんだ。こうやって折り曲げると………こんな風に光る。」

「皆が持ってる奴だね。」

「ああ。有馬のイメージカラーは白だから、あかねは白のサイリウムで応援してやれ。」

「アクア君は?」

「俺はB小町全体を推してる。こういうのを箱推しって言うんだ。」

 

キラキラと目を輝かせて説明された。アクア君って、実はかなりのアイドルオタクなんだね……。薄々分かってはいたけど。

 

3本のサイリウムを器用に指に挟み、ステージに向き直るアクア君。

 

B小町の3人、かなちゃん、ルビーちゃん、メムさんがステージ袖から駆け足で登場する。全方位から歓声が聞こえる。

 

ステージ中央でポーズを取り、曲が流れ始めるのを静かに待つ。

 

「あかね。」

「何?」

「有馬の顔、よく見てみろよ。」

 

数メートル先のかなちゃんの顔を見つめる。

 

……笑ってる。

 

身勝手で、自身に満ち溢れた、私が大好きなかなちゃんの笑顔。まさか、また見られるなんて。もうあんな風に笑うことは無いと思ってたのに。

 

「言っただろ? 絶対に後悔しないって。」

「………」

 

私に話しかけるアクア君だけど、ステージから目を離せない。ごめんねアクア君。今だけはかなちゃんの姿を目に焼き付けたいの。

 

イントロが流れ出す。

 

曲が流れ始めてからのかなちゃんは圧倒的だった。歌は相変わらず上手い。ダンスも完璧。

 

―――私を見て! 私だけを見て!

 

全身で表現してる。

 

身勝手なパフォーマンスはグループの和を乱すかと思えば、まるで予定通りだと言わんばかりに横の二人がそれに応える。それが気に食わないのかかなちゃんがさらにギアを上げ、ルビーちゃんとメムさんが食らいつく。

 

どんどん勢いが増していく。会場のボルテージも上がっていく。際限がない。

 

「お姉ちゃーん! 有馬ー! MEMちょー! 良いぞー! がんばれー!!」

 

アクア君の声が聞こえる。とっても楽しそうだ。

 

私はもちろんかなちゃん単推し。白いサイリウムを振り回して思い切りかなちゃんの名前を呼ぶ。今や私もこのライブを盛り上げるファンの一員だ。

 

「かなちゃん! かなちゃん!」

 

夢中で叫ぶ。

 

かなちゃん以外は何も見えなくて、かなちゃんの歌声以外は何も聞こえなくて、もう訳も分からずにひたすらに叫んだ。強烈な光に身も心も焼き尽くされて、自分がどこに居て何をしているのかさえどうでも良くなってしまう。

 

凄い。凄いよかなちゃん。こんな眩しく光り輝く笑顔、誰にもできない。

 

曲が終わってMCの時間になっても、次の曲が始まっても、センターが入れ替わっても、私の視線はかなちゃんに釘付けのまま。今はただあの笑顔を網膜に焼き付けたい。ずっとこのままあの光に照らされていたい。

 

これがアイドル有馬かな。ステージ袖に歩いて向かう後ろ姿さえ輝いて見える。

 

気づけばライブは終わっていた。

 

「あかね。……おい、あかね? 聞こえてるか?」

「ああ、ごめんアクア君。ちょっと夢中になっちゃってた。」

「来て良かっただろ?」

「……うん。良かった。」

 

身体が重い。喉も痛い。でも悪い気はしない。

 

かなちゃんがアイドルじゃなかったら、アクア君が一緒に来てくれなかったら、こんな幸せな経験は出来なかった。

 

「アクア君。また来ようね!」

「もちろんだ。よほど楽しかったみたいだな。俺も嬉しいよ。」

 

私ってこんなに欲張りだったっけ。もう次のライブが楽しみで仕方がない。アクア君と一緒にかなちゃんを応援したくてうずうずしてる。

 

「俺はこの後撤収作業だから。」

「うん。じゃあまたね。アクア君。」

「ああ。またな。」

 

走り去るアクア君を見届けた後、心地よい疲労感と共に会場を後にした。

 




星野アクア
苺プロのスタッフとしてB小町に同行している。ライブ本番だけミヤコさんに時間を貰って彼女と観客席からライブを楽しんだ。

黒川あかね
ライブの観戦スタイルも没入型。その類まれな集中力をフル活用して有馬の姿を目に焼き付けた。
新しい資料の入手により有馬の考察が捗るが、輝く笑顔だけはどうしても再現できないのが悔しい。でもそんな有馬が大好きで仕方がない。
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